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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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375/422

偽物の『恐竜』と詐欺師の手口 その二

【読者様への注意喚起】


この物語はフィクションです。

法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

また、作中に登場する人名、組織、団体名(アスター家、K&E リサーチ&コンサルティング等)はすべて架空のものであり、実在の人物・組織とは一切関係ありません。


ようこそ、東京の影の中へ ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。


あなたは、そんな影の世界に生きる一人の女王に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿と冷酷な戦闘能力を持つ「始末屋」だが、その心は過去の壮絶なトラウマ(PTSD)により深く閉ざされていた。

彼女の唯一の拠り所は、佐藤健という元銀行員の相棒。

彼の存在こそが、彼女の心を繋ぎ止める唯一の「鎮静剤」だった。


女王の争奪戦と運命の対決 しかし、彼女の安息は、アスター家の令嬢リリア・アスターの出現によって一変する。

リリアは佐藤の独占をかけて、エミリアに「資金力」と「知略」で挑む。

二人の女王による壮絶な「争奪戦ラブコメ」が勃発し、その裏側で、巨大な「情報戦(現代ファンタジー)」が展開されていく。


リリアの計画: 彼女は愛する佐藤のために、軍事力、情報機関、そして公邸という名の「要塞」を築き上げる。


エミリアの覚悟: 愛する者の日常と自身の居場所を守るため、妹のヴァネッサや過去の因縁と共に、冷徹な知略と戦闘本能を解き放つ。


あなたは、エミリアがこの愛と権力の戦いを生き抜き、孤独を乗り越えていく「再生の物語」を体験することになる。


さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

これは、あなたの「常識」が一切通用しない、究極のプロフェッショナルたちが「愛」のために戦う物語。


あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?


この物語は、最先端AI 「Gemini (by Google)」 との共作により誕生しました。

時に、AIは人間の想像を超える予想外(unexpected)な展開を――。 時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を――。 「Gemini」は、新たな物語の世界を創造する、私の大切なパートナーです。


※本作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では順次公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。 これは、愛と知略が支配する、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


日本標準時4月15日午前10時55分。

ようやく晴れ間が見えてきた都内。


その穏やかな午前。箱庭の雑居ビル、三階のオフィスでは、いつものカオスな時間が流れていた。

エミリアとヴァネッサが、あの、『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告主をどうやって探すかを巡っての口喧嘩を続け、その間で、佐藤は、どう仲裁すべきかオロオロし、サスキアは、その不毛なやり取りをいつものことと、我関せずと完璧な無表情で自らの業務をこなし、そしてリリアは、その混沌を最高のカモフラージュとして、佐藤のノートに自らの新婚生活の予定や計画の列挙を続けていた。


――その同じ時間。


都内のとある私鉄の駅前。

『オフィス真壁・代沢事務所』の、あの魔改造された、『白鼻芯』が、音もなくその路地裏に潜んでいた。

真壁梓と支倉詩乃の二人は、あの公衆電話から指示された私鉄の駅近くで、『白鼻芯』を完璧に駐車できるところと、コインロッカーとトイレの両方を監視できる、最高の張り込み場所を探している最中だった。


――そして、さらに別の場所。


都内の図書館の薄暗い閲覧室。

松田たち『特別捜査班』の若林と相沢が、先月の新聞の分厚い紙面の束と格闘し広告を一つ一つ確認しながら、あの『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告と電話番号を必死に探していたのである。


三者三様の「追跡」。


「箱庭」の女王たちは、自らの「欲望」のために。

「探偵」たちは、クライアント(リリア)の「指令」のために。

そして、「刑事」たちは、自らの「執念」のために。


その全ての「点」が、やがて、一つの「線」へと繋がろうとしていることを。もちろん、その渦中にいる、彼ら自身が知る由もなかったのである――。


                    ***


松田たち『特別捜査班』の、若林と相沢が、都内の図書館の薄暗い閲覧室で息を殺していた。

彼らの目の前には、先月の新聞の分厚い紙面の束が山のように積まれている。

二人は、その膨大な情報の海と格闘し、広告を一つ一つ指でなぞりながら確認していた。


「…あった」


相沢が、その声を殺し、呟いた。

若林が、その指さす先を見ると、確かにそこにあった。


社会面の片隅に、小さく、しかしはっきりと。

二人は声には出さない。

ここは図書館。他の図書館利用者に迷惑をかけないよう、静かにしなければならない。


相沢は、その『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告と、電話番号を見つけるたびに、その掲載日と、掲載紙、そして電話番号を、自らの私物のメモ帳に淡々と記入していく。


