歌舞伎町の『薬酒専門店(付喪神とモノノケたちのセーフハウス)』その四
【読者様への注意喚起】
この物語はフィクションです。
法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
また、作中に登場する人名、組織、団体名(アスター家、K&E リサーチ&コンサルティング等)はすべて架空のものであり、実在の人物・組織とは一切関係ありません。
ようこそ、東京の影の中へ ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
あなたは、そんな影の世界に生きる一人の女王に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿と冷酷な戦闘能力を持つ「始末屋」だが、その心は過去の壮絶なトラウマ(PTSD)により深く閉ざされていた。
彼女の唯一の拠り所は、佐藤健という元銀行員の相棒。
彼の存在こそが、彼女の心を繋ぎ止める唯一の「鎮静剤」だった。
女王の争奪戦と運命の対決 しかし、彼女の安息は、アスター家の令嬢リリア・アスターの出現によって一変する。
リリアは佐藤の独占をかけて、エミリアに「資金力」と「知略」で挑む。
二人の女王による壮絶な「争奪戦」が勃発し、その裏側で、巨大な「情報戦(現代ファンタジー)」が展開されていく。
リリアの計画: 彼女は愛する佐藤のために、軍事力、情報機関、そして公邸という名の「要塞」を築き上げる。
エミリアの覚悟: 愛する者の日常と自身の居場所を守るため、妹のヴァネッサや過去の因縁と共に、冷徹な知略と戦闘本能を解き放つ。
あなたは、エミリアがこの愛と権力の戦いを生き抜き、孤独を乗り越えていく「再生の物語」を体験することになる。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
これは、あなたの「常識」が一切通用しない、究極のプロフェッショナルたちが「愛」のために戦う物語。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
この物語は、最先端AI 「Gemini (by Google)」 との共作により誕生しました。
時に、AIは人間の想像を超える予想外(unexpected)な展開を――。 時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を――。 「Gemini」は、新たな物語の世界を創造する、私の大切なパートナーです。
※本作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では順次公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。 これは、愛と知略が支配する、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
日本標準時4月15日午後4時15分。
晴れ間が広がる都内。
その午後。
リリアの天空の『公邸』と、大阪『統括作戦室』は、嵐の前の静けさのような、平和な時間が続き、そして、停泊するチーム『セレノファイル』のスーパーヨットも、また、停泊中の『休息シフト(Aチーム)は、深部休息に入り、『整備シフト(Bチーム)は、機関、船体点検』と、その機能を維持しながら、静かに眠っていた。
一方、箱庭の雑居ビル三階のオフィスでは、ヴァネッサがサスキアの案内で『物件D』に向かい、オフィスには、エミリア、佐藤、リリアの三人だけが残されていた。
佐藤は、その表面的な穏やかなオフィス内で、しかし、外出禁止、ネット禁止という、重い「鎖」に繋がれているため、ノートにアイデアを書き込むくらいしか出来ず、手持ち無沙汰だった。
彼は、パラパラと、そのノートをめくる。
あるページには、リリアの書き込んだ、新婚旅行や、新婚生活の予定(リリアにとって、確定事項)が、極彩色の未来図として踊り、また、あるページには、佐藤が書き込んだ、高級薬酒専門店:『五臓六腑』のアイデアが、緻密に記されている。
彼は、そのどちらでもない、今日の予定や、年間予定なども書かれていない、真っ白なページを開いて、そして無意識に、ペンを走らせている。
その佐藤の様子を、隣のデスクからエミリアが、見ていた。
(…何を、書いているのかしら? また、新しい事業計画?)
