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東京影譚 ~水底に眠る駒と鉄の棺~ 其二

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Google AI Proの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Google AI Proは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


東京湾岸エリアで、エミリアたちが新たな騒動の予感に顔を引き締めていた、まさにその頃。

電気と欲望とサブカルチャーが渾然一体となって渦巻く街、秋葉原の、大通りから数本裏に入った細い路地裏は、相変わらずの雑多な喧騒に包まれていた。

半田ごての焦げた匂い、古い電子部品の埃っぽい香り、そしてどこからか漏れ聞こえてくる、脳天気なアニメソングと、様々な言語の話し声。


そんな路地の一角、薄暗い照明の下に、およそ『乙女』とは縁遠いガラクタ…いや、お宝の山が所狭しと並べられたジャンク屋の軒先に、三人の少女の姿があった。

水無月満ミツキ、影山瑠璃、星野夢。

リリア・アスターに仕えるメイドたちだ。

今日の彼女たちは、いつものメイド服ではなく、それぞれ動きやすい私服に身を包んでいたが、その清楚な雰囲気は、この混沌とした街では逆に目を引いた。


「…ミツキさん、このコンデンサの容量、リリア様のご指示の範囲内でしょうか…?」


瑠璃が、小さなメモ帳と、手のひらに乗せた電子部品を見比べながら、真剣な表情でミツキに尋ねる。

リリアの『バクテリオファージ型を参考に、とりあえず使えそうなジャンクを集める』という、ある意味で漠然とした、しかし彼女たちにとっては絶対的な指令に基づき、三人は来る日も来る日もこのジャンクの迷宮を彷徨っていた。

そのおかげで、以前はチンプンカンプンだった電子部品の型番やスペックについても、今では素人目にも『これは掘り出し物かも?』と判別できる程度の知識は身についていた。


「うーん、耐圧はクリアしてるけど、静電容量が少し足りないかも…でも、複数組み合わせれば…」


ミツキが、リーダーらしく腕を組んで唸る。

その横顔は、メイド喫茶の店長をしていた頃よりも、ずっと精悍に見えた。


「あら、お嬢さんたち! 今日も熱心だねぇ!」


店の奥から、油で汚れた作業エプロンをつけた、人の良さそうな(しかし目は笑っていない)四十代くらいの男性店員が顔を出した。

彼も、連日通ってくるこの美しい三人組のことはすっかり覚えており、下心と商売気が半々といった表情で声をかけてくる。


「ちょうどいいところに来たよ! 今日はね、とびっきりの『掘り出し物』が入ったんだ。お嬢さんたちが探してる、『AIの魂を入れる器』に、こいつぁピッタリだと思うぜ?」


店員は、ニヤリと笑うと、店の奥の、普段はガラクタで隠されている一角へと三人を手招きした。

そこには、大きな防水シートがかけられた、何やら長細い物体が二つ、横たえられていた。


「さあさあ、見て驚くなよ!」


店員が、芝居がかった手つきでシートをめくり上げると、三人は思わず息を呑んだ。


そこに現れたのは、全長1メートル半はあろうかという、滑らかな白い流線型の物体。

そして、その傍らには、亀の甲羅のようにも、あるいは未来的なバックパックのようにも見える、黒光りする金属質のユニットが置かれていた。

白い物体は、明らかに『生き物』を模していた。

緩やかにカーブを描く胴体、優雅に広がる尾ひれのような部分、そして何よりも、人間(それも美しい女性)の上半身を思わせる滑らかな造形。

しかし、その肌はシリコンのような独特の弾力を持ち、目は固く閉じられている。まるで、眠れる人魚だ。


「こ、これは……」ミツキが、言葉を失う。


「へへん、どうだい? すごいだろ? なんでも、海外のどっかの秘密研究所で作られた、水中ドローンの試作品だったらしいぜ。こっちの黒い箱が、その頭脳と心臓部だったバッテリーユニット。本体にはAIも積んでたらしいんだけど、今は残念ながら空っぽでね。でも、このガワと、中のセンサー類はほとんど生きてる。お嬢さんたちが探してる『AIの器』には、これ以上ないくらい最高だと思うぜ! ほら、ちょっと電源入れてみっか?」


