仮想の糸の上で踊る夢と虚構 (後編)
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では一ヶ月遅れでの公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
「クロガネって、まさか、あのクロガネさん!?」
佐藤の驚愕した声が車内に響いた。
「ええ、そのクロガネよ」
エミリアは、冷静に頷いた。
二人の会話に、霧島はますます混乱する。
「ちょ、ちょっと待ってください! クロガネって、一体誰なんですか!?」
霧島は、両手で頭を覆いながら、叫んだ。
「お金次第で何でもやる、裏社会の何でも屋さんといったところかしら」
エミリアは、簡潔に説明した。
「そんな危険人物が、なぜ私たちを?」
霧島の不安は募るばかりだ。
「佐藤、すぐに安全な路肩を見つけて車を停めて」
エミリアは、冷静さを失わず、佐藤に指示を出した。
「了解。で、車を停めて、どうするんだ?」
佐藤は、困惑しながらも、エミリアの指示に従った。
「クロガネに話を聞いてくる」
青信号に変わると同時に、佐藤は車を加速させ、路肩に滑り込ませるように停車させた。
ハザードランプを点灯させ、後続車に注意を促す。
クロガネの車も、佐藤の車の後ろにぴったりと停止した。
二人の男は、車内で緊迫した表情を浮かべていた。
「佐藤、ちょっと話を付けてくるから、ここで待ってて」
エミリアはそう言うと、周囲を素早く見渡した。
交通量は少なく、人影もない。
目撃者が出る心配はなさそうだ。
彼女は、ためらうことなく銃を右手で握りしめ、車のドアを開けた。
その大胆な行動に、霧島は言葉を失った。
彼女は、両手で頭を抱えたまま、固く目を閉じている。
銃を手にしたエミリアの姿は、彼女にとって、あまりにも非日常的な光景だった。
一方、クロガネは、助手席で頭を抱えていた。
「一体、どうなってるんだ?」
彼は、今回の依頼が簡単なはずだったことに、改めて憤りを感じていた。
「アニキ、なんか目の前に停まっている車から、銃を持った女が降りてきたんですけど」
運転席のワイルドキャットが、緊張した声で報告する。
エミリアは、車から降りる前からクロガネの車を注視していた。
鋭い視線は、脱色した金髪にピアス、アクセサリーで着飾ったチャラい運転手と、助手席で腕を組むクロガネの表情を捉えている。
銃を露わにしたまま車に近づいても、運転手は微動だにしない。
これほどの素人を連れてくるとは、クロガネも耄碌したか。
だが、運転席の佐藤に視線を向ければ、彼もまた素人だ。
エミリアは苦笑し、クロガネに少しだけ同情した。
クロガネの車の助手席側まで歩み寄ると、エミリアは銃をだらしなく構え、片手でノックする。
窓がゆっくりと下り、クロガネのしかめっ面が現れた。
「何の用だ?」
ぶっきらぼうな声が響く。
「ちょっと二人でお話したいから、近くのコンビニの駐車場まで来ない?」
エミリアは涼しい顔で告げた。
「拒否したらどうなる?」
「死体袋が二つ必要になるだけよ?」
「相変わらずシャドウクイーンは横暴だな!」
「クロガネ。そのあだ名を佐藤の前でしたら物理的に二度と話せなくするからね」
エミリアは、冷徹な表情でクロガネを見下ろしながら、銃の撃鉄を静かに戻し、消音機を外してからホルスターへと滑り込ませた。
そして、振り返ることなく、佐藤と霧島が待つ車へと向かう。
その背中は、まるで獲物を狩る捕食者のように、しなやかで、かつ危険な雰囲気を漂わせていた。
ワイルドキャットは、そんなエミリアの後ろ姿に、興奮を抑えきれない様子でクロガネに話しかけた。
「アニキ、あの女、マジ何様っすか!?」
ワイルドキャットは、エミリアの態度に我慢ならないといった様子で、クロガネに詰め寄った。
「黙ってろ」