先月の新聞の広告のチェックが終わり、二人は次に先々月の新聞の広告をチェックしてみると、――『無い』。

彼らは顔を見合わせた。

さらに、念のため過去の新聞の広告を数ヶ月分遡って確認すると、やはり、『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告と電話番号が一切無く、二人はその「事実」を『確認』した。


彼らは図書館で声を出すわけにはいかず、ただ静かにアイコンタクトで確認しあった。


(…ビンゴです、相沢さん)

(…ええ。間違いありません、若林さん。先月から、この『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告と電話番号を利用した詐欺が始まった…。その可能性が、極めて高い)


春の、その穏やかな日差しだけが、その二匹の「猟犬」たちの、そのあまりにも地道で、しかし確実な「勝利」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


松田たち『特別捜査班』の、若林と相沢が、その都内の図書館の重い扉を押し開け、外の眩しい光の中へと戻ってきた。


二人は、自分たちの会話が誰かの迷惑にならず、そして聞かれないよう、歩道の隅に立ち止まって、相沢が自らのスマートフォンからリーダーである松田に電話をかけた。

数コールの後、松田のその不機嫌そうな声が聞こえてきた。


「――俺だ。どうだった」

「相沢です。…ビンゴでした、松田さん。図書館で調べた結果、『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告と、電話番号は、やはり先月から、集中的に掲載されていたことを確認しました。それ以前は、一切ありません」


相沢は、その報告を淡々と告げた。


「…そうか。先月から、か」


受話器の向こう側で、松田がその情報を反芻する気配がした。


松田からは、「こっちも質屋を挨拶まわりして調べてみた限り、特段、新しい情報は、今のところ無かった。…分かった。ご苦労だったな」


松田は、次の「指示」を出した。


「――これから、図書館近くの私鉄の駅で合流する。そこから、もう数件、別の質屋を当たってみるぞ」

「了解」


相沢は、約束したその簡潔な言葉と共に、通話を切った。

二匹の「猟犬」たちは、その手に入れた、ささやかな「武器(情報)」を胸に、再びその灰色の「戦場」へと歩き出したのである――。


                    ***


『オフィス真壁・代沢事務所』の、あの魔改造された、『白鼻芯』が、静かにそのエンジンを止めた。


しかし、そこは、とある私鉄の駅前から少し離れ、駅も見えない、目立たない有料駐車場だった。

他に都合の良い空き駐車場が無かったので、しかたなく、真壁梓と支倉詩乃の二人は、ここに『白鼻芯』をとめるしかなかった。

真壁梓と支倉詩乃の二人は、『白鼻芯』を降りると、お互いに背後をカバーし合う、プロの形で、目的の私鉄の駅へと向かい始めた。


真壁梓が、そのジャケットの内ポケットに忍ばせた、高性能なボイスレコーダーのスイッチが録音状態になっているのをさり気なく確認してから、指定されたコインロッカーをからっぽのまま施錠した。

彼女はそのまま、大規模な災害や事件に備え、駅構内に設置されている、公衆電話から、『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の広告と共に書かれていた、電話番号に、再度電話をかけた。


数回のコールの後、今度は電話に出た相手は、先程と違い、低い『男性の声』だった。


(…変わった。…若い女性の声は、ただの「受け子」か)


真壁梓は、その内心の動揺を隠しながらも、冷静に告げた。


「…コインロッカーの鍵は、用意した」と伝えると、男は、先程の電話の指示と同じく、近くの、公衆トイレで、待機している、別の女性に、コインロッカーの鍵を渡すよう、指示された。


真壁梓と支倉詩乃の二人は、再びお互いに、周囲をカバーし合う、完璧な連携の形で、その公衆トイレへと向かう。


――その様子を。柱の影から、二つの鋭い「目」が監視していた。

松田より先に、この、とある私鉄の駅に到着していた、松田たち『特別捜査班』の、若林と相沢だった。


彼らは、その二人の女性の、ただならぬ動きに、捜査一課の刑事として、本能的に気配を隠しながら、(…なにかの事件ではないか?)と、用心深く、その動向を観察していたのだ。