店員は、得意げに言うと、黒いユニットから伸びていた太いケーブルを、人魚型の本体の背中にあるソケットらしき部分に慣れた手つきで接続し、どこからか持ってきた携帯バッテリーを繋いだ。


ウィーン…という微かな起動音と共に、人魚型ドローンの閉じていた目が、カッと見開かれた。

そこには、深海を思わせる青い光が灯っている。

そして、その尾ひれが、まるで生きているかのように、ゆっくりと、しかし滑らかに左右に動き始めた。


「クゥーン……キィィ……」


本体のどこからか、イルカやシャチの鳴き声にも似た、高く澄んだ、しかしどこか物悲しい電子音が響き渡る。


「「「おおぉ……!」」」


三人は、そのSF映画から抜け出してきたかのような光景に、完全に心を奪われた。


「…すごい…! この曲線…水の抵抗を極限まで考えて作られていますわ…それに、この関節部分、まるで本物の生き物みたいに滑らかに動きます…!」


瑠璃が、技術者のはしくれのような目で、食い入るようにドローンの細部を観察する。


「…感じます…このお方…いえ、このドローン様は、ただの機械ではございませんわ…! 深い悲しみと、そして何か大きな使命を秘めて、永い間眠りについていらっしゃった…! きっと、リリア様がお求めになっている『聖なる器』…サトウ様をお守りする、清らかな海の使いに違いありません…!」


夢が、いつものように胸の前で手を組み、潤んだ瞳でドローンを見つめ、完全にスピリチュアルな世界に入り込んでいる。


ミツキは、二人の興奮を横目で見ながらも、冷静にリリアの指示を反芻していた。


「バクテリオファージ型を参考に…AIをインストール可能なジャンク…」。


目の前の人魚型ドローンは、全体のフォルムこそ指示とは全く異なる。

しかし、あの黒いリュック型ユニットの、どこか多面体を思わせるゴツゴツした形状や、本体に見え隠れする複数のセンサーレンズの一部は、言われてみれば指示された特徴と『解釈によっては』合致しないこともないかもしれない。

何よりも、店員の言う通り『AIを搭載していた器』であり、この圧倒的な存在感と美しさは、リリアの期待を遥かに超える『成果』となるのではないだろうか?


「…店員さん、これ、おいくらなんですか…?」


ミツキが、意を決して尋ねる。

店員は、待ってましたとばかりに、指を三本立てた。


「へっへっへ、これだけの代物だからねぇ、本当ならゼロがもう一つ二つ付いてもおかしくないんだけど…お嬢さんたちは顔なじみだし、特別に、この値段でどうだい!」


提示された金額は、ジャンク品としては破格だが、それでも今の彼女たちの活動資金では即金で支払うには少し躊躇する額だった。


三人は顔を見合わせ、数秒間、目だけで会話する。


(どうする、ミツキさん!?)

(でも、これ、リリア様、絶対お喜びになるわよ!)

(…このドローン様も、私たちに「見つけてほしい」と、そう囁いていますわ…!)


「…分かりました」ミツキは、頷いた。


「ただ、今すぐ全額は…。手持ちで仮払いして、残りは後日必ずお支払いします。それまで、こちらでお預かりいただくことは可能でしょうか?」

「おっ、買ってくれるかい! さすが、お嬢さんたちは見る目があるねぇ!」


店員は、下心を隠せない満面の笑みを浮かべた。


「いいよいいよ、お嬢さんたちのためなら! 手付金だけ入れてくれれば、ちゃんと奥で保管しといてやるからさ! 次に来る時まで、ピッカピカに磨いといてやるぜ!」


こうして、なけなしの活動資金の一部が店員の手に渡り、巨大な人魚型水中ドローン(とそのユニット)は、再び防水シートに包まれ、店の奥へと仕舞われた。

ミツキ、瑠璃、夢の三人は、大きな買い物をしたという興奮と、リリアへの報告という緊張感、そして『これでサトウ様のお役に立てるかもしれない』という、どこか健気で、しかし致命的にズレた期待感を胸に、秋葉原の雑多な喧騒の中へと再び歩き出す。

