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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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拾われた悪意、あるいは凶器 其四

この物語はフィクションです。

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


ようこそ、東京の影の中へ。

ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。

欲望、裏切り、暴力、そして死。

この街では、毎夜、人知れず罪が生まれ、そして消えていく。

あなたは、そんな影の世界に生きる、一人の女に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿とは裏腹に、冷酷なまでの戦闘能力を持つ、凄腕の「始末屋」。

幼い頃に戦場で、彼女は愛する家族を、理不尽な暴力によって奪われた。

それは、彼女が決して消すことのできない傷となり、心を閉ざした。

今もなお、彼女は過去の悪夢に苛まれ、孤独な戦いを続けている。

「私は、この世界に必要とされているのだろうか?」

「私は、幸せになる資格があるのだろうか?」

深い孤独と絶望の中、彼女は自問自答を繰り返す。

だが、運命は彼女を見捨てなかった。

心優しい元銀行員の相棒、エミリアの過去を知る刑事、そして、エミリアの過去を知る謎めいた女ライバル。

彼らとの出会いが、エミリアの運命を大きく変えていく。

これは、影の中で生きる女の物語。

血と硝煙の匂いが漂う、危険な世界への誘い。

さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

そして、エミリアと共に、非日常の興奮とスリル、そして、彼女の心の再生の物語を体験してください。

あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?

…この物語は、Google AI Proの力を借りて、紡がれています。

時に、AIは人間の想像を超える unexpected な展開を…

時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を…

Google AI Proは、新たな物語の世界を創造する、私のパートナーです。


この作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では遅れて公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。

これは、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


冬晴れの穏やかな午後の光が、ブラインドの隙間から、エミリア・シュナイダーのオフィスに差し込んでいる。

しかし、その光とは裏腹に、ビル全体は依然として警察の物々しい警備下にあり、オフィスの中にも、どこか張り詰めたような、静かな緊張感が漂っていた。


「……何だろう?」


窓の外から聞こえてくる、機動隊員たちの規律正しい足音と、車両のエンジン音。

それに気づいた佐藤が、思わず窓に駆け寄ろうとするのを、ソファに座っていたエミリアが、静かに、しかし鋭い視線で制した。


「慌てないの、健ちゃん。外のお巡りさんたちの、ただの交代よ。私たちは、ここに大人しくしていればいいの」

「あ、ああ…そう、だね…」


佐藤は、腕時計を見て、もうそんな時間かと、少しだけ落ち着きを取り戻した。


「さて、と」


エミリアは、気分を切り替えるように、パン、と軽く手を叩いた。


「今のうちに、五階の寮の部屋割りも、ちゃんと決めておきましょうか。サスキア、あなたと私は、ここの事務所に近い方が何かと便利だから、階段に近い方の二部屋でいいわよね?」

「はい、問題ございません」


受付カウンターのサスキアが、顔色一つ変えずに答える。


「となると…リリアさん」


エミリアは、佐藤の隣の補助デスクで、完璧な秘書を演じているリリアに、にっこりと微笑みかけた。


「あなたのお部屋は、一番奥の、静かで落ち着ける角部屋になるわね。ゆっくり休めるでしょう?」


それは、決定事項の通告であり、同時に、佐藤(事務所泊)から物理的に距離を置かせようという、明確な意図を含んだ配置だった。


しかし、リリアは、その提案に、即座に、しかしあくまで健気な秘書を装って、異議を唱えた。


「まあ、エミリア様、ご配慮痛み入ります。ですが…!」


彼女は、困ったように眉を寄せ、佐藤の方をちらりと見ながら訴える。


「それでは、わたくし、サトウさまの秘書として、十分な働きができませんわ! やはり、サトウさまに何かあった時、一番の忠臣として、いの一番に馳せ参じられるように、階段に最も近いお部屋を拝命しとうございます!」


その、少し時代がかった『忠臣』という言葉と、熱のこもった(ように見える)訴えに、佐藤は(え? 僕のために…?)と、少しだけ戸惑いと、申し訳ないような気持ちになる。


だが、エミリアは、そんなリリアの『演技』を、鼻で笑うかのように、呆れた声で一蹴した。


「あらあら、『一番の忠臣』ですって? ふふ、健気なことねぇ」


彼女は、クスクスと笑う。


「でも、リリアさん。あなたは、あくまで『勤務時間中』の、健ちゃんの秘書なのよ? 彼がソファで寝ている間の私生活にまで、あなたが関わる必要は、一切ないの。分かるかしら?」