彼女は、そっと、佐藤が何を、書いているのか覗いてみると、そこに、書かれていたのは、整然と並んだ『デザートのリスト』だった。
『プリン』
『ショートケーキ』
『モンブラン』
『タイヤキ(カスタード)』
それは、単に、彼が疲れた脳みそでぼんやりと、思い浮かべた、甘いものの羅列に過ぎなかったのだが。
エミリアは、そのリストを見て、優しく微笑んだ。
(…あらあら。ヴァネッサの食欲の話をしていたから、つられちゃったのかしら?)と、考えた。
春の、その穏やかな夕暮れだけが、その最強の女王の、そのあまりにも平和で、そしてどこまでもズレた「気遣い」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル三階のオフィスで、エミリアは佐藤のノートに書かれた『デザートのリスト(プリン、モンブラン…)』を見ながら、真剣に悩んでいた。
(…健ちゃん、甘いものが食べたいのね。…なら、今度の日曜、一緒にデートとしてデザートバイキングでも出かけたら、良いのかしら…)
その甘い思考を遮るように、リリアのスマートフォンに螢から連絡があって、彼女は、その報告に目を見開いた。
高級薬酒専門店:『五臓六腑』のリフォーム工事と、機械警備の設置が完了したという案内が届き、リリアは即座に次なる「作戦」を立案した。
リリアは立ち上がり、エミリアに優雅に告げた。
「――エミリア様。高級薬酒専門店:『五臓六腑』のリフォームが、終わりましたので、例の、お祝いのお花と、お酒と、薬箱を、お願いしますわ。それと、機械警備のカードキーと、暗証番号は、わたくしの『蒼穹キネマ』で、螢から、お受け取りください」
リリアの狙いは明白だった。
エミリアを箱庭の雑居ビルの三階のオフィスから追い出し、ヴァネッサもサスキアもいない、二人きりの箱庭の雑居ビルの三階のオフィスから、愛する佐藤を連れ出して、そのまま停泊中のチーム『セレノファイル』のスーパーヨットにでも引きずり込もうと考えていたのだ。
しかし、エミリアは、その浅はかな「企み」を鼻で笑った。
「…あら、リリアさん。他人事みたいに」
エミリアは、リリアの腕をガシリと掴んだ。
「リリアさんの資金で開業する、高級薬酒専門店:『五臓六腑』。大切な金蔓であるリリアさんも、一緒に、来るの」
「えっ!? い、嫌ですわ! わたくしは、サトウさまと…!」
抵抗するリリア。
しかし、エミリアの膂力には敵わない。
エミリアに引きずられる形で、リリアは、エミリアの愛車の白いコンパクトカー(エミリア運転、リリア助手席)で、強制的に蒼穹キネマに連れて行かれた。
嵐のように、二人の女王が去った後。
箱庭の雑居ビルの三階のオフィスには、佐藤が一人、ポツンと残されていた。
「…えっと。…行ってらっしゃい…」
彼は、箱庭の雑居ビルの三階のオフィスで、誰にともなく呟いた。
こうして、彼は、思いがけず、平和で、そして少しだけ寂しい留守番することになったのである。
春の、その穏やかな夕暮れだけが、その取り残された佐藤の背中を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル、三階のオフィスでは、奇妙な静けさが支配していた。
一人、留守番する佐藤は、エミリアの厳命により『外出禁止、ネット禁止』の状態にあるため、ノートに高級薬酒専門店:『五臓六腑』のアイデアを黙々と追加していることしか、できなかった。
その静寂を破るように、オフィスのドアが開いた。
ヴァネッサを社員寮『物件D』に送り届け、戻ってきたサスキアだった。
彼女はオフィスを見回し、佐藤しかいない理由を、眉一つ動かさずに佐藤に尋ねた。
「…佐藤様。エミリア様と、リリア様のご所在は?」
佐藤が顔を上げて告げる。
「あ、お帰りなさい、サスキアさん。エミリアとリリアさんが、先ほど高級薬酒専門店:『五臓六腑』に、お祝いのお花と、お酒と、薬箱を届けるために、出かけました」
