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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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レアメタル狂騒曲(Rhapsody for Rare Metal)其一

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Gemini Advancedの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Gemini Advancedは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では一日遅れでの公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.

Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.

(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


 幾筋もの国境線を、まるで巨大な蛇のように、時に絡み合い、時に離れながら、くねくねと縫うように流れる大河。

普段ならば、滔々(とうとう)と流れる水が、太陽の光を浴びて、白銀の帯のように輝いているはずだった。

しかし、乾季を迎え、その姿は一変していた。


上流に位置する大国が、自国の農業用水を確保するために建設した巨大ダム。

その無機質で威圧的なコンクリートの壁が、大河の息の根を止めたのだ。

水量は著しく減少し、川幅は細り、まるで干からびたミイラの血管のよう。

かつて水底に沈んでいた場所は、広範囲にわたって露出し、乾ききった大地は、まるで巨大な生き物の皮膚のようにひび割れていた。

剥き出しになった岩盤は、風雨に晒され、白茶けた色に変色し、まるで巨大な怪物の、剥き出しの背骨のようだ。


その異様な光景を、はるか上空、宇宙の暗闇から、冷徹に見つめる『眼』があった。

それは、某国の偵察衛星。

搭載された高性能カメラが、無機質なレンズを通して、地上のあらゆるものを捉え、記録していく。


某国の情報機関の施設内では、最新鋭の人工知能が、その衛星が捉えた膨大な量の画像データを解析していた。

無機質なサーバーの冷却ファンの音が、低く響く部屋。

モニターには、解析されたデータが、グラフや数値、そして、色鮮やかな画像として表示されている。


「...Alert: Anomalous spectral signature detected at specified location. Recommend urgent analysis by a qualified analyst.(…警告:指定位置にて、異常なスペクトル信号を検出。至急、専門分析官による解析を推奨します)」


人工知能は、感情のない、滑らかな女性の声で、アナリストに告げた。

その声は、まるで機械仕掛けの人形のようだった。


画面に表示されたのは、干上がった川底の一点を捉えた画像。

そこには、周囲の岩石とは明らかに異なる、鮮やかな青と緑のモザイク模様が広がっていた。


解析を担当していたアナリストは、最初、そのデータを見過ごそうとした。

しかし、人工知能の執拗な警告と、その異常なスペクトル反応に、嫌な予感を覚え、詳細な分析を開始した。


数時間後、分析結果が出た。

アナリストは、驚愕のあまり、椅子から転げ落ちそうになった。


「...Good God... Neodymium... and dysprosium...!? I don't believe it... There's no way something like that could be in a place like this...!(…なんてことだ…ネオジム…と、ジスプロシウム…!? 信じられない…こんな場所に、そんなものがあるはずがない…!)」


