使うお金に、許可は要りますか? 其七
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Google AI Proの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Google AI Proは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
水曜日の午後二時過ぎ。
神社の離れでの家電設置と電気工事の立会いを(ある意味で)無事に終えた佐藤健は、潮崎親子とアリスに「また、様子を見に来るよ!」と手を振り、エミリアの白いコンパクトカーに乗り込んだ。
彼の両手には、先ほど巫女三姉妹とアリスによって、神社の『縁結び』の熨斗と水引で、それはもう厳重に、そして過剰なまでに『特別仕様』にラッピングされてしまった、二つの小さな紙袋が握られていた。
(…それにしても、すごい包装だな…。あの子たち、本当に丁寧なんだな…)
彼は、そのラッピングに込められた『想い』から現実逃避したまま、ただただ、彼女たちの親切心に感心しているだけだった。
事務所に戻る前に、彼にはもう一つ、大事な『クエスト』が残っていた。
橘陽菜と藤井澪…二人組への、日頃の感謝のプレゼントだ。
女子大生専用のアパートは、この神社から車で数分の距離。
彼は、ナビに目的地をセットすると、慎重に車を発進させた。
「ピンポーン」
女子大生専用のアパートの、小綺麗だがどこか無機質な管理人室。
そのインターフォンが鳴り、モニターに映し出された佐藤の顔を見て、中にいた陽菜と澪は、同時にピクリと肩を震わせた。
「……佐藤、さん…?」澪が、小さな声で呟く。
「なんで、こんな時間に…? しかも、連絡もなく…」
陽菜の表情が、期待と不安、そしてほんの少しの苛立ちで、複雑に揺れる。
数日前の、あの神社での出来事…巫女三姉妹の『嫁入り宣言』と、佐藤の(彼女たちにはそう見えた)満更でもない態度。
あれ以来、二人の心の中は、『佐藤健』という存在に対する、これまで経験したことのない『もやもや』とした感情で、いっぱいだったのだ。それは、間違いなく『恋』に近い何かだったが、あまりにも唐突で、あまりにも厄介で、そしてあまりにもライバルが多すぎる。
「…ま、まあ、とりあえず、開けなさいよ、澪」
「…うん」
オートロックを解除すると、すぐに、少しだけ緊張した面持ちの佐藤が、二つの小さな紙袋を手に、管理人室に入ってきた。
「や、やあ、二人とも。仕事中、ごめんね。ちょっと、近くまで来たから、寄らせてもらったんだ」
彼の言葉はしどろもどろで、その顔は、どこか照れくさそうだ。
「…別に。で、何か用ですか?」
陽菜が、ぶっきらぼうな態度を装いながら、しかしその視線は、彼の手にある紙袋に釘付けになっている。
「あ、うん。これ…たいした物じゃないんだけど…」
佐藤は、それぞれの紙袋を、陽菜と澪に、そっと手渡した。
「いつも、事務所の雑務とか、色々助けてもらってるから…。その、お礼、というか…」
「「え…? 私たちに…? なんで…??」」
二人の声が、綺麗にハモった。
予想外の展開に、彼女たちの頭の中は、一瞬で真っ白になる。
「いや、だから、日頃の感謝、というか…。それに、関東は乾燥してるって言うし、エミリアも、いつも肌の手入れ、気を使ってるみたいだったから…。二人も、こういうの、使うかな、って…」
佐藤は、しどろもどろに、しかし一生懸命、プレゼントの理由を説明する。
陽菜は、恐る恐る、自分に手渡された、鮮やかなオレンジ色のリボンがかけられた紙袋を受け取った。
中には、同じくオレンジ色のパッケージに入った、『シトラスサンシャインの香り』と書かれたハンドクリームとリップクリームのセット。
それは、まるで、彼女の明るく元気なイメージを、そのまま形にしたかのようだった。
(…え? なんで…あたしの好きな色…? それに、この香り…前に、澪と『こんな香水あったらいいな』って話してたやつに、そっくり…!?)