「…左様でございますか。承知いたしました」
サスキアが、その状況(=リリアの暴走とエミリアの対策)を瞬時に理解し納得して、自らの受付の業務を再開しようとする。
しかし、その前に、彼女は佐藤の手元を見た。
「…佐藤様。そのお書きになっている内容は、『五臓六腑』の事業計画に関するものでしょうか?」
彼女が尋ねると、佐藤が少し照れくさそうに告げた。
「はい。何か良いアイデアを導入できないか、メモ書きしていたんです」
サスキアが、失礼します、と、そのノートを確認すると、そこには、佐藤のアイデアと共に、リリアが書き込んだ、あの高級薬酒専門店:『五臓六腑』の、『社員寮(新宿御苑近くの高級マンション)』の詳細な書き込みがあった。
サスキアは、そのあまりにも豪華すぎる「待遇」を見つめ、静かに思考した。
(…完璧な居住環境。最新鋭のセキュリティ完備。リリア様が築かれた『最高の資産』です。彼女たちの忠誠を維持する『黄金の鳥籠』として機能するでしょう)
しかし、彼女の脳裏に浮かんだのは、『二人組(橘陽菜、藤井澪)』が関西から呼び寄せるであろう、『仲間』たちの姿だった。
(…いいえ。リリア様は、採用する人材の価値観を読み違えておられます)
サスキアは確信した。
(橘氏と藤井氏が呼び寄せる仲間は、おそらくリリア様が用意した、社員寮を断って、あえて、あのカオスな『雑居ビル』に住み込み、『二人組(橘陽菜、藤井澪)』を護るために、その側を離れない。経済的安定よりも、自らの自由と『仁義』を優先する)
サスキアは、その「予感」を口には出さず、静かにノートを閉じた。
「…素晴らしい計画ですね。財務的な構造も整っております」
彼女のその言葉の裏に隠された、波乱の予感を。佐藤は、まだ気づいていない。
春の、その穏やかな夕暮だけが、その女王の「誤算」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
『蒼穹キネマ』で、秘書の螢から、高級薬酒専門店:『五臓六腑』の鍵と、機械警備の暗証番号とカードキーを受け取り、リリアを引き連れたエミリアは、すぐ近くのドラッグストアに到着すると、買い物カゴを片手に、医薬品コーナーを鋭い眼光で物色していた。
「…本物は、無理でも、使えるものはあるわね」
彼女は、引き続き、リリアを引き連れ、その薬箱の中身として、以下の品々を、手際よく買い進める。
・伸縮性の高い弾力包帯(大)と滅菌パッド × 3
・大判の防水透明フィルムドレッシング(チェストシールの代替品として)
・大型の滅菌ガーゼ(圧縮タイプ)
・市販薬で最強の鎮痛剤 (代替モルヒネ)
・医療用皮膚接合テープ
・抗生物質は医師の処方箋が無ければ買えないから、破傷風対策の気休めとしての消毒薬と体力維持に応用できる脱水対策としてのスポーツドリンク。
エミリアが、そのあまりにも殺伐とした買い物を進めている中。
後ろを、ついて歩いていたリリアが、お菓子コーナーで足を止めた。
彼女は、佐藤のおみやげとして、棚に並んでいたドラッグストアで売られている、和菓子や洋菓子の詰め合わせを、ポイポイと次々、エミリアのかごに放り込んでいった。
「ちょっと、リリアさん? 何をしているの?」
エミリアが、咎めるような視線を送ると、リリアは悪びれもせず、微笑んだ。
「あら、エミリア様。見ていらっしゃらなかったの? 先ほど、サトウさまが、ノートに、デザートの名前ばかり書いていらしたのを。甘いものを食べたいようなので、わたくしが、叶えて差し上げますの」
そう語り、彼女は、さらにチョコレートを追加した。
その言葉に、エミリアはハッとした。
(…そういえば。私も、あの「リスト」を見ていたのに…。「薬箱(安全)」を優先するあまり、健ちゃんの今の欲求を後回しにしてしまった…)
