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仮想の糸の上で踊る夢と虚構 (epilogue)

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。


ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。


あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。


彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。


だが、運命は彼女を見捨てなかった。


心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。


これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。


さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。


あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?




…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。


時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…


時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…


Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。




この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では一ヶ月遅れでの公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

 窓の外では、温泉街の賑わいが、風の音と共に微かに聞こえてくる。

畳の上に座椅子を置き、浴衣姿のエミリアは、湯呑みの中の緑茶をゆっくりと味わっていた。

テレビのニュースからは、悪徳弁護士が警察に保護を求めたという衝撃的な報道が流れている。

エミリアの放った六発の銃弾は、彼の虚構の世界を打ち砕き、彼の人生を大きく変えたのだった。


「まさか、あんなあっさりと泣きつくとはね」


エミリアは、皮肉交じりに呟いた。

その時、襖が静かに開く音がした。

入ってきたのは、浴衣姿の佐藤だった。


「どうしたんだ? エミリア」


佐藤は、エミリアの様子がいつもと違うことに気づき、心配そうに尋ねる。

その問いかけにどう答えるか考えながらも、エミリアは佐藤の顔を見て感じた率直な疑問を先に聞くことにした。


「霧島さんを抱かなかったの?」


エミリアは、佐藤の浴衣姿に目をやりながら、唐突な質問を投げかけた。


「そんな、精神的に不安定な霧島さんにつけ込むような真似はできないよ」


佐藤は、顔を赤らめながら答えた。


「ふーん。でも、あんな状態の時は、誰かに抱かれるのが一番の薬だったりするのよ」


エミリアは、意味深な言葉を口にした。


「エミリア、いい加減にしろ。これ以上霧島さんを焚きつけるな」


佐藤は、エミリアにきつく言い放った。

彼の真剣な表情は、エミリアの軽薄な言動に対する怒りを表していた。


「あら、佐藤って変わってるのね。私の知り合いの男たちは、女を抱けるチャンスがあれば、必ず抱いていたものよ」


エミリアは、余裕の笑みを浮かべながら言った。


「エミリア、もっと普通の男を基準に考えてくれ」


佐藤は、ため息をついた。


「まあ、佐藤がそう言うなら、それでもいいけど」


エミリアは、肩をすくめた。

そして、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべると、佐藤に顔を近づけた。


「ねぇ、健ちゃん。もしかして、私も心が弱くなった時は誰かの温もりを求めて、なんて、邪な想像してないでしょうね?」

「ば、馬鹿なことを言うな、エミリア!」


佐藤は、慌てて顔を背けた。


「言っておくけど、私は心の安定剤代わりに、誰かに抱かれたり抱いたりしたことは一度もないわよ?」


エミリアは、ニヤニヤと笑いながら、佐藤の反応を楽しんでいた。


「も、もう!」


佐藤は、耳まで真っ赤になって、言葉を詰まらせた。

エミリアは、畳みかけるように佐藤の心を揺さぶる。


