東京影譚 ~水底に眠る駒と鉄の棺~ 其四
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Google AI Proの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Google AI Proは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
時刻は、正午を少し回った頃。雑居ビル一階、会員制ジャズ喫茶の店内は、昼間の柔らかな間接照明と、窓から差し込む僅かな自然光が相まって、落ち着いた琥珀色の空間を作り出していた。
磨き上げられたマホガニー材のカウンターには、エミリアの趣味で集められたであろう年代物のグラスが鈍い光を放ち、壁一面のレコード棚からは、無数のジャズの名盤が静かに客人を待ち構えている。
BGMには、軽快なピアノトリオの演奏が心地よく流れ、クリスマス前であることを示す上品な常緑樹のリースが、控えめに壁を彩っていた。
ローテーブルを囲むアンティーク調のソファには、エミリア、リリア、そして午前中のハードワーク(主に精神的な)でやややつれた佐藤が腰を下ろし、サスキアは少し離れたカウンター席で、タブレット端末に何事かを入力している。
やがて、厨房の奥から、ふわりとハーブと焼き立てのパンの香ばしい香りと共に、水野小春が手作りのランチプレートを運んできた。
「お待たせいたしました。本日は、七面鳥とクランベリーの自家製ハーブチキンサンド、彩り野菜のミネストローネ、それと温州みかんとカッテージチーズのサラダでございます。食後のコーヒーか紅茶は、また後ほどお持ちしますね」
小春は、にこやかな笑顔でそう告げると、手際よくテーブルに料理を並べていく。
彼女の作る料理は、いつも見た目も美しく、健康的で、そして何よりも優しい味がした。
食事が始まり、店内に穏やかな食器の音と、途切れ途切れの会話が流れ始める。
佐藤は、ミネストローネの温かさが、緊張で冷え切っていた胃の腑にじんわりと染み渡るのを感じていた。
「それで、リリアさん」
エミリアが、ナイフとフォークを優雅に扱いながら、不意に口を開いた。
「午前中にメイドさんたちが見つけてきたという『面白いおもちゃ』の話、詳しく聞かせてもらってもいいかしら?」
その声は、純粋な好奇心から発せられたかのようで、『東京湾事件』の報告を聞いていた時の鋭さは感じられない。
リリアは、サラダの最後の一口を味わうようにゆっくりと咀嚼した後、ナプキンで軽く口元を押さえた。
「ええ、もちろんですわ、エミリア様。わたくしの可愛いメイドたちが、またしても素晴らしい『幸運』を引き寄せてくれたようなのですの」
彼女は、楽しげに目を細めると、鞄から取り出したタブレット端末を操作し、テーブルの中央に置いた。
画面には、秋葉原のジャンク屋で撮影されたであろう、滑らかな白い流線型の人魚を模した物体と、その傍らに置かれた亀の甲羅のような黒いユニットの写真が、鮮明に映し出されている。
「ミツキたちの報告によりますと、これは全長2メートル近くある、特殊な素材で作られた水中ドローン(の試作品)で、元々は高性能なAIを搭載し、自律的に水中を『泳ぐ』ように設計されていたものだそうですわ。そして、こちらの黒いユニットが、そのAIとバッテリーを格納する心臓部。残念ながら、AIそのものは初期化されてしまっているようですが、この『器』としてのポテンシャルは計り知れないものがありそうですのよ?」
「まあ…! これはまた…随分とロマンチックな形状の『機械』ね」
エミリアは、モニターの画像を興味深そうに眺め、思わずといった体で声を上げる。
その口調は、まるで珍しい美術品でも鑑定するかのように軽やかだ。
「で、お値段はどのくらいだったのかしら? まさか、健ちゃんのなけなしのお小遣いを巻き上げて買った、なんてことはないでしょうね?」
