羅針盤は彼女たちの手に、彼はただ揺れる 其十四
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
強襲揚陸艦の外では、いつの間にか夜の闇に雨が降り始めていた。
窓ガラスを叩く雨音が、艦橋近くの最上級個室の静寂にかすかに響く。
海はまだ比較的穏やかだが、風は確実に強まり、艦のわずかな揺れが、厚手の絨毯を通じて、足元から伝わってくる。
時刻は、午後九時を少し回ったところだ。
エミリアは、小隊長たちへの『教育』を終え、ヴァネッサが拠点として使用している、この豪華な部屋へと戻ってきた。
廊下を歩く彼女の足取りは、猫のように静かだが、その全身は、まるで研ぎ澄まされた刃のように、最高度の警戒態勢にあった。
今日こそは、あの屈辱的な手錠をかけられてたまるものか、という強い意志が、その背中から放たれているかのようだ。
ドアの前には、カミーユ・ルルー伍長が、まるで彫像のように微動だにせず立っていた。
二人は、無言で、しかし一瞬の鋭いアイコンタクトで、互いの状況と室内の安全を確認する。
エミリアは、カミーユの横をすり抜け、静かにドアを開けた。
部屋の中は、昨夜とは違う意味で、奇妙な空気に満ちていた。
ヴァネッサは、いつものように大型テーブルに向かい、ノートパソコンの画面に冷徹な視線を落としている。
その横顔は、月明かりに照らされていた昨夜よりも、室内の柔らかな間接照明の下で、幾分人間味を帯びて見える…が、それは錯覚だろう。
しかし、エミリアの目を引いたのは、ヴァネッサではなく、部屋の中央にあるソファに陣取る佐藤の姿だった。
彼は、ソファにうつ伏せになったり、仰向けに寝転がったりしながら、まるで子供が宝の地図を広げるかのように、床に散らばった大量のファイルや、手にしたタブレット端末に没頭していた。
その目は、普段の彼からは想像もつかないほどキラキラと輝き、時折「ほう…」「なるほど、この設定は深い…」「この魔法体系は斬新だ…」などと、完全に自分の世界に入り込んだ感嘆の声を漏らしている。
彼の周囲には、読み終えたらしいファイルの束が、小さな山を築き始めていた。
エミリアは、佐藤の足元に落ちていたファイルの一枚を拾い上げ、その表紙に書かれたタイトルに眉をひそめた。
『魔導機甲帝国グラン・フォートレス:対空防衛網と魔法障壁の脆弱性分析』
『亜人種族の社会構造と、特殊部隊による夜間奇襲作戦の有効性』
『古代竜言語の解読と、竜騎士への心理的影響に関する予備考察』…。
どれもこれも、佐藤が好みそうな、しかし、軍事演習の資料としては、あまりにも現実離れしたタイトルばかりだ。
(…何、これ…? ヴァネッサの嫌がらせ?)
エミリアは、冷たい視線をヴァネッサに向けた。
「Vanessa, what is that Ken-chan is so absorbed in?(ヴァネッサ、健ちゃんがそんなに夢中になってる、あれは何なの?)」
その声には、隠しきれない困惑と、妹への明確な非難が滲んでいた。
ヴァネッサは、パソコンから顔を上げ、大きな、そして心底うんざりしたような、深い溜息をついた。その音は、静かな部屋に妙に大きく響いた。
「Ah, that... I suppose I need to explain it to you as well, Sister.(ああ、あれですか…姉さんにも説明しておく必要がありそうですね)」
彼女は、疲れたようにこめかみを指で揉みながら、事の顛末を語り始めた。
佐藤に図上演習のアイデアを求めたこと、彼が例の突拍子もない『異世界召喚』シナリオを提案したこと、そして、その詳細設定…特に敵役の『覇権国家』…を、並走する日本の護衛艦隊に丸投げしたこと。
「So then...(そうしたら…)」
ヴァネッサの声に、明らかに疲労の色が濃くなる。
「This is what they sent back. Nearly a hundred files' worth. Complete with, if you please, the historical evolution of magic systems, socio-structural analyses of demi-human races, right down to recommended initial stat builds for the 'Summoned Hero'—that would be you, Sato-san...!(送られてきたのが、これよ。ファイルにして、百近い代物。ご丁寧にね、魔法体系の歴史的変遷、亜人種族の社会構造分析、挙句の果てには推奨される『召喚された勇者』――つまり、あなたのことよ、佐藤さん――の初期能力値配分案まで付いてるのよ…!)」
彼女は、佐藤が熱心に読み耽っているファイルの山を、忌々しげに一瞥した。
「It seems they found the topic quite 'fascinating'. Forget enemy specs for an exercise, this is a full-blown epic, like a pitch for a fantasy series!(彼らはこのテーマをかなり『魅力的』だと感じたようね。演習の敵データなんてものじゃない、これは完全な大作叙事詩、ファンタジーシリーズの企画書みたいだわ!)」
ヴァネッサは続ける。