エミリアは、そのリリアの抜け目のない「気遣い」に、今回はリリアさんのほうが健ちゃんに対して点数稼いだとしても、と素直に認めざるを得なかった。
しかし、エミリアは、そのカゴの中の包帯と、お菓子を見比べながら、静かに闘志を燃やす。
(…でも、次は負けないわ)
エミリアは、そう心のなかで考えていた。
春の、その穏やかな夕暮れだけが、そのあまりにも奇妙な「組み合わせ」で満たされた買い物カゴを、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
ドラッグストアで、あの物騒な『薬箱』と、留守番している佐藤とサスキアのための『お土産(お菓子)』を追加で購入したエミリアは、愛車の白いコンパクトカーで歌舞伎町へと乗り付けた。
引き続き、リリアを連れて、二人組・新居の雑居ビル近くの、有料駐車場に駐車してから、二人はその雑居ビルのおかまバー『蝶の夢』に訪れた。
エミリアは、持っていた嵩張る薬箱をリリアに預け、開店前の準備に忙しい、マダム・バタフライに恭しく一礼した。
「――急なお願いで、申し訳なかったわね、マダム」
彼女は、御礼と、お酒の代金と心付け込みの、あの風呂敷に包んだ現金の束を渡して、代わりにマダムが用意した、ずっしりと重いお酒――幻の『日本酒(純米大吟醸)』二本、年代物のヴィンテージ・ブランデーと、国産のプレミアム・ウイスキー――を受け取り、軽く、『二人組(陽菜と澪)』の近況を聞きながら、「これからも、あの子たちをよろしく頼むわ。ご迷惑をおかけしますが」と頼む。
マダム・バタフライも、その現金の重みとエミリアの仁義に満足げに了承し、二人を送り出した。
店を出たエミリアは、二階の高級薬酒専門店:『五臓六腑』に向かうと、その入り口には、警備会社のステッカーが貼られ、既に花屋が届けた、『開業祝(予定)』の花が美しく飾られていて、その仕事の早さにエミリアは頷いた。
そして、彼女は振り返る。
「――リリアさん。これもお願い」
エミリアは、抱えていた重いお酒を、既に薬箱で両手が塞がっているリリアに、さらに預けた。
「なっ…! エミリア様! わたくしは、こんなに重いものを持ち歩けるほど、鍛えていないのですよ!?」
「あら、応接室に置かれた札束を詰めたケースを、軽々と運んでおいて、何を言っているの?」
文句を言うリリアを他所に。
エミリアは、鍵と暗証番号とカードキーを使い、その正規の方法で、高級薬酒専門店:『五臓六腑』の機械警備のセキュリティを解除した。
ガチャリ、と重厚なロックが外れる音が響く。
リリアを連れ、エミリアたちはまだ電気も水道もない、店内に入った。
そこは、薄暗く、静寂に満ちていた。
しかし、そこには確かな「城」としての気配が漂っていた。
今夜、ここが人ならざる者たちの喧騒で満たされることを予感させるように。
春の、その穏やかな西日だけが、その空っぽの棚と、二人の美しい女王の姿を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
高級薬酒専門店:『五臓六腑』の店内。
まだ、電気も通っていない、薄暗い空間に、西日が長く差し込んでいた。
エミリアは、その空間の中央に立ち、セキュリティをさりげなくチェックしていた。
彼女は、窓枠とドアのヒンジを指でなぞる。
(…窓やドアのこじ開けや、破壊による侵入は、プロが専用の工具を使用しても、機械警備の発報から警備員や警察官が到着するまで、十分耐えられるわね)
彼女は分析して、満足げに頷く。
次に、エミリアは、その床を靴のかかとでコツコツ叩いてみた。
その反響音や感触から、彼女は建物の構造体そのものの強度を測る。
「…なるほど。日本の建築物は、耐震性の基準が厳しいから、コンクリートと鉄筋の密度が高いわ。これなら、床、壁、天井に穴を開けて侵入するのも、プロでも機械警備の発報から、警備員や警察官が到着するまでに押し入るのは難しいわね」