「…なあ、相沢さん。あの二人組…」


若林が、真壁梓と支倉詩乃の二人を気が付かれないよう観察しながら呟く。


相沢は、その二人の完璧な「連携」――真壁梓の『元・優秀な刑事』の動きと視線の動かし方、素人ながら、その真壁梓の動きを学んだような、支倉詩乃の警戒の動きと視線の動かし方を用心深く見つめ、静かに呟いた。


「…あの二人、素人ではないですね」


春の、その穏やかな日差しだけが、その二組の「狩人」が、互いに気づかぬまま、同じ「獲物」を追うという、そのあまりにも奇妙な「共闘」の始まりを、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


『オフィス真壁・代沢事務所』の、真壁梓と支倉詩乃の二人は、公衆電話から指示された、とある私鉄の駅の公衆トイレへと向かう。


真壁梓を先頭に、支倉詩乃が数メートル離れながら、さり気なくついていき、二人はお互いに死角をカバーしあいながら、その目的地へと接近していた。


そのあまりにもプロフェッショナルな動き。

松田たち『特別捜査班』の若林と相沢は、駅の柱の影から、さりげなく視線だけで、真壁梓と支倉詩乃が何をしているのかを、用心深く観察している。


(…あの動き。『元・優秀な刑事』と、素人ながら完璧に『訓練』された、動きだ。…間違いなく、何かある)


真壁梓は公衆トイレに入り、そして支倉詩乃がそのまま公衆トイレに入らず、周囲の通行人を装いながら『警戒』する。


真壁梓は、公衆トイレに入りながら、個室からの襲撃や、不意打ちに、最大限の警戒しながらいると、ギィ、と閉じていた、入り口のドアが開き、『若い女性(どこか、夜の街で、遊んでいる風の、今どきの子)』が現れた。


女は、梓の前に立つと、無言でただ右手を差し出し、無言のまま、その視線と態度でさっさと、コインロッカーの鍵を渡せと催促してくる。


真壁梓は、そのあまりにもふてぶてしい「態度」に、一瞬感情的になるのを覚えながらも、警戒しながら、『(空の)コインロッカーの鍵を渡すと、その『若い女性』は、それをひったくるように受け取り、さっさと公衆トイレを出ていき、駅の雑踏へと紛れ込もうとする。


真壁梓は、即座に一呼吸ほど時間を置いて、彼女の後を追って公衆トイレを出ると、公衆トイレ近くで待機していた支倉詩乃が、視線で、公衆トイレから出てきた『若い女性』がどこに向かったかを瞬時に示し、真壁梓と支倉詩乃は、尾行開始の合図をアイコンタクトで交わし、その「獲物」の追跡を始めた。


――松田たち『特別捜査班』の若林と相沢も、その一部始終を目撃していた。

相沢が、自らのスマートフォンから、松田にDMで、『不審な女性たちを見かけたので、若林と共に尾行します』と簡潔に報告して、彼らもまた、真壁梓と支倉詩乃の背後を追いかけるように尾行を開始したのである。


春の、その穏やかな日差しだけが、その三者三様の「狩人」たちの、そのあまりにも危険で、そしてどこまでも混沌とした「追跡劇」の始まりを、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


『オフィス真壁・代沢事務所』の、真壁梓と支倉詩乃の二人は、あの『若い女性(受け子)』の尾行を慎重に続けていた。


そして、その数メートル後ろ。


松田たち『特別捜査班』の若林と相沢も、その『オフィス真壁・代沢事務所』のプロの動きを見失わないよう必死に二人を尾行している。


私鉄の駅を出た『若い女性(受け子)』は、キョロキョロと周囲を見回した後、近くの、手入れされていない植え込みに、先ほど受け取ったコインロッカーの鍵を無造作に放り込むと、その瞬間。


近くのバス停で、ドアが閉まりかけていた出発寸前のバスに、文字通り駆け込み、乗車する。


バスは非情にも発進してしまい、『オフィス真壁・代沢事務所』の、真壁梓と支倉詩乃と、そしてその後ろを追っていた松田たち『特別捜査班』の若林と相沢も、そのあまりにも鮮やかな「離脱劇」に、ただ置いてきぼりにされた。


「…やられたわね、詩乃」


梓が、忌々しそうに呟く。

彼女たちの『ターゲット』は、もはやバスで逃げ去った「女」ではない。


あの植え込みに放り込まれた、コインロッカーの鍵を、次に誰が拾いに来るか。

二人は、張り込みするしかないと覚悟を決め、近くの歩道で、目立たないように友達でも待つようにさりげなく溶け込むように張り込みを開始(もちろん、植え込みが完璧に見える、位置)して、その身を隠した。


