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盤上の駒は、さらに増えて 其四

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Google AI Proの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Google AI Proは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


廃墟と化した元学生寮の敷地を後にする際、エミリアは車の窓を開け、まだ呆然と立ち尽くす『女子大生サバゲー同好会』の四人に向かって、女王が臣下に命じるかのように、しかしその声には悪戯っぽい響きを乗せて告げた。


「それじゃあ、お嬢様方。今日からあなたたちは、健ちゃんの『騎士団ナイト』よ。彼の言うことは、ちゃーんと聞くこと。分かったわね?」


返事をする気力も残っていないのか、あるいはエミリアの威圧感に完全に屈したのか、四人はただ小さく頷くだけだった。


エミリアは満足そうに微笑むと、白いコンパクトカーのアクセルを静かに踏み込んだ。

夜明け前の冷たく澄んだ空気が、開いた窓から車内に流れ込み、佐藤の火照った頬を撫でる。

彼は助手席で、先程までの信じられない光景の断片――暗闇に響いた微かな発射音、短い悲鳴、そしてエミリアの最後の勝利宣言――を必死に反芻し、背筋を駆け上る戦慄に身を震わせていた。


(一体、何がどうなって……エミリアは、どうしてあんな……)


彼の思考は、エミリアの圧倒的な戦闘能力と、その不可解なまでの手際の良さへの疑問で満ちていた。


そんな佐藤の心中を見透かしたかのように、ハンドルを握るエミリアが、ふふ、と楽しげに息を漏らした。

その横顔は、朝日が昇り始めた薄明かりの中で、普段よりも少しだけ幼く、そしてどこか上機嫌に見える。


「健ちゃん。もしかして、私が闇雲にあてずっぽで突入したとでも思っていたのかしら? うふふ、だとしたら心外だわ♪」


その声には、いつものように佐藤をからかう甘さと、しかし確かな自信が滲んでいる。


「あの『女子大生サバゲー同好会』の子たちが待ち構えていた場所…階段の踊り場だったわね? あそこは、あの建物の中で迎え撃つなら、サバゲーなら、まさに『教科書』的に正しい選択よ。とても素直で、真面目な、良い生徒さんたちだわ」


エミリアは、まるでゲームの攻略法を解説するように、事もなげに続ける。


「でもね、健ちゃん。教科書通りにしか動けない相手ほど、ぎょしやすいものはないの。相手が『正しい』と信じているからこそ、その定石の裏を突くのがセオリーなのよ。私はただ、彼女たちが最も警戒していないであろう屋上から、壁を伝って静かに『ご挨拶』に伺っただけ♪ 簡単なことでしょ?」


「か、簡単って……」


佐藤は、ようやくそれだけを絞り出す。

壁を伝って、しかも頭から降りてくるなんて、どう考えても人間の所業ではない。

しかし、エミリアは悪戯っぽく片目を瞑るだけだ。


(まるで、誰でもできるって感じに言うけど、あれは人間の動きじゃない…! しかも、あの暗闇の中で、どうやって…!)


その非人間的なまでの合理性と、それをこともなげに実行してしまうエミリアの能力と技術の凄まじさを、佐藤は改めて全身で感じ、言葉にならない恐怖と、自分とは住む世界が決定的に違うのだという、深い絶望感に襲われた。


エミリアは、そんな佐藤の内心の動揺を正確に読み取っているのか、さらに言葉を続ける。

その声には、先程までのからかうような響きに加え、どこか指導するような、あるいは新しい玩具を手に入れた子供のような無邪気さも混じっていた。


「あの『女子大生サバゲー同好会』の子たちも、サバイバルゲームの世界ではなかなか筋がいいみたいね。今日のことで少しは懲りたでしょうけど、あれで慢心せずに真面目に訓練を続ければ、もう少し『使える』ようになるかもしれないわ。もちろん、健ちゃんのために、ね♪」

「ぼ、僕のために…?」

「そうよ。ああいう若い子たちを上手く手懐けて、自分のために動かすのも、これからの健ちゃんに必要な『スキル』よ? いい勉強相手が見つかって良かったじゃない。私の見ていないところで、健ちゃんが他の『悪い虫』に刺されないように、しっかり番犬として働いてもらわないとね♪ うふふ」


(使いこなすって…あんな、見るからに気の強そうなお嬢さんたちを、この僕が…? 無理だよ、絶対無理! しかも番犬って…僕の方が、エミリアの忠実な番犬じゃないか…!)