彼の震える指先が指し示すモニターには、信じられない情報が表示されていた。

川底の岩盤に、高濃度のレアアース、それも、ネオジムとジスプロシウムが、大量に含まれている可能性が高い。

その埋蔵量は、既存の鉱山を凌駕し、世界最大級になるかもしれない…。


その情報は、蜘蛛の巣に獲物がかかった時の振動のように、瞬く間に世界中を駆け巡った。

各国政府、巨大企業、そして、裏社会の組織…。

彼らは、まるで獲物に群がるハイエナのように、色めき立った。


そして、その大河の下流に位置する、名もなき小国…。

長年、民族紛争と貧困に苦しみ、内戦状態にあったその国に、突如として『平和』が訪れた。

しかし、それは、大国の思惑と、武力によってもたらされた、かりそめの平和。

まるで、嵐の前の静けさのような、不気味な平和だった。


新たな争いの火種が、今、まさに燃え上がろうとしていた。

乾ききった大河の底で、発見された『宝の山』を巡って…。


 秋も深まり、街路樹のイチョウは、鮮やかな緑の葉を、黄金色へと染め上げ始めていた。

澄み切った青空が広がる、穏やかな秋晴れの日。

しかし、そんな地上の華やかさとは無縁の、深い闇が支配する空間が、東京の片隅に存在していた。


再開発が放棄された地区に紛れて建つ人気のない雑居ビル。

その地下深く、エミリアは、自らの手で作り上げた射撃練習場にいた。

そこは、かつて何かの倉庫だったのだろうか、コンクリート打ちっぱなしの無機質な空間が広がっている。

天井からは、使用されていない配管や配線が剥き出しになり、まるで巨大な怪物の内臓のようだ。

空気はひんやりと冷たく、埃と、硝煙と、そして、微かな金属の匂いが混ざり合い、独特の臭気を放っている。


突如、静寂を切り裂くように、鋭い破裂音が響き渡った。

それは、エミリアが放った銃声。

しかし、その音は、通常の銃声とは明らかに異なっていた。

まるで、空気が震えるような、重く、そして、どこか歪んだ音。

音と閃光を極限まで減衰させる特殊な装置が取り付けられた、短機関銃特有の発射音だ。


エミリアは、完全な暗闇の中、まるで獲物を狩る獣のように、静かに、そして素早く動き回っていた。

彼女の全身を包み込むのは、黒とグレーを基調とした、都市型迷彩の戦闘服。

それは、闇に溶け込むように、彼女の姿を隠し、同時に、その鍛え抜かれた体のラインを、美しく際立たせていた。

防弾、防刃、そして、暗視装置や通信機器など、あらゆる機能を備えた、最高級の装備。

それらは、彼女の動きを妨げることなく、まるで体の一部のように、完璧にフィットしている。

そして、その頭部には、高性能の防塵マスクと一体化したゴーグル、そして射撃音から聴覚を保護するイヤーマフが装着され、彼女の表情を覆い隠している。


彼女の足元には、無数の障害物が、無造作に転がされている。

古タイヤ、ドラム缶、木箱、鉄パイプ…。

それらは、まるで迷路のように複雑に入り組み、一歩間違えれば、転倒、あるいは、怪我をする危険性すらある。


そんな中、エミリアの標的は、水素ガスを充填された、色とりどりの風船だった。

それらは、ランダムに動く自動車のおもちゃに取り付けられ、床の上を、不規則に動き回っている。

まるで、意志を持った生き物のように、予測不能な軌道を描きながら。

風船の高さは、人間の頭部とほぼ同じ。

実戦を想定した、高度な訓練だ。


エミリアは、聴覚、触覚、そして、長年の経験によって培われた、第六感…。

それら全てを研ぎ澄まし、闇の中を進んでいく。

まるで、獲物を狙う獣のように、静かに、そして、素早く。


乾いた銃声が、連続して響き渡る。

エミリアが放った銃弾は、闇を切り裂き、次々と風船を撃ち抜いていく。

まるで、彼女には全てが見えているかのようだ。

風船が破裂する、 小さい音。

強制的に空気を入れ替える換気扇の、重低音。

そして、防塵マスク一体型のゴーグルによって、本当は感じることがない微かに漂う、火薬の匂い…。

それら全てが、エミリアの感覚を刺激し、彼女の集中力を極限まで高めていく。


その動きは、まるで舞踊のようだった。

無駄な動きは一切なく、流れるように、そして、正確無比。

長年の訓練によって培われた、卓越した技術と、そして、戦場で生き抜いてきた経験…。

それら全てが、彼女の動きを、芸術の域にまで高めている。


突如、射撃練習場の照明が、薄ぼんやりと点灯した。

それは、まるで夜明け前の空のように、淡く、そして、どこか神秘的な光だった。

エミリアのゴーグルは、光の変化に瞬時に反応し、内部の偏光フィルターが作動する。


(健ちゃん…?)