――そして、そのさらに後方。

松田が来るまで、動くに動けない松田たち『特別捜査班』の若林と相沢は、二人で、あの『オフィス真壁・代沢事務所』の二人の様子を遠目で伺い、張り込むことにした。


「…相沢さん。あの二人、何やってるんすかね?」


若林が、そのあまりにもシュールな光景に小声で尋ねる。


「…何でしょう。だが、あの植え込みに何かあるのは間違いないですね」

「…まさか、あの二人。…不法投棄の監視でもしてるんですかね…?」

「…それにしては、目つきが鋭すぎます」


二人は、そのあまりにも謎めいた、その行動の意味を必死に予想しあった。

春の、その穏やかな日差しだけが、その二組の「狩人」たちの、そのあまりにも奇妙で、そしてどこまでも不毛な「待ち伏せ」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


とある、私鉄の駅近くの、雑踏。

『オフィス真壁・代沢事務所』の、真壁梓と支倉詩乃、そして、松田たち『特別捜査班』の若林と相沢。


その四人が、互いに干渉することなく、コインロッカーの鍵が放り込まれた、植え込みを完璧に確認できる歩道で息を殺していた。

彼らは、それぞれ、友達を待つように、あるいはスマホをいじる通行人を装い、その運命の「瞬間」に備えて、張り込みを続けていた。


――その頃。


箱庭の雑居ビルの三階のオフィスでは、先程まで続いていた、エミリアとヴァネッサの、あの、『――ティラノサウルスの骨を、買いませんか?』の一件を巡る口喧嘩もようやく落ち着き、オフィスには束の間の平和が訪れていた。


佐藤は、その嵐が過ぎ去ったことにホッとして、自分の席に座ると、先程リリアが勝手に書き込んでいた、あのノートを恐る恐る開いた。


佐藤のノートには、彼がエミリアとヴァネッサの口喧嘩を仲裁している間に、びっしりと書き込まれた、詳細な佐藤とリリアの、新婚生活の予定が羅列していて、その内容は、(『新婚旅行タヒチ』『愛を囁きながらの毎朝のハグ(義務)』『子供は三人(名前は、もう決めてありますわ)』)佐藤が、そのあまりの重圧に驚いていると、リリアが、彼に優しく微笑みかけた。


「あら、サトウさま。ちょうど良かった。少し手が空きましたら、応接室に積んである、わたくしの『現金(あの、戦車一両分の)』を、わたくしのデスクに持ってきていただけますこと?」


リリアが、そう佐藤に頼んできたのだ。


「え…? あ、あの、現金、ですか…?」


佐藤は、ノートの内容と、現金というキーワードが全く結びつかず戸惑いながらも、その女王の「命令」には逆らえない。


彼は、その思考を停止させ、ロボットのように立ち上がると、あの現金の山が積まれた応接室へと、その重い足取りで現金を取りに行った。


そのあまりにもシュールな光景。春の、その穏やかな日差しだけが、その哀れな佐藤の、そのあまりにも不毛な「労働」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


佐藤が、その応接室に山と置かれていた、リリアの「現金(あの、戦車一両分)」の、前で数秒間立ち尽くした。


(…これを全部ってこと…)


彼は、さすがにこの全額を持ってきて欲しいとリリアに頼まれていないだろうと常識的に考えて、ジュラルミンケースの一つを開け、片手で持てる程度の額を取り出して、開けたジュラルミンケースの一つを施錠してから、応接室から自らの席に戻った。


佐藤のすぐ横に椅子をおいて座っているリリアに、その現金を手渡すと、リリアが、その片手で持てる程度の額を見て、心の底から残念そうに、言った。


「あら。全部持ってこなかったのですね。…わたくし、本当は全額を持ってきてほしかったのですが、でも、全額を持ってきて欲しいとはっきり言わなかった、わたくしのミスでしたわ」