澪もまた、差し出された、落ち着いたラベンダー色のリボンがかけられた紙袋を、震える手で受け取った。中には、ラベンダー色のパッケージに、『月夜に安らぐ、ミッドナイトハーブの香り』と記された、同じくハンドクリームとリップのセット。
それは、彼女が密かに好んで使っているアロマオイルの香りと、驚くほど似ていた。
(…! この色…そして、この香り…。どうして、佐藤さんが、私のことを、ここまで…!? まるで、私の心の中を、見透かされているみたい…!)
そして、二人は、同時に、そのプレゼントのラッピングに目が釘付けになった。
紅白の美しい和紙、金銀の豪華な水引、そして、複雑で、しかし明らかに『特別な意味』が込められているとしか思えない、『叶結び』の装飾…。
(((こ、この、あまりにも気合の入った、『縁結び』仕様のラッピングは、一体…!? しかも、中身は、私たちの好みにドンピシャ…!? こ、これって、もしかして…もしかすると…!!)))
二人の顔が、カッと赤く染まる! 佐藤が、自分たちのために、わざわざこれを選んで、しかも、こんなに『想いのこもった』ラッピングで、プレゼントしてくれた…! それはもう、遠回しな『告白』以外の何物でもないのではないか!?
言葉にならない衝撃と、胸の奥から込み上げてくる、どうしようもないほどの『ときめき』。
それは、彼女たちが、初めて異性から贈られた『特別な』プレゼントであり、そして、佐藤健という男が、自分たちにとって、本当に『特別な存在』なのだと、改めて、そして決定的に、思い知らされる瞬間だった。
(ど、どうしよう…! 佐藤さん、本気なんだ…! あたしのこと…!)
(…合理的ではない…でも、この高鳴りは…! 佐藤さんが、わたしを…!)
二人は、もはや、佐藤の顔をまともに見ることができない。
ただ、俯いて、頬を染め、手の中の『特別なアイテム』を、ぎゅっと握りしめることしかできなかった。
「そ、それじゃあ、僕、そろそろ事務所に戻るから! またね!」
佐藤は、そんな二人組の内心の嵐など全く気づかず、プレゼントを渡せたことに満足し、そして(エミリアへの言い訳もできたと)ホッとした表情で、管理人室を後にした。
残された二人組は、佐藤の後ろ姿を、呆然と、そして頬を真っ赤に染めたまま、見送るしかなかった。
彼女たちの心の中は、嬉しさと、戸惑いと、そして『どうしていいか分からない』という、甘酸っぱいパニックで、完全に支配されていた。
一方、事務所に戻った佐藤は。
「ただいま戻りましたー。エミリア、サスキアさん、リリアさん、お待たせ…って、あれ?」
彼が目にしたのは、受付カウンターエリアが、以前とは比較にならないほど、豪華で、機能的なワークスペースへと変貌している光景だった。
「あ、おかえりなさい、佐藤様」
サスキアが、真新しい、人間工学に基づいた最高級オフィスチェアから、すっと立ち上がり、優雅にお辞儀をした。彼女のデスクも、美しい木目のL字型デスクに変わっている。
「うわぁ! サスキアさん、デスクと椅子、新しくなったんですね! すごくカッコいいじゃないですか! 座り心地も良さそう!」
佐藤は、その素晴らしい労働環境の改善に、素直に目を輝かせ、自分のことのように喜んだ。
「ええ、まあ…」サスキアは、少しだけ複雑な表情を浮かべたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻った。
(まさか、これが、あなたが選んだとは、まだ言えませんわね…)
「ふふ、サスキアも喜んでくれてるみたいで、良かったわね、健ちゃん」
ソファから、エミリアが楽しそうに声をかける。
「ええ、サトウさま。サスキアさんの仕事の効率も、これでさらに上がるでしょう」
リリアも、にっこりと微笑む。
その、二人のあまりにもご機嫌な様子に、佐藤は(あれ? 僕、何か良いことしたっけ…?)と首を傾げたが、すぐに、彼女たちの手元にある、高級そうな宝飾店の紙袋に気づいた。
「――ねえ、健ちゃん?」
「――サトウさま?」
エミリアとリリアが、同時に、そして期待に満ちた、キラキラとした瞳で、佐藤を見つめてきた。