佐藤は、エミリアからの新たな『課題』に、心の中で絶叫する。

彼女の励ましは、彼にとってはさらなるプレッシャーと、自身の無力さを再認識させる言葉でしかなかった。

委縮し、シートに深く沈み込む佐藤の耳に、ふと、エミリアのどこか遠い目をした呟きが届いた。


「それにしても、ああやって建物に籠城した相手を、文字通り『壁ドン』して制圧するなんて、本当に久しぶりだったわ」


車窓を流れる、ようやく黄金色に染まり始めた東京の街並みを眺めながら、彼女の声には、ほんのわずかな感傷と、しかし隠しきれない戦闘への渇望のようなものが滲んでいるように佐藤には感じられた。


「今の時代、まともな治安機関くらいしか、そんな手間のかかる、ピンポイントな制圧なんてしないもの」


その懐かしげな、しかしどこか物騒な響きに、佐藤は、恐る恐る、そしてほとんど反射的に尋ねてしまった。


「え…じゃあ、治安機関以外だと、その…敵が建物に籠城しているような場合、どうやって対処するの…?」


エミリアは、ゆっくりと佐藤の方を向き、その美しい碧眼を細めた。

そして、まるで「今日の夕飯は何かしら?」とでも言うような、ごく自然な、しかし一切の感情を排した平坦な口調で、簡潔に答えた。


「建物ごと空爆で吹っ飛ばすのよ。それが一番早くて確実で、安全だもの♪ ね?」


佐藤の思考が、完全に停止した。

血の気が、サーッと音を立てて引いていくのが自分でも分かった。

口をパクパクさせるだけで、声が出ない。

ただ、目の前のエミリアの、天使のように無垢な(しかし、その内容は悪魔の囁きに他ならない)微笑みと、車のフロントガラスの向こうで、力強く昇り始め、新しい一日を高らかに告げる朝日が作り出す、平和な(はずの)東京の風景を、彼は交互に見ることしかできなかった。

彼の貧弱な常識が、今、音を立てて砕け散り、再起不能なまでに粉々になっていくのを感じていた。


『盤上の駒は、さらに増えて』――エミリアが以前呟いたその言葉の意味を、彼はまだ、本当の意味では理解していなかった。

そして、その駒の一つに、自分自身も組み込まれているという事実に、気づくのはまだ少し先のことになる。


                    ***


鉛色の空が白み始め、凍てつくような朝日が、割れた窓ガラスの破片を鈍く照らし出す頃。

帝都国際大学の廃墟と化した元男子学生寮の一階、かつての食堂だっただだっ広い空間には、硝煙の代わりにいわゆるBB弾の微かなプラスチック臭と、若い女性たちの深い溜息だけが漂っていた。

床には、つい先程まで激しい(一方的な)戦闘が繰り広げられた証である、いわゆる白いBB弾が虚しく四個散らばっている。

狐塚響、鷹見玲、犬伏茜、そして熊谷美桜の四人は、それぞれバリケード代わりに使っていた古い机やロッカーに力なくもたれかかり、あるいはコンクリートの床に直接へたり込んでいた。

最新鋭のサバゲー装備が、今の彼女たちには皮肉なほど重々しく感じられる。


「……なんだったんだよ、アレ……」


最初に沈黙を破ったのは、ポイントマンの茜だった。

いつもはキラキラと輝いている大きな瞳も、今は恐怖と混乱で焦点が定まらず、明るかった金髪のツインテールも力なく垂れている。彼女の腕には、いわゆるBB弾が直撃した痕が微かに赤く腫れていた。