悪戯っぽい視線が、佐藤に向けられる。
「いえ、あの、僕のお金では…」
佐藤が慌てて否定すると、リリアがくすりと笑った。
「ご心配なく、エミリア様。費用は、わたくしのささやかな『投資』の一環ですわ。それにしても、この『人魚』が、秋葉原の片隅で埃を被っていたなんて、まさに運命的な出会いとしか言いようがありませんわね。わたくしの『引きの強さ』と、有望な『金の卵』を見つけ出す嗅覚には、我ながら感心いたしますの♪」
彼女は、自慢にならない程度に、しかし隠しきれない得意満面さで、自身の『手柄』と『幸運』をさりげなくアピールする。
サスキアが、カウンター席から静かに口を開いた。
その手元では、既に別のタブレットが起動し、高速で情報が処理されている。
「…その形状と、リリア様のご説明から推測するに、特定の水中探査、あるいは海洋生物の生態模倣を目的とした、かなり先進的な試作型ユニットである可能性が高いですね。使用されている素材も、写真から判断する限りでは、一般的な工業製品とは異なる、特殊な複合樹脂か、あるいはシリコン系の高分子素材かもしれません。問題は、なぜそのような高度な試作品が、ほぼ無傷の状態で、しかもAIがブランクのまま秋葉原のジャンク市場に流通していたのか…その『出所』については、徹底的に洗い出す必要があります。関連する特許情報や、過去の海洋開発プロジェクトのリストと照合してみましょう」
彼女の言葉は冷静で、既に頭の中ではいくつかの調査プランが組み立てられているのだろう。
技術的な興味と同時に、その不自然な流通経路に対するプロフェッショナルとしての警戒心が滲んでいた。
「あ、あの…」佐藤も、おずおずと口を挟む。
「僕も実際に運びましたけど、見た目以上にしっかりした作りで、特にあの黒いユニットはずっしりと重かったです。もし本当に高性能な機械で、しかも軍事転用可能な技術でも使われていたら、ジャンク品とはいえ、とんでもない価値があるかもしれません。ただ、その分、元の所有者や開発元との間で、法的な権利問題とか、あるいはもっと面倒なトラブルに発展する可能性も…考えられませんか?」
元銀行員としてのリスク管理意識が、彼の口からごく自然な懸念として言葉になる。
「サトウ様は、やはり堅実で、物事の本質を捉えるのがお上手ですわね」
リリアは、満足そうに頷いた。
「でも、ご安心ください。入手経路はあくまで『ジャンク品』として、正当な(そして驚くほど安価な)対価を支払っておりますもの。法的な瑕疵はございませんわ。むしろ、このような逸材が、その価値を理解されないまま埋もれてしまう方が、社会的な損失というものですわ」
彼女は、そこで優雅に紅茶を一口含むと、ふと真剣な表情になり、エミリアとサスキアに向き直った。
「それで、エミリア様、サスキアさん。この素晴らしい『人魚』を、そして先日佐藤様が手配してくださった神社の『番犬』たち(Type-P(バクテリオファージ型))を、今後私たちが有効活用し、さらにその能力を最大限に引き出すためには、やはりハードウェアに強く、こういった特殊なドローンの整備や、私たちのAIに合わせた大胆なカスタマイズを施せる専門の技術者が、私たちのチームにも何人か必要になってくると思うのです。わたくしの方で、少し心当たりを探してみたいのですが、いかがでしょう?」
その提案に、エミリアは、スープの最後の一滴をスプーンで丁寧にすくいながら、しばらく何かを考えるように目を伏せていた。
店内に流れるジャズの美しいピアノの旋律だけが、静かに時を刻む。
やがて、彼女はゆっくりと顔を上げ、その碧眼に、いつもの悪戯っぽい、しかしどこか壮大な計画を思いついた子供のような、蠱惑的な輝きを宿らせて言った。
「…なるほどね。専門の技術者、確かに魅力的だわ。それに、そんな面白い『おもちゃ』が手に入ったのなら、それを存分に遊び倒せる『プレイルーム』も必要になってくるんじゃないかしら?」