クロガネは、冷徹な視線をエミリアの背中に送りながら、低い声で言った。
「でも、アニキ! 今なら、あの女、手ぶらですよ! 俺とアニキでやれば、勝てますって!」
ワイルドキャットは、拳を握りしめ、興奮気味に訴えた。
「黙れと言っているんだ。お前が無駄死にするのは見たくない」
クロガネは、ワイルドキャットを睨みつけ静かに言い放った。
ワイルドキャットは、クロガネの剣幕にたじろぎながらも、もう一度エミリアの後ろ姿に視線を向けた。
だが、次の瞬間、背筋に冷たいものが走った。
振り返りもせず、エミリアは立ち止まり、濃いグラサンの奥から射るような視線が、ワイルドキャットを捉えていたのだ。
理性が『動くな』と叫ぶ一方、本能は危険を感知し、彼の身体は硬直した。
粗相をしそうになるのを、どうにかこらえるのが精一杯だった。
クロガネは、そんなワイルドキャットを咎めることはできなかった。
シャドウクイーンの放つ、あの凄まじい殺気の前で、平静を保てる者などいるはずもない。
むしろ、粗相だけで済んだことを幸運に思うべきだろう。
エミリアは、佐藤の待つ車に滑り込むように乗り込むと、横に座る霧島に向き直った。
「クロガネとは話がついたわ。佐藤、近くのコンビニへ行って」
「今回は、銃を使わずに済んだのか?」
佐藤がバックミラー越しに尋ねる。
「ええ。タダ働きさせられてるんだもの、経費削減よ」
エミリアは、余裕の笑みを浮かべた。
「エミリア、これからも銃を使わずに解決できるといいな」
佐藤は、少し寂しそうに言った。
「それができるくらい、世の中が平和になればいいけどね」
エミリアは、遠くを見つめながら呟いた。
シートベルトを締めながら、エミリアは改めて霧島に視線を向ける。
「霧島さん、こんな時に聞くのもなんだけど、連続女子大生失踪事件の調査結果を聞かせてもらえるかしら? できるだけ簡潔に」
唐突な質問に、霧島は一瞬戸惑う。
だが、彼女はすぐに冷静さを取り戻し、答えた。
「ええ、もちろん」
佐藤は、バックミラー越しにエミリアのシートベルトを確認すると、アクセルを踏み込んだ。
カーナビの指示に従い、白いコンパクトカーは滑るように走り出す。
その後ろを、クロガネのグレーの車がぴったりと追走する。
「簡潔に口頭で、と言われても。具体的に何が知りたいのかしら?」
霧島は、エミリアの唐突な質問に戸惑いを隠せない。
「ええとね」
エミリアは、少し考えてから言った。
「失踪した女子大生5人は、仮想通貨の投資で儲けたとSNSで宣伝していたらしいの。でも、どうもそれが嘘っぽい。だから、お金の流れを詳しく知りたいのよ」
「なるほど」
霧島は、理解したように頷いた。
彼女は慣れた手つきでリュックからノートパソコンを取り出すと、電源を入れ、パスワードを入力し、いくつかのアプリケーションを起動させた。
青い光が彼女の顔を照らし、その表情は真剣そのものだった。
「これを見て」
霧島は、ノートパソコンの画面をエミリアに向けた。そこには、複雑なデータと図形がびっしりと表示されていた。
「このノートパソコンの画面にも表示してあるけど、女子大生たちはエミリアさんの予想通り、ステルスマーケティングのアルバイトをしていたみたいね」
霧島は、冷静な口調で説明した。
画面には、女子大生たちのSNSでの活動履歴や、仮想通貨取引に関する情報が映し出されている。
「それは、SNSに何か痕跡が残っていたの?」
エミリアは、興味深そうに尋ねた。
「いいえ、そうじゃないわ」
霧島は、首を横に振った。
「仮想通貨は匿名性が高いと言われているけれど、素人が扱えば、現金よりも多くの痕跡を残してしまうものなの。でも、この5人の女子大生には、仮想通貨を扱った形跡が全く見当たらない」
「全く?」
エミリアは、わずかに眉をひそめた。
