拾われた悪意、あるいは凶器 其五
この物語はフィクションです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ようこそ、東京の影の中へ。
ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
欲望、裏切り、暴力、そして死。
この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。
あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。
幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。
それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。
今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。
「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」
「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」
深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。
だが、運命は彼女を見捨てなかった。
心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。
彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。
これは、影の中で生きる女の物語。
血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
…この物語は、Google AI Proの力を借りて、紡がれています。
時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…
時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…
Google AI Proは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。
この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。
これは、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
その夜、エミリアのオフィスは、窓の外で物々しく警備を続ける機動隊の気配とは裏腹に、表面上は穏やかな空気に包まれていた。
壁の大型テレビには、依然として例の籠城事件(既に内部はもぬけの殻であると、この部屋にいる者は知っている)のライブ配信が、無音のまま映し出されている。
ラジオからは、大型テレビに映されている別のニュースが、淡々と流されている。
ローテーブルには、水野小春が腕によりをかけて作ったであろう、温かいパスタ料理やサラダの皿が並び、エミリア、佐藤、サスキア、そしてリリアの四人が、静かに夕食をとっていた。
佐藤は、エミリアたちの冷静すぎる分析と、警察への皮肉を聞いて以来、目の前の美味しいはずのピザトーストの味が、あまりよく分からなくなっていた。
ただ、目の前の三人の美しい女性たちの間で繰り広げられている(であろう)見えない駆け引きと、自分が置かれた異常な状況に、ひたすら胃をキリキリさせながら、黙々と食事を進めていた。
「ところで…」
ふと、それまで上品にシーザーサラダをつまんでいたリリアが、純粋な疑問、といった表情で口を開いた。
そのサファイアブルーの瞳が、真っ直ぐに佐藤に向けられる。
「サトウさま。今夜のお風呂は、どうなさるのですか? わたくしたちは、五階にシャワールームがあると伺いましたが…」
その、あまりにも日常的で、しかしこの状況下では極めてデリケートな質問に、佐藤は「えっ?」とフォークを持つ手を止め、困惑した表情を浮かべた。
そういえば、考えていなかった。
このオフィスにはシャワーなんてない。
かといって、女性ばかりの寮フロアに、自分が入っていくわけには…。
しかし、佐藤が返答に窮するよりも早く、エミリアの頭脳は、コンマ数秒にも満たない時間で、この質問に隠された意図と、考えうる全ての選択肢、そしてその結果をシミュレートし終えていた。
(…来たわね、リリア。この質問、絶対に仕掛けてくると読んでいたわ。狙いは、健ちゃんを自分の部屋(五階)のシャワーに誘い込み、あわよくば…ということでしょう? 甘いわね)
彼女の脳裏には、リリアが「サトウさま、私の部屋のお風呂をお使いになりませんか? せっかくですから、お背中でもお流ししますわ♪」と、健気な秘書を装って、しかし大胆に佐藤に迫る光景が、鮮明に映し出されていた。
(…もちろん、私の理想は『健ちゃん、私の部屋のお風呂を使って? 疲れているでしょうから、私が背中でも流してあげるわ』だけど…今の健ちゃん(シャイで、私の告白に混乱中)に、他の女(サスキア、リリア、響子、小春)がいるこの状況で、それを実行させるのは、さすがに無理ね…)
(…となると、次善の策は、二階の夜組の寮にある共用シャワーを使わせること。でも、そうなると、あの子たち(夜組)と鉢合わせするリスクが…! 彼女たちの、あの妙な熱気と勘違い…健ちゃんが襲われでもしたら大変だわ!)
(…いや、それ以前に、健ちゃんは『そこまで迷惑をかけるなら、僕はシャワーなんて我慢します』とか言い出しかねない。それは絶対にダメ!)
エミリアの思考回路の中で、最も重要な優先事項が、赤く点滅した。
(『健ちゃんが臭い』のは、絶対に、絶対に避けなければならない!! 清潔さは、紳士の、そして私の騎士の最低条件よ! それに、ちゃんと洗濯された清潔な寝間着で、ぐっすり眠ってもらわないと!)