「まあ、プレイルーム、ですって?」
リリアが、興味深そうに小首を傾げる。
「ええ」エミリアは、不敵な笑みを深めた。
「その『人魚』も、神社の『番犬』たちも、そして何より、AI開発ベンチャーの才媛たちが秘めている『グリフォンAI』の無限の可能性も…あの工業地帯の小さなレンタルオフィスでは、あまりにも窮屈で、そして夢がなさすぎるじゃない?」
彼女は、テーブルに肘をつき、少しだけ身を乗り出す。
「それならいっそのこと、AI開発ベンチャー自体を、もっと大きな、それこそ大型ドローンの開発や、水中での試運転も可能な専用の施設――例えば、以前視察した湾岸エリアに手頃な空き倉庫があったわね? あそこを丸ごと買い取って、最新鋭のセキュリティと設備を備えたラボに改装してしまうのはどうかしら? もちろん、その費用は、私と、リリアさんのその『素晴らしい投資センス』と『潤沢な個人資産』を、最大限に活用させていただく形で、本格的な『ベンチャー企業投資』として。そうすれば、世界中からもっと優秀な技術者も集めやすいでしょうし、玲奈さんたちの才能も、私たちの『おもちゃ』も、もっと自由に、もっと過激に、そしてもっと面白く開花させられるはずよ?」
エミリアは、そこで一旦言葉を切り、目を輝かせているリリアと、冷静にその言葉の実現可能性を分析し始めているサスキア、そしてただただその話のスケールに唖然としている佐藤を見回した。
「――何より…その方が、ずっと面白そうじゃない♪ 私たちで、世界をあっと言わせるような『何か』を、ここ東京で生み出してみるのも、悪くないと思わない?」
その、いつものように突拍子もなく、しかし抗いがたい魅力と、底知れない野心に満ちたエミリアの提案に、リリアのサファイアブルーの瞳はさらに妖しい輝きを増し、サスキアは既に指先で空中にキーボードを叩くような仕草を始めている。
そして佐藤は、ただ、小春が運んできた、おかわり自由の自家製ジンジャーエール(彼の好物だ)のグラスが、いつの間にか空になっていることに気づき、この才媛たちの考えることの規模と、自分の胃袋の限界について、途方もない無力感を覚えるのだった。
ジャズ喫茶の穏やかな昼下がりのBGMとは裏腹に、テーブルの上では、確実に、新たな、そしてとてつもなく大きな『計画』が、静かに、しかし力強く動き出そうとしていた。
***
ジャズ喫茶の穏やかな昼下がりのBGMとは裏腹に、テーブルの上では、確実に、新たな、そしてとてつもなく大きな『計画』が、静かに、しかし力強く動き出そうとしていた。
水野小春が淹れた食後の香り高いコーヒー(佐藤には胃に優しいハーブティー)を味わい終えると、エミリアは満足そうに息をつき、一行を促して三階のオフィスへと戻った。
午後の日差しが大きな窓からたっぷりと差し込み、埃一つないオフィスは明るく、そしてどこか張り詰めたようなプロフェッショナルな空気に満ちている。
サスキアが用意した資料が置かれたローテーブルを囲み、再びソファに腰を下ろすと、エミリアは早速、先程の話題の続きを切り出した。
「さて、あの『プレイルーム』…私たちの新しい『おもちゃ箱』の場所だけど、具体的にどこがいいかしら? サスキア、何かリストアップしてあるのよね?」
その声は、新しい遊びを見つけた子供のように、楽しげな響きを帯びていた。
「はい、エミリア様」
サスキアは、タブレット端末の画面を滑らかに操作し、いくつかの候補地のデータをモニターに映し出す。
「まず、現実的なラインとしましては、湾岸エリアのA地区。大型の空き倉庫が現在複数売りに出ており、船舶での資材搬入も可能です。ただし、塩害対策と、私たちの活動に見合うレベルのセキュリティシステムの構築が必須となります。初期投資は嵩むかと」