「私たちにも、何か、『素敵なプレゼント』、あるのかしら?」
「ええ、サトウさま。わたくしたち、ずーっと、良い子で待ってましたのよ?」
その、あまりにも分かりやすい『おねだり』のオーラ。
佐藤は、ようやく、自分が、またしても新たな『女難クエスト(プレゼント編)』に巻き込まれてしまったことに気づき、顔面蒼白になるのだった。
彼の、優しさ故の、そして致命的なまでの鈍感さ故の、終わりの見えない『お世話係』としての奮闘は、今日もまた、女神の掌の上で、静かに、しかし確実に、続いていく――。
***
あの、エミリアとリリアからの、悪魔的なまでの『プレゼントおねだり』攻撃を受けた後、佐藤健がどうなったのか…。
その詳細は、もはや、読者の皆様の豊かな想像力に委ねるしかない。
ただ一つ言えることは、彼の『お財布(お給料の積み立て分も含む)』は、空っぽ近くまで軽くなり、そして彼の精神は、もはや摩耗しきって、ある種の『悟り』の境地に達していたのかもしれない、ということだけだ。
――そして、数日が過ぎた。
二月に入り、西高東低の冬型気圧配置は依然として居座り、東京には乾燥した冬晴れの日々が続いていた。
しかし、佐藤の周囲だけは、季節などお構いなしに、常に湿度と熱量(主に女性たちの情念によるもの)の高い、カオスな日常が繰り広げられていた。
神社の、あの古びた離れ。
そこは今や、佐藤にとって、安らぎの場所であると同時に、新たな『戦場』でもあった。
潮崎家の巫女三姉妹…渚、汐里、珊瑚、そして、いつの間にか彼女たちの『リーダー格』のようになっているアリス・ライト。
彼女たち四人は、父親である潮崎巌の『佐藤君は、お前たちの夫になる男だ!』という公認(と、アリスの『アルファ・オス理論』による強力な後押し)を得て、佐藤に対し、それはもう、献身的で、積極的で、そしていささか常識外れな『お世話』を繰り広げていたのだ。
まあ、『夫』であり『アルファ・オス』である佐藤と、彼に『嫁ぐ』ことを決意した四人の美女たちの間で、一体どのような『家族の団欒』が繰り広げられているのか…それは、読者の皆様のご想像にお任せするしかない。
ただ、佐藤の顔には、常に、幸福とは似て非なる、何か別の種類の、深い疲労の色が浮かんでいたことだけは、記しておく。
もちろん、佐藤の『通い婚』には、エミリアとリリアによる厳格な時間制限が設けられていた。
「健ちゃんの体調管理も、奥方(たち?)の大事な役目よ」という、もっともらしい理由で、彼が離れに滞在できるのは、仕事終わりの午後六時から、夜の八時までの、わずか二時間。
それを過ぎれば、彼は、旧アジトへと『帰宅』し、そこでは、エミリアとの『約束通り、手をつないでの添い寝』という、また別の、しかし彼にとってはもはや『日常』となりつつある『安らぎ(?)』が待っているのだった。
この、佐藤の『ハーレム(仮)状態の黙認』。
それは、エミリアとリリアという二人の才媛の、それぞれの計算に基づいていた。
(まあ、いいわ。健ちゃんが、後々、よく分からない、変な女に引っかかって、面倒なことになるよりは、あの娘たちのような、ある程度『素性の知れた』(そして、私のコントロール下に置きやすい)相手で、女性への『免疫力』をつけておくのも、悪くないかもしれない。それに、あのアリスとかいう娘の言う通り、『強いオス』はモテるもの。健ちゃんが、多くの女性から求められるのは、当然の摂理なのよ。最終的に、彼が選ぶのは、この私なのだから♪)
(ふふ、サトウさま、ようやく『アルファ・オス』としての階段を登り始めましたのね。素晴らしいことですわ! あの巫女たちや、アリスという娘も、なかなか見所がある。彼女たちがサトウさまを奪い合うことで、サトウさまはさらに磨かれ、わたくしに相応しい『最高のオス』へと成長していく…。ええ、今の状況は、わたくしの計画にとって、むしろ好都合。玲子や梓、そしてAI開発ベンチャーメンバーの娘たちにも、サトウさまと『関係』を結ぶチャンスを、もっと積極的に与えていくべきかしら…?)