「I glanced at it at first... deemed it an unproductive use of resources. But Sato-san here saw the titles and practically sparkled like a kid on Christmas. 'Amazing! I must read everything!' ...Since the concept originated with him, it seemed only appropriate to offload the entire task onto him.(最初はちらっと見たんだけど…資源の非生産的な使い方だと判断したわ。でも、こちらの佐藤さんがタイトルを見て、まるでクリスマスの子供みたいに目をキラキラさせてね。『すごい!全部読まないと!』って…。コンセプトは彼発案だったから、彼に全タスクを丸投げするのが、まあ適切かと思って)」
ヴァネッサは、再び佐藤に視線を移す。
佐藤は、ヴァネッサが自分の話をしていることにも気づかず、完全に異世界の設定資料に没入していた。
「ふむふむ、この世界の魔法は、エーテル理論に基づいているのか…」
などと、真剣な顔で呟きながら。
エミリアは、その光景を見て、絶望に頭を抱えた。
(健ちゃんが、こうなっちゃったら、もうダメだ…)
彼女の脳裏には、佐藤と二人きりの部屋で過ごす、甘美な時間の計画が、無残にも崩れ去っていくイメージが浮かんでいた。
この調子だと、日本に帰り着くまで、健ちゃんは異世界の覇権国家と戦い続けるだろう。
せっかくヴァネッサという『障害物』がいる状況を逆手に取ろうと思ったのに…!
一方、ヴァネッサは、エミリアの内心の絶望には気づかず、ただただ、佐藤の様子を、まるで未知の生物でも観察するかのように、不思議そうに眺めていた。
なぜ、この成人男性は、こんな非現実的な空想の産物に、これほどまでに純粋な喜びと、知的な興奮を見出せるのだろう? 彼女の、冷徹で合理的な思考回路では、到底、理解できない現象だった。
彼女は、もう一度、小さくため息をついた。
***
部屋の隅では、エミリアとヴァネッサが、佐藤の様子を半ば呆れ、半ば興味深げに見守っていた。
ソファの周りに散らばっていた、百近い異世界叙事詩(という名の演習資料)の山は、いつの間にか、佐藤の手によって、種類別、あるいは時系列順にか、几帳面に整理され、ローテーブルの上に美しく積み重ねられていた。
まるで、几帳面な司書が、貴重な古文書を整理したかのようだ。
彼は、最後のファイルを読み終えると、満足げに深く息をつき、立ち上がった。
その背筋は、先ほどまでの萎縮した様子が嘘のように、すっと伸びている。
佐藤は、整理されたファイルの山を、エミリアの隣、ヴァネッサの前のテーブルに、まるで重要な報告書を提出するかのように、丁寧に置いた。
「Thank you, Vanessa-san. It was quite fascinating reading... and yes, in a certain sense, extremely thought-provoking material you allowed me to review.(ありがとうございます、ヴァネッサさん。大変興味深く…ええ、ある意味で、非常に示唆に富む資料を、拝読させていただきました)」
その口調は、いつものように少し遠慮がちだったが、その目には、もはや不安の色はなく、むしろ、長年読み込んだ愛読書について語る時のような、確信に満ちた、独特の熱と輝きが宿っていた。
ヴァネッサは、その変貌ぶりに内心驚きつつも、表情には出さず、引きつった笑みを浮かべながら、「R-really...? You've read all of it already...?(ほ、本当…? もう全部、読んだの…?)」と、信じられないという響きで尋ねるのが精一杯だった。
「Yes!(はい!)」
佐藤は、力強く頷いた。
彼の頬は興奮でわずかに紅潮している。
「However...(ですが…)」
彼は、そこで一旦言葉を切り、まるで熟練の編集者が、持ち込まれた原稿を評価するように、厳しい表情になった。
「To be perfectly honest, despite the sheer volume submitted, the vast majority felt like rehashes of unnatural settings and developments... either like things I've read countless times before, or perhaps, like they were deliberately avoiding established narrative patterns ['jōseki'] in a way that felt contrived. From the perspective of narrative integrity, or realism... out of a hundred points, forty would be the absolute maximum. Most fall considerably short.(正直に申し上げますと、あれだけの数が提出されたにも関わらず、その大部分は、どこかで見たような設定や展開の、不自然な焼き直しに過ぎませんでした。あるいは、意図的に『定石』を外そうとして、かえって不自然になっているか。物語としての完成度、あるいはリアリティという観点で見れば、百点満点中…最高でも四十点。多くは、それにも満たないでしょう)」
ヴァネッサとエミリアが、あっけにとられて彼を見つめる中、佐藤は、まるで水を得た魚のように、堰を切ったように熱っぽく語り始めた。
「Of course, I'm no military expert. However...(僕は、もちろん、軍事の専門家というわけではありません。ですが、)」
彼は、隣に立つエミリアをちらりと見上げ、その存在を確かめるように微笑む。