「健ちゃん。今度は、もしかしてエミリアって処女なの? とか想像しちゃった?」


エミリアの言葉に、佐藤は言葉を失った。彼の顔は、ますます赤く染まっていく。

佐藤は顔を真っ赤にして俯いた。

その様子を見たエミリアは、堪えきれずに吹き出した。


「ふふっ、健ちゃんったら、可愛いんだから」


エミリアは、悪戯っぽく微笑みながら、佐藤の顔を覗き込んだ。


「そんなに気になるなら、確かめてみる?」


彼女は、妖艶な仕草で、白く滑らかなうなじを露わにする。


佐藤は、思わず息を呑んだ。

エミリアの色香に、彼の心は激しく揺り動かされる。


「そ、そんな」


佐藤は、慌てて視線を逸らした。


「まぁ、冗談よ」


エミリアは、楽しそうに笑った。

こうして佐藤と話していると、戦場しか知らなかった青春時代の空白を埋められる気がして楽しかった。

でも、名残惜しくも楽しい時間は終わらせなければならない。


「そろそろ、霧島さんの様子を見てくるわ」


その言葉に、佐藤はハッとした。


「エミリア、まさか」

「大丈夫よ。ただのガールズトーク。ちょっとだけ、知り合いをネタに、盛り上がってくるわ」


エミリアは、仕事の報告のために霧島と会う緊張感を誤魔化すように、いたずらっぽく佐藤にウィンクした。

佐藤は、複雑な表情でエミリアを見送った。

一体どんなガールズトークになるのか、想像するだけで不安でたまらなかった。



 松田刑事は、殺風景な単身者向けの官舎の自室で、冷めたコンビニ弁当を前に、ノートパソコンの画面に釘付けになっていた。

SNS上では、悪徳弁護士が警察に保護を求めた事件に関する情報が飛び交っている。

大半は、意味のない噂話や憶測ばかりだ。

だが、中には、刑事としての経験から、裏社会の情報に通じた者の書き込みだと分かるものもあった。

その中で、松田の目を引く書き込みがあった。


「悪徳弁護士の車のフロントガラスに残された、あの綺麗な円形の弾痕。あれは、彼女じゃないのか?」


松田は、すぐにピンときた。


『彼女』とは、間違いなくエミリア・シュナイダーのことだ。


彼は、息を呑んで、その後の書き込みを読み進めた。

誰がエミリアに依頼したのか、裏社会では様々な憶測が飛び交い、パニック状態に陥っているようだった。

松田は、眉間に皺を寄せ、画面に映る情報を読み解こうとしていた。

その時、けたたましい着信音が部屋に響き渡る。

発信者は、つい先日、新たな相棒として配属されたばかりの桜井刑事だ。


「もしもし、桜井か?  どうしたんだ、こんな時間に」


松田は、訝しげに尋ねながら、ノートパソコンの画面に視線を戻す。

SNS上では、悪徳弁護士の事件に関する情報が、今もなお拡散され続けている。


「松田さんニュースご覧になりましたか!?」


受話器の向こうから、桜井の興奮した声が聞こえてくる。


「ああ、悪徳弁護士の件なら、今まさにSNSで情報収集しているところだ」


松田の言葉に、桜井巡査は息を呑んだようだ。


「さすがですね、松田さん。私も、あるアプリで連絡を受けて知ったところです」


「アプリ? 誰からの連絡だ?」


松田は、不審に思った。


「あの歩く犯罪者、エミリア・シュナイダーに紹介した霧島玲奈さんからですよ」


桜井巡査の言葉に、松田は驚きを隠せない。

なぜ、桜井巡査が霧島玲奈と連絡を取り合っているんだ。


「で、その、大変申し訳ないのですが、今から、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


桜井巡査の言葉に、松田は絶句した。

一体、何の話だ? しかも、こんな時間に。


警察一家の令嬢である桜井巡査と、こんな時間に私的に密会するなど、ご法度だ。

彼女の両親に知られたら、何をされるか。

だが、桜井巡査の声は、切羽詰まっている。

何か、どうしても伝えたいことがあるようだ。


「わかった。どこで落ち合う?」


松田は、覚悟を決めたように言った。


「車で松田さんの官舎へ向かいます。車を走らせながらお話をお伺いしても、よろしいでしょうか?」


深夜のドライブのお誘いに松田は、困惑した。



「一体、どうしたんだ、桜井?」


松田は、桜井の運転する真っ赤なスポーツカーに乗り込むなり、尋ねた。

窓の外を流れる摩天楼の光が、車内を妖しく照らし出す。

彼女は、ハンドルを握りしめながら、固い表情で前を見据えている。

首都高へと滑り込むように車を走らせる桜井。

法定速度ギリギリで、車は夜の街を駆け抜けていく。


「私、これからの犯罪捜査に役立てたくて、元サイバー捜査官からお話を伺おうと、松田さんからシュナイダーに紹介していただいた霧島さんと、個人的に連絡を取るようにしていたのです」