彼女たちは、佐藤の知らないところで、彼の『女難』を、自分たちの都合の良いように解釈し、利用し、そして楽しんでいるのだ。
――そんな、常識も倫理も崩壊したカオスな日常の中で、佐藤の心は、ついに、新たな、そしてやはり斜め上の『自己防衛策』へと、思い至ってしまった。
(…もう、ダメだ…。エミリアやリリアさんからのプレッシャー、巫女さんたちやアリスさんからの(善意の)猛アタック、そして、時折現れる双子占い師の影…。僕一人の力では、もはや、この『女難』の嵐を、どうすることもできない…!)
彼は、これまでの『スピリチュアルな解決策(お祓い)』の限界を、痛いほど悟っていた。
(…そうだ…! 力(女性たちの好意・執着という名の、圧倒的な精神的・物理的圧力)に勝てるのは、別の『力』だけだ! 僕が、この状況から、ほんの少しでも『自分の時間』と『心の平穏』を確保するためには…僕自身を、物理的に『護って』くれる存在が必要なんだ!)
彼は、決意した。護衛を雇おう、と。
(…でも、男の護衛はダメだ。絶対にダメだ。そんなの雇ったら、エミリアやリリアさんが、何を言い出すか分からないし、それに…それに、僕だって…! 僕だって、男としてのプライド(と、ほんの少しの独占欲と嫉妬心)があるんだ! 僕の周りに、僕以外の男がうろちょろするのは、絶対に嫌だ!)
そこで、彼が思いついた、究極の(そして、おそらくは最悪の)解決策。それは…。
(…そうだ! 女性の護衛なら、問題ないんじゃないか…!? 強くて、頼りになって、でも、エミリアたちを刺激しないような…そんな、都合の良い女性チームなんて、いるわけ…)
そこまで考えた時、彼の脳裏に、ふと、数日前に聞いた、神社のある学生街(運動系の学部が盛んらしい)の噂話が蘇った。
『…そういえば、この辺りの大学に、女子大生だけの、すごく強いサバイバルゲーム同好会があるらしいですよ。なんでも、大会とかでも、結構良い成績を収めてるとか…』
(女子大生…サバゲー同好会…強い…!?)
佐藤の目に、新たな『希望(という名の、さらなる女難への扉)』の光が、キラリと宿った!
(これだ…! 彼女たちなら、僕を護ってくれるかもしれない…! しかも、女子大生なら、エミリアたちも、そこまで警戒しない…はず…! よし!)