「…人間じゃないわ…あんな動き、物理的にありえない…」


スナイパーの玲が、眼鏡の奥で眉根を寄せ、吐き捨てるように呟いた。

彼女の自慢のボルトアクションライフルは、手つかずのまま傍らに置かれている。

一度も狙いを定める暇すら与えられなかったのだ。


「…本当に、ヒット…したんですよね…私たち…夢、とかじゃなくて…」


メカニックの美桜が、震える声で、自分の体にまだ残る微かな痛みを確かめるようにおずおずと触れる。

リーダーの響は、唇を強く噛み締め、床の一点を睨みつけていた。

悔しさと、それ以上に得体の知れない恐怖、そしてこれから何をさせられるのかという疑心暗鬼が、彼女の胸の中で渦巻いている。

エミリアと名乗ったあの女の、氷のように冷たい碧眼と、全てを見透かすような微笑みが脳裏に焼き付いて離れない。


「健ちゃんの言うことを聞くこと」――その言葉が、宣告のように重くのしかかっていた。


「……くそっ!」


響は、コンクリートの床を拳で一度だけ強く叩くと、無理やり顔を上げた。

その目にはまだ怒りと混乱の色が濃いが、リーダーとしての責任感が、彼女を辛うじて支えている。


「負けは負けだ! ごちゃごちゃ言っても始まんねぇ! でも…でもよぉ! いつまでもこんな所でメソメソしてても、あの女の思うツボだろ! シャキッとしろ、お前ら!」


響は皆を鼓舞するように声を張り上げるが、その声自身がわずかに上ずっているのを、彼女自身も気づいていた。

具体的な打開策など、今の彼女には何一つ思い浮かばなかったのだ。

ただ、この圧倒的な無力感と屈辱感から、一刻も早く抜け出したかった。


「…落ち着きなさい、響」


玲が、すっと眼鏡の位置を押し上げながら、努めて冷静な声色で言った。

しかし、その指先が微かに震えているのを、響は見逃さなかった。


「感情的になっても状況は変わらないわ。まず、事実を整理しましょう」


彼女は、まるで講義でもするように、淡々と、しかしその声の端々に普段はない硬さを滲ませながら分析を始めた。


「あの女…エミリアとか言ったかしら…彼女の身体能力、戦術、そして装備の質。どれを取っても、我々がサバイバルゲームの延長線上で培ってきたものとは次元が違う。おそらく、本物の戦闘経験者…それも、かなり特殊な部類でしょうね。我々が太刀打ちできなかったのは、ある意味当然の結果よ」


玲は一度言葉を切り、冷え切った指先でこめかみを押さえた。

エミリアの、まるで重力を無視したかのような壁面移動や、音もなく背後を取る神業的な動きを思い出すだけで、生理的な嫌悪感に近いものが込み上げてくる。


「問題は…なぜ我々が、あの佐藤という、どこからどう見ても冴えない男の『依頼』とやらを受けなければならないのか。そして、その依頼内容が一体何なのか…それが全く不明だということよ」


その時、今まで俯いて自分の指先を弄っていた美桜が、か細い声でおずおずと口を開いた。


「あ、あの…佐藤さんって人…エミリアさんにあんな風に高圧的に扱われて…なんだか、ちょっと、可哀想じゃなかったですか…? すごく困ってるみたいだったし…もしかしたら、本当に、誰かに助けを求めてるんじゃ…」


その言葉は、場違いなほど純粋で、しかし、張り詰めていた空気をほんの少しだけ揺るがした。

確かに、あの佐藤という男は、エミリアという規格外の存在に振り回されている、哀れな被害者のように見えなくもなかった。


「そうだよ! それだ、ミオっち!」


茜が、美桜の言葉に飛びつくように、ぱっと顔を上げた。

その瞳には、先程までの恐怖とは違う、どこか使命感にも似た(そして大きな勘違いを含んだ)光が宿り始めている。


「あの金髪女、絶対性格悪いって! 超絶美人だけど、中身は悪魔だよ! 佐藤さん、あんな女に毎日いびられて、命令されてるなんて、マジ地獄じゃん! うちらが、うちらだけでも、佐藤さんの味方になってあげなきゃ! 可哀想だよ、あの人!」


持ち前のポジティブさ(あるいは、あまり深く考えない性格)で、茜は状況を自分たちにとって都合の良い、そしてどこかヒロイックな方向へと解釈し始めた。


「でもさー、ただ言うこと聞くってのも、なんかシャクじゃん? うちら、あの女に負けたわけだし…」


そこまで言って、茜はうーんと首を捻った。

すると、それまで黙って三人のやり取りを聞いていた玲が、ふっと嘲るような、それでいてどこか諦念を滲ませた笑みを浮かべた。


「…ふん。助ける、ね。おめでたいわね、茜は。まあ、あの男が我々に何を求めているのかは知らないけれど、我々があの男に関わる『体裁』は必要でしょうね。大学にも、他の部員にも、そして何より、自分たちのプライドのためにも、ね」