エミリアは、心の中で呟いた。

この射撃練習場の照明が点けられるのは、佐藤が彼女に用がある時だけ。

二人の間で交わされた、秘密の合図だ。

不用意に射撃練習場に立ち入れば、命に関わる。

それを避けるための、安全装置。


エミリアは、射撃を中断し、マガジンを抜き取り、慣れた手つきで、タクティカルベルトのポーチに収納した。

そして、短機関銃の薬室を、何度も確認する。

薬室内に弾が残っていないことを確認すると、銃口を下方に向け、安全装置をかけた。


全ての手順を終えたエミリアは、ゆっくりと息を吐き出した。

まるで、張り詰めていた糸が、プツンと切れたかのように。

そして、防塵マスク一体型のゴーグルとイヤーマフを外し、それらを短機関銃と共にテーブルの上に置くと、汗ばんだ顔を拭い、短機関銃をスリングで肩に掛け、地下の射撃練習場から、薄暗い階段を上り、佐藤が待つ、一階の元喫茶店へと向かった。

その足取りは、まるで獲物を狙う猫のように、静かで、そして、しなやかだった。

背中には、いかなる状況にも対応できる相棒が、静かに呼吸を合わせている。


エミリアは、重厚な防音扉を開けた。途端に、地下の冷たく湿った空気とは異なる、どこか埃っぽく、しかし微かにコーヒーの香りが残る、懐かしい空気が彼女を包み込んだ。


かつて喫茶店だった一階は、薄暗い。

しかし、カウンターやテーブル席はそのまま残され、まるで時間が止まったかのように、当時の面影を色濃く残している。

その空間は、エミリアと佐藤にとって、隠れ家であり、作戦会議室であり、そして、時には、ほんの少しだけ、安らげる場所でもあった。


「健ちゃん、何かあったの?」


エミリアは、短機関銃を肩にかけたまま、カウンター席に座り、ノートパソコンを広げている佐藤に、声をかけた。

その声は、先ほどまでの緊張感とは打って変わり、普段の、少し甘えたような響きを含んでいる。

佐藤は、顔を上げ、エミリアを見て、優しく微笑んだ。

その笑顔は、まるで春の日差しのように暖かく、エミリアの心を優しく包み込む。


「エミリア、エリジウム・コードの件、報酬が振り込まれたよ。…ほら」


佐藤は、そう言って、ノートパソコンの画面を、エミリアの方へ向けた。

画面には、暗号資産(仮想通貨)のウォレットが表示され、数字の羅列が並んでいる。

佐藤らしい几帳面さで管理された、複数のウォレット。

その一つに、確かに、先日の依頼の報酬が振り込まれていた。


エミリアは、ノートパソコンの画面を覗き込んだ。

その瞳は、まるで獲物を狙う鷹のように、鋭く、そして冷徹だった。

普段の、飄々とした雰囲気は消え失せ、ビジネスモードの、冷たい表情に変わる。


「…確認したわ。…それで、健ちゃん、アイドルたちとは、連絡を取り合っているの?」


エミリアは、淡々とした口調で尋ねた。

その声は、まるで氷のように冷たく、感情の欠片も感じられない。

彼女が話題にしたのは、先日、警備の依頼を受けたアイドルグループ、Berurikkuのメンバー、そして、ソロアイドルや候補生たちが、個人的に教えてくれたSNSのアカウントのことだった。