その常識外れの「反省」に、佐藤が言葉を失っていると、リリアは、その手渡された現金を嬉しそうに受け取った。


「――でも、まあ、良いですわ。サトウさま」


彼女は、その美しい顔に、子供のような好奇心を浮かべた。


「元・銀行員としての、あなたの素晴らしい「技術」。お金の数え方を、このわたくしに、見せて欲しいですわ」


そのあまりにも突拍子もない佐藤へのおねだり。

佐藤は、その言葉に戸惑いながらも、断ることはできなかった。


札勘さつかんですか? …銀行をクビになってから、もう数年たっているから、昔のようにうまく出来るかな?」


佐藤は、そう言いながらも、札束の帯封を、慣れた手つきで切って、その現金の束を手に取った。


次の瞬間。

シャッ、シャッ、シャッ、と、乾いた音が、静かなオフィスに響き渡る。

彼の指先が、まるで生き物のように、その紙幣を扇状に広げ、そして数え上げていく。


リリアの前で、その完璧な札勘を、見せた。

そのあまりにも鮮やかな手並み。


リリアは、その光景に、目をキラキラと輝かせ、そして、その様子を横目で見ていた、エミリア、ヴァネッサ、サスキアも、その佐藤の意外な「才能」に、静かに驚愕するしか、ないのであった――。


                    ***


リリアは、その佐藤の、見事な『札勘』に、純粋に感動しながらも、彼女の中では、別の「感覚」が警鐘を鳴らしていた。

リリアの『鑑定眼』が先ほどから告げる、不可解な内容に戸惑っていたのだ。


それは、リリアが用意した、あの「現金(あの、戦車一両分)」が、この後、数時間以内に佐藤を護るために、絶対に必用であるという、強烈な「予感」だった。


だが、リリアには、なぜ、この現金が必用なのかはわからず、彼女は、そのオフィスを見回した。

箱庭の雑居ビルの三階のオフィスという、このセキュリティが厳重で、エミリアも、ヴァネッサも、サスキアも揃っており、そして、あの箱庭の雑居ビルを護る、屈強な女性警備チームも完璧に配備されている。


流石に、この要塞の中で襲撃のような、そんな粗暴なことでは、ないだろうとリリアは思うが、(…では、一体、何が起きるというのですか…?…サトウさまが、この「現金」を使わなければならない、ほどの「トラブル」…?)。


リリアは、そのあまりにも非合理的な「警告」と、合理的な「現実」の狭間で、何か得体の知れない嫌な予感を、感じ続けていた。


春の、その穏やかな日差しだけが、その若き女王の、その静かなる「困惑」を、知ってか、知らずか、その現金の山をキラキラと照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


エミリアは、佐藤の札勘を見て、純粋に感激している、リリアの横顔を盗み見ていた。

しかし、彼女は、そのリリアの表情に、感激以外に、何か心配や、不安、そして戸惑いといった、複雑な感情が浮かんでいるのを感じ、見逃さなかった。


エミリアは、自らのデスクから、通常業務とともに『東京アノマリー・ギルド』と『ダミー・セーフハウス』の業務開始を取り仕切っていた手を、止めることなく、リリアに、あくまで優しく訪ねた。


「――リリアさん。なにか、不安でもあるの?」


そのあまりにも的確な質問に、リリアは一瞬ためらった。


(…この「警告」は、わたくし一人の手には負えないかもしれない。ここは、エミリア様のその圧倒的な「戦闘力」と「判断力」の協力が必用)と、瞬時に判断して、彼女は率直に報告した。


「――ええ、エミリア様。…わたくしの『眼』が、まだ告げておりますの。…本日、サトウさまが、あの『現金(戦車一両分)』が必用になるほどの、重大な危険に巻き込まれる、と」


その言葉に、佐藤は札勘していた手を止め、ヴァネッサは新聞縮小版を読んでいたのを中断して、オフィスにいる全員が、エミリアがどのように判断するのかと、固唾を飲んでエミリアに視線を向けた。


エミリアは、リリアの鑑定眼や直感を決して非科学的だと一笑に付さず、(…たとえ非科学的で不合理だとしても、リリアさんのこの直感は、真剣に考えるに足る価値がある)とエミリアは考え、その冷徹な頭脳をフル回転させた。


(…この箱庭の雑居ビルの厳重な警備体制と、健ちゃんに「外出禁止」、「ネット禁止」を命じただけで、本当に守り切れるのか…? …まず、健ちゃんに降りかかる、あの「現金(戦車一両分)」が必用になる「危険」とは、一体なにか? …賠償責任か、慰謝料なのか?  …健ちゃんの性格や行動パターンから、彼が個人賠償責任や交通事故に備えた、普通の保険が対応しないような故意の加害行為などするはずがない)と即座に判断。