玲は一度言葉を切り、わざとらしくため息をついてみせた。


「…いっそのこと、あの佐藤という男を、我々『女子大生サバゲー同好会』の『特別顧問』にでも据えたらどうかしら? 例えば、サバイバルゲームの『戦術理論』の指導とか、我々の活動における『危機管理アドバイザー』とか、適当な名目をつけてね。あの冴えない男をおだてておけば、扱いやすいかもしれないし、我々も、あのエミリアとかいう女からの『命令』ではなく、あくまで『特別顧問からの依頼』として、彼の言うことを聞くという大義名分にはなるでしょう?」


玲の言葉には、明らかに皮肉が込められていた。

彼女の本心は、『とりあえず、あの面倒くさそうな男を適当な肩書で丸め込んで、状況をコントロールしつつ、あわよくば利用してやろう』という、打算的なものだった。

しかし、この『特別顧問』という突拍子もないアイデアは、疲弊しきったメンバーたちの心に、奇妙な形で響いた。


響は、腕を組み、しばらく考え込む素振りを見せた後、やや苦々しげに、しかしどこか吹っ切れたような表情で言った。


「…特別顧問、ね。まあ、悪くはない。アイツが何者かは知らんが、あのエミリアって化け物女と繋がってるのは確かだ。何かの役には立つかもしれん。それに、うちも女子だけのチームだしな。時々、合同訓練とか大会で、キモいオッサン共にセクハラまがいのこと言われたりもするし…そういう時の『盾』として、男の『顧問』がいるってのも、箔が付くかもしれん…ま、少しは、今回の判断も正しかったって思いたいしな…」


彼女の言葉には、自分たちのプライドを保ちたいという思いと、あわよくば佐藤を『利用』してやろうという下心が透けて見えた。


「えー! 佐藤さんが顧問!? なんかウケるー!」


茜は、もはや先程までの恐怖など忘れたかのように、目を輝かせた。


「じゃあ、あたしたち、佐藤さんにサバゲー教えてあげたり、逆に悩みとか聞いてもらったりできるってこと!? それって、なんか面白そうじゃん! あの人、エミリアさんにあれだけコキ使われてるんだから、絶対ストレス溜まってるって! うちらが癒してあげなきゃ!」


彼女の思考は、完全に斜め上の方向へと飛躍していた。


「…佐藤さん、私たちのエアガンの整備とかも、手伝ってくれたりするんでしょうか…? 新しいカスタムパーツの相談とかも…できるなら、嬉しいですけど…」


美桜も、おずおずと、しかしその瞳には新たな期待の光を宿して呟いた。


こうして、朝日が完全に昇り、廃墟の冷たいコンクリートの床にも、冬の弱々しい光が斜めに差し込み始める頃。

『女子大生サバゲー同好会』の四人は、『私たちに助けを求めてきた、あの可哀想な男(佐藤健)を、我々が『特別顧問』として保護し、導いていく』という、壮大かつ致命的な勘違いと、それぞれの僅かな下心に基づいた、どこか歪で、しかし彼女たちにとっては一縷の希望とも言える『結論』に辿り着いたのだった。

放射冷却で芯から冷え切った彼女たちの体とは裏腹に、その胸には、新たな『任務』への奇妙な使命感が、微かに芽生え始めていた。

その『使命感』が、これから彼女たちを、そして佐藤健を、さらなるカオスの深淵へと引きずり込んでいくことになるとも知らずに――。


                    ***


午前七時を少し手前。エミリアの白いコンパクトカーが、夜明けの冷気を切り裂いて雑居ビルの薄暗い地下駐車場に滑り込むと、反響するエンジン音がやけに大きく響いた。

コンクリートの壁と床から、ひんやりとした空気が漂ってくる。


「私は四階で汗を流してくるわ。健ちゃんは二階のシャワーを使いなさい。朝食は、あの子たちが何か用意してくれているはずよ」


エミリアは、先程までの戦闘装備の硬質さを感じさせない、いつも通りの優雅な仕草でシートベルトを外し、後部座席のダッフルバッグを軽々と肩にかけると、颯爽と車を降りて階段へと向かっていく。