「Since I was young, I've immersed myself in countless narratives – novels, comics, films, video games... Plus, working alongside Emilia, I've closely observed her methods. Before any operation, she dedicates significant time and resources to exhaustive intel gathering and preparation concerning the target and circumstances. For her, success is always predicated on thorough groundwork.(幼い頃から、無数の物語…小説、漫画、映画、ビデオゲーム…に没頭してきました。加えて、エミリアと共に働く中で、彼女の手法を間近で観察してきました。どんな作戦の前でも、彼女は対象と状況に関する徹底的な情報収集と準備に、多大な時間と資源を費やします。彼女にとって、成功は常に、周到な下準備を前提としているのです)」
彼は、再びファイルの山に鋭い視線を戻す。
「That's precisely what's absent here. These files delve into obsessive detail regarding combat tactics and weapon specifications, yet they entirely omit the crucial support structure: logistics, resupply, troop psychology, local intelligence gathering – the actual foundation required for victory. It's shockingly absent, almost as if those sections were deliberately left blank, or perhaps the authors simply chose not to address them.(まさにそれが、ここに欠けているのです。これらのファイルは戦闘戦術や兵器仕様に関しては執拗なまでに詳細ですが、勝利に必要な決定的な支援構造…兵站、再補給、部隊心理、現地の情報収集、つまり実際の基盤を、完全に省略しています。それは衝撃的なほどで、まるで、そのセクションが意図的に空白にされたか、あるいは作者が単にそれらに触れたくなかったかのようです)」
佐藤は、さらに言葉を続ける。
その目は、もはや単なるオタクの輝きではなく、物語の構造、その裏にある作者の意図までも見抜こうとする、鋭い分析者の光を帯びていた。
「Furthermore, the strategic narrative doesn't hold water. A fleet arrives in a new world, only to disperse inefficiently? Knowing supplies are cut off, they undertake wasteful long-range maneuvers? This isn't merely 'poor writing relying on contrivance.' It feels far more deliberate... almost as if the scenario designer is intentionally obscuring the optimal strategy, like hiding the 'correct path left' and forcing players down a 'rigged path right'... That artificiality is palpable. It suggests they're concealing either the true objective, or a critical vulnerability, amidst this volume of flawed scenarios...(さらに言えば、戦略的な物語としても破綻しています。艦隊が新世界に到着して、非効率に分散? 補給がないと知りながら、無駄な長距離機動? これは単なる『ご都合主義に頼った稚拙な構成』ではありません。もっと意図的なものを感じます…まるで、シナリオの設計者が、最適な戦略…『左の正解ルート』を意図的に隠し、プレイヤーを『仕掛けられた右の罠ルート』に進ませようとしているかのようです…。その人工的な感覚は明白です。これは、彼らが真の目的、あるいは致命的な弱点を、この大量の欠陥シナリオの中に隠していることを示唆しています…)」
ヴァネッサは、佐藤の言葉に、完全に意表を突かれていた。
子供っぽい空想だと、半ば見下していた男が、送られてきた情報の「意図的な欠落」や「不自然な誘導」を、全く別の角度から、…物語構造の破綻として、指摘している。
それは、神崎たちが仕掛けた情報飽和攻撃の本質、その欺瞞性を見抜いているのかもしれない。
「Meaning, Sato-san... your gut feeling, your experience with narratives tells you... that these documents are deliberately incomplete, or possibly 'manipulated' in some way?(ということは、佐藤さん…あなたの勘、物語に関する経験からすると…これらの文書は意図的に不完全であるか、あるいは何らかの形で『操作されている』と?)」
ヴァネッサは、身を乗り出して尋ねた。