彼女たちの手に入れた『人魚』が、これから東京湾を、そしてエミリアたちの日常を、どれほど大きく揺るがすことになるのか、まだ誰も知る由もなかった。

ただ、空には、エミリアたちが先程まで見ていたのと同じ、冬の午後の低い陽が、ゆっくりと傾き始めていた。


                    ***


秋葉原のジャンク屋が軒を連ねる薄暗い裏路地を、水無月満ミツキ、影山瑠璃、星野夢の三人は、まるで宝物を見つけた子供のような、しかしどこか共犯者のような高揚感を胸に早足で歩いていた。

午後三時過ぎの陽光は、ビルとビルの隙間から斜めに差し込み、彼女たちの私服姿の肩口を淡く照らしている。

ミツキの指先には、先程支払った仮払金のレシートが、まだ微かな汗で湿っていた。


「ミツキさん、本当に…本当に良かったのでしょうか…? リリア様がお探しだったのは、もっとこう…カクカクした、虫みたいな…」


瑠璃が、興奮で上気した頬のまま、しかしどこか不安げにミツキの顔を覗き込む。

彼女の瞳は、先程目にした人魚型ドローンの未来的な曲線美と、店員が起動させてみせた滑らかな動きに、まだ心を奪われているようだった。


「大丈夫よ、瑠璃ちゃん。リリア様は『バクテリオファージ型を参考に、使えそうなジャンクを集める』とおっしゃっていたわ。あのドローンは、確かに形は違うけれど、店員さんの話では元々高性能なAIを搭載可能だったそうだし、何より…あの存在感! きっとリリア様もお気に召すはずよ。それに、夢ちゃんも『強い気を感じる』って言ってたじゃない」


ミツキは、リーダーとしての冷静さを装いつつも、その声には隠しきれない期待が滲んでいた。

リリアに認められたい、彼女の期待を超える成果を上げたい――その一心だった。


「はいっ! あのドローン様からは、とても清らかで、そして何か大きな使命を帯びた『魂の波動』を感じましたもの! きっと、リリア様と、そして…サトウ様のお力になるために、わたくしたちを待っていてくださったのですわ!」


夢が、胸の前で両手を組み、うっとりとした表情で力説する。

彼女の大きな瞳は、既に輝かしい未来を幻視しているかのようだ。


やがて三人は、人通りの多い大通りからタクシーを拾い、リリア・アスターから与えられている、東京湾岸エリアに聳え立つ超高層タワーマンションへと向かった。夕暮れが近づき、空はオレンジと紫のグラデーションに染まり始めている。


タワーマンションの一室――リリアが『育成施設』兼『仮住まい』として用意した、モダンで洗練された、しかしどこか人間味の希薄な豪華なリビング。

三人は、ソファに背筋を伸ばして座り、目の前のローテーブルに置かれたタブレット端末の画面を、緊張した面持ちで見つめていた。

ミツキが、震える指で秘匿性の高い専用アプリを起動し、リリアへの通信を開始する。数秒のコールの後、画面にリリアの完璧なまでに美しい顔が映し出された。

背景は、おそらく何処かの事務所だろうか、シンプルだが上質な調度品が見える。


『…ご苦労様、三人とも。それで、今日の成果は?』


スピーカーから流れるリリアの声は、常に変わらぬ穏やかさと、しかし全てを見透かすような冷徹な響きを併せ持っていた。


「は、はいっ、リリア様! 本日は、秋葉原のジャンク店にて、リリア様のご指示の特徴に合致する…いえ、それ以上の素晴らしい『器』を発見いたしました!」


ミツキが、緊張しながらも、できるだけ自信に満ちた声で報告を始める。

瑠璃と夢も、固唾を飲んでミツキの言葉に耳を傾け、そして画面の中のリリアの表情を窺っていた。

ミツキは、ドローンの外観写真(店員に頼んで数枚撮影させてもらっていた)と、店員から聞き出した情報を、できるだけ正確に、そして魅力的に伝えようと努めた。特に、『元々は高性能AI搭載』『自立型で稼働(一部)』『美しい人魚型』というキーワードを強調する。