桜井の仕事熱心さに、松田は驚いた。

よく人嫌いな霧島と個人的な連絡を取れるようになったものだ。


「それで、ネットの犯罪を学びたいならと、匿名で連絡ができるアプリで連絡を取り合って、ネットの世界を学んでいたのです」

「それが、霧島から連絡があったというアプリか?」

「はい。そのアプリで先ほど霧島さんから」


桜井は、言葉を詰まらせた。

松田は、刑事の勘として身構えた。


「松田さんがシュナイダーに依頼した連続女子大生失踪事件の黒幕があの悪徳弁護士だとわかったこと。そして、悪徳弁護士に復讐したくてシュナイダーに依頼したってことを聞かされたんです」


松田は、頭を抱えたくなった。

あの正義感溢れる霧島が、短絡的にエミリアに頼ってしまったことが悔やまれた。


「なんて馬鹿なことを」


松田は、霧島をエミリアに紹介した自分の判断ミスを悔やんだ。


「それで、単刀直入に伺います。私は、霧島さんを助けたいです。どうすればよいですか!?」


桜井は、真剣な眼差しで松田を見つめた。

松田は、桜井の強い決意を感じ、心を揺さぶられた。

すぐにスマホを取り出すと、緊張した指使いでエミリアに確認を求める。

こんな時間に起きているかわからないが、こうするしかなかった。

エミリアからの反応はすぐ帰ってきた。

以外にも、桜井が持っているスマホが鳴ったのである。


「松田さん。すみませんが私の胸ポケットに入っているスマホを取り出してください」


桜井の言葉に松田が戸惑っていると、桜井が覚悟を決めた声で言う。


「後でセクハラとか言いません。今は、霧島さんを助けることが優先です」


松田は、桜井の真摯な表情と覚悟に意を決して桜井の胸ポケットからスマホを取り出す。

スマホを桜井に向けて生体認証のロックを外すと、桜井が言っていた匿名で連絡ができるアプリから通話を求める呼び出しが繰り返し表示されていた。

松田は、覚悟を決めてハンズフリーで通話を繋げた。


「こんな遅い時間に何のようなの?」


エミリアの不機嫌な声が車内に響いた。


「なぜ霧島さんのスマホから桜井刑事のスマホに連絡してきたんだ?」


松田が困惑して尋ねると、エミリアは愉快そうに答えた。


「だって、霧島さんから桜井刑事が松田刑事の家にすっ飛んでいったと聞けば、本当に二人は一緒にいるのかなって知りたくなるじゃない」


エミリアの話し方は、良くも悪くも何時ものエミリアだった。

これなら冗談ぽく真相を聞けると松田は判断した。


「くそまじめな松田さんの事だから霧島さんからの話を聞いて血相を変えて連絡してきたのでしょう?」


エミリアは、松田が何を聞きたいか知っている口ぶりで話し出した。


「言っておくけど、霧島さんが払える程度の金額で仕事なんて受け無いわよ。私は、そんな安いプロじゃないの!」

「しかし、霧島がエミリアに頼んだと言ったそうじゃないか?」

「そんなもの霧島さんの誤解でしょう。私、目の前で馬鹿な素人がクロガネみたいな下半身を判断基準に生きている男に騙されて破滅するところ見たくなかっただけよ!!」


エミリアの凄まじい剣幕に松田は心の底から笑った。


「何を笑っているの! こっちはただ働きの上に経費をかけすぎて大損しているの! あと、この霧島って女、責任もって保護しに来なさい」


それだけ告げると、エミリアからの通話は切れある田舎の無人駅の場所を示す地図が松田のスマホに通知された。


「桜井、この無人駅にむかえるか?」


松田は自分のスマホに残された無人駅の地図を桜井に見せる。


「ここから遠いですが行けます」


桜井の顔には、安堵の笑みが浮かんでいた。

だが、その瞳には、まだ涙の跡が残っている。

霧島が無事だと言う知らせに、彼女は喜びと、これまでの緊張からの解放感で、感情が揺り動かされていたのだろう。