彼女は、内心の超高速思考と感情の揺らぎを、完璧なポーカーフェイスの下に隠し、まるで最初から答えを知っていたかのように、ふた瞬きする間に結論を導き出し、リリアの質問に、穏やかに、しかしきっぱりと答えた。
「ああ、そのことなら、もうサスキアに手配させてあるわ」
「まあ、そうでございましたか」
リリアは、内心の舌打ちを隠し、完璧な笑顔で応じる。
エミリアは、サスキアに、視線で合図を送った。
「サスキア。後で、夜組の子たちにちゃんと説明して、今夜、佐藤に二階の共用シャワーを使わせてもらう許可をお願いできるかしら? それから、ついでに洗濯機も少しだけお借りしたいのだけど。彼の着替えを洗ってあげたいから」
「承知いたしました。すぐに手配いたします」
サスキアは、表情一つ変えずに頷いた。
そして、エミリアは、自分自身を納得させるかのように、あるいは、リリアへの牽制の意味も込めて、話を続けた。
「それから、サスキア。悪いけれど、健ちゃんが入浴している間は、あなたが、二階の共用シャワーの前で、少しだけ『見張り』をお願いできるかしら? 万が一、何かトラブル…そう、例えば、あの子たち(夜組)が、間違って入ってきたりしないようにね。これで、リリアさんも、夜組の子たちも、そして私も、納得できる、最善の策だと思うのよ」
サスキアが、あのサスキアが、シャワー室の前で見張り!? 佐藤は、そのあまりにもシュールな光景を想像し、背筋が凍る思いだった。(そんな監視付きで、お風呂なんて入れるわけないじゃないか!)しかし、彼は何も言えない。
リリアもまた、エミリアのその完璧なまでの先回りと、サスキアという『絶対的な壁』を配置する指示に、内心で再び舌打ちしていた。
(くっ…! この女、本当に抜け目がない…!)
こうして、佐藤健のあずかり知らぬところで、彼の今夜の入浴に関する詳細なスケジュールと、厳重すぎる(?)警備体制が、あっさりと決定されてしまった。
エミリアは、満足そうに、残りのペンネを優雅に口に運びながら、楽しそうに呟いた。
「さあ、これで安心ね。健ちゃんも、今夜はゆっくりお風呂に入れるわよ?」
その言葉が、佐藤にとって、全く安心できないものであることを、彼女は百も承知の上なのだろう。
オフィスには、美味しいはずの食事の香りと、テレビから流れる緊迫したニュース映像、そして、三人の女性たちの、静かで、しかし複雑な思惑だけが、濃密に漂っていた。
***
その夜、時刻は九時を少し回った頃。
雑居ビル二階、夜組の寮の共有スペースは、昼間のオフィスとは打って変わって、少女たちの、少しだけ解放されたような、しかしどこか落ち着かない空気に満ちていた。
中央に鎮座する大きなこたつには、五人全員が足を突っ込み、テーブルの上には、食べかけのお菓子の袋や、空になったペットボトルが散らばっている。
壁際の大型テレビでは、どうでもいい深夜のバラエティ番組が、BGM代わりに小さな音で流れていた。
今日一日は、まさに怒涛の連続だった。
朝、突然告げられた警察による厳重警備と籠城生活の開始。
夕方には、共有スペースで、緊迫した(ように見えた)違法風俗店籠城事件のライブ中継を見ながらの夕食。
そして、夜には、佐藤様のお風呂問題と、サスキア様による(なぜか)見張り宣言…。
刺激が強すぎた一日の出来事を、彼女たちは、こたつの温かさに身を委ねながら、反芻していた。
「…はぁ~、マジで疲れた…。つーか、意味わかんねーことばっかじゃん、今日」
最初に口を開いたのは、亜美だった。
彼女は、ポテチを乱暴に口に放り込みながら、不満を隠さない。
「本当それ! なんでいきなり機動隊とか来んのよ!? しかも、原因があの『リリア』とかいうお嬢様のせいなんでしょ? マジ迷惑!」
陽子も、頬を膨らませて同意する。
彼女たちの頭の中では、リリア=『サブカル知識で学んだ、わがままでトラブルメーカーのお嬢様』という、見事な偏見が出来上がっていた。
「まあまあ」
美咲が、リーダーとして宥めるように言った。