報告を聞き終えたリリアは、数秒間、何も言わずに画面の中のミツキたちを見つめていた。その無表情が、三人の不安を煽る。

やがて、リリアの唇に、ふわりと花が開くような微笑が浮かんだ。


『…ミツキ。あなたの判断力と行動力、素晴らしいですわ。確かに、わたくしが指示した形状とは異なりますけれど、その「AIを搭載可能な器としてのポテンシャル」と「特異な外見」…ええ、興味深いですわね。あなたなら、いずれ私の右腕として、もっと大きな仕事を任せられるようになるかもしれませんわね。期待していますわよ』


その言葉に、ミツキの顔がぱっと輝き、背筋がさらに伸びる。リリア様からの『期待』と『評価』――それこそが、今の彼女にとって何よりの報酬だった。


リリアは次に、報告の途中で興奮気味にドローンの技術的な推測(しかし素人判断)を挟んできた瑠璃に、優しく語りかけた。


『瑠璃。あなたのその、物事の本質を見抜こうとする純粋な探求心と、美しいもの、優れた技術に対する鋭敏な感受性…ご主人様わたくしは、とても頼りにしていますのよ。その「眼」で、これからもわたくしのために、もっともっと、多くのものを見つけ出し、そして尽くしてくださるかしら?』

「は、はいぃぃっ! リリア様のためなら、この瑠璃、どんなものでも見つけ出し、どんなことでもいたしますぅ…っ!」


瑠璃は、感極まったように声を震わせ、その瞳には恍惚とした光が宿っていた。

『ご主人様に尽くす『という、彼女の秘めたる願望を的確に刺激するリリアの言葉は、もはや神の託宣にも等しかった。


そして、最後に夢へ。


『夢。あなたのその、清らかな魂だけが感じ取れる「特別な波動」…今回も、素晴らしい「引き寄せ」をしてくれたようですわね。きっと、あの方(佐藤様)も、あなたのその純粋で献身的な「祈り」が形になったものを目にすれば、お喜びになるでしょう。これからも、その清らかな力で、わたくしたちの運命を良い方向へと導いてくださいましね』

「はいっ、リリア様…! わたくし、サトウ様とリリア様の未来が、光り輝くものになりますよう、全身全霊でお祈りし、そしてお仕えいたしますわ…!」


夢は、胸の前で両手を固く握りしめ、その大きな瞳を潤ませていた。リリアの言葉は、彼女の『誰かの役に立ちたい』『特別な存在に認められたい』という共依存的な欲求を、完璧に満たしてくれた。


三人のメイドたちの、リリアへの絶対的な忠誠心と、その奥にある佐藤への歪んだ献身の炎が、リリアの巧みな言葉によって、さらに勢いを増して燃え上がっていくのを、リリアは画面越しに満足そうに見つめていた。

彼女たちの自尊心と、それぞれの性癖に近い願望を肯定的に刺激し、手駒としての有用性を最大限に引き出す――それが、リリア・アスターの冷徹な計算であり、人心掌握術だった。


『素晴らしい「器」を見つけてきてくれましたわ。ですが、その真価を正確に見極めるためには、やはり専門家の目が必要ですの。AI開発ベンチャーメンバーの者たちに、その「人魚」を徹底的に解析させましょう』


リリアは、そこで一度言葉を切り、悪戯っぽく微笑んだ。


『運搬には、少し人手が必要になりそうですわね…サトウさまに、お手伝いをお願いしてみましょうか。彼も、あなたたちの素晴らしい働きぶりを直接目にすれば、きっと感心なさるでしょうし、あなたたちへの「信頼」も、より一層深まるはずですわ♪』


その言葉には、メイドたちを喜ばせると同時に、佐藤をこの件に引きずり込むという、明確な意図が隠されていた。

エミリアさんへの許可取りについては、『そのあたりは、わたくしから上手く話を通しておきますわ』と、リリアは軽く請け負った。


「「「はいっ! リリア様!!」」」


三人の声が、リビングに力強く響き渡る。リリア様のため、そしてサトウ様のお役に立てる――その一点が、今の彼女たちを突き動かす、何よりも強力な原動力だった。


タブレットの通信が切れると、リリアは静かに息を吐き、窓の外に広がる東京湾の夜景を見つめた。


(…面白いことになってきたわね。ただの部品集めが、思わぬ『大物』を釣り上げたのかもしれない。この『人魚』が、あの『東京湾の騒動』とどう繋がるのか…あるいは、全く別の『ゲーム』の始まりなのか…どちらにしても、退屈はしなさそうだわ)