松田は、桜井の姿を見て、胸を撫で下ろした。

そして、霧島を保護したら、直接話を聞こうと決意する。

それは、きっと長い夜になるだろう。


 一方、エミリアは、霧島玲奈との『ガールズトーク』を終え、旅館の部屋に戻ってきた。

佐藤は、座椅子に座りながらすでに半分閉じかけている目でテレビの深夜に放送されている通販番組を眺めていた。


「佐藤、起きて」


エミリアは、佐藤の肩を軽く叩きながら話しかける。

佐藤は、眠そうに目を開けた。


「霧島さんを、遠くの無人駅まで送って」

「無人駅? こんな時間に?」


佐藤は、エミリアの言葉に困惑した。


「ええ。松田刑事が、デートのついでに迎えに来るから」


エミリアは、いたずらっぽく微笑んだ。


「デート?」


佐藤は、目を丸くした。


「ええ、新しい相棒の桜井刑事と、深夜のドライブデートらしいわよ」


佐藤は、エミリアの説明に驚きを隠せない。

エミリアの愚痴から聞く松田刑事は、そんなロマンチックなことをする人間には思えなかったからだ。


「まさか」

「本当よ。だから、霧島さんを駅まで送ってあげて」


佐藤は、大きくあくびをすると、立ち上がった。


「わかったよ。でも、エミリア。迎えが来るとしても霧島さんを無人駅に置き去りにして、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。松田刑事がすぐに霧島さんを保護するから」


エミリアは、自信満々に言った。

佐藤は、エミリアの言葉を信じ、霧島を迎えに部屋を出ていった。



 霧島を助手席に乗せ、佐藤は車を走らせた。

窓の外には、街灯の光がまばらに揺れる、静かな夜の風景が広がっている。

先ほどまでの不安定な様子とは打って変わり、霧島は落ち着きを取り戻しているように見えた。

だが、次の瞬間、彼女は小さな声で佐藤に質問を投げかけた。


「私って、女として、魅力がないのでしょうか?」


その唐突な問いかけに、佐藤は言葉を失った。

夜の静寂が、二人の間に流れる緊張感を増幅させる。


「佐藤さん。私に手を出さなかったのは、やっぱりエミリアさんがいるからですか?」


霧島の瞳は、真剣そのものだった。

佐藤は、彼女の心の奥底に渦巻く不安や孤独を感じ取った。


「霧島さん、君は」


佐藤は、言葉を慎重に選びながら言った。


「まだ、精神的に不安定なんだ。カウンセリングを受けるべきだよ」

「違います。ただ、私は自分の気持ちを誰かに聞いて欲しかったんです」


霧島の言葉は、弱々しかった。

佐藤は、彼女の心の叫びを無視することはできなかった。


「エミリアとは、恋人同士じゃない。僕が、一方的に好意を持っているというか、憧れているというか。僕にとってエミリアは、手を出すべきではない尊敬する女性なんだ」


「どういう意味ですか?」


霧島は、佐藤の言葉の意味を理解しようと、真剣に耳を傾けた。


「僕が銀行の融資係だった頃、土地の不正取引に銀行が巻き込まれているんじゃないかと気がついたことがあったんだ。誰にも相談せず、一人で調べ始めた」


佐藤は、過去の記憶を辿るように、ゆっくりと話し始めた。


「そのせいで、銀行を騙そうとしていた連中に口封じをされそうになった。その時、エミリアが僕を庇うように目の前に立って、あっという間にそいつらを倒してくれたんだ。」


佐藤の目は、遠くを見つめていた。

まるで、あの日の光景が、今も鮮明に蘇ってくるかのように。


「松田刑事から、地面師たちの捜査でただ働きさせられていたエミリアは、そのまま僕を証人として保護することになって。それからずっと、エミリアの相棒みたいな関係になったんだ」