「エミリア…。僕は、ハーレムものの作品が好きだけど、それは、あくまでフィクションとして楽しんでいるだけだよ」


佐藤は、少し困ったように、しかし、はっきりと答えた。

その声は、まるで弁解する子供のように、どこか頼りなかった。

エミリアは、そんな佐藤の様子を、じっと見つめていた。

その瞳は、まるで全てを見透かすように、深く、そして澄み切っている。


そして、次の瞬間、エミリアは、まるで熟練のハッカーのように、素早い手つきで、佐藤のジャケットのポケットから、彼のスマートフォンを取り出した。

その動きは、まるでマジシャンのように、鮮やかで、そして、どこか危険な香りを漂わせていた。


「ちょっ…、エミリア!?」


佐藤は、突然のことに、驚きの声を上げた。

しかし、エミリアは、そんな佐藤の声を無視し、スマートフォンのロックを、いとも簡単に解除した。

まるで、自分の持ち物であるかのように、自然な動作だった。


エミリアは、スマートフォンの画面を、じっと見つめた。

そして、まるで獲物を狙う猫のように、素早く指を動かし始めた。

その指先は、まるで鍵盤を叩くピアニストのように、正確で、そして、リズミカルだった。

数分後、エミリアは、満足そうに頷き、スマートフォンを佐藤に返した。


「…これでよし。…健ちゃん、もっとマメに返信しないとダメよ? せっかくのチャンスなんだから」


エミリアは、そう言って、悪戯っぽく微笑んだ。

その笑顔は、まるで少女のように無邪気で、先ほどまでの冷酷な雰囲気は、微塵も感じられない。

佐藤は、エミリアの突然の行動に、ただただ、唖然とするばかりだった。

まるで、嵐が過ぎ去った後のように、呆然とするしかなかった。


「健ちゃん、ちょっとノートパソコン借りるわね」


エミリアは、そう言って、まるで自分の持ち物のように、自然な動作で佐藤のノートパソコンに手を伸ばした。

その指先は、先ほどまで冷たい銃を握っていたとは思えないほど、しなやかで、そして、どこか優雅だった。


エミリアは、射撃練習の際に着用していた、薄手の黒革の手袋をはめたまま、キーボードを叩き始めた。

その指先は、まるで鍵盤の上を踊るダンサーのように、軽やかに、そして、正確無比に動いていく。

カタカタカタ…と、小気味良いタイピング音が、静かな空間に響き渡った。


佐藤は、エミリアの突然の行動に、一瞬、呆気に取られた。

しかし、すぐに我に返り、彼女の邪魔にならないよう、そっとノートパソコンの画面を覗き込んだ。


画面には、いくつものウィンドウが開かれ、それぞれに、異なるウェブサイトが表示されている。

それらは、全て、裏社会の仕事仲介サイトだった。

薄暗い背景に、毒々しい色の文字が躍る、アングラな雰囲気。まるで、闇の世界への入り口のようだった。


エミリアは、次々とウィンドウを切り替え、素早く情報を確認していく。

その目は、まるで獲物を狙う鷹のように、鋭く、そして冷徹だった。


「…ろくな仕事が来ていないわね。こんな仕事、誰が引き受けるのよ…」


エミリアは、そう言って、不機嫌そうに呟いた。

その声は、まるで氷のように冷たく、感情の欠片も感じられない。

彼女は、画面に表示された仕事の依頼内容を、まるでゴミでも扱うかのように、次々とゴミ箱のアイコンにドラッグ&ドロップしていく。

佐藤は、エミリアの言葉に、好奇心を刺激された。


「エミリア、どんな仕事が来ているんだ?」


彼は、恐る恐る尋ねた。

その声は、まるで子供が禁じられた場所に足を踏み入れる時のように、小さく、そして震えていた。

エミリアは、一瞬、困ったような表情を浮かべた。

まるで、子供に説明するのが難しい、複雑な問題を抱えている大人のようだった。


「…そうね…、健ちゃんが聞いたら、怒り出しそうなのばかりよ」


エミリアは、そう言って、言葉を濁した。

その声は、まるで秘密を打ち明けるように、小さく、そして慎重だった。


「エミリア、それじゃあ、わからないよ」