その、冷たく、きっぱりとした拒絶。

リリアは、一瞬、悔しさに唇を噛んだが、すぐに完璧な笑顔に戻り、深々とお辞儀をした。


「…申し訳ありません、エミリア様。わたくし、出過ぎた真似をいたしました。エミリア様のお決めになったお部屋で、結構でございます」


(ふん、やはりこの女、簡単にはいかないわね。部屋割りの件で揺さぶりをかけて、私の本命(夜のアプローチ)から注意を逸らす作戦デコイだったのだけれど…まあ、いいわ。見事に食いついてくれただけでも、今日のところは上出来よ。本番は、これからなんだから)


彼女は、数日間の観察で、佐藤健という男の性格…真面目で、優しくて、頼み事をされると断れない、そして、おそらくは恋愛経験に乏しい…という点を、ほぼ完璧に把握した(と、彼女は信じ込んでいる)。

だから、次の手は既に決まっていた。


(後は、エミリアとサスキアの監視を潜り抜けて、あの人に、この『秘密のメッセージ』を渡すだけ…)


彼女は、スカートのポケットに忍ばせた、小さなメモ帳の感触を確かめた。

そこには、彼女の美しい署名と共に、こう書かれているはずだ。


『サトウさまへ。大切なお話があります。もし、よろしければ、今夜22時に、事務所にお伺いしてもよろしいでしょうか? リリア』


(あの真面目なサトウさまのこと、このメモを読めば、高い確率で、私を呼び出すはずだわ。そうしたら、『サトウさまに呼ばれたので』と、堂々と、事務所で一人、寂しくソファをベッドにしている彼の元へ行き、優しく話を聞いてあげればいい。私のこの容姿、そして『運命』という言葉の力の前では、どんな男だって…ふふ)


リリアは、自分の完璧な計画と、輝かしい未来(佐藤との結婚、そしてエミリアへの勝利!)を想像し、内心でほくそ笑んだ。

その表情は、もはや『健気な秘書』ではなく、獲物を見つけた『肉食系令嬢』そのものだった。

彼女の頭の中では、既に佐藤との間に子供が生まれ、幸せな家庭を築いている妄想が繰り広げられているのかもしれない。


エミリアは、そんなリリアの、一人、乙女(?)の世界に浸って、口元を緩ませたり、ぶつぶつと何かを呟いたりしている様子を、ソファから冷ややかに観察していた。


(…ふーん、随分と脳内お花畑メルヘンなのね、このお嬢様は。運命? 婚姻届? まるで子供の夢物語だわ。まあ、その単純さが、扱いやすいと言えば扱いやすいけれど…油断は禁物ね。この手のタイプは、思い通りにならないと、何をしでかすか分からないから。さて、どんな『現実』を教えてあげるのが、一番効果的かしら?)


彼女は、リリアの浅はかな計画を、そしてその根底にあるであろう歪んだ願望を、完全に見抜き、それをどう利用し、どうコントロールし、そして最終的に、どう『教育』してやるか、次なる一手を、静かに、そして冷徹に、考え始めていた。


事務所には、冬の午後の穏やかな光と、キーボードの音、そして、二人の美しい女性の間で繰り広げられる、声なき心理戦と、張り詰めた空気が満ちている。

その中心で、何も知らない(そして、おそらく知りたくもない)佐藤だけが、ただただ、早く定時が来ないかと、時計を気にしていた。

彼の受難は、まだ始まったばかりだ。


                    ***


冬晴れが続いた日の夕暮れ時。

都内の、再開発の波から取り残された場末の歓楽街は、仕事帰りの人々や、夜の明かりに吸い寄せられる客で、これからが本番といった、猥雑な活気を帯び始めていた。

しかし、その一本裏手に入った路地は、ゴミの匂いと、古びた建物の壁に描かれた落書き、そして行き交う人もまばらな、寂れた空気が支配していた。


「…はぁ。今回も空振り、か」


松田は、冷たい風が吹き抜ける路地裏で、何度目になるか分からない聞き込みを終え、深いため息をついた。

隣に立つ桜井も、無言で頷く。

コンビニでの銃を使った(と思われる)事件から半日。

警視庁は広範囲に検問を敷き、機動隊まで投入したローラー作戦を展開しているが、あの多国籍半グレ集団の足取りは、依然として掴めていない。

この地区の住民や商店主たちは、一様に口が重く、警察への非協力的な態度が、捜査をさらに困難にしていた。


防弾チョッキの重さと、腰のホルスターに収められた拳銃の冷たい感触が、この捜査が『通常』ではないことを物語っている。

しかし、それだけの装備と権限を持ってしても、この閉鎖的で、澱んだ空気が支配する街では、自分たちが『部外者』であり、拒絶されているという感覚を、二人は何度も味わっていた。