その背中には、先程までの超人的な戦闘の痕跡など微塵も感じられない。


佐藤は、昨夜の双子姉妹との濃密すぎる時間と、今朝方の衝撃的なサバイバルゲームの光景で、心身ともに疲労困憊だった。

しかし、エミリアの言葉に逆らう選択肢など彼には存在しない。

重い体を引きずるように車を降り、とぼとぼと二階の夜組寮へと続く階段を上った。


寮のドアを開けると、ふわりと生活感のある温かい空気と、微かなシャンプーの香りが彼を迎えた。

彼女たちはもう起きているのだろう。共有のシャワースペースは幸い空いており、熱い湯を浴びると、強張っていた筋肉と神経が少しだけ解れていくのを感じた。

とはいえ、昨夜からの出来事が脳裏から消えることはない。


用意されていた自分の簡素なスウェットに着替え、共有のリビングダイニングキッチンへと足を踏み入れると、そこには既に私服姿の夜組メンバーたちが、賑やかに朝食の準備を整えているところだった。

部屋の中央に鎮座する大きなこたつからは、まだほんのりと昨夜の残り香のような甘い匂いが漂い、壁際のテレビでは早朝のニュース番組が小さな音で流れている。

キッチンからは、味噌汁のいい香りと、パンの焼ける香ばしい匂いが混じり合って漂ってきて、佐藤の空腹を刺激した。


「あ、佐藤様! おはようございます! お疲れでしょう? すぐにご飯できますからね!」


最初に気づいた陽子が、ぱっと顔を輝かせ、エプロン姿のまま駆け寄ってくる。

彼女の明るい髪は綺麗に整えられ、動きやすいニットとスカートという出で立ちだ。

その言葉には、何のてらいもない親愛の情が溢れている。


「佐藤さん、おはよう。顔色、まだあまり良くないみたいだけど、大丈夫?」


リーダー格の美咲が、少し心配そうに声をかけてくる。

彼女は落ち着いた色のカーディガンを羽織り、テキパキとテーブルに小皿を並べていた。


「…(こくこく)…お味噌汁、お豆腐たくさん入れました…」


詩織が、小さな声で、しかしどこか誇らしげに佐藤を見上げる。

彼女はふんわりとした素材のワンピースを着ており、以前よりも少しだけ表情が柔らかくなったように見える。


「アンタ、ちゃんと寝てんのかよ? クマ、ひでーぞ」


亜美が、ぶっきらぼうながらも気遣うような言葉を投げかけながら、佐藤の分の熱いお茶を湯呑みに注ぐ。

彼女は少しボーイッシュなパーカーにデニムというラフな格好だが、その手つきは慣れたものだ。


そして、真奈は黙々とトーストを焼きながら、眼鏡の奥の冷静な瞳で、佐藤と他のメンバーたちのやり取りを興味深そうに観察していた。


「あ、ああ…おはよう、みんな。ありがとう」


佐藤は、彼女たちの屈託のない(ように見える)優しさに、少しだけ心が解れるのを感じながら、促されるままにこたつへと足を入れた。

そこには、湯気を立てるご飯と味噌汁、焼き鮭、だし巻き卵といった和食と、こんがりと焼けたトースト、ジャム、そしてコーヒーという、どこかちぐはぐだが温かい朝食が並べられていた。