佐藤は、少しだけ語気を強めて言った。

その声は、まるで父親が娘を諭すように、優しく、そしてどこか心配そうだった。

エミリアは、しばらくの間、沈黙していた。

しかし、やがて、観念したように、ゆっくりと口を開いた。


「…何も聞かずに、ただ荷物を運べ、とか…、黙らせろ、とか…、まあ、そういうことよ」


エミリアは、まるで汚いものでも扱うかのように、言葉を吐き捨てた。

その声は、まるで氷のように冷たく、感情の欠片も感じられない。

佐藤は、エミリアの言葉に、言葉を失った。

彼女がぼかして言っている『荷物』や『黙らせろ』の意味は、容易に想像できた。

それは、決して、表の世界の人間が関わるべきものではない。


「…エミリア、僕は…、君には、できるだけ、誰も傷つけずに生きて欲しいんだ」


佐藤は、絞り出すような声で言った。

その声は、まるで祈りのように、切実で、そしてどこか悲痛だった。


「はいはい。健ちゃんからの命令は、ちゃんと守ってますよ」


エミリアは、そう言って、おどけたように笑った。

その笑顔は、まるで子供のように無邪気だった。

しかし、その瞳の奥には、どこか寂しげな光が宿っているようにも見えた。

彼女は、本当に、佐藤の言葉を理解しているのだろうか? 

それとも、ただ、彼を安心させるために、そう言っているだけなのだろうか?

佐藤には、分からなかった。

しかし、彼は、エミリアの笑顔を見て、ほんの少しだけ、心が安らぐのを感じた。

まるで、暗闇の中に、一筋の光が差し込んだかのように。


エミリアは、まるで宝石を扱うように、繊細な指使いでノートパソコンのキーボードを叩きながら、小さくため息をついた。

その吐息は、微かに硝煙の匂いが残るこの空間では、不釣り合いなほど、か細く、そしてどこか儚げだった。


「私を指名して仕事の依頼をよこすなら、もう少し、頭を使ってほしいものだわ。…誰でもできるような仕事なら、他の人に頼めばいいのに…」


エミリアは、そう言って、肩にかけた短機関銃を、軽く持ち上げた。

まるで、子供が玩具を扱うように、無造作な仕草。

しかし、その銃口は、決して人には向けられていない。

長年の経験で培われた、銃を扱う者としての、絶対的なルールが、彼女の体に染み付いているのだ。


佐藤は、エミリアの言葉に、小さく頷いた。

そして、彼女の立ち姿に見惚れていた。

普段は飄々として、掴みどころのないエミリアだが、銃を構えた時の彼女は、まるで別人のように凛々しい。

その姿は、まるで闇夜に咲く一輪の花のように、美しく、そして、どこか危険な香りを漂わせていた。


「エミリア…、その…、僕も、エミリアみたいに、銃とか…、そういうのを、ちゃんと使えるようになった方がいいのかな…?」


佐藤は、恐る恐る尋ねた。

その声は、まるで子供が親に意見を求めるように、小さく、そして震えていた。

エミリアは、カウンター席に腰掛け、佐藤の方へ視線を向けた。

その瞳は、まるで湖のように深く、そして澄み切っている。

彼女は、佐藤の言葉を、静かに、そして真剣に聞いていた。


「…そうすれば、少しでも、エミリアの負担を減らせるんじゃないかと思って…」


佐藤は、言葉を続けた。

その声は、まるで懺悔する罪人のように、小さく、そして弱々しかった。

エミリアは、佐藤の言葉に、ふっと微笑んだ。

その笑顔は、まるで春の陽射しのように暖かく、そして優しかった。


「健ちゃん…、あなたは、今、私が身に着けている、この装備を着て…。10分も動けるかしら?」


エミリアは、そう言って、自分の全身を指差した。

その声は、まるで母親が子供に言い聞かせるように、優しく、そしてどこか諭すような響きを持っていた。

佐藤は、エミリアの言葉に、思わず、彼女の全身を、まじまじと見つめた。

頭の先から、つま先まで、何度も、何度も、視線を往復させる。

普段のエミリアからは想像もつかない重装備だった。


(…たしかに…、無理だな…)