彼女のサファイアブルーの瞳が、夜景の光を反射して、妖しく煌めいた。


                    ***


午後四時半を少し過ぎた頃。

エミリア・シュナイダーのオフィス――雑居ビル三階の事務所内は、西日が大きな窓から斜めに差し込み、床に長い影を落としていた。

午前中の報告会で漂っていた最高級なコーヒーの芳醇な香りは既に薄れ、代わりにサスキアが新しく淹れたのであろう、紅茶の爽やかな香りが微かに漂っている。

加湿器が静かに白い蒸気を吐き出し、乾燥した冬の空気を和らげていた。


エミリアは、自身のデスクで何かの報告書に目を通し、時折、鋭いペン先でメモを書き込んでいる。

その表情は真剣そのものだ。サスキアは、受付カウンター奥の自身のワークスペースで、驚異的な速度でキーボードを叩き続けており、その指の動きだけが、静かなオフィスにリズミカルな音を響かせている。


そして、佐藤健は――ソファに深く沈み込み、もはや魂が半分抜け出たような表情で、虚空を見つめていた。

午前中の『東京湾事件』の報告、そして昼過ぎにエミリアが提案した『東京湾岸別荘地視察』という名の、神経をすり減らすドライブ。

さらには、双子姉妹との濃密すぎる一夜の記憶と、早朝のエミリアによる『女子大生サバゲー同好会』蹂躙劇…。

彼のキャパシティは、とっくの昔に限界を超えていた。

今はただ、この束の間の(エミリアが仕事に集中している間の)平穏が、一秒でも長く続くことを祈るばかりだ。


その、佐藤のささやかな願いを打ち砕くように、不意に、鈴を転がすような、しかしどこか蠱惑的な響きを持つ声が、彼のすぐそばからかけられた。


「サトウさま」


びくり、と肩を震わせて顔を上げると、いつの間にかリリア・アスターが、彼の座るソファのすぐ隣に、音もなく腰を下ろしていた。

彼女は、にっこりと天使のような微笑みを浮かべているが、その瞳の奥の計算高い光は隠しようもない。


「少し、お願いしたいことがあるのだけれど、今、お時間よろしいかしら?」


その言葉は、有無を言わせぬ優雅な圧力を含んでいた。


(ま、また何か厄介事の予感しかしない…!)


佐藤は、内心で悲鳴を上げつつも、反射的に背筋を伸ばす。


「は、はい…なんでしょうか、リリアさん…?」


リリアは、満足そうに頷くと、まるで子供が悪戯を打ち明けるような、楽しげな表情を作った。


「実は、わたくしたちのメイドたちが、秋葉原で、とっても面白いものを見つけてきたみたいなのよ…♪ 少し大きくて、運ぶのに人手が必要になりそうだから、サトウさまにもお手伝いいただけると嬉しいのだけれど」


その言葉と共に、彼女は自身のスマートフォンを取り出し、滑らかな指先で画面をタップしていく。

その画面には、おそらくメイドたちから送られてきたのであろう、何かの写真が表示されているに違いない。


エミリアは、報告書から顔を上げることなく、しかしその耳は確実に二人の会話を捉えているようだった。

サスキアのキーボードを叩く音も、ほんの一瞬だけ、そのリズムを変えたような気がした。


(メイドさんたちが、秋葉原で…? 面白いもの…? まさか、また何か変なガラクタを…いや、でもリリアさんがそんな風に言うからには、ただのガラクタじゃないのか…? でも、僕がお手伝いって、一体何を…?)