「銀行のお仕事は、その後どうされたのですか?」


霧島は、静かに尋ねた。


「ああ。エミリアに保護されている間に、首になっていたよ。名目は無断欠勤らしいけど、本当は、裏社会の連中から命を狙われている僕との関係を、切りたかったのだろうね」


佐藤の言葉には、やるせない気持ちが込められていた。

霧島は、そんな佐藤の姿を見て、胸が締め付けられるような思いがした。


 山奥の無人駅。

周囲を深い闇に包まれたその場所に、佐藤の運転する車は静かに停車した。

駅の照明は落とされ、駐車場の片隅に立つ頼りない防犯灯だけが、かろうじて周囲を照らしている。

佐藤は、車のエンジンを切ると、霧島に優しく微笑みかけた。


「霧島さん、エミリアからは、君をここに置いていくように言われたんだが」


霧島は、不安そうに周囲を見渡した。


「松田刑事が迎えに来るまで、ここで一緒に待っていようと思う」


佐藤は、霧島の肩にそっと手を置いた。


「でも、そんなことをして、佐藤さんは怒られませんか?」


霧島は、佐藤の優しさに戸惑いながらも、尋ねた。


「大丈夫だよ。霧島さんを本当に無人駅においてきたら、それこそエミリアに怒られるよ」


佐藤は、自信を持って言った。


「それに、松田刑事はすぐに迎えに来るはずだ」


霧島は、佐藤の温かい言葉に、心が安らぐのを感じた。

彼女は、助手席を倒し、星空を見上げた。


「なら、私も、佐藤さんの覚悟に付き合うことにします」


霧島は、静かに言った。


「覚悟?」


佐藤は、霧島の言葉に疑問符を浮かべた。


「佐藤さん、私に手を出してもいいですよ」


霧島は、顔を赤らめながら、囁くように言った。

佐藤は、驚きを隠せない。


「だって、佐藤さんは、エミリアさんのことが好き。でも、手を出せないのでしょう? なら、私で我慢してください」


霧島の言葉は、消え入りそうなほど小さく、それでいて、深い悲しみがにじみ出ていた。

彼女は、俯き加減に、長いまつげを伏せながら、言葉を紡いだ。

その様子は、まるで壊れそうなほど儚げで、佐藤の心を締め付けた。


「私は、エミリアさんのようには、強くも美しくもない。でも、佐藤さんの心を、少しでも温められるかもしれない」


霧島は、震える手で、佐藤の腕にそっと触れた。

その触れ方は、まるで冷たい雨に濡れた子猫のように、か弱く、助けを求めているようだった。

佐藤は、彼女の切ない女心に、胸が張り裂けそうになった


「霧島さん」


佐藤は、優しく霧島の名前を呼んだ。


その時、静寂を切り裂くようにスポーツカーのエンジン音が轟く。

佐藤は、その轟音に驚き思わず身構えた。

まさか、こんな時間に、こんな場所に?