佐藤は、心の中で呟いた。

彼は、自分の体力のなさを、痛いほど自覚していた。


「誰にだって、向き、不向きがあるの。…健ちゃんは、ほら、あの地面師の事件で、銀行をクビになる前は、融資係だったのでしょう?」


エミリアは、そう言って、優しく微笑んだ。

その笑顔は、まるで太陽のように明るく、佐藤の心を温かく照らした。

佐藤は、エミリアの言葉に、力なく頷いた。


「だから、健ちゃんには、健ちゃんにしかできないことで、私を助けてほしいの。…つまり、私の資産管理担当として、金融の知識と経験を活かして、資産運用とか…、そういう方面で、頑張ってほしいのよ」


エミリアは、そう言って、再びノートパソコンに視線を戻した。

その横顔は、まるで女神のように美しく、そしてどこか近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。


「…でも、エミリア…、君の方が、僕なんかよりも、ずっと…、資産運用、上手いんじゃないのか…?」


佐藤は、自信なさげに呟いた。

その声は、まるで風に吹き消されそうな、か細い灯火のようだった。

エミリアは、何も言わなかった。

ただ、静かに、そして真剣な表情で、ノートパソコンの画面を見つめている。


佐藤は、そんなエミリアの姿を、じっと見つめていた。

彼は、エミリアの過去を、詳しくは知らない。

彼女が話したがらないから、無理に聞き出そうとも思わない。

しかし、彼は、エミリアが、人並み外れた才能と、そして、壮絶な過去を持っていることだけは、理解していた。


(…もし、エミリアが、普通の女の子として生まれていたら…。きっと、世界でもトップクラスの大学を、飛び級で首席で卒業して…、歴史に名を残すような…、偉大な科学者か、政治家になっていたんだろうな…)