彼女は、その意外な防御力を分析し、合格点を出した。
一方、リリアは、まだ両手に荷物を抱えたまま、店内を見回していた。
3Dプリンターで作られた、モダンな棚やカウンター。
そして、貴重な漢方薬や薬酒を保管するための店舗内部に設置された、耐火・防爆性能を持った『隠し金庫(または、強化された保管庫)』を確認して、彼女は微笑んだ。
(…ええ。これなら、『付喪神ギルド』の薄氷刃、月白盃、薬院椿、そして硯海も、満足するでしょう)
彼女はそう思い、ようやくその重い荷物を手放した。
エミリアに持たされていた、お祝いのお酒と薬箱を、棚とカウンターに美しく片付けて、殺風景だった店内に彩りを添える。
「…帰りましょう、リリアさん。健ちゃんが待っているわ」
「ええ、そうですわね」
二人は、暗くなる前に店を出ると、機械警備を再設定して、その重厚なドアを施錠し、退室した。
無人となった店内。
しかし、そこには、最高級の酒と薬、そして、最強のセキュリティが残された。
今夜、ここを訪れるであろう、異形の「客」たちを迎えるために。
春の、その穏やかな夕暮れだけが、その完成したばかりの、静寂の「城」を静かに見守っているだけだったのである――。
***
高級薬酒専門店:『五臓六腑』から退室した、エミリアとリリアは、その雑居ビルの薄暗い階段を降りていた。
二人は、そのままエミリアの愛車の白いコンパクトカーを駐車してある、有料駐車場に向かうことにした。
ふと、エミリアは足を止めた。
彼女の視線が上階へと向けられる。
一瞬だけ、四階の『二人組・新居』によっていくべきか、考えたが、彼女はすぐにその考えを振り払った。
(…いいえ。過保護はあの子たちの成長を妨げるわ。…それに、このビルには、最強の「門番」がいる。…なにかトラブルがあれば、あのマダム・バタフライからすぐに連絡あるでしょう)
彼女はそう結論づけると、よらないことに決め、リリアを促して駐車場へと歩き出した。
彼女の頭の中は、既に、オフィスで待つ、佐藤との夕食のメニューへと切り替わっていた。
――その頃。
社員寮『物件D』の2階。
多目的トレーニング&リフレッシュフロアで、激しい打撃音と荒い息遣いが響き渡っていた。
ヴァネッサが、その鬱積したストレス(=姉や、リリアへの呆れ)を叩きつけるかのように、トレーニングや組手などしていたのだ。
彼女は、最新のウェイトマシンとフリーウェイトで極限まで筋肉を追い込んだ後、衝撃吸収マットが敷かれたエリアで、この寮に住む女性警備チームの精鋭たちを相手に、『軽い対人トレーニング(という名の、一方的な蹂菑)』を行っていた。
「…次!」
ヴァネッサの鋭い声が飛ぶ。マーシャルアーツ等の格闘技の試合ができる設備と部屋も完備された、その空間は、さながら、戦場の最前線のようだった。
一通りのメニューを終えたヴァネッサは、肩で息をしながら、タオルで汗を拭った。
「…ふう。少しは、スッキリしたわ」
彼女は、トレーニング後の汗を流すための、清潔で快適なシャワー・ロッカールームへと向かう。
その横顔は、先程までの「鬼教官」から、知的な「才媛」へと戻りつつあった。
(…さて。シャワーを浴びたら、スタディルーム/図書室で、少し、頭を冷やしましょうか…)
春の、その穏やかな夕暮れだけが、その二つのあまりにも対照的な「午後の終わり」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
東京とは対照的に、西の空は厚い雲に覆われていた。
その雑踏の中を、一人の女性が静かに歩いていた。
神楽坂薫は、その長身をシックなパンツスーツ(移動用)に包み、東京行きの新幹線のホームへと向かっていた。
(…まったく。『あの子たち(陽菜と澪)』ったら、また、無茶を、して)
彼女は、手元のスマートフォンを見つめる。
そこには、陽菜からの、悲痛な(と、薫は解釈した)メッセージが残されていた。