「でも、エミリア様も言ってたじゃない。『おかげで、私たちは安全な場所にいられる』って。それに…」
彼女は、少しだけ声を弾ませた。
「ジャズ喫茶での『新メニュー開発』! あれは、ちょっと楽しみじゃない?」
「あ! それ!」
陽子の顔が、ぱっと輝いた。
「デザートとか、試食し放題ってことだよね!? やったー! 超ラッキーじゃん!」
「…(こくり)…甘いもの、いっぱい食べられるかな…」
詩織も、小さな声で、しかし期待に目を輝かせている。
「(役得、か…まあ、悪い話ではないわね)」
真奈も、眼鏡の奥で、わずかに口元を緩めた。
現金なもので、美味しいものへの期待感が、少しだけ重苦しい空気を和らげる。
「…でもさ」
陽子が、ふと真顔に戻って言った。
「今日の深夜、佐藤様、あたしたちのシャワー使うんだよね?」
「ああ、サスキアさんが言ってたね。三階にも五階にも、男性が使えるシャワーがないから、二階の共用を使うしかないって」
美咲が答える。
「まあ、それは仕方ないか…」
亜美も納得したようだ。
「順番も、あたしたちが全員入った後だって。一番最後」
「ふーん。まあ、男の人だし、最後なのは普通か」
そこまでは、彼女たちも、特に疑問を感じていなかった。
建物の構造上仕方ないこと、順番もまあ妥当だろう、と。
しかし、美咲が、ふと、思い出したように、そしてどうしても腑に落ちない、といった表情で、こう呟いたのだ。
「……でもさ。一つだけ、どうしても分からないんだけど……」
「? なにが?」
「…なんで、サスキアさんが、佐藤様の入浴中に、わざわざ、あのシャワー室の前で『見張り』をするって言ってたんだろう…?」
美咲のその一言に、それまでのお菓子やデザートの話で少し緩んでいた共有スペースの空気が、再び、シン…と静まり返った。
「……………」
「……………」
言われてみれば、そうだ。
なぜ、あの、完璧で、冷静沈着で、おそらくはエミリア様の右腕として超多忙であろうサスキアさんが、わざわざ、佐藤さん一人の入浴のために、『門番』のようなことをするのだろうか?
「た、確かに…言われてみれば、おかしいよね…?」
陽子の声にも、戸惑いの色が浮かぶ。
「トラブル防止って言ってたけど…あたしたちが、間違って入っちゃうのを心配してるってこと? さすがに、それはないでしょ…」
亜美が首を傾げる。
「…佐藤さんって、もしかして、一人でお風呂にも入れないくらい、誰かに狙われてる…とか?」
詩織が、怯えた声で推測する。
「(いや、それは考えすぎでしょ…)」
真奈は内心でツッコミを入れる。
様々な憶測が飛び交うが、どれもしっくりこない。
サスキアの、あの感情の読めない完璧な微笑みの裏にある真意は、彼女たちには到底、推し量ることができなかった。
「…………まさか、ねぇ……」
その時、陽子が、何かとんでもない可能性に思い至ったかのように、顔を真っ赤にして、声を潜めた。
「………サスキアさんも……まさか、佐藤様のことを……………!?」
「「「「「!!!!!!!!」」」」」
その、ありえない(はずの)可能性。
しかし、今の彼女たちの、勘違いで飽和状態の頭脳には、妙な説得力を持って響いてしまった!
そうだ、それなら説明がつく! サスキアさんは、佐藤様に近づく不埒な輩(=私たち!?)を排除するために、自ら見張りを!? いや、それどころか、入浴中の無防備な佐藤様を…!?
「そ、そんな! あのサスキアさんが!?」
「でも、ありえなくなくなくない!? だって、佐藤様だよ!?」
「エミリア様も、凛様も、コスプレイヤーさんたちも、リリアさんも…そして、サスキアさんまで!?」
「うそ…! 佐藤様ハーレム、最強メンバーすぎ…!」
「あたしたち、勝てるの…?」
少女たちの顔には、驚愕、混乱、そして、新たな、そして最強のライバル(!?)出現に対する、絶望にも似た戦慄の色が浮かんでいた。
(…いや、違う! 落ち着くのよ、私!)
美咲は、必死で自分と仲間たちを落ち着かせようとした。
(きっと、何か別の理由があるはず! そうよ、きっとそうだわ!)