佐藤は、そんなことを考えながら、エミリアの横顔を見つめていた。

その瞳には、尊敬と、憧憬と、そして、ほんの少しの切なさが混じり合っていた。


「健ちゃん…? 何、ぼーっとしてるの? …もしかして、顔に何かついてる?」


エミリアは、不意に顔を上げ、佐藤に問いかけた。

その声は、まるで鈴のように、澄んでいて、美しかった。

佐藤は、ハッと我に返り、慌てて首を横に振った。


「い、いや…、何でもない…」


彼は、そう言って、誤魔化すように笑った。

その笑顔は、まるで子供のようにぎこちなかった。


「…ふーん…」


エミリアは、少し怪訝そうな表情を浮かべたが、それ以上は何も言わなかった。

そして、再び、ノートパソコンの画面に視線を戻した。

静かな時間が流れる。

聞こえるのは、エミリアのタイピング音と、換気扇の回る音、そして、遠くから聞こえてくる、車の走行音だけ。

佐藤は、この平和な時間が、いつまでも続いてほしいと、心から願った。

まるで、永遠に続く春の日差しのように、暖かく、そして穏やかな時間が…。


静寂を破ったのは、電子的な通知音。

それは、エミリアのノートパソコンから発せられた、新しい依頼の到着を告げる音だった。

まるで、獲物の匂いを嗅ぎつけた獣のように、エミリアの瞳が、鋭く光る。


元喫茶店の、古びたカウンターテーブルに置かれたノートパソコン。

その無機質な光が、エミリアの顔を青白く照らし出している。

普段は静かなこの空間に、その電子音は、やけに大きく響いた。

佐藤は、まるで心臓を鷲掴みにされたかのように、息を呑んだ。


エミリアは、慣れた手つきで、依頼内容を確認する。

その指先は、まるで鍵盤の上を踊るダンサーのように、軽やかに、そして、正確無比に動いていく。

彼女の表情は、わずかに変化した。

まるで、獲物を見つけた鷹のように、鋭く、そして、どこか冷徹な光を宿している。

佐藤は、また、エミリアを不機嫌にさせるような、厄介な依頼が来たのではないかと、不安な気持ちで、彼女の横顔を見つめた。

エミリアは、ノートパソコンの画面を、じっと見つめたまま、佐藤に尋ねた。

その声は、まるで氷のように冷たく、感情の欠片も感じられない。


「健ちゃん。レアメタルって…、知ってる?」


その問いは、まるで暗闇に放たれた矢のように、不意打ちだった。

佐藤は、一瞬、言葉を失った。


「レアメタル…? ええと…、確か…、半導体とか、そういうのに使う…、金属、だったかな…?」


佐藤は、曖昧な知識を、絞り出すように答えた。

その声は、まるで自信なさげな学生のように、小さく、そして震えていた。


「そのレアメタルの…、調査依頼が来たのよ」


エミリアは、そう言って、軽くため息をついた。

その吐息は、まるで冬の風のように、冷たく、そして乾いていた。

彼女は、依頼内容を確認しながら、佐藤に、もう一台のノートパソコンを持ってきてほしいと頼んだ。


「健ちゃん。悪いけど、もう一台、ノートパソコンを持ってきてくれる?」


その声は、まるで女王が下僕に命じるように、有無を言わせぬ響きを持っていた。

佐藤は、慌てて立ち上がった。

そして、まるで調教された犬のように、エミリアの命令に従った。

彼は、喫茶店の天井に空いた、不自然な穴から垂れ下がっている、縄梯子に飛びついた。

その縄梯子は、エミリアが、この雑居ビルをアジトに改造した際に、秘密の脱出経路として設置したものだった。


佐藤は、まるで猿のように、器用に縄梯子を登っていく。

彼の心臓は、激しく鼓動していた。

それは、運動不足の体には、少々きつい運動だった。


二階には、エミリアが作り上げた、秘密の仕事部屋があった。

そこは、まるでSF映画に出てくる司令室のように、無数のモニター画面が壁一面に並び、何台ものデスクトップパソコンが、唸りを上げている。

部屋の中央には、巨大なサーバーラックが鎮座し、その表面には、無数のLEDランプが、まるで星のように瞬いていた。

佐藤は、その中から、エミリアが指定したノートパソコンを掴み取ると、再び、縄梯子へと向かった。


「エミリア、ノートパソコン、持ってきたぞ! …投げるぞ!」


佐藤は、縄梯子の穴から、顔を覗かせ、大声で叫んだ。

その声は、まるで子供のように、無邪気で、そしてどこか興奮していた。


「ええ、お願い」


エミリアは、両手を広げ、まるで子供のように、無邪気に応えた。

その声は、まるで小鳥のさえずりのように、明るく、そして軽やかだった。

佐藤は、一瞬、ためらった。

しかし、エミリアの信頼に応えたいという思いが、彼の背中を押した。

彼は、意を決して、ノートパソコンを放り投げた。

しかし、その軌道は、無情にも、エミリアが立っていた場所から、大きく逸れてしまった。

まるで、野球初心者が投げたボールのように、頼りなく、そして、どこか情けない軌道を描きながら。


「あ…」


佐藤は、思わず、声を漏らした。