(…では、やはり箱庭の雑居ビルの警備体制を、正面から突破する、何らかの、物理的な攻撃が起きるということ?…なら、どうすれば、健ちゃんを、完璧に守れるか? …箱庭の、この雑居ビル全体を超える防御力を持つ警備体制で、すぐに、私たちが信頼して、利用できるのは…)


エミリアの脳裏にいくつかの「拠点」が浮かぶ。


(一番目、リリアさんの、あの要塞。リリアさんの天空の『公邸』。二番目、彼女の新しい城。リリアさんの大阪『統括作戦室』。三番目、リリアさんの私邸『蒼穹キネマ』)


エミリアは、その個人的な感情を全て排して、リリアに冷静に確認する。


「リリアさん。あなたの眼で見て、健ちゃんを護るのに、最もふさわしい、場所は、一番目、リリアさんの天空の『公邸』。二番目、リリアさんの大阪『統括作戦室』。三番目、リリアさんの私邸『蒼穹キネマ』。…どれ?」


そのあまりにも真剣な「問い」。

リリアも、その真剣な表情で、自らの「鑑定眼」を研ぎ澄ませ、そして、絶望的な「答え」を口にした。


「……残念ながら、エミリア様。わたくしの『公邸』でも、あの大阪『統括作戦室』でも、そして、わたくしたちの『愛の巣』である『蒼穹キネマ』でも、ありませんわ」


その答えに、エミリアは、その美しい顔を歪め戸惑った。


(…リリアさんの最強の「城」が、全てダメ? …じゃあ、一体、どこなら、安全だと、いうのよ…?)


春の、その穏やかな日差しだけが、その二人の女王の、その初めての「焦り」を、静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


『箱庭の雑居ビル、三階のオフィス』では、重い沈黙が流れていた。

エミリアが導き出した「最適解(=リリアの城への避難)」が、リリア本人によって、「そこも安全ではない」と否定された。


エミリアは、そのあまりの手詰まりに戸惑った。

そのオフィスに漂う重苦しい絶望の空気。


リリアの、その感激以外に、心配や不安、戸惑いに満ちた感情が、リリアのデスクの上の「杯」へと伝わった。


付喪神の月白盃が、そのリリアの「感情」を感じ取り、リリアの眼にだけ映るように、その姿を現し話しかけてきた。


「――あらあら、リリア様。そんなに思い詰めたお顔をなさって。何か佐藤様に、よからぬ悪い縁を繋いでいるモノでしたら、わたくしの友人である薄氷刃が、その自慢の刃で見事、その悪い縁を断ち切ってみせますわ」


盃がそうリリアに説明して、リリアがハッと武器庫の方角(刃の本体がある場所)を見つめた、その瞬間。

佐藤のすぐ背後に、音もなく、女剣士の「影」が現れていた。


(もちろん、その姿は、佐藤、エミリア、ヴァネッサ、サスキアには、見えていない)


薄氷 刃が佐藤の側に立ち、その霊的な刀の柄に手をかける。

一瞬で、彼女は、その身につけている刀で佐藤の肩のあたりにまとわりついていた、『何か(人間には見えない、「糸」のようなもの)』を切断してみせた。


そして、彼女はリリアに、まるで報告するかのように語りかけた。


「…ふん。こんな下劣な、『もの(災厄の縁)』をどこでつけられたのか…。…これだから素人は困る。やはり『付喪神ギルド』が、この佐藤を一から鍛えるしかない」


その刃のすぐ隣に、いつの間にか薬院椿が現れ、佐藤をまるで甘やかすように(心配そうに)覗き込む。


「こうして、すぐに悪い縁にモテますのは、本当に困りますわね」と、佐藤がどこも怪我をしていないか確認していた。


リリアは、そのあまりにも鮮やかな「神業」に一瞬、目を見開いたが、三柱の付喪神だけに聞こえるように、心の内で感謝の言葉を述べて、そして彼女は、再び鑑定眼でも佐藤を確認してみた。


――『危険』の兆候は、完璧に消え去っていた。


佐藤の身に迫っていた危険がなくなったことを、リリアは、ようやく確認して、心の底から安心した。

そのリリアの表情が、一瞬で「安堵」へと変わった、その不可解な「変化」を、エミリア、ヴァネッサ、サスキアは、ただ怪訝な顔で見つめているだけであった――。

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