しかし、一度植え付けられた疑念(という名の新たな勘違い)は、簡単には消え去らない。
共有スペースには、再び、重く、そしてカオスな沈黙が訪れた。
こたつの温かさも、お菓子の甘さも、テレビの陽気な音声も、もはや彼女たちの心には届かない。
ただ、頭の中では、『サスキアさんまでライバル…!?』という、恐るべき(そして、完全に間違った)可能性が、ぐるぐると回り続けているのだった。
冬の夜は、静かに更けていく。そして、少女たちの勘違いもまた、底なし沼のように、深く、深く、はまり込んでいく――。
***
時計の針が、夜の九時を回った頃。
エミリア・シュナイダーのオフィスは、主たちの夕食も終わり、昼間とは違う、静かで、しかしどこか息詰まるような空気に満たされていた。
窓の外では、依然として機動隊の車両の赤い光が明滅し、このビルが外界から隔離された『箱庭』であることを示している。
オフィスの中央では、エミリアがソファに座って静かに読書をし、サスキアは受付カウンターで黙々と自身の端末を操作している。
そして、佐藤は、自分のデスクのパソコンで、山積みになった(そして、おそらくは今日一日でさらに増えた)電子データと格闘していた。
その、一見すると穏やかな(しかし、異常な)夜のオフィスで、ただ一人、リリア・アスターは、内心に燃え盛る炎を隠し、完璧な『新人秘書』の仮面を被り続けていた。
彼女は、佐藤のデスクの隣にある補助デスクで、渡された資料を整理するフリをしながら、そのサファイアブルーの瞳で、部屋の中の力関係、空気の流れ、そして何よりも――彼女の『運命の人』である佐藤健の、一挙手一投足を、鋭く、そして熱心に観察していた。
(ふふ…滑稽だわ、この状況。警察に囲まれた籠城生活? 私にとっては、退屈な『おままごと』にもならない。むしろ…好都合よ。この閉鎖された空間でなら、私の計画は、より早く、より確実に進められるのだから)
彼女の思考は、このオフィスにいる誰よりも、冷徹で、そして自由だった。
(…『リリア・アスター』。本来の私なら、今頃、退屈な社交界で愛想笑いを振りまき、親が決めた、顔も知らないような退屈な男との『幸福な未来(という名の檻)』を待つだけの、深窓の令嬢…だったはず。五歳の私が見ていた未来は、そんな灰色の日々だった)
彼女は、遠い日の記憶を、まるで他人事のように思い返す。
(でも、私は選んだ。違う未来を。この手で、『運命』を掴み取ることを!)
その日から、彼女は変わった。
わがままでもお転婆でもない、ただ一つの、しかし絶対的な信念――『自分の手で伴侶を見つけ、私が望む、完璧な愛の家庭(ただし、伴侶の意思は考慮外)を築くこと』。
そのために、彼女は全てを学んだ。
歴史、経済、語学、芸術…そして、美しさという武器の磨き方も。
全ては、最高の伴侶を見つけ、彼を自分のものにし、理想の家庭を築くため。
(そして、私は飛び出した。あの息苦しい鳥かごから。親は、生活費を止めれば、私がすごすごと戻ってくるとでも思ったのでしょうね。甘いわ。私は、この才色兼備を武器に、手段など選ばずに、世界を巡るための資金を稼ぎ、そして『運命』を探し続けた…!)
その放浪の果てに、日本で出会ったのが、彼だった。
リリアの視線が、デスクで疲れたように肩を回している佐藤に向けられる。
(サトウ・ケン…)
彼女の胸が、熱い高揚感で高鳴る。
(確かに、彼は、私がこれまで見てきた社交界の、着飾っただけの、中身のない男たちとは全く違う。地味で、冴えなくて、少し頼りない。…でも!)
彼女の瞳が、確信に満ちた輝きを放つ。
(…あのエミリア・シュナイダー…あの『ラスボス』ですら、彼に執着している! サスキアも、響子も、小春も…そして、あの夜組とかいう小娘たちでさえ、彼を中心に回っている! この男には、見た目だけでは分からない、計り知れない『何か』がある! そう、彼こそが、私が探し求めていた、私の『運命の人』!!)
彼の平凡さなど、彼女にとっては些細な問題だった。
(野暮ったいというなら、この私が、世界最高のセンスで磨き上げてあげる。経済力がないというなら、私がいくらでも稼いで、養って差し上げるわ。私の商才は、一族でも随一と謳われたのだから…! 今、世界中に仕込んでいるベンチャー投資が育てば、エミリアの経済力すら、いずれ…!)
そして何より、彼女には絶対的な自信があった。
(そして、私のこの美貌と、この愛の前では、どんな男だって…! 彼(佐藤)は、必ず、私に惚れる。 疑いようもないわ。だって、それが『運命』なのだから!)