その瞳には、先ほどまでの冷徹さに代わり、強い興味の色が浮かんでいる。
佐藤は、ヴァネッサの真剣な眼差しに、少し気圧されながらも、意を決したように顔を上げた。
「Um, if it's alright... could I perhaps try writing a scenario myself? Having read so many examples 'with room for improvement,' I believe I've grasped how to make one more 'interesting' and, well, 'plausible'...(あの、もしよろしければ…僕も、一つ、シナリオを書いてみてもよろしいでしょうか? これだけ沢山の『改善の余地がある』作品を読んだので、どうすればもっと『面白く』、そして『もっともらしく』なるか…その書き方を掴みましたので)」
ヴァネッサは、予想外の申し出に、面白そうに口角を上げた。
この男が、どんな物語を描くのか。
神崎への、さらなる意趣返しになるかもしれない。
「Very well. Permission granted. I shall look forward to your 'creation,' Sato-san.(よろしいでしょう。許可します。あなたの『創作物』を楽しみにしていますよ、佐藤さん)」
佐藤の顔が、ぱっと明るくなる。まるで、自分の企画が採用された新人のようだ。
「Thank you very much! And, um... would it be alright if I asked Emilia-san for some advice? As you know, I'm a complete novice when it comes to military matters, combat, and all that...(ありがとうございます! それで、あの…エミリアさんに助言をお願いしても構いませんか? ご存じの通り、僕は軍事や戦闘といったことに関しては、全くの素人ですので…)」
その言葉を待っていたかのように、エミリアが、満面の笑みで佐藤の腕に飛びついた。
「Of course, Ken-chan! Leave it to me! Let's make the best scenario together!(もちろんよ、健ちゃん! 私に任せて! 最高のシナリオ、一緒に作りましょう!)」
彼女の瞳は、先ほどまでの不満げな光はなく、佐藤に頼られた喜びで、夜空の星のように輝いていた。
ヴァネッサは、その様子を、再び深い溜息と共に見守るしかなかった。
ヴァネッサが佐藤のシナリオ作成を許可し、エミリアが嬉々として協力を申し出た後、佐藤の纏う空気は一変した。
先ほどまでの、嵐の海で小舟に乗せられたような不安げな表情は消え、まるで自分の得意なゲームの攻略法を語る少年のように、瞳がキラキラと輝き始めた。
彼は、ローテーブルの上に広げられた、膨大なファイルの中から、ひときわ分厚く、そしておそらく最も詳細に分析されていたであろう一冊を手に取った。
「Right, let's start with this one! This particular scenario here!(よし、これから始めましょう! ここの、この特定のシナリオです!)」
佐藤は、まるで長年温めてきた研究成果を発表する学者のように、目を輝かせ、熱弁を始めた。エミリアと、少し引いているヴァネッサを交互に見ながら。
「Technically, the analysis and data points are simply amazing! Weapon specs—range, yield, hit probability, vulnerability percentages based on enemy type... So detailed, accurate, logical. I'd guess among the hundred or so files received, this one is the most 'polished'. A military professional—like Jean-san perhaps—would definitely rate this as excellent!(技術面では、分析とデータ点は、ただただ驚くばかりです! 兵器の仕様――射程、威力、命中確率、敵タイプに基づく脆弱性パーセンテージ…――非常に詳細、正確、論理的。受け取った百程度のファイルの中で、これが一番『洗練されている』と推測します。軍事のプロ――例えばジャンさんなら――これを間違いなく素晴らしいと評価するでしょう!)」
佐藤は、そこで一旦言葉を切り、まるで演説のクライマックス前の静寂のように、一呼吸置いた。
「But, Emilia! Vanessa-san! This one... decisively lacks 'Love'! Love for the story, for the characters, and probably, for this 'other world' itself!(でもね、エミリア! ヴァネッサさん! これには…決定的に『愛』が欠けているんですよ! 物語への愛、登場人物への愛、そして、おそらくはこの『異世界』そのものへの愛が!)」
彼は、まるで世界の真理を説く預言者のように、熱っぽく語り出す。指先が、資料の特定の箇所を、トントンと叩く。