彼は、早速、その『女子大生サバゲー同好会』について、スマートフォンの検索窓に、キーワードを打ち込み始める。彼の、あまりにも短絡的で、そしてあまりにも破滅的な『自己防衛策』が、今、まさに、動き出そうとしていた。
この新たな『一手』が、二月の一大イベントであるバレンタインデーに、如月玲子と相田奈々の間で巻き起こるであろう『悲劇』を、力強く(そして、おそらくは全く別の種類のカオスで)叩き潰すための、重要な布石となることなど、彼は知る由もない。
ただ、佐藤健の『女難クエスト』が、新たな、そしてよりアクティブな(そして、おそらくは物理的に危険な)ステージへと、彼自身の(斜め上の)意志によって、突入しようとしていることだけは、間違いなさそうだった。
***
佐藤が、都内のどこかで、自身の『女難』に対する新たな(そして、おそらくは的外れな)希望の光を見出していた、まさにその頃。帝都国際大学の広大なキャンパスの、最も奥まった、そしてほとんど学生が寄り付かないような場所に、その建物はひっそりと佇んでいた。
それは、かつて男子学生寮として使われていたが、老朽化と新学生会館の建設に伴い、数年前から閉鎖されている、三階建ての古い鉄筋コンクリートの建物だった。
窓ガラスは所々割れ、壁には蔦が絡まり、周囲には雑草が生い茂っている。
夜になれば、肝試しの舞台にでもなりそうな、不気味な雰囲気を漂わせる廃墟。
しかし、その廃墟は、『女子大生サバゲー同好会』と名乗る、女子大生だけのサバイバルゲーム同好会にとっては、正規の大学手続き(『校舎内危険箇所パトロール及び、防犯意識向上のための自主訓練施設としての利用』という、もっともらしい名目で申請し、なぜか許可が下りている)を経て手に入れた、かけがえのない『根城」であり、「戦場』だった。
その日の午後遅く。
廃寮の一階、かつて食堂だったであろう広い空間には、コンクリートが剥き出しになった床に、巧みに配置されたバリケード(古い机やロッカー、タイヤなど)と、ターゲット(人型のダンボールや、空き缶など)が散らばり、まさに市街戦を想定した訓練場の様相を呈していた。
空気には、いわゆるBB弾の発射音の残響と、若い女性たちの、真剣な、しかしどこか楽しげな声、そして微かな汗の匂いが混じり合っている。
「――クリアリング! 前方、敵影なし!」
リーダーの狐塚響が、愛用の電動アサルトライフル(もちろん、最新の光学サイトやフォアグリップでカスタム済みだ)を構え、バリケードから鋭く身を乗り出しながら叫ぶ。
その動きには、一切の無駄がない。
「右翼展開! 茜、陽動! 玲、二階窓からの狙撃支援、まだか!?」
「了解っス! 今、いい感じにヘイト集めてますー!」
ポイントマンの犬伏茜が、サブマシンガンを軽快に操り、トリッキーな動きで『敵(仮想)』の注意を引き付ける。
「…サイティング中…風、微弱…ターゲット補足…シュート」
少し離れた、二階の割れた窓枠から、鷹見玲の、冷静で、感情の抑揚のない声が響き、次の瞬間、遠くのターゲット(空き缶)が、カラン、と乾いた音を立てて倒れた。
彼女の傍らには、ギリースーツの一部と、ボルトアクションライフル(これも、スコープやバイポッドなど、完璧に調整されている)が置かれている。
「ナイスショット、玲! さすが、うちのスナイパー!」響が、ニヤリと笑う。
「…当然の結果よ」
そして、その後方では、熊谷美桜が、分厚いゴーグルの下で、真剣な表情で、メンバーが使う電動ガンのバッテリー交換や、弾倉へのいわゆるBB弾補充といった、兵站作業を黙々とこなしていた。
彼女の足元には、様々な工具や予備パーツが、整然と並べられている。
彼女たちの装備は、およそ『女子大生のお遊び』とはかけ離れた、本格的なものばかりだった。
最新モデルの電動ガン、高性能な光学機器、プレートキャリアやチェストリグ、そして、各自のスマートフォンと連携した無線インカム。
その多くは、メンバーの中にいる『実家が太い』お嬢様たち(響や、意外にも玲もそうだ)が、『趣味だから♪』と惜しげもなく資金を提供し、揃えたものだ。