しかし、エミリアは、慌てることなく、まるで猫のように、しなやかに身を躍らせ、見事にノートパソコンをキャッチした。

その動きは、まるでダンスのステップのように、優雅で、そして、どこか危険な香りを漂わせていた。


「健ちゃん、焦らなくていいから、気をつけて降りてきてね」


エミリアは、そう言って、優しく微笑んだ。

その笑顔は、まるで女神のように美しく、佐藤の心を温かく包み込んだ。

佐藤は、エミリアの言葉に、深く感謝しながら、慎重に縄梯子を降りていった。

その手足は、まるで生まれたての子鹿のように、ぎこちなく、そして震えていた。


佐藤が、まるで生まれたての小鹿のように、おぼつかない足取りで縄梯子を降り、エミリアの元へ戻ると、彼女はまるで要塞の司令官のように、カウンター席に鎮座していた。

その全身は、先ほどまでの重装備に包まれ、背中には短機関銃。

まるで、これから戦場へ赴く戦士のようだ。

しかし、その手元にあるのは、武器ではなく、二台のノートパソコン。

そのギャップが、佐藤には何とも滑稽に思えた。


エミリアは、器用な指先で、二台のノートパソコンを操っている。

その指の動きは、まるで鍵盤を叩くピアニストのように、正確で、リズミカル。

カタカタカタ…と、小気味良いタイピング音が、静かな空間に響き渡る。

一台のノートパソコンには、チャット形式のメッセージが、滝のように流れ落ちている。

まるで、秘密の暗号を解読するかのように、エミリアは、その文字の羅列を、じっと見つめている。


もう一台のノートパソコンには、無数の写真が並べられていた。

それは、干上がった川を、様々な角度から捉えたもの。

まるで、干からびた大地の表面を、蟻の目線で観察しているかのようだ。

佐藤は、エミリアの肩越しに、そっと画面を覗き込んだ。

そして、思わず息を呑んだ。

写真に写っているのは、干上がった川底で、何かを探している子供たちの姿。

その表情は、驚くほど鮮明で、まるで目の前にいるかのように、生き生きとしている。


「エミリア…、これ…、ドローンで撮った写真、…だよな?」


佐藤は、恐る恐る尋ねた。

その声は、まるで子供が禁じられた場所に足を踏み入れる時のように、小さく、そして震えていた。

エミリアは、佐藤の質問に、一瞬だけ顔を上げ、小さく微笑んだ。

その笑顔は、神秘的で、そして、どこか謎めいていた。


「衛星写真よ。…誰が撮影したかは…、ちょっと、誰にも言えないけど」


エミリアは、そう言って、再びノートパソコンの画面に視線を戻した。

その声は、まるで秘密を打ち明けるように、小さく、そして慎重だった。

佐藤は、エミリアの言葉に、信じられない思いだった。


(衛星写真…? こんなに鮮明に、人の表情まで分かるような写真が…?)


「エミリア…、こんなに子供たちの表情がはっきり写っている写真が、人工衛星で撮影した写真だなんて…、信じられないよ」


佐藤は、まるで子供のように、素直な感想を口にした。

彼は、エミリアが、いつものように、自分をからかっているのだと思った。


「健ちゃん、だから言ってるじゃない。…誰が撮影した写真か、言えないって」


エミリアは、少し困ったように、眉をひそめた。

その表情は、まるでいたずらが見つかった子供のようだった。

佐藤は、エミリアが、仕事の時には決して嘘をつかないことを知っていた。

そして、彼女が、決して冗談を言うような性格ではないことも。


(…ということは、これは…、本当の話なのか…?)


佐藤は、言葉を失い、ただただ、エミリアを見つめることしかできなかった。

エミリアは、佐藤が使っていたノートパソコンで、チャットを続けながら、もう一台のノートパソコンでは、衛星写真に、次々と情報を重ねていく。

まるで、パズルのピースを組み合わせるように、正確に、そして、迅速に。


画面には、地図、グラフ、論文、報告書…。

様々な情報が表示されていく。

それらは、全て英語で書かれており、佐藤には、ほとんど理解できなかった。

大学時代、卒論の資料を読むために、必死に英語の文献を漁ったことはあるが、それ以来、日常会話以外で英語を使う機会もほとんどなく、錆び付かせてしまっていた。


(あの時、もっと英語の論文を読み込んで、専門用語にも慣れておくべきだった…。社会人になってからでは、勉強する時間も気力も…)


佐藤は、自分の語学力の低さを、痛感させられた。

エミリアは、こういった専門用語だらけの資料も、まるで母国語のように読み解くのだろう。


…それに比べて、自分は…。


まるで、大人と子供のような、圧倒的な差だ。

静かな時間が流れる。

聞こえるのは、エミリアのタイピング音と、換気扇の回る音、そして、遠くから聞こえてくる、車の走行音だけ。

もう一度、佐藤は、この静かな時間が、いつまでも続いてほしいと、心から願った。

まるで、永遠に続く春の日差しのように、暖かく、そして穏やかな時間が…。

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