何も知らない佐藤は、ただただ混乱し、これから自分に降りかかるであろう新たな厄介事の予感に、ゴクリと唾を飲み込む。

彼が、自分に相応しい(とリリアが判断した)メイドたちが、こんなにも健気に、そしてどこか危険な形で『育成』され、そしてとんでもない『お宝(あるいは災いの元)』を持ち帰ってきたことなど、知る由もなく――。

西日が、オフィスの中に落ちる影を、さらに長く、そして濃く、引き伸ばしていた。


                    ***


西日が、エミリアのオフィスの中に落ちる影を、さらに長く、そして濃く、引き伸ばしていた。

サスキアが淹れたセイロンティーの最後の芳香が、乾燥した冬の空気にかろうじて漂っている。

佐藤健は、ソファの隣にいつの間にか腰を下ろしていたリリア・アスターの、悪戯っぽく煌めくサファイアブルーの瞳から、必死で視線を逸らそうとしていた。

しかし、彼女の纏う甘く上品な香りと、有無を言わせぬオーラからは逃れられない。


「は、はい…リリアさん。僕にできることなら、ですけど…」


声が上ずるのを、彼は必死で抑えようとした。


リリアは、その返答に満足そうに微笑むと、潤んだ瞳でじっと佐藤を見つめる。

それは、庇護欲を巧みに刺激する、計算され尽くした眼差しだった。


「つきましては、サトウさまにお願いしたいの。軽トラックのようなものを、どこかで借りてきていただいて、その…『お宝』の運搬と、運転をお願いできないかしら?」


(軽トラック…!? しかも、明日…!?)


佐藤の頭の中で、警鐘がけたたましく鳴り響く。

メイドたちが見つけてきた『面白いもの』が、ただで済むはずがない。しかも、それを軽トラックで運ぶ…一体どんな代物なんだ。

彼の脳裏には、以前アリスと共に秋葉原で、農業用ロボットを大量に買い集め、軽トラックでAI開発ベンチャーメンバーの事務所まで運び込んだ、あの奇妙で、しかしどこかワクワクした一日の記憶が鮮明に蘇る。


「あの…リリアさん、その『お宝』というのは、一体…?」


おずおずと尋ねる佐藤に、リリアは悪戯っぽく人差し指を自分の唇に当てた。


「それは、明日のお楽しみですわ♪ きっと、サトウさまも驚かれると思いますわよ? わたくしは、ミツキたち三人の誰かに運転させて、別の車で後からついていきますから、秋葉原までの道案内もお願いしたいのです。五人で行けば、積み下ろしも問題ないでしょうし」


その言葉には、もはや佐藤に拒否権などない、という響きが込められていた。

ちらりとエミリアの方を見ると、彼女はデスクで報告書に目を通すフリをしながらも、その口元には明らかに面白がるような笑みが浮かんでいる。ペンを走らせる音だけが、やけに冷静に室内に響いていた。

受付カウンターの奥では、サスキアが、高速でキーボードを叩く手をほんの一瞬だけ止め、能面のような無表情のまま、しかしその眼鏡の奥の瞳は、間違いなくこちらの様子を冷静に観察しているのが分かった。

彼女たちの視線が、じりじりと佐藤の背中を焼くようだ。


(…またか…またこのパターンか…! 僕に断れるわけがないって、分かってて言ってるんだ…)


佐藤は、心の中で呻き声を上げた。

しかし、リリアの期待に満ちた(そして有無を言わせぬ)微笑みの前では、彼の抵抗など、風の前の塵に等しい。


「……わ、わかりました。軽トラックですね…。明日、午前中…手配、してみます…」


力なくそう答えるのが精一杯だった。


「まあ、嬉しい! さすがですわ、サトウさま!」


リリアは、パッと顔を輝かせ、まるで子供のように無邪気に手を叩いた。

その仕草は、彼女の年齢相応の可愛らしさを感じさせ、佐藤の警戒心をほんの少しだけ麻痺させる。


「ミツキたちも、自分たちが見つけた『お宝』を、サトウさまに直接お見せできると、それはもう張り切っていますのよ。きっと、明日は楽しい一日になりますわ♪」


その、あまりにも屈託のないリリアの言葉とは裏腹に、佐藤の心には、新たな、そしておそらくは非常に厄介な『女難クエスト』が、また一つ追加されたことへの深い絶望と、ほんのわずかな『一体、どんなとんでもないモノが出てくるんだ…?』という、不謹慎極まりない好奇心が、夕暮れのオフィスに落ちる長い影のように、複雑に絡み合いながら渦巻いていた。