「佐藤様、こっちこっち!」


陽子が、自分の隣の座布団をポンポンと叩く。

佐藤がそこに座ると、彼女は「はい、どーぞ!」と、ごく自然に佐藤の茶碗にご飯をよそい、彼の肩にこてんと頭を乗せて甘えてくる。

その無防備なまでの距離感に、佐藤はもはや驚きもせず、ただ苦笑いを浮かべるだけだ。

美咲が「陽子、はしたないわよ」と軽く窘めるが、その彼女も、佐藤の隣に座ると「佐藤さん、卵焼き、お口に合いますか?」と、そっと彼の小皿に取り分けてくれる。

詩織は、黙って佐藤のお茶の湯加減を気にし、亜美は「ほら、鮭くらい自分で取れよ」と言いつつも、一番身の厚い部分を佐藤の皿に乗せていた。


彼女たちの、こういった日常的なスキンシップや世話焼きは、いつの間にか、すっかり『普通』のことになっていた。

それは、この雑居ビルという特殊な環境と、彼女たちと佐藤の間に横たわる、言葉にされない『関係』がもたらした奇妙な日常の姿だった。

彼女たちは、佐藤にこれくらい触れられても、これくらい見られても、もはや何も感じないかのように自然体だ。そして佐藤もまた、それに慣れつつあった。


「みんな、最近、英語の勉強、頑張ってるんだってね。サスキアさんから聞いたよ。すごいじゃないか」


佐藤が、だし巻き卵を頬張りながら言うと、少女たちの顔がぱっと明るくなる。


「はいっ! 佐藤様に、いつか海外の面白いアニメの話とか、もっと色々教えてもらいたいですから!」


陽子が胸を張る。


「…私たちなりに、少しでもエミリアさんやサスキアさんの、そして…佐藤さんのお役に立てるようになれたら、と…」


美咲が、少し照れたように視線を伏せる。


「…(ふるふる)…難しいけど…楽しい…です…」


詩織が、小さな声で付け加える。


「まーな。どうせここにいるしかねーなら、少しでもマシなスキルの一つでも身につけとかねーと、割に合わねーしよ」


亜美はぶっきらぼうに言うが、その口元は少し緩んでいた。

佐藤は、彼女たちの前向きな努力に、素直に感心し、そして少しだけ救われたような気持ちになった。

この混沌とした日常の中で、彼女たちの存在は、彼にとって、確かに一つの支えになりつつあるのかもしれない。

もちろん、その『支え』が、新たな『女難』の火種を常に孕んでいることを、彼はまだ完全には理解していなかったが。


こたつを囲んでの、どこか歪で、しかし確かに温かい朝食の風景。

窓の外では、東京の新しい一日が、力強く始まろうとしていた。

しかし、この雑居ビルの中だけは、外界の喧騒とは無縁の、特殊な時間が流れ続けている。

そして、その中心には、いつも困ったように笑いながら、次々と押し寄せる『好意』という名の波に翻弄される、一人の冴えない男がいるのだった。


                    ***


こたつを囲んでの、どこか歪で、しかし確かに温かい朝食の風景。

窓の外では、東京の新しい一日が、力強く始まろうとしていた。

しかし、この雑居ビルの中だけは、外界の喧騒とは無縁の、特殊な時間が流れ続けている。

そして、その中心には、いつも困ったように笑いながら、次々と押し寄せる『好意』という名の波に翻弄される、一人の冴えない男がいるのだった。


食事を終え、夜組の少女たちの賑やかな「いってらっしゃいませ、佐藤様!」という声に(半ば強制的に)送り出され、佐藤は重い足取りで二階の寮のドアを閉めた。

昨夜の双子姉妹との出来事、そして早朝のエミリアによる常識外れの『サバゲー対決』の衝撃が、まだ彼の頭の中で渦を巻いている。

階段を一段上がるごとに、これから待ち受けるであろうエミリアとリリアとの時間に、条件反射のように胃がきりりと収縮するのを感じた。


三階のオフィスのドアの前に立ち、一度、深呼吸をする。

ドアの隙間からは、既にサスキアが淹れたのであろう、芳醇なコーヒーの香りが微かに漂ってきていた。

意を決してドアノブに手をかけ、ゆっくりとそれを開ける。


エミリアのオフィス三階は、西高東低の冬型気圧配置がもたらす、乾燥した冬晴れの光が、大きな窓からたっぷりと差し込み、明るく、そしてどこか清浄な空気に満ちていた。

加湿器が静かにシューという音を立てて白い蒸気を放ち、サスキアが淹れたばかりの、最高級ブルーマウンテンの苦味と甘みが複雑に絡み合った芳醇な香りが、部屋全体に漂っている。

その香りは、佐藤のささくれ立った神経を、ほんの少しだけ和らげるかのようだった。


ローテーブルを囲むソファには、既にエミリアとリリアが優雅に腰を下ろしていた。

エミリアは足を組み、カップを片手に窓の外を眺めている。

リリアは、微笑みを浮かべながら何かの資料に目を通しているが、その瞳の奥には鋭い光が宿っている。

そして、佐藤は(昨夜からの出来事で目の下に新たな隈を刻み、顔色も優れないながらも)なんとか平静を装い、二人の間に遠慮がちに腰を下ろした。

やがて、サスキアが、タブレット端末を手に、ローテーブルの傍らにすっと音もなく立った。


「おはようございます、エミリア様、リリア様、佐藤様。定刻となりましたので、業務報告を開始いたします」


その声は、いつものように滑らかで、感情の起伏を感じさせない。


「まず、今週の主なアポイントメントと、進行中のプロジェクトの概要ですが…」


サスキアの淀みない報告が数分間続いた後、彼女は一度言葉を切り、表情をわずかに引き締めた。


「――以上が、定例の業務報告となります。続きまして、先日非公式な打診がございました『東京湾事件(仮称)』についてですが、予備調査の結果、いくつかの情報が修正、および更新されましたので、ご報告申し上げます」