「松田さん。一度、車に戻りましょう。本庁に新しい情報が入っているかもしれません」


桜井が、疲労の色を隠さずに提案した。


「…そうだな。ここで粘っても埒が明かん」


松田も同意し、二人は、まるで葬式帰りのような重い足取りで、路地の奥、防火用水の古びた標識の近くに停めてあった、目立たないシルバーの覆面車へと戻った。


桜井が運転席に、松田が助手席に乗り込み、ドアを閉める。

松田は、シートベルトを締めながら、無線機に手を伸ばし、本部へ定時連絡を入れようとした。


その、まさにその瞬間だった。


覆面車の少し先の角から、数人の若い男たちが、騒々しく、しかしどこか目的を持ったような足取りで現れたのだ。

多国籍な顔ぶれ、派手な服装、そして何より、リーダー格らしきピアスとタトゥーの男…!


「! 松田さん、あれ…!」


桜井が、息をのんで呟く。


「…間違いない!」


松田の目も、鋭く細められた。

コンビニの防犯カメラに映っていた、あの半グレ集団の一部だ! しかも、リーダー格までいる!


彼らは、まだ覆面車の存在には気づいていない様子で、路地の向かい側にある、けばけばしい看板を掲げた、古びた雑居ビルの方へと向かっている。

おそらく、あのビルが次のターゲットなのだろう。


「…!」


桜井は、瞬時に判断し、運転席の窓をパワーウィンドウで素早く下げると、鋭い声で誰何した!


「――そこの君たち! 止まりなさい! 警察です!」


その声に、半グレ集団は、驚いて足を止め、一斉にこちらを振り向いた。

そして、覆面パトカーと、その中にいる刑事(松田と桜井)の姿を認めた瞬間、彼らの表情が、驚愕から、焦り、そして凶暴な光へと変わった!


「チッ! サツだ! 逃げるぞ!」


リーダー格の男「A」が叫ぶと同時に、集団は蜘蛛の子を散らすように走り出そうとした!


「待て!」


松田が叫びながらドアを開けようとした、その時!


パンッ!!


乾いた、しかし腹に響くような破裂音!

逃走しながら、リーダー格の男『A』が、懐から取り出した回転式拳銃を、振り返りざまに、覆面車に向けて発砲したのだ! 威嚇か、あるいは単なるパニックか!


バシンッ!と、フロントガラスの助手席側、松田の顔のすぐ横あたりに、何かが弾かれたような衝撃と、蜘蛛の巣状の亀裂が走る! 弾丸は中りこそしていないが、その威力は明らかだった。


「くそっ!」

「松田さん!」


桜井は、悲鳴を上げる代わりに、即座にシフトレバーをバックに入れ、アクセルを床まで踏み込んだ! タイヤがアスファルトを掻きむしる激しい音と共に、覆面車は猛スピードで後退し、銃弾の射線から離脱する!


「こちら桜田1! 現時刻、〇〇区〇〇路上にて、コンビニ事件の被疑者グループと接触! 抵抗を受け、発砲された! 繰り返す、発砲された! 車両に被弾! 犯人グループは、〇〇ビル方向へ逃走中! 至急応援、及び包囲網の形成を要請する!」


松田は、シートに体を押し付けられるGを感じながら、無線機に鋭く、しかし冷静に状況を報告する。


桜井は、後方の安全を確認しつつ、ある程度の距離を取ると、キッと鋭い音を立てて急ブレーキを踏み、車を停めた。

そして、鋭い視線で、半グレ集団が逃げ込んだであろう、猥雑な光を放つ雑居ビルを睨みつけた。


半グレたちは、予想外の反撃(急バック)と、鳴り響き始めたであろうサイレンの音に気後れしたのか、あるいは最初からそこが目的地だったのか、慌てた様子で、その雑居ビルの入り口へと駆け込み、中から乱暴にドアを閉め、鍵をかける音が、静かになった路地に響いた。