「松田刑事?」


佐藤が呟くと、霧島も慌てて助手席を起こし、窓の外を見た。

真っ赤なスポーツカーが、猛禽類のような鋭い眼光で駐車場に滑り込んできた。

助手席から降りてきたのは、くたびれたスーツ姿の松田。

彼は、駅舎に向かって駆け出す。

その姿は、同僚を心配する男そのものだった。


「松田さん!」


霧島は、叫び声を上げると、ドアを開けようとした。


「霧島さん、行ってあげて」


佐藤は、優しく言った。

霧島は、佐藤に深く頭を下げると、車から飛び降りた。

そして、松田に向かって走り出す。

その姿は、尊敬する上司に助けを求める部下のように、必死で、そして真剣だった。

佐藤は、そんな二人の後ろ姿を、複雑な思いで見つめていた。


「エミリア」


彼は、小さく呟いた。

その声には、諦めと、そしてわずかな希望が込められていた。

佐藤は、エンジンをかけ、車をゆっくりとスタートさせた。

ヘッドライトが、霧島と松田の姿を照らし出す。

二人は、言葉を交わし、霧島は安堵の表情を見せている。


佐藤は、その光景をバックミラー越しに眺めながら、アクセルを踏み込んだ。

車は、夜の闇の中へと消えていく。


「松田さん、追いかけましょう!」


桜井は、走り去る車のテールランプを睨みつけながら、運転席に座ったまま松田に向けて叫んだ。

その顔には、焦りと苛立ちが浮かんでいる。


「ダメだ」


松田は、静かに首を振った。


「なぜですか!?」


桜井は、食い下がるように尋ねた。


「丸腰の俺たちが追いかけても、返り討ちに遭うだけだ」


松田は、霧島を慰めながら冷静に答えた。

桜井は、悔しそうにハンドルを叩きつけた。


「くそっ!」


松田は、そんな桜井の姿を見ながら、自嘲気味に呟いた。


「たとえ銃を携帯していても、結果は同じだろう」


彼の言葉には、深い無力感と、エミリアに対する畏怖の念が込められていた。



 佐藤は、エミリアの待つ温泉旅館へと続く山道を、慎重に車を走らせていた。

辺りは静寂に包まれ、車のエンジン音だけが闇夜に響く。

いくつかのカーブを曲がったその時、ヘッドライトが不意に人物の姿を捉えた。

それは、旅館の送迎車を背に佇むエミリアだった。

夜の帳が 降りた静寂の中、彼女は闇に溶け込むように立っていた。

しかし、その姿は、どこか凛とした美しさを放っていた。

エミリアは、暗視装置を装着し、右手では弾倉が外された大型の対物ライフルが銃床を地面に置き垂直に立てて持っていた。

何故か左手には大型の対物ライフルの弾倉が握られている。

その姿は、まるで月夜の狩人のよう。

冷静で、かつ危険な香りが漂っていた。


「エミリア、あの送迎車は?」


佐藤は、運転席から顔を出してエミリアに尋ねた。


「もちろん、借りたのよ」


エミリアは、悪びれる様子もなく答えた。


「借りた、って」


佐藤は、ため息をついた。

おそらく、無断で拝借してきたのだろう。


「健ちゃん。よく霧島さんの誘惑に耐えたわね」


エミリアは、いたずらっぽく笑った。

その言葉に、佐藤は顔が赤くなった。

エミリアは、駐車場での出来事をすべて見ていたのだ。


「エミリア、まさか対物ライフルのスコープで覗いていたのか?」


佐藤は、恐る恐る尋ねた。


「他に、望遠で見れるものなんてなかったから」


エミリアは、悪びれる様子もなく答えた。


「でも、そのライフル。弾倉は外して弾薬は抜いてあるようだけど、駐車場を覗いていた時は弾倉をどうしていたんだ?」

「知りたい?」


エミリアは、意味深な笑みを浮かべた。

佐藤は、それ以上聞くのをやめた。

エミリアの答えは、明白だった。


「頼むから、そんな物騒なもので覗かないでくれ」


佐藤は、弱々しく言った。


「松田さんが乗ってきた車で佐藤を追いかけまわすようなら、こいつで車のエンジンかモーターをぶち抜いてやろうと用意していただけよ」


エミリアは、涼しげに答えた。


「それだけか?」

「まだ、聞きたいの?」


佐藤は、諦めたようにため息をついた。


「とりあえず、夜の山は冷えるから旅館に戻ろう」

「そうね。霧島さんに、どんな風に誘惑されたのか詳しく聞きたいし」


エミリアは、再びいたずらっぽく笑った。

佐藤は、エミリアの言葉に、顔を真っ赤にして、夜空を見上げた。

満天の星空の下、二人の間には、どこか切ない空気が流れていた。

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