「ええ。少なくとも、SNSで自慢していたほどの利益を生み出すような、大規模な取引の痕跡はね」
霧島は、断言した。
エミリアは、窓の外に広がる景色に視線を向けた。
「クロガネに聞けば、何か分かるかもしれないわね」
エミリアの言葉とほぼ同時に、佐藤が車をコンビニの駐車場へと滑り込ませた。
佐藤の白いコンパクトカーとクロガネのグレーのコンパクトカーが、コンビニ駐車場の片隅で睨み合うように停車した。
郊外によくある、ありふれたコンビニと駐車場。
エミリアは車から降りる前に、佐藤と霧島にコンビニで軽食とトイレ休憩を促した。
佐藤がエスコートする形で霧島を店内に誘導するのを見届けると、エミリアは白い車体を背に、クロガネの待つ助手席側へと歩み寄る。
クロガネも観念したように車外へ。
エミリアは高身長ではあったが、クロガネはそれを凌駕し、見下ろすような視線を向けてきた。
「で、何を聞きたいんだ?」
クロガネは、エミリアを見下ろすように鋭い視線を向けた。
エミリアは、その視線にひるむことなく、涼しげな声で尋ねた。
「クロガネの運転手って、どんな人?」
「なんだ? てっきり『なぜあの女を尾行しているのか?』と聞かれると思っていたが?」
クロガネは、少し意外そうに眉を上げた。
「じゃあ、なぜあの女を尾行しているの?」
エミリアは、クロガネの挑発に乗らず、冷静に質問を繰り返した。
「聞けば答えると思っているのか?」
クロガネは、ニヤリと笑った。
「答えるんでしょうね」
エミリアは、濃いグラサンをゆっくりと外すと、クロガネの目をまっすぐに見つめた。
その視線は、氷のように冷たく、クロガネの心を射抜いた。
「くそっ、美人だと思って図に乗るな」
クロガネは、思わず舌打ちした。
「私のような美人と話せて、光栄でしょう?」
エミリアは、挑発的な笑みを浮かべた。
「シャドウクイーンでなければ、鼻の下を伸ばして喜ぶんだがな」
クロガネは、そう呟くと、大きく深呼吸し、覚悟を決めたように言った。
「ここから話すことは、俺の独り言だ! シャドウクイーンが怖くて震えているんじゃないぞ!」
「能書きはいいから、さっさと話して」
エミリアは、クロガネの言葉を遮り、冷たく言い放った。
「あの女を尾行していたのは、頼まれたからだ」
クロガネは、観念したように答えた。
「誰に?」
エミリアは、鋭く問い詰めた。
「仮想通貨を利用した詐欺をしているガキどもだよ」
クロガネは、吐き捨てるように言った。
エミリアは濃いグラサンの奥に鋭い視線を潜ませ、クロガネの言葉に耳を傾けた。
視線の先には、クロガネの運転手。
金髪にピアス、いかにもチャラそうな男が運転席でこちらを窺っていた。
「そのガキたちの黒幕は?」
エミリアは、クロガネの言葉に鋭く反応し、問い詰めた。
「ガキどものリーダーの父親だ」
クロガネは、感情を隠すように話す。
「その父親って何者なの?」
エミリアは、さらに深く探りを入れる。
「悪徳弁護士だ」
クロガネは、一人の悪徳弁護士の名前を吐き捨てるように言った。
その言葉に、エミリアの表情が一瞬曇る。
「だから警察として捜査したくなかったのね」
エミリアは、呟くように言った。
「ああ、その悪徳弁護士のせいで、辞めた警察官は数知れず」
クロガネは、遠くを見つめながら、過去の記憶を呼び起こすように言った。
その言葉には、あきらめに似た何かが込められていた。
「連続女子大生失踪事件の女子大生失踪も貴方が関与?」
「推しとか言って、クレジットカードで湯水のように金を使い、投げ銭をし、借金まみれになってガキどものところで隠れているだけだ」
「なんだ。事件性無いのね」
「そう。馬鹿な理由で抱えた借金を返すために、目先の金に目がくらんで詐欺の片棒まで担いだ、ただの自業自得な愚か者の連中だ」
エミリアは、クロガネの言葉に満足そうに頷いた。