(…雇用条件も未定の、怪しい薬酒屋。…誰かが行って、契約書を見てやらなければ、骨の髄まで、しゃぶられるわよ)
彼女は、二人組に会いに行くために、その知的な瞳に決意を宿し、グリーン車ではなく、あえて普通車の指定席へと乗り込んだ。
その数両後ろの車両。
道頓堀咲は、大きなスポーツバッグを網棚に放り上げていた。
「…よっしゃ」
彼女は、シートに深々と座り込むと、缶コーヒーを開けた。
(…東京か。…おもろそうやん)
彼女の動機は単純明快だった。
(…陽菜と澪が困ってるんやったら、助けに行く。…誰かが、あいつらに手出しするなら、ウチが叩き出すだけや)
彼女は、その自慢の腕力とノリを武器に、未知なる『戦場(歌舞伎町)』へと向かう、高揚感に包まれていた。
そして、さらに別の車両。
天王寺麗は、窓際の席で、流れる景色を見ていた。
彼女のファッションは洗練されているが、決して目立たない。
(…高級薬酒専門店。…話がうますぎる)
彼女は、澪からの連絡を冷静に分析していた。
(…裏があるはずや。…それが金持ちの道楽なのか、ヤバいヤマなのか。…ウチが、見極めたる)
神楽坂薫と、道頓堀咲と、天王寺麗が。
彼女たちは、お互い知らずに、同じ列車に乗り合わせていた。
今はまだばらばらのまま。
しかし、そのレールは確実に、一つの「場所」――新宿・歌舞伎町――へと繋がっている。
曇り空の大阪を後にした、三人の「猛者」たちは、それぞれの「正義」と「武器」を胸に、東京へと向かったのである。
西から、迫りくる、新たなる「嵐」。
その「風」が、東京の「箱庭」に、どのような変化をもたらすのか。
新幹線は、静かに、そして確実に、その「速度」を上げ始めていた――。
***
箱庭の雑居ビル三階のオフィスには、西日が長く差し込んでいた。
女王たちが去り、留守を預かる佐藤とサスキアは、それぞれの時間を過ごしていた。
サスキアは、その完璧な姿勢で通常業務を淡々とこなしている。
一方、佐藤は限界を迎えていた。
『外出禁止、ネット禁止』なので、ひたすらノートに書き込むくらいしかできないが、いよいよその書き込むアイデアも無くなったのだ。
(…高級薬酒専門店:『五臓六腑』の構想も書ききった。…明日の予定も書いた。…もう、書くことがない…)
彼は、ふと視線を上げた。
そこには、先程までヴァネッサが熱心に『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告がいつから掲載されていたか調べていた、あの分厚い『新聞縮小版』が置かれていた。
佐藤は、吸い寄せられるように、それを手に取った。
彼は、新聞縮小版を持って、自分のデスクでパラパラと読み始めた。
もちろん、彼が探しているのは、事件の手がかりではない。
純粋な、「好奇心」だ。
(…この広い東京だ。『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告以外にも、何か変わった広告が、ないか…。例えば、未来の自分と、交信できる機械とか、異世界への入り口、売りますとか…)
佐藤は、興味本位で、小さな文字の羅列の中から、「非日常」を探し始めた。
カサリ、カサリ、と、紙をめくる音だけが静かなオフィスに響く。
彼が、その平和な「暇つぶし」の果てに、一体どんな「奇妙な広告」を見つけ出すのか。あるいは、何も見つからないのか。
春の、その穏やかな夕暮れだけが、その退屈した「秘書」のささやかな「冒険」を、静かに見守っているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル三階のオフィスでは、西日が長く伸びていた。
エミリアとリリアの帰りを待つ佐藤は、手持ち無沙汰に、あの新聞縮小版を読みながら、ふと、目を止めた。
「…あ、これ」
彼は、その変わった広告を読み上げる。