「Make no mistake, the technical breakdown of the 'Hegemonic Nation' – the 'Ironblood Magic Empire' – is flawless! Take their primary assets, the 'Black Dragon Knights': flight speed, turning radius, breath attack specifics (heat output, range, recharge time specified!), plus vulnerability assessments versus AA missiles... Then there's the 'Ancient Golem Corps': armor composition (speculated Orichalcum-Adamantite mix), physical/magical defense values, power core efficiency (magic crystal reactor with operational limits), even the resonant frequency for overload cascade failure... Not to mention the undead infantry's C2 via the 'Undead King's psychic network' and the feasibility of jamming it – assuming you can jam psychic links...? It's terrifyingly thorough, academic-level analysis!(間違いなく、この『覇権国家』――『鉄血魔導帝国』――の技術的分析は完璧です! 主力アセット、『黒竜騎士団』を見てください:飛行速度、旋回半径、ブレス攻撃の詳細(熱出力、射程、クールダウン指定!)、加えて対空ミサイルに対する脆弱性評価…。それから『古代ゴーレム軍団』:装甲組成(オリハルコン・アダマンタイト混合と推測)、物理・魔法防御値、パワーコア効率(稼働限界付き魔力結晶炉)、過負荷連鎖故障を引き起こす共振周波数まで…。言うまでもなく、アンデッド歩兵のC2(指揮統制)は『不死王の精神ネットワーク』経由で、それをジャミングで妨害する実現可能性――精神リンクを妨害できるかは別として…?――についても…。恐ろしく徹底的で、学術論文レベルの分析ですよ!)」
佐藤は、まるで暗記した設定資料を読み上げるかのように、淀みなく説明する。
その異様なまでの記憶力と、彼なりの分析力に、ヴァネッサは内心、改めて舌を巻いていた。
(Habituellement insignifiant, juste 'l'associé' d'Emilia... Pourtant, sur ce terrain-là, sa vitesse de traitement de l'information et sa focalisation sont étonnantes. Le fond de son analyse est absurde, mais cette faculté à 'lire entre les lignes' des scénarios... qui sait, elle pourrait s'avérer exploitable... sous un autre angle...(普段は取るに足らない、ただエミリアの『連れ』…だが、この分野では、彼の情報処理速度と集中力は驚異的ね。分析内容は馬鹿げているけれど、このシナリオの『行間を読む』能力は…誰が知るものか、予想外の角度から…利用可能だと判明するかもしれない…))
「But!(でも!)」
佐藤の声が、再び熱を帯びる。
今度は、明らかな不満と、憤りの色を乗せて。
「Why is this 'Empire' even bothering with something as troublesome and cost-ineffective as world conquest!? There's absolutely no backstory! Does the Emperor—or Demon King, whichever!—not have a tragic past, like being betrayed by his former best friend, the Hero?! Aren't there any cool named generals, like the Four Heavenly Kings, with awesome names and signature mechs—or maybe dragons?! Where are their fated rivals?! The fiancées they left behind in their hometowns?! That kind of drama! There's no story! The enemy is just... just an efficient, rational, completely bland 'Threat Parameter List' trying to conquer the world! This isn't a thrilling battle, it's just tedious work! My soul feels nothing! It doesn't burn!(そもそも、その『帝国』は、なんでまた、コストとリスクに見合わない世界征服なんて面倒なことを企んでるんですか!? 背景が、全く描かれてない! 皇帝(魔王陛下でも、どっちでもいい!)には、実は元勇者の親友で裏切られた過去があるとか! 部下を庇って主人公艦隊の前に散っていく、格好いい二つ名と専用機(専用竜かも?)持ちの四天王は!? 彼らの宿命のライバルは!? 故郷に残した許嫁は!? そういうドラマが! 『物語』が、全くないんです! 敵が、ただ効率的に、合理的に、世界征服を目指す、味気ない『脅威度パラメータのリスト』に過ぎない! これじゃ、ただの作業ですよ! 魂が燃えないんです!)」