彼女の心は、既に、佐藤との輝かしい(と彼女が信じる)未来…甘い新婚生活、生まれてくるであろう子供たちの姿(最低でも三人は欲しい)…そんな期待と高揚感で満たされている。エミリアからの妨害工作(部屋割りなど)も、彼女にとっては、むしろ恋のスパイス、乗り越えるべき試練に過ぎない。
彼女の心は、鋼鉄よりも強く、決してへこたれることはないのだ。
(だから、まずは第一歩…)
リリアの視線が、鋭さを増す。
彼女の頭脳は、冷徹な計算を始めていた。
(…あの人に、この『想い』を伝えるための、最初の楔を打ち込む。エミリアとサスキアの監視を潜り抜け、彼に、このメモを渡す…!)
スカートのポケットの中の、小さなメモ帳の感触を確かめる。
署名と共に記された、短い、しかし彼女にとっては運命を動かす一文。
『お話があります。よろしければ22時にお声掛けください』。
(あの真面目な彼のこと、必ず連絡してくるはず。そうしたら…)
リリアが、具体的なアプローチ方法(優しい言葉、さりげないボディタッチ、そして、決定的な…)をシミュレーションし、口元に妖艶な笑みを浮かべかけた、その時だった。
「…サスキアさん」
デスクから立ち上がった佐藤が、受付カウンターのサスキアに声をかけた。
「そろそろ、シャワー、借りてもいいかな…? 二階、今、誰も使ってない時間だよね?」
「はい、佐藤様。大丈夫かと存じます。ご案内します」
サスキアも静かに立ち上がり、事務所のドアへと向かう。
(――今だわ!)
リリアの全身に、電流のようなものが走った! 佐藤が部屋を出て、二階へ向かう、まさにこの一瞬の隙! これ以上ない、絶好のタイミング!
彼女は、まるでスローモーションのように、しかし実際には電光石火の速さで、補助デスクから立ち上がった。
そして、最も自然な、最も健気な、完璧な新人秘書の笑顔を浮かべて、佐藤の前に回り込んだ。
「あ、サトウさま! ちょうど良かった! 先ほどコピーが終わった、こちらの資料です! お持ちになりますか?」
彼女は、分厚い書類の束を、少しだけ重そうに(もちろん演技だ)両手で持ち、佐藤に差し出した。
そして、佐藤がそれを受け取ろうと手を伸ばした、まさにその瞬間――!
書類の束の陰で、リリアの白く細い指が、誰にも気づかれることなく、折り畳まれた小さなメモを、佐藤の手のひらに、そっと滑り込ませたのだ。
「!?」
突然、手のひらに押し付けられた、小さな紙片の感触。
佐藤は、驚いてリリアの顔を見た。
リリアは、ただ、完璧な、天使のような笑顔で、彼を見つめ返しているだけだった。
その瞳の奥に、計画が成功した、とでも言うような、冷たい満足の色が浮かんでいることなど、佐藤には知る由もない。
「……?」
何も知らずに(?)、ドアの前で二人を待つサスキアの、感情の読めない視線。
手の中に残る、小さなメモの、不穏な感触。
そして、目の前の、美しすぎる秘書の、意味深な笑顔。
リリア・アスターが仕掛けた、最初の『火種』。
それは、確かに、今、佐藤の手に渡されたのだ。
この小さなメモが、これからどんな波乱を巻き起こすのか、まだ誰も知らない。
***
雑居ビル二階、夜組の寮の共有スペースは、その後の(的外れな)興奮が少しだけ落ち着きを取り戻し、比較的穏やかな空気に包まれていた。
中央のこたつでは、数人の少女が、風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながら、テレビのバラエティ番組を見てくすくす笑っている。
別のテーブルでは、真奈が眼鏡の奥の真剣な目で、何かの資料を読んでいた。
ホットカーペットの上では、陽子と亜美が、買ってきたばかりのゲーム機で、何やら対戦ゲームに熱中しているようだ。壁際には、佐藤とエミリアが選んだ加湿器が静かに白いミストを吐き出し、部屋の乾燥を和らげていた。
今日の怒涛の出来事の連続――機動隊による厳重警備、その原因の美貌の秘書リリア、新メニュー開発という名の役得、そして佐藤様のお風呂問題――は、確かに彼女たちにとって刺激が強すぎた。
しかし、その一つ一つに、彼女たちなりの(主に勘違いに基づいた)『納得』を見出してもいた。
(警備は、あのリリアとかいうワガママお嬢様(サブカル知識より)のせい)
(新メニュー開発は、美味しいものが食べられるチャンス!)