少なくとも仮想通貨の詐欺は警察が調べることで自分には関係ないことだとクロガネに告げながら。
「ああ、そうだな。だが、最後に一つだけ、聞きたいことがある」
クロガネは、真剣な表情でエミリアに向き直った。
「何?」
エミリアは、警戒心を解くことなく、クロガネの言葉に耳を傾けた。
「誰の差し金で、動いているんだ?」
鋭い視線が、エミリアを射抜く。
「あなたも知っている松田さんよ」
エミリアは、冷静に答えた。
「あの、スッポンみたいにしつこい刑事か!?」
クロガネは、顔をしかめた。
エミリアは、思わず吹き出した。
「くそっ! あの刑事が絡むような仕事なら、こっちから願い下げだ!」
クロガネは、舌打ちすると、慌てて車に乗り込んだ。
「シャドウクイーン。今回は情報交換ということで、貸し借りなしだ!」
そう言い残すと、クロガネを乗せた車が急発進して、エミリアの前から姿を消した。
さほど経費をかけずに松田刑事の依頼を解決できたことに、十分な満足感も覚え、ひと段落ついたとばかりにトイレを借りようとコンビニの入口に差し掛かったエミリアは、ふっと足を止めた。
目の前に霧島が立ちはだかったのだ。
「エミリアさん。あのクロガネさんが話していた話は本当ですか?」
霧島の表情は硬く、声にはわずかな震えが混じっていた。
「私には、嘘をついているようには見えなかったけど?」
エミリアは涼しげな顔で答えたが、霧島の様子がおかしいことに気づいていた。
霧島は、悔しそうに唇を噛みしめ、両手が白くなるほど拳を握りしめていた。
何かを必死に堪えているようにも見えた。
エミリアは、霧島の後ろに立つ佐藤に視線を向けた。
佐藤は、何かを察したように、エミリアに小さく頭を下げた。
その表情には、申し訳なさの色が浮かんでいた。
エミリアは、霧島の表情を見て、嫌な予感がした。
面倒事に巻き込まれるのは避けたい。
そう思った彼女は、コンビニのトイレを借りる口実を作って、二人から距離を置くことにした。
「エミリアさん、車に戻ってから、お話があります」
霧島の声は、緊張で震えていた。
佐藤が慌てて霧島の後を追いかける。
エミリアは、佐藤が何かやらかしたのかと内心訝しみながらも、コンビニへと足を向けた。
用を足した後、ついでに昼食用のパンと飲み物を購入し、エミリアは車に戻った。
すると、車内は異様な雰囲気に包まれていた。
佐藤は運転席に座ったまま、後部座席に座る霧島に何かを話しかけている。
だが、霧島はうつむいたまま、一言も発しない。
ただ、膝の上で握りしめられた両手が、微かに震えていた。
車内の重苦しい空気を察知し、エミリアはため息をついた。
できれば関わりたくない。
だが、佐藤を置き去りにすることもできない。
彼女はポーカーフェイスを装い、リアドアを開けて車内へと滑り込んだ。
ドアが閉まるのとほぼ同時に、霧島が重い口を開いた。
「クロガネさんが話していた悪徳弁護士。私が警察を辞めるきっかけになった事件の弁護人だったのです」
その言葉に、エミリアの表情は凍りついた。
面倒事に巻き込まれた、と直感したのだ。
「まさか、あの人物が、また」
霧島の声は、怒りと悲しみに震えていた。
「霧島さん、落ち着いて」
佐藤が穏やかに声をかけた。
「今は、冷静に状況を判断するべきだ。深呼吸して、心を落ち着かせて」
霧島は、顔を上げるとはっきりした声で話し始めた。
「エミリアさん。私は貴女を雇いたい。貴女の力であの悪徳弁護士を」
「霧島さん、それ以上は言ってはダメだ!」
佐藤の強い声が、霧島の言葉を遮った。
エミリアは、二人の剣幕にげんなりとした。
「だから、素人は苦手なのよ」
彼女は、小さく呟いた。
「霧島さん。はっきり言っておくけど、私は、あなたの復讐に付き合うつもりはないわ」
エミリアは、冷徹な視線を霧島に向けた。
その言葉に、霧島は凄みのある声で言い放った。