彼は、握った拳で、テーブルをドン、と軽く叩いた。
カップに残っていた紅茶が、微かに波打つ。
「Even you, Emilia, before a job, you research your target exhaustively, right? Their personality, their habits, their weaknesses, what they hold dear, what they absolutely cannot forgive... That... that 'soul' that makes them a person (or an intelligent being, anyway)... is shockingly absent from this scenario! The enemy is just a block of numbers and specs! How can the side fighting them possibly get emotionally invested!?(エミリアだって、仕事の前には相手を徹底的に調べるでしょう? 性格、癖、弱点、何を大切にし、何を許せないか…。そういう、人間(または知的生命体、とにかく)としての『魂』とでも言うべきものが、このシナリオには衝撃的なほど欠けているんです! 敵がただの数字とスペックの塊。これじゃ戦う側だって、感情移入なんてできませんよ!)」
彼は、シナリオの戦術マップらしきページを指差す。
「And the strategy is weird too! The premise is no resupply, yet they just advance straight on the enemy capital?! The justification? Simply 'it's the shortest route'! In a world where magic exists, they cling to modern military doctrine, with no feints, no traps... At this rate, the enemy is just a powerful 'obstacle,' not a true 'nemesis' worthy of being defeated! The author of this scenario probably threw out all the crucial fantasy 'tropes' ['o-yakusoku'] – you know, like a sidequest for the 'Legendary Sword,' or an 'Ancient Prophecy' revealing a weak point, or a miracle victory thanks to the 'Heroine's Power of Love' (maybe that means me?) – dismissed them all as 'irrational' or 'low-probability'! There's just no love in it! A critical, fatal lack of love for the genre!(それに、戦略も変です! 補給がないのが大前提なのに、敵本拠地に一直線に進軍だなんて! 理由もただ『最短距離だから』と! 魔法がある世界なのに、現代戦の理論に固執して、奇策も罠も使わない…。これでは、ただ強いだけの『障害物』じゃないですか! 『打倒すべき宿敵』とは到底呼べません! このシナリオを書いた人は、おそらく、ファンタジーの『お約束』…例えば『伝説の聖剣』を見つけるための寄り道とか、『古代の予言』が示す敵の弱点とか、『ヒロイン(もしかして僕のこと?)の愛の力』による奇跡の大逆転とか、そういう勝利への『フラグ』を、全部『非合理的』『低確率事象』として切り捨ててしまったんですよ! そこには愛がない! 物語への愛が、決定的に、致命的に、欠けているんです!)」
佐藤は、言い切った。その顔は、興奮による紅潮と、自分の『正しさ』への絶対的な確信、そして、長年のオタクとしての知識を披露できた、ある種の達成感に満ち溢れている。
「So, this scenario might score a perfect 100 technically, but as a story... no, as an isekai summons story... it gets a zero! Because it has no love!(だから、このシナリオは、技術的な評価は満点かもしれませんが、物語としては…いえ、異世界召喚モノとしては、零点です! 愛がないからです!)」
エミリアは、そんな佐藤の熱弁を、最初は目を丸くして驚いていたが、次第にクスクスと笑い出し、最終的には、愛おしさと尊敬が入り混じったような、優しい眼差しで、黙って聞いていた。
ヴァネッサもまた、最初は呆れ顔だったが、いつしか真剣な表情で、佐藤の言葉に耳を傾けていた。
彼が、自分の知らない世界(物語)で、これほどまでに熱く、真剣になれるものを持っていること。
そして、その『物語への愛』という、一見、非合理的な視点が、もしかしたら、冷徹な情報分析官である神崎さえも見抜けなかった(あるいは、意図的に無視した)、この奇妙な演習の『本質』、あるいは、それを仕掛けた自分の『意図』の、さらに裏を突く鍵になるのかもしれないと、微かに感じ始めていた。