モニターには、錆びついたシャッターと広大なコンクリートスペースを持つ、いくつかの倉庫の外観と図面が表示される。
潮の香りと、大型トラックの排気ガスの匂いが漂ってきそうな風景だ。
「まあ、倉庫というのも無骨で、ある意味『秘密基地』っぽくてよろしいけれど、どうせなら、もっと夢のある場所が良いですわね」
リリアが、指先で自身のプラチナブロンドの髪を弄びながら、優雅に口を挟む。
「例えば、少し都心から離れますが、採算が合わずに閉鎖されたという、郊外の野菜工場などはどうかしら? 広大な敷地と、高い天井を持つ建屋は、ドローンの飛行テストにも最適でしょうし、何より…そこで採れたての新鮮なお野菜をいただければ、メイドたちの健康管理にも繋がりますわよ♪」
彼女の提案には、実用性と、どこかズレた美的感覚、そして食い意地のようなものが混じり合っていた。
「地下も面白いかもしれないわね」
エミリアは、リリアの野菜工場案を片方の眉を上げて聞き流し、サスキアに視線を戻す。
「サスキア、都内で権利関係が曖昧になっている古い防空壕の跡地や、忘れ去られた地下施設で、ある程度の広さが確保できるような場所はリストにないの? 完全な隠密性と、地上からの干渉を遮断できる環境は魅力的よ。あるいは、東京近郊の廃工場も、リノベーション次第では面白い『アジト』になりそうだけれど」
カビ臭い空気と、ひんやりとしたコンクリートの壁、そしてどこまでも続く暗闇…そんな情景が佐藤の脳裏をよぎり、彼は思わず身震いした。
専門的で、どこか物騒な響きすらある議論が続く中、佐藤は、自分の出る幕ではないと黙ってコーヒー(既にハーブティーに切り替わっていた)を啜っていた。
しかし、彼女たちの会話に出てくる『廃工場』『地下施設』といったキーワードが、彼の記憶の片隅に眠っていた、ある情報を不意に呼び覚ました。
「あ、あの…」
恐る恐る手を挙げると、三人の才媛の視線が一斉に彼に集まる。
その圧力に喉がひりつくのを感じながらも、佐藤は言葉を続けた。
「僕、銀行員時代に、直接担当した融資案件では全然ないんですけど、ちょっと変わった物件の話を、先輩から聞いたことがあって…。その、いわゆる『事故物件』とはまた違うんですけど、なかなか買い手がつかないって有名な…」
「ほう、どんな物件かしら、健ちゃん?」
エミリアが、興味深そうに身を乗り出す。
「えっと…都内の一等地にある、元々は昔からの名門の女子高等学校だったらしいんですけど、少子高齢化の影響で生徒さんが減ってしまって、今は近くの新しい大型ビルの一テナントとして、規模を縮小して学校自体は存続しているそうなんです。それで、その…広大な元の校舎と土地が、ずっと売りに出されているのに、買い手が全くつかないって…」
「一等地の元名門女子高が、買い手がつかない? それはまた、どうして?」
リリアも、その美しい瞳に好奇の色を浮かべる。
佐藤は、少し言い淀みながら、声を潜めて答えた。
「…その、幽霊が出る、っていう噂が絶えないらしくて…。実際に、内覧に来た人が、誰もいないはずの教室から女の子の啜り泣く声を聞いたり、音楽室のピアノが勝手に鳴り出したり、体育館でたくさんの足音が聞こえたり…そういう、ポルターガイスト的な騒動も頻繁に起きるらしくて、それで誰も、最終的には契約まで至らないそうなんです。学校法人の理事の方々も、最近ではご自身やご家族に原因不明の健康被害が出ているような『気』がするとかで、もう、その因縁の土地建物とは一刻も早く手を切りたい、と思っているとか…」
その言葉に、オフィスに一瞬、奇妙な静寂が訪れた。
最初に反応したのは、リリアだった。
「まあ、幽霊屋敷ですの!? それはまた、非常に興味深いですわね! もし本当にそんな現象が起きるのでしたら、AI開発ベンチャーが開発中の新しい環境センサーや、微弱エネルギー測定装置の格好の実験場になりますわね。それに、もし本当に可愛い女子高生の幽霊さんが出るのなら、わたくし、ぜひお友達になりたいですわ♪」