「いくら払えば、いいんですか?」
「だから、素人は」
エミリアは、ため息をついた。
「私は、気分で仕事を選んでいるの。お金の問題じゃないの」
「なら、クロガネさんに頼みます。貴女と違って、金さえ積めば何でもしてくれるのでしょう?」
霧島は、自嘲気味に笑った。
その顔は、まるで壊れた人形のようだった。
「クロガネだって、安い金額で動くわけないじゃない」
エミリアは、冷静な口調を保っていたが、内心では霧島の言葉に苛立ちを感じていた。
「なら、足りない分は体で払います。愛人でも、ペットにでもなって」
霧島の言葉は、自暴自棄に満ちていた。
「いい加減、ガキみたいなことを言うんじゃない」
エミリアは、声を荒げた。
「私は、自暴自棄になって同情を誘うのが、一番嫌いなの」
エミリアは、深く息を吸い込み、感情を落ち着かせようとした。
「わかったわよ。あのクロガネに客を取られるのは癪だから、特別に引き受けてあげる」
エミリアは、決意を込めた瞳で霧島を見つめた。
霧島は、予想外の言葉に驚きを隠せない。
「ただし、一つだけ条件がある」
エミリアは、言葉を続けた。
「やり方は、私に任せること」
霧島は、エミリアの真意を測りかねていた。
その様子を見た佐藤は、運転席から慌てて振り返った。
「エミリア、いいのか?」
彼は、心配そうに尋ねた。
「ええ、大丈夫よ」
エミリアは、佐藤に安心させるように微笑んだ。
佐藤は、エミリアの言葉に安堵の表情を浮かべた。
彼は、エミリアが感情的に反応しているように見せかけて、実は霧島を救う方法を選んでくれると信じていたのだ。
エミリアは、スマートフォンを取り出すと、慣れた手つきで情報屋に連絡を入れた。
悪徳弁護士に関する情報収集依頼だ。
「で、霧島さん。いくらまでなら払えるの?」
エミリアは、霧島に視線を向けた。
「これくらいですけど」
霧島は、申し訳なさそうに、支払える金額を提示した。
その金額を見たエミリアは、あからさまに顔をしかめた。
「そんなはした金じゃ、情報料にもならないわよ」
「なら、体で払います!」
霧島は、エミリアの挑発的な態度に、感情的に言い返した。
「私、女を抱く趣味も無ければ、臓器売買にかかわる仕事も断っているのよ」
エミリアは、冷たく言い放った。
情報屋からの返信を待つ間、エミリアは霧島を上から下まで値踏みするような視線で眺め回した。
そして、運転席の佐藤に顔を向けた。
「佐藤。私の代わりに依頼料として霧島さん抱かない?」
突然の提案に、佐藤は驚きを隠せない。
「 エミリア、何を言っているんだ!?」
「美人をタダで抱けるのよ。役得でしょう?」
エミリアは、スマートフォンを見ながら、悪びれる様子もなく言った。
二人のやり取りを、霧島は固唾を飲んで見守っていた。
「あの、その、佐藤さんが、良ければ」
霧島は、顔を赤らめながら、蚊の鳴くような声で言った。
その反応を見たエミリアは、ドン引きした。
「ちょっと、何で嬉しそうに同意してるのよ」
エミリアは、呆れたようにため息をついた。
その時、彼女のスマートフォンが振動する。
情報屋からの返信だ。
メッセージを開くと、そこには悪徳弁護士に関する詳細な情報が記されていた。
「なるほど」
エミリアは、不敵な笑みを浮かべた。
情報屋からの情報を見て、エミリアは一流のプロの仕事として、冷静さを失い細い糸の上で破滅寸前な踊りを踊り続ける霧島をどうにかする方法を構築し始めた。
「佐藤、仮想通貨の詐欺をしていた悪ガキどもが隠れている悪徳弁護士の別荘の住所を伝えるから下道で行って」
「了解」
佐藤は、エミリアの指示に従い、車を走らせた。
車内は、静寂に包まれていた。
霧島は、不安げな表情で窓の外を眺めている。
エミリアは、佐藤と霧島の質問に答えながら打ち合わせをすませることにした。