エミリアとサスキアの、どこか面白がるような、あるいは値踏みするような視線を感じながら、佐藤は、明日の秋葉原行きが、決して『楽しい一日』で終わるはずがないことを、半ば確信していたのだった。


                    ***


エミリアとサスキアの、どこか面白がるような、あるいは値踏みするような視線を感じながら、佐藤は、明日の秋葉原行きが、決して『楽しい一日』で終わるはずがないことを、半ば確信していた。

しかし、リリアのあの天使のような(しかし悪魔的な有無を言わさなさを持つ)微笑みの前では、彼に『ノー』という選択肢は存在しなかった。


(…こうなったら、エミリアにもちゃんと話を通しておかないと、後で何を言われるか…)


意を決し、佐藤はデスクで書類に目を通しているエミリアに、恐る恐る声をかけた。

西日が彼女の、最高級のプラチナを、糸にしたような、繊細な輝きを放っていた髪を黄金色に染め上げ、神々しいまでの美しさを放っているが、それが逆に佐藤の萎縮を加速させる。


「あ、あの、エミリア…? 明日の午前中なんだけど…その、リリアさんに頼まれて、ちょっと秋葉原まで…その、お手伝いをすることになってしまって…」


しどろもどろになりながら説明する佐藤の顔は、罪悪感と恐怖で引きつっていた。

エミリアと別行動を取る、しかもリリアの頼みで、というのは、彼にとって地雷原を裸足で歩くようなものだ。


しかし、エミリアの反応は意外なほど穏やかだった。

彼女は、ゆっくりと顔を上げ、大きな碧眼で佐藤をじっと見つめると、ふわりと微笑んだ。


「あら、そうなの? 大変ね、健ちゃんは。リリアさんも、人が悪いわ。あなたにあれこれ頼み事をするなんて」


その声には、いつものような棘も、冷たさもない。

ただ、どこか慈しむような、優しい響きがあった。


「いいわよ、もちろん。気をつけて行ってらっしゃい。健ちゃんが出かけている間は、私がしっかり事務所で待機しているから、安心してちょうだい」

「え…あ、ありがとうございます…!」


佐藤は、予想外の寛大な返答に、心底ホッとした。エミリアの機嫌が良い(ように見える)のは、何よりだ。

しかし、その優しさの奥に潜むかもしれない彼女の真意を、今の彼が正確に読み解くことは不可能だった。


やがて退勤時間となり、佐藤は「お、お先に失礼します!」と、エミリア、リリア、そして黙々と仕事を続けるサスキアに深々と頭を下げ、エミリアから預かった車のキーを握りしめてオフィスを後にした。

三人の才媛たちの、それぞれの意味ありげな視線が、彼の背中に突き刺さるのを感じながら。


エミリアの白いコンパクトカーを借り受け、まず向かったのは、神社の離れだった。

時刻は、既に午後六時を回ろうとしている。

冬の日は短く、空は濃紺のベルベットのように星々を散りばめ始めていた。

離れの玄関を開けると、温かい光と共に、潮崎家の巫女三姉妹…渚、汐里、珊瑚、そして、いつの間にかすっかりこの家の『お姉さん』ポジションに収まっているアリス・ライトが、満面の笑みで彼を迎えた。


「「「「サトウさん! おかえりなさい(ですわ)!」」」」


四人の声が、まるで合唱のように重なり合う。


そこからの二時間は、佐藤にとって、甘美で、しかし過酷な『家族団欒』の時間だった。

彼女たちの父親である潮崎巌の「佐藤君は、お前たちの夫になる男だ!遠慮はいらん!」という公認(と、アリスの「アルファ・オスは多くのメスを惹きつけるのが自然の摂理ですわ!」という強力すぎる後押し)のもと、四人の美女たちは、競うようにして佐藤に『お世話』を焼く。