彼女は、全く怖がる様子もなく、むしろ心底楽しそうに目を輝かせている。
サスキアは、佐藤が話し始めた直後から、既に手元のタブレットで高速に情報を検索していた。
「…該当する可能性のある物件が、確かに都心の一等地に存在しますね。登記情報、過去の報道、そして非公式な情報源をクロスリファレンスしますと…確かに、ここ数年、複数の大手デベロッパーや海外投資家が購入を検討したものの、いずれも内覧後、あるいは契約交渉の最終段階で辞退、あるいは破談になっている記録が確認できます。公的な理由は、建物の老朽化に伴う解体・再建築のコスト、あるいは文化財としての指定に関する協議の難航などとされていますが…非公式な情報チャネルでは、『心霊現象』に関する噂が根強く残っています。現在の学校法人は、縮小移転に伴う財政悪化も深刻で、この固定資産税の高い土地建物の処分を急いでいる状況のようです」
冷静な分析の中にも、サスキアの声には、この『非科学的な』要素に対する、ほんのわずかな技術者としての好奇心が混じっているように聞こえた。
そして、エミリアは。
佐藤の言葉を聞いた瞬間から、それまでのどこか退屈そうな、あるいはビジネスライクな表情が一変していた。
彼女の大きな碧眼が、まるで未知の獲物を見つけた狩人のように、爛々と輝き始めている。
「幽霊が出る元名門女子高…ですって? それはまた…随分と『曰く付き』で、そそられるじゃないの」
彼女は、美しい唇に、悪魔的な笑みを浮かべた。
「戦場では、もっと得体の知れない『何か』を何度も見てきたけれど、日本の『幽霊』というのは、まだ未体験だわ。でも、そんな非科学的なもので買い手がつかないというのなら、これほど『お買い得』な物件もないかもしれないわね。広さも申し分なさそうだし、場所も一等地。私たちの新しい『アジト』兼『プレイルーム』としては、最高のロケーションじゃない?」
彼女は、サスキアに向き直った。
「サスキア、その『幽霊女子高』の情報を最優先で。土地と建物の正確な規模、現在の法的な所有者、学校法人の財務状況、そして何よりも…その『幽霊騒動』の真相を、徹底的に調べてちょうだい。場合によっては、私たちがその『可愛い幽霊さん』たちを、優しく『お祓い』してあげて、快適で安全な『ドローン工房』に作り変えてあげるのも、面白いかもしれないわね♪」
その声には、もはや疑念や躊躇はなく、新たなターゲットに狙いを定めた、絶対的な自信と、底知れない愉悦が込められていた。
佐藤は、自分の何気ない一言が、とんでもない方向へと物語の舵を切ってしまったことに、今更ながら気づき、顔面蒼白になる。
(幽霊退治って…エミリア、本気か!? いや、この人なら本当にやりかねない…!!)
リリアは、エミリアのその大胆不敵な提案に、心底楽しそうに、そして期待に満ちた眼差しを送っている。
きな臭く、そしてどこかユーモラスな形で具体化し始める予感に、オフィスの中は、再び奇妙な熱気を帯び始めていた。
***
今は新たな『おもちゃ箱』を手に入れるかもしれないという、子供のような興奮が支配している。
「サスキア」
エミリアは、先程までの雑談の雰囲気を一瞬で断ち切り、まるで既に全てを見通しているかのように、落ち着き払った、しかし有無を言わせぬ声で指示を出す。
「決めたわ。例の『幽霊女子高』、明日と言わず、今から見に行きましょうか。善は急げ、時は金なり、よ。学校法人とやらに、今日の午後、一番早い時間でアポイントを取ってちょうだい。『急な視察で恐縮だが、こちらのスケジュールが本日しか確保できない。最優先でご対応願いたい』くらいの勢いでね。もちろん、弊社として、旧校舎の資産価値評価と、再利用の可能性についての現地調査、という名目で。敷地内を自由に見て回れる許可と、建物の鍵を預かるのが最低条件よ」
「…承知いたしました、エミリア様」