(佐藤様がシャワーを使うのは、他に使える場所がないなら仕方ない)
(順番が最後なのも、まあ、男性だし…?)
そう、ほとんどのことは、彼女たちの(都合の良い)解釈の範囲内に収まっていたのだ。
ただ一点を除いては。
コンコン、と共有スペースのドアがノックされ、サスキアさんに案内される形で、佐藤健が少し申し訳なさそうな顔で入ってきた。
手には、着替えが入った小さなバッグを持っている。
「あ、みんな、ごめんね、夜に。シャワー、借りるよ」
佐藤は、パジャマ姿でリラックスしている少女たちを見て、少しだけ顔を赤らめながら、丁寧に挨拶とお礼を述べた。
「いえいえ! どうぞどうぞ!」
「気にしないでください、佐藤様!」
少女たちも、一斉にゲームやスマホから顔を上げ、元気よく(そして、内心のドキドキと勘違いを隠しながら)挨拶を返す。
その声には、以前のような過剰な緊張感ではなく、少しだけ打ち解けたような響きも混じっているように、佐藤には感じられた。
(よかった…みんな、僕が買ってきた家電、ちゃんと使ってくれてるみたいだし、喜んでくれてるみたいだ…)
こたつで温まり、テレビを見て笑い、ゲームに興じる彼女たちの姿を見て、佐藤は、心からの安堵と、ほんの少しの温かい気持ちを感じていた。
エミリアの告白が夢か現か、リリアさんの存在、自分の将来…悩みは尽きないが、この子たちが笑顔でいてくれるなら、それで少しは救われる気がした。
「それじゃあ、お借りします」
佐藤は、改めて頭を下げると、共有スペースの奥にあるシャワールームへと向かった。
「佐藤様」
その背中に、サスキアさんの、いつもと変わらない、冷静で丁寧な声がかかった。
「エミリア様がご心配なさらないよう、わたくしは、ここでお待ちしておりますので。どうぞ、ごゆっくりシャワーをお使いくださいませ」
サスキアさんは、そう言うと、シャワールームのドアから少し離れた、しかし出入り口が視界に入る位置にあるソファに、静かに腰を下ろした。
そして、何事もなかったかのように、自分のタブレット端末を取り出し、何かの作業を始めたのだ。
その姿は、完璧な秘書のようでもあり、あるいは、絶対的な監視者のようでもあった。
「あ、は、はい…! ご、ご厚意に甘えまして…! 大変でしょうが、よろしくお願いいたします…!」
佐藤は、サスキアさんのその行動に、心臓が縮み上がるような恐縮を感じながらも、もはや何も言えず、深々と頭を下げて、脱衣所へと消えていった。
(監視付きのシャワーなんて、落ち着けるわけないじゃないか…!)
そして、佐藤の姿が見えなくなり、シャワーの音が微かに聞こえ始めた共有スペースで、夜組の少女たちは、顔を見合わせていた。
(……やっぱり、サスキアさん、待ってるんだ……)
先ほどの佐藤さんとの会話。それは、エミリアの指示で、サスキアが佐藤の入浴を見守る(見張る)という、異常な状況を再確認させるものだった。
(…エミリア様の指示、なんだよね…? 多分…)
(でも…なんで、サスキアさんほどの人が、そんなこと、素直にしてるんだろう…?)
(佐藤さんって、やっぱり、そこまで重要な人ってこと…? それとも、何か、別の理由が…?)
美咲が感じた、あの『拭いきれない違和感』。
それは、他のメンバーの心の中にも、小さな、しかし消えない疑問の種として、再び芽生え始めていた。
サスキアの、あの感情の読めない完璧な微笑みの裏には、一体何が隠されているのだろうか?
彼女たちは、その答えを見つけられないまま、ただ、ソファで静かにタブレットを操作するサスキアの横顔を、遠巻きに、そして少しだけ、畏れと好奇心の入り混じった視線で見つめることしかできなかった。
サスキアの真の目的――それが、佐藤の安全確保ではなく、この夜組の少女たち自身の動向を観察するのに、極めて都合が良いからである、などとは、夢にも思わずに。
こたつの中の温かさとは裏腹に、少女たちの心の中には、新たな、そして解けない謎が、静かに、そして確かに、生まれ始めていた。