渚の作る、素朴だが心のこもった手料理の香り。

汐里の、甲斐甲斐しく(しかしどこかぎこちなく)お酌をしてくれる仕草。

珊瑚の、何も言わずにそっと佐藤の隣に寄り添い、潤んだ瞳で見つめてくる純粋さ。

そしてアリスの、底抜けに明るい笑顔と、時折繰り出される『強いオスとメスの関係性』に関する獣医学的考察(という名の大胆発言)。

こたつを囲み、湯気の立つ鍋をつつきながら交わされる会話は、どこかちぐはぐで、しかし確かに温かい。

彼女たちの柔らかな肌の感触や、ふわりと香るシャンプーの匂い、そして絶え間ない笑い声。

それは、佐藤にとって、この殺伐とした日常の中の、数少ない安らぎであると同時に、彼の理性をギリギリのところで試す、甘い試練でもあった。


午後八時、名残惜しそうな四人に見送られ、佐藤は再び夜の闇へと車を走らせた。

次に向かうのは、神楽月・星の双子占い師が住む、古風な商店街の奥まったアパートだ。

離れの賑やかさとは対照的な、しんと静まり返ったアパートの一室。

そこでは、関係を経て、さらに佐藤への執着を深めた双子姉妹が、彼を『導く』ための、より濃密で、どこか神秘的な時間を彼に提供した。

白檀の香りが立ち込める薄暗い部屋で、蝋燭の炎だけが揺れる中、囁かれる甘い言葉と、絡み合う指先。

彼女たちの純粋で、しかし狂信的なまでの『運命』への確信は、佐藤の疲弊した心を、抗いがたい力で包み込んでいく。

それは、彼にとって安らぎなのか、それとも更なる深みへの誘いなのか、もはや判別もつかなかった。


そして、午後九時半。

佐藤は、ようやく全ての日程(という名の女難クエスト)を終え、エミリアの待つ旧アジト――元喫茶店の廃墟――へと、エミリアの白いコンパクトカーを滑り込ませた。

エンジンの音を止めると、深夜の静寂が耳に痛いほどだ。

錆びた通用口のドアを開けると、ひんやりとした埃っぽい空気が彼を迎える。

カウンターの奥、いつもの赤いベルベットの椅子に、エミリアは静かに腰を下ろし、一冊のハードカバーの本に目を落としていた。

小さなテーブルランプの柔らかな光が、彼女の光をまとうように、淡く輝いていた髪を優しく照らし出し、その姿はまるで一枚の絵画のようだ。


佐藤の帰宅に気づき、彼女はゆっくりと顔を上げた。

その表情は、驚くほど穏やかで、咎めるような色は一切ない。


「おかえりなさい、健ちゃん。少し、遅かったわね」


その声は、夜の静寂に溶け込むように柔らかく、そしてどこまでも優しい。


(あれ…? 怒ってない…のか…?)


佐藤は、拍子抜けするほど穏やかなエミリアの態度に、戸惑いを隠せない。

もっと詰問されるか、あるいは皮肉の一つでも言われるかと覚悟していたのだが。


エミリアは、ふふ、と小さく微笑むと、本を閉じ、立ち上がって佐藤の方へと歩み寄った。


「色々あったみたいだけれど、こうしてちゃんと、私のところに戻ってきてくれて嬉しいわ、健ちゃん」


その言葉には、ほんのりと甘えたような響きと、しかしそれ以上に、絶対的な自信と、全てを見通しているかのような余裕が感じられた。

彼女は、佐藤がどこで何をしていようと、最終的に自分のもとに帰ってくることを、微塵も疑っていないのだ。

そして、その事実が、彼女の『自分こそが最後に選ばれる本妻である』という確信を、さらに深く、揺るぎないものにしている。


「さ、健ちゃん。疲れたでしょう? お風呂、沸いているわよ。綺麗にしてきたら、今夜も、ちゃんと手を繋いで一緒に寝てあげる」


エミリアは、そう言うと、白く細い手を、そっと佐藤に差し伸べた。

その、全てを受け入れるかのような優しい微笑みと、差し伸べられた手。

佐藤は、それに抗う術など持っていなかった。

ただ、吸い寄せられるようにその手を取り、彼女に導かれるまま、二階の寝室へと続く、軋む縄梯子を、一歩、また一歩と登っていく。

彼の心に渦巻くのは、安堵と、しかしそれ以上に、この底知れない優しさの奥にあるエミリアの真意への、言いようのない恐怖だった。

そして、明日、自分が運ばなければならない『メイドたちが見つけた面白いもの』が、一体何なのかという、新たな不安も――。

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