『より正確な情報』という言葉は使われなかったが、その声のトーンと間の取り方で、前回の情報が不完全であったことが暗に示された。

エミリアとリリアの視線が、鋭くサスキアに注がれる。


「まず、依頼主とされる存在ですが、これは海外在住の、歴史的な戦争遺物の収集家であることに間違いはなさそうです。ただし、その実態は、裏社会との繋がりも噂されるようなディープなコレクターというよりは、純粋な軍事マニアであり、潤沢な資金を持つ好事家といった方が的確かと。良くも悪くも、『ただのお金持ち』でございます」

「まあ、そういう手合いが一番厄介だったりもするけれど」


エミリアが、小さく肩をすくめる。


「彼が個人的に手配した代理人チームの当初の目的ですが、これも修正が必要です。前回は『試作戦闘機の引き揚げ作業』とお伝えしましたが、正確には、『旧日本軍の試作戦闘機(と噂されるもの)の探索、およびその状態を確認するための予備調査』でした。彼らは、潜水士や遠隔操作の水中ドローンを使用し、東京湾の特定ポイントで、数日前から無許可での調査活動を行っていた模様です」


サスキアの指がタブレットの画面を滑り、海底図らしきものと、水中ドローンの不鮮明な画像が表示される。


「その予備調査の最中、彼らは目標としていた試作戦闘機の残骸を発見。そして、それとほぼ同時に、予期せぬ『お宝』…おそらくは、大戦末期に日本軍が隠匿したとされる裏資金、すなわち金の延べ棒や宝石類らしきものを、戦闘機の残骸のすぐ近くで発見したとのことです。状況から察するに、それらは元々、例の試作戦闘機で秘密裏に運び出そうとされていたものが、機体の墜落・沈没の際に衝撃で外部に投げ出され、海底の泥の中に半ば埋もれるような形で散らばっていた、と推測されます」

「戦闘機で財宝隠匿輸送、ね。いかにも追い詰められた軍が考えそうなことだわ」


エミリアが、面白そうに口の端を上げる。


「それを巡り、引き揚げチーム内部で仲間割れが発生。依頼内容を遵守し、全ての発見物をクライアントに引き渡そうとするAグループと、財宝を独り占め(ネコババ)しようとするBグループとの間で、船上で激しい対立が生じたようです。これは、前回の情報と変わりありません」

「…混乱に乗じて横取り、ね。人間の欲望は、いつの時代も変わらないものね」


リリアが、小さく鼻を鳴らし、どこか冷めた目で呟いた。


「問題は、やはりその後です」


サスキアの声のトーンが、ほんのわずかに低くなる。


「その仲間割れの混乱の最中、既に一部回収されていた財宝と共に、彼らが使用していた調査船そのものが、忽然と東京湾内から姿を消しました。船の規模は、当初想定されていたような大型のサルベージ船ではなく、全長30メートル程度の、小回りが利き、レーダーにも捉えられにくいよう特殊な設計が施された小型調査船であったことが判明しております。しかし、それでもなお、最新鋭の自動運航システムと、おそらくは高度なソナーや海底探査機器を搭載していたはずのその船が、衛星やコースタルレーダーの監視網から完全にロストしたのです。何者かによる、極めて高度なクラッキングと、周到に計画された船舶強奪、及び証拠隠滅工作が行われた可能性が、より一層濃厚となりました」


サスキアの説明が終わると、オフィスには再び、コーヒーの香りと加湿器の音だけが支配する、重たい静寂が訪れた。

金の延べ棒、宝石、沈没した試作戦闘機、仲間割れ、そして消えたハイテク調査船…。

それは、エミリアとリリアという二人の才媛の、知的好奇心と、そして彼女たちが最も得意とする『仕事』への渇望を、十分に刺激するに足る、複雑怪奇な事件の始まりを告げていた。


佐藤は…もちろん、その話のスケールと、飛び交う専門用語の多さに、全くついていけていない。

ただ、前回よりも詳細になった情報から、何か、とんでもなくヤバそうなことが、自分のすぐ手の届く場所で起こっているらしい、ということだけは、肌で感じていた。

そして、そのヤバそうなことに、自分もまた否応なく巻き込まれていくのだろうという、いつもの予感に、背筋がぞくりとするのを感じるのだった。

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