サスキアは、その無茶とも思える要求にも表情一つ変えずに頷くと、即座に内線電話の受話器を手に取り、どこかへ連絡を始めた。
その指先がダイヤルボタンを正確にタップし、相手に繋がると、彼女の声は、普段の冷静さに加え、ほんのわずかな威圧感と、しかし相手に断る隙を与えない巧みな交渉術を織り交ぜて響き始めた。
時折、受話器の向こうから戸惑うような相手の声が微かに漏れ聞こえてくるが、サスキアは一切動じることなく、淡々と、しかし確実に要求を伝えていく。
その手際の良さは、もはや芸術の域に達していた。
数分後、まるで最初からそうなることが決まっていたかのように、彼女は静かに受話器を置いた。
「エミリア様。先方の学校法人事務局長、本日、午後三時であれば、現事務所にて面会可能とのことです。旧校舎の鍵も、その際に預けていただけると。…かなり、こちらのペースに巻き込まれたご様子でしたわ。やはり、一刻も早く手放したいという事情が大きいようです」
その報告には、ほんのわずかな皮肉と、確かな交渉の成果に対する自信が滲んでいた。
「上出来よ、サスキア。流石ね」
エミリアは満足そうに頷くと、ソファから軽やかに立ち上がった。
「では、健ちゃん、リリアさん、準備はいいかしら? 私たちの新しい『遊び場』の下見に行くわよ♪」
その声は弾んでおり、まるでピクニックにでも出かけるかのようだ。
「ええっ!? い、今からですか!?」
佐藤健は、その急展開に目を丸くする。
昼食時の『ドローン工房設立』という壮大な話で、彼の処理能力は既に限界に達していたのだ。
「まあ、行動がお早いこと。でも、そういうところもエミリア様の魅力ですわね。わたくしもご一緒させていただきますわ」
リリアは、楽しそうに微笑み、優雅に立ち上がった。
エミリアの白いコンパクトカーは、数分後には雑居ビルの地下駐車場から、午後の喧騒が始まった東京の街へと滑り出していた。
運転席にはエミリア、助手席にはまだ状況が飲み込めていない佐藤、そして後部座席にはどこかワクワクした表情のリリアが収まっている。
車は、東京のビジネス街の一角、ガラスと鋼鉄でできた最新鋭の超高層オフィスビル群が空を突き刺すように林立するエリアへと進んでいく。
しかし、目的の『私立聖アガタ女子学院』の学校法人が入居しているのは、その中でもひときわ目立たない、しかしビル自体のセキュリティだけは最新鋭という、どこかアンバランスなオフィスビルの中層階の一画だった。
おそらく、名門校としての体面を保ちつつも、家賃を極限まで抑えようとした結果なのだろう。
「…ここが、あの名門女子高の…今の事務所?」
佐藤は、助手席で、あまりにも質素な作りの受付と、最小限のパーティションで区切られた事務スペースを見て、思わず声を漏らす。
壁には、往時の栄華を偲ばせる学院の古い写真が数枚、寂しげに飾られているが、それがかえって現在の逼迫した財政状況を物語っているようだった。
空気には、安価なインスタントコーヒーの香りと、どこか気の抜けた芳香剤の匂いが混じり合っている。
エミリアは、そんな佐藤の呟きには一切構うことなく、受付で社名を告げると、予約の確認が取れ、すぐに奥の小さな、窓もない会議室へと通された。
リリアもまた、興味深そうに周囲のオフィス環境を見回しながら、エミリアの後に続く。
彼女のサファイアブルーの瞳は、この空間に漂う『気の淀み』や、すれ違う職員たちの『疲弊したオーラ』を正確に捉えているのかもしれない。
会議室で待っていたのは、年の頃五十代後半と思しき、見るからに心労が顔に刻まれた事務局長の男性だった。
彼の顔には深い隈があり、安物のスーツの肩にはうっすらとフケが落ちている。
彼が差し出した名刺を持つ手は、緊張からか微かに震えていた。
「本日は、急なご依頼にも関わらず、お越しいただき誠にありがとうございます。皆様に、あの…旧校舎の件でご興味をお持ちいただけるとは、望外の喜びでございます」