「『貴方の秘密を溶かす新種のペットを、売ります』。…へえ。変わったペットだなあ」
佐藤は、それが先日、相沢刑事の無難な色の中古の軽自動車を襲った「怪物」のことだとは、露知らず、呑気に感心していた。
その独り言に、サスキアは、キーボードを叩く手を止めずに、即答した。
「佐藤様。この種の広告は、『商品』の販売を目的としておりません。接触してきた個人の後ろ暗い背景を特定し、その情報資産を収集するための、意図的な『情報ハブ(ハニースポット)』として機能しています」
「…えっ、罠なの?」
「はい。つまり、購入希望者の秘密を、逆に掌握するための『餌』であると分析いたします」
佐藤は、冷や汗をかきながら、ページをめくる。
すると、今度は彼の「琴線」に触れる広告があった。
「あ、これなら、平和そうですね。…サスキアさん。この『異世界に召喚される方法教えます』って、広告は?」
佐藤は、自らの愛読書を思い出し、少しワクワクしながら尋ねた。
サスキアは、顔を上げ、そのブルーグレーの瞳で佐藤を見つめた。
「佐藤様。その種の案件は、最も悪質な人身売買プロトコルに分類されます」
「え?」
「その実態は、国境線が曖昧な無法地帯へと誘い込み、強制労働、あるいは、戦闘行為のための使い捨ての人員として組み込むことが、主な目的です。法的・物理的な保護が一切及ばない、極めて危険な状態へと直結いたします」
「…つ、使い捨て…」
そのあまりにも物騒なことを話して、淡々と仕事に戻るサスキア。
佐藤は、その新聞の小さな文字の向こう側に広がる、漆黒の「闇」を覗き込んでしまった気分だった。
(…僕が知らないことが、多い…)
佐藤は、そっとその新聞縮小版を閉じた。
この「箱庭」の外の世界は、彼が思うよりも、ずっと恐ろしい場所なのかもしれない。
春の、その穏やかな夕暮れだけが、その少しだけ「大人(震え上がった)」になった、哀れな佐藤の横顔を静かに照らし出しているだけだったのである――。
***
箱庭の雑居ビル三階のオフィスの、その重苦しい空気を切り裂くように、ドアが勢いよく開いた。
「――ただいま、健ちゃん! 良い子にしていたかしら?」
「――戻りましたわ、サトウさま! ああ、会いたかったですわ!」
エミリアの愛車の白いコンパクトカーで、あの歌舞伎町から戻ってきたエミリアとリリアは、先程までのオフィスの静寂が嘘のように、いつもの通りの騒がしさに戻り、一気にオフィスを華やかな色へと染め上げた。
彼女たちは、留守番していたサスキアと佐藤に、先程ドラッグストアで購入した、山のような和菓子や、洋菓子の詰め合わせ、チョコレートなどを、お土産として渡した。
「はい、これ! 頭、使ったでしょうから、糖分補給よ」
「サトウさまのお好きなものばかり選びましたのよ!」
その瞬間。
佐藤の脳内を支配していた、あの「闇の広告」の恐怖は、目の前の甘い香りと二人の美女の笑顔によって消し飛んだ。
そこはもう、冷たい「社会」ではない。
いつもの華やかなオフィスに変わり、絶対的な「安全圏」だった。
佐藤は、そのチョコレートを口に含み、安堵の息を漏らした。
そして、彼は三人の女性たち――最強の武力を持つエミリア、無限の財力を持つリリア、そして完璧な知性を持つサスキア――を見回し、心の中で深く、感謝していた。
(…そうだ。僕が何も考えず、あの異世界に召喚されてハーレム作る漫画を、呑気に読んで、平和に日々過ごせるのは、エミリアとリリアさんとサスキアさんが、僕のそばにいるからなんだ…)
彼は、その「箱庭」の心地よさに、魂まで委ねることを決めた。
外の世界がどれほど恐ろしくとも、この「城」にいれば、安全なのだ、と。
そのエミリアとリリアとサスキアに対する依存度が、エミリアとリリアが全く気が付かないうちに、取り返しのつかないレベルまで上がっていたことなど。誰も知る由もなかったのである――。