「つまり、今回の連続女子大生失踪事件の真相は、仮想通貨の詐欺のグループの内紛とかなのか?」
車を走らせる佐藤の質問に、エミリアは車窓を眺めながら答えていく。
「内紛というより、警察が動き始めたのを知って、雲隠れしたのでしょうね。松田って刑事は、クロガネの言葉じゃないけどしつこいから」
エミリアは、窓の外を眺めながら答えた。
「で、その詐欺グループのリーダーの父親が悪徳弁護士で」
佐藤は、話を整理するように言った。
「親の英才教育でも学んで、経済犯罪で稼いで裏の世界でのし上がる気なのかもね」
エミリアは、皮肉っぽく言った。
「そんなことって、あるのか?」
佐藤は、信じられないといった様子だった。
「知らないわよ。人の家の教育方針なんて」
エミリアは、肩をすくめた。
「それで、エミリア。悪徳弁護士の別荘に行って、どうするつもりなんだ?」
佐藤は、核心を突く質問をした。
「ちょっと、もみ消せない証拠を作りに行くのよ」
エミリアは、楽しそうに笑った。
その言葉に、佐藤は嫌な予感がした。
霧島は、これから何が起きるのかわからず、不安な表情で窓の外を眺めていた。
悪徳弁護士の別荘は、避暑地として名高いエリアの一角に、威風堂々と佇んでいた。
洋風の豪邸を囲む高い塀、侵入者を阻む様々な仕掛け、そして玄関口には屈強な警備員の姿。
鉄壁の守りを誇るその様は、まるで要塞のようだった。
エミリアは、佐藤に指示して別荘近くの路地に車を停めさせると、情報屋から送られてきた航空写真を凝視していた。
庭の植栽、プールの形状、建物の構造、あらゆる情報を脳裏に焼き付けていく。
その真剣な表情は、先ほどまで霧島にふざけた提案をしていた人物とは思えないほど、冷徹で鋭かった。
霧島は、そんなエミリアの気迫に圧倒され、言葉を失っていた。
「佐藤、あなたからも見える? あの煙突」
エミリアが、フロントガラス越しに指差す先には、レンガ造りの煙突がそびえ立っていた。
「ああ、見える。暖炉に繋がっているんだろうが、人が入れるほどの太さはないだろう?」
佐藤は、首を傾げた。
「ええ、そうでしょうね。きっと中はもっと狭くなっているはずよ。侵入者を防ぐためにね」
エミリアは、不敵な笑みを浮かべた。
「二人とも、ちょっと待ってて」
エミリアは、いたずらっぽい笑みを浮かべながら車を降り、佐藤にトランクを開けるよう指示した。
中から取り出したのは、大きな筒状の物体。
霧島は、息を呑んだ。
それは、映画やドラマでしか見たことのない、回転装弾式のてき弾発射機だった。
耳栓をしたエミリアは、その危険な武器をまるで玩具のように軽々と扱っている。
「ちょ、ちょっと!」
霧島は、恐怖で声が震えた。
「佐藤さん、エミリアさんを止めてください! あんなものを使ったら、無関係の人を巻き込んでしまいます!」
佐藤は、霧島の剣幕に動じることなく、優しく微笑んだ。
「霧島さん。エミリアが持っているのは煙幕を張るための発煙弾ですよ」
「発煙弾?」
霧島は、首を傾げた。
「人体に無害な成分の発煙弾なのですが、かわりに煙の量が少ないから一度にたくさん使わなきゃならないのが欠点なんですけどね」
佐藤は、丁寧に説明した。
霧島が呆然としていると、ドアも窓も閉めた車内にポンポンポンと軽快な音が響き渡った。
エミリアが、車から十分離れた場所に立ち次々と発煙弾を撃ち込んでいるのだ。
霧島は、エミリアの放った発煙弾の軌跡を目で追った。
まるで吸い込まれるように、全ての弾が屋敷の煙突へと消えていく。
その信じられないほどの正確さに、霧島は驚きを隠せない。
次の瞬間、エミリアはてき弾発射機をトランクに戻し、耳栓を外してから車に乗り込んだ。
「佐藤、行くわよ」
「あの別荘はどうするんだ? 見ていかなくていいのか?」
佐藤が尋ねる。
エミリアは目を閉じ、静かに答えた。