その声は弱々しく、しかしどこか藁にもすがるような、切実な響きを帯びていた。
エミリアは、ビジネスライクな、しかし相手に不必要な警戒心を抱かせない、完璧な微笑みを浮かべ、名刺交換を済ませる。
「こちらこそ、突然のお願いにも関わらず、迅速にご対応いただき心より感謝申し上げます。弊社では、歴史的建造物の保存再利用と、それを通じた地域社会への新たな価値創造を主要なテーマの一つとしてコンサルティング業務を行っておりまして、貴学院の旧校舎の素晴らしい建築様式と、その歴史的背景には、以前より大変注目しておりましたの」
その口調は滑らかで、淀みがなく、一切の嘘を感じさせない。
佐藤は、隣でその完璧な『表の顔』を見ながら、(この人、本当にサバゲーで女子大生を蹂躙して…いや、考えるのはよそう…)と、内心で激しく現実逃避を試みていた。
事務的な手続きと、旧校舎の現状に関する当たり障りのない質疑応答が、驚くほど短時間で終わると、事務局長は、まるで長年抱えていた重荷をようやく下ろせるかのように、安堵の表情を浮かべながら、古めかしいが丁寧に磨かれた鍵束と、数枚の青焼きの図面をエミリアに手渡した。
「これが…旧校舎の主要な建物の鍵と、簡単な見取り図でございます。どうぞ、ご自由にご覧ください。何か…その、お気づきの点や、ご懸念事項がございましたら、後日何なりと…」
その言葉の端々に、『幽霊』という単語を必死で避けようとする、彼の痛々しいまでの努力が滲み出ている。
再びエミリアの白いコンパクトカーに乗り込み、一行は、今や『曰く付きの幽霊屋敷』と化した、元・私立聖アガタ女子学院の跡地へと向かった。
都心の一等地とは思えないほど、その周辺だけが、まるで都市の喧騒から切り取られたかのように、ひっそりとした、どこか異質な空気に包まれている。
高い煉瓦塀が見えてくると、佐藤の心臓が、どきり、と嫌な音を立てた。
車が、錆びついてはいるが、その壮麗さを辛うじて保っている鉄の正門の前に停車する。
エミリアがエンジンを切ると、周囲は耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。
風が、塀の上を覆うように伸びた蔦を揺らし、サワサワと乾いた葉ずれの音を立てるだけだ。
「さて、と…どんな『お嬢様』たちが、私たちを出迎えてくれるのかしらね」
エミリアは、楽しげにそう呟くと、預かった鍵束の中から、ひときわ古く、そして重厚な作りの真鍮の鍵を選び出した。
それは、おそらく本館の正面玄関の鍵だろう。
彼女は、躊躇うことなく鉄の門扉の小さな通用口の、これまた古風な錠前に鍵を差し込み、軽く回した。
ギ、と錆びた音がして、扉がわずかに開く。
エミリアが先に敷地内へと足を踏み入れる。
佐藤とリリアも、どこか緊張した面持ちでその後に続いた。
敷地内は、外部からの噂とは裏腹に、まるで時が止まったかのように美しく手入れされていた。
しかし、その完璧すぎるまでの静寂と、全く人の気配がしないという事実が、逆に言いようのない不気味さを醸し出している。
本館の、威圧的ですらある重厚な木製の玄関ドアの前に立ち、エミリアは再び鍵穴に、先程選んだ真鍮の鍵をゆっくりと差し込んだ。
カチャリ、という金属音と共に、古い錠前が重々しく回転する感触が手に伝わる。
ギィィ……という、長い間動かされていなかったであろう扉が、低い呻き声を上げるように軋む音。
そして、エミリアが力を込めると、ゆっくりと、しかし確実にドアが開かれていく。その向こうには、埃とカビの匂い、そして何か得体の知れない冷たい『気配』が混じり合った、薄暗い闇が、まるで巨大な生き物の口のようにぽっかりと開いていた。
「さあ、健ちゃん、リリアさん。私たちの新しい『プレイルーム』へ、ようこそ」
エミリアは、悪戯っぽく、そして挑戦的に微笑み、その闇の中へと、一歩、迷いなく足を踏み入れた。