中には、「夏休みに、パパのコネで海外の射撃ツアーに行って、元軍人のインストラクターから、実弾射撃の基礎くらいは教えてもらったのよ♪」と、さらりと言ってのけるメンバーもいる(これは響だ)。
もちろん、それが『観光客相手のおべんちゃらレベル』であったとしても、彼女たちの自信と、装備へのこだわりを深めるには十分だった。
一通りの突入・制圧訓練を終えると、四人は、廃寮の隅に間に合わせで作った休憩スペース(古いソファとテーブルがある)に集まり、ペットボトルのスポーツドリンクで喉を潤しながら、ブリーフィング(という名の反省会)を始めた。
「今日の動き、茜は良かったけど、ちょっと前に出すぎ。玲のカバーがなかったら、蜂の巣にされてたわよ?」
響が、リーダーとして的確に指摘する。
「へへー、すんませーん! でも、あのバリケードの裏、絶対美味しいと思って!」
茜が、悪びれずに笑う。
「…茜の陽動があったから、私の射線が通ったのは事実。でも、もう少し連携を密にしないと、実戦(大会のことだ)では通用しないわね」
玲が、冷静に分析する。
「…うん、みんなの銃、今日の調子はバッチリだったと思うけど…響さんのライフルのモーター、そろそろブラシ交換した方がいいかも…」
美桜が、おずおずと意見を言う。
彼女たちの会話は、どこまでも真剣で、そしてサバゲーへの情熱に溢れていた。
それは、『ただの女子大生』ではない、一つの『戦闘チーム』としての、確かな絆とプロ意識を、確かに感じさせるものだった。
(…ふぅ。まあ、今日のところは、こんなもんか)
リーダーの狐塚響は、額の汗を手の甲で拭うと、ふと、数日前に、同好会の公式SNSアカウント(主に新歓や大会告知用に使っている、やや放置気味のアカウントだ)のダイレクトメッセージに届いていた、一件の奇妙な『依頼』のことを思い出した。
(確か…『女子大生だけのサバイバルゲーム同好会御中。突然のご連絡失礼いたします。当方、佐藤と申します。特殊な事情により、身辺の安全確保に苦慮しており、誠に勝手ながら、貴同好会のような、腕の立つ女性チームに、短時間の身辺警護を依頼できないかと考えております。謝礼については、別途ご相談させていただけますと幸いです。何卒、ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます』…だったか?)
その、あまりにも唐突で、要領を得ず、そして何よりも『怪しすぎる』メッセージ。
送信者のアカウントは、ほとんど活動履歴のない、捨てアカウントのようなものだった。
(一体、どんな奴なんだろうな…? 『特殊な事情』って何だよ。ストーカーにでも狙われてる、か弱い男か? それとも、ただの変な奴のイタズラか…? でも、わざわざうちの同好会に連絡してくるってことは、それなりに調べてはいるんだろうな。…『腕の立つ女性チーム』ねぇ…)
響は、そのメッセージの文面を思い出しながら、ほんの少しだけ、訝しげに眉をひそめた。
返信する気も起きず、かといって完全に無視するのも、どこか気味が悪い。
そんな、宙ぶらりんな感情。
彼女は、まだ知らない。その、『佐藤』と名乗る、どこか頼りなさそうな、しかし、なぜか放っておけない雰囲気男が、近いうちに、この『女子大生だけのサバイバルゲーム同好会』の根城を(おそらくは、もっと直接的な方法で)訪れ、そして、彼女たちの、退屈な日常(と、少しだけ持て余していた才能と、潤沢な活動資金)を、とんでもない方向へと、大きく、そして取り返しがつかないほどに変えてしまうことになるということを――。
廃墟となった学生寮には、再び、少女たちの、真剣な、しかしどこか楽しげな声と、いわゆるBB弾をマガジンに補充する、カチャカチャという音だけが、静かに響き渡る。
東京の片隅で、彼女たちだけの『戦争ごっこ』は、今日もまた、平和に、そして熱く、続けられていた。
その日常が、もうすぐ、新たな『依頼人(という名の、最大の獲物?)』の登場によって、大きく揺らがされることになるとも知らずに。