「結果がわかっていることを見る必要ないわよ。それより警察や消防が火事だと通報した善意の第三者からの通報で出動するから、面倒ごとに巻き込まれる前に逃げるわよ」
佐藤は頷き、車をスタートさせた。
霧島は、窓の外を流れる景色の中に、悪徳弁護士の別荘の姿を探した。
すると、屋敷の至る所から、モクモクと煙が立ち上り始めた。
それと同時に、何人もの若い裸の男女が、酒に酔っているのとは違う千鳥足のまま慌てふためいて屋敷から飛び出してくる。
「なるほど、これなら確かに」
霧島は、エミリアの作戦の巧妙さに感嘆した。
屋敷内で何が起きていたのか、もはや誰にも隠しようがないだろう。
「しかし、エミリア。どうして発煙弾なんて持ち歩くようになったんだ?」
佐藤は、運転しながら疑問を口にした。
「いつか松田刑事の家にぶち込んでやるためよ」
エミリアは、悪戯っぽく笑った。
その言葉に、佐藤はげんなりとした。
エミリアなら、本当にやりかねない。
そんな予感がしたのだ。
佐藤は、エミリアの言葉を忘れようと、アクセルを踏み込んだ。
車は、薄暗い下道を滑るように走り抜けていく。
「次は、泣きついた悪ガキたちの後始末に駆けつける父親の悪徳弁護士に警告と行きましょう」
エミリアは、仕事の顔に戻り、霧島に告げた。
霧島は、エミリアの言葉に、恐怖と好奇心が入り混じった感情を抱いた。
これから、一体何が起きるのだろう?
車は、山間部を走る下道を走り抜け、小さな歩道橋の近くに停まった。
エミリアは車から降りると、トランクを開け、中から大型の回転式拳銃を取り出し優しく装填していく。
その光景を見た霧島は、血の気が引いた。
自分がエミリアに依頼したことの意味を、ようやく理解したのだ。
「さ、佐藤さん! こ、今度こそエミリアさんを止めてください! やっぱり、こんな方法は」
霧島は、恐怖で震える声で訴えた。
しかし、佐藤は冷静だった。
「霧島さん、一度プロが引き受けた仕事は、キャンセルできないんだ」
「そんな」
霧島は、絶望感に打ちひしがれた。
エミリアは、そんな霧島の様子を冷めた目で見ていた。
「これで、少しは懲りたかしら」
彼女は、心の中で呟いた。
エミリアのスマートフォンが震えた。
情報屋からの新たな通知だ。
悪徳弁護士が、子供に会うため、別荘地を管轄する警察署へ向かったという。
そして、エミリアが待つ歩道橋を通過するまでのカウントダウンが表示されている。
「時間ね」
エミリアは、静かに呟いた。
車の中では、佐藤が霧島を必死に宥めていた。
佐藤は、エミリアの『警告』と言う言葉を正確に理解しているのか驚くほど静かに耳を抑え全てから逃げ出そうとしている霧島を慰めている。
佐藤の優しい言葉が、彼女の心を少しでも落ち着かせることができるだろうか。
エミリアは、耳栓をしてからパーカーのフードを深く被り、濃いサングラスで顔を隠した。
そして、静かに小さな歩道橋に向かう。
小さな歩道橋の上に立つ。
ターゲットは、もうすぐそこまで来ている。
ヘッドライトの光が、夜の闇を切り裂く。
黒塗りの高級輸入車が、エミリアの視界に飛び込んできた。
運転席には、年老いた運転手。
助手席は空席で、後部座席には、恰幅の良い男と、若い女が座っている。
「悪徳弁護士とやら、秘書と言う名の愛人連れて接見とは、とんだ倫理観ね」
エミリアは、冷たく呟いた。
次の瞬間、エミリアは銃を構えた。
標的は、助手席の窓ガラス。正確無比な射撃で、彼女はフロントガラスに円形の穴を開けていく。
銃声は、夜の静寂を引き裂いた。
だが、エミリアの銃弾は、誰にも当たることなく、車体へと吸い込まれていく。
わずか数秒の出来事だった。
車は、スピードを上げて走り去っていく。
エミリアは全弾打ち切った緊張を忘れるため、一呼吸する。
「これで、一件落着ね」
彼女は、そう呟くと、車へと戻っていった。