「……籠城、か」


松田が、吐き捨てるように呟いた。


静まり返った路地裏。

割れた(ような)フロントガラス。

そして、目の前の、怪しげな雑居ビル。

遠くから、複数のパトカーのサイレンが、急速に近づいてくる。

松田と桜井は、互いに視線を交わした。

その目には、安堵ではなく、これから始まるであろう、より困難で、危険な状況への、強い覚悟と緊張感が宿っていた。

拾われた『悪意』と『凶器』は、ついに、警察との直接対決という形で、その牙を剥き始めたのだ。


                    ***


外の世界では、数時間前に発生した、場末の歓楽街での発砲・籠城事件を受けて、警察による厳重な警戒態勢が続き、メディアやSNSもその話題で持ちきりだろう。

しかし、このビルの中にいる限り、その喧騒は遠い世界の出来事のようだった。


リビングエリアのローテーブルには、水野小春が腕によりをかけて作ったであろう、温かい夕食が並んでいた。

エミリアの前には、数種類のチーズが絡んだ濃厚そうなペンネ。

サスキアの前には、スパイシーな香りを漂わせるドライカレー。

リリアは、彩り鮮やかなシーザーサラダを上品につまんでいる。

そして、佐藤の前には、湯気を立てる、熱々のピザトーストとミネストローネ。

厨房から漂ってくる、焼きたてのパンの良い香りも食欲をそそる。


部屋の壁に設置された大型テレビには、どこかのネット放送局が配信している、籠城現場のライブ配信映像が無音で映し出されていた。

物々しい機動隊の車両、現場を囲む規制線、遠巻きに見守る野次馬、そして、固唾を飲んで中継を続けるレポーターの姿…。

ラジオからは、大型テレビに映されている別のニュースが、淡々と流されている。


その、緊迫した現場の映像とは対照的に、オフィスの中の空気は、驚くほど穏やかだった。


佐藤は、ピザトーストを頬張りながらも、テレビの映像と、目の前で優雅に食事を進める三人の女性たちの会話に、必死で意識を集中させていた。

多くの情報が、彼の頭の中で処理しきれずに渦巻いている。


「…それで、サスキア」


エミリアが、口元をナプキンで軽く押さえながら、まるで天気の話でもするかのように尋ねた。


「あの、警察が律儀に取り囲んでいる建物…まだ、中に誰か残っていると思う?」

「いいえ、エミリア様」


サスキアは、ドライカレーを上品にスプーンで掬いながら、即座に、そして断言した。


「内部は既に無人である可能性が極めて高いと判断します。」

「ほう? 根拠は?」

「籠城犯とされる半グレ集団のプロファイル、及びこれまでの行動パターンから分析するに、彼らが警察の包囲下で、何らの要求も発することなく、数時間も、冷静に籠城を継続できるとは考え難いかと。通常であれば、食料や逃走手段などの要求が、もっと早い段階であるはずです。 警察の包囲網が完成して以降、内部からの動きが完全に途絶えている現状を見るに、既に脱出していると考えるのが合理的です」


その、あまりにも冷静で、淀みない分析。

佐藤は、ただただ感心するしかなかった。


エミリアは、「そうよねぇ」と軽く頷くと、今度はリリアに視線を向けた。


「リリアさんは、どう思う? あなたも、ああいう『状況』には、少し詳しそうだけれど」


その言葉には、彼女の過去(家出中の活動)を暗に揶揄するような響きが込められている。


しかし、リリアは、その挑発には乗らず、優雅にサラダの最後の一口を口に運び、ナプキンで口元を拭うと、にっこりと微笑んで答えた。


「ええ、わたくしも、間違いなく無人だと存じますわ。 ふふ、わたくしも、しがない『家出中』の身の上ではございましたけれど、常に退路と『非常口』の確認だけは怠りませんでしたもの。 それは、生き残るための基本ですわ」


まるで、『令嬢のたしなみですわ』とでも言うかのような、あっけらかんとした口調。

佐藤は、彼女がさらりと口にした言葉の裏にあるであろう、壮絶な(?)経験を想像し、どう反応して良いか分からず、ただ困惑するしかなかった。


「…エミリア」


佐藤は、意を決して口を開いた。


「僕も、三人の意見を聞いて、無人なんだろうな、とは思うんだけど…。でも、それだけで断定するには、まだ根拠が弱いような気がするんだ。何か、もっと決定的な…」


彼の、常識人としての、至極まっとうな疑問。

エミリアは、それに気分を害した様子もなく、むしろ『仕方ないわねぇ』といった表情で、少しだけ考え込む素振りを見せた。


「そうね…。私たちは、健ちゃんよりも、ちょっとだけ、修羅場の経験値が高いから、阿吽の呼吸で理解しあえるところもあるけれど…。健ちゃんには、もう少し、具体的な説明が必要だったわね。ごめんなさい」


彼女は、そう言うと、テーブルの上に置かれた自分のタブレット端末を操作し、ライブ配信の映像を拡大表示させた。

その画面に触れることなく、美しい指先で、映像の一部を指し示す。


「まず、このライブ配信されている画面を見てごらんなさい。カメラは、マスコミのものだけど、建物の二階から三階あたり…つまり、犯人が潜んでいる可能性が高いとされるフロアを中心に映しているでしょう?」


佐藤は、言われるままに頷く。


「これは、基本的なセオリーね。地上の警察隊の動きや、屋上からの突入準備などを、犯人に知られないように、あえてカメラアングルを限定しているのよ」

「なるほど…」

「でもね」


エミリアは、悪戯っぽく笑う。


「今のカメラは性能が良いし、高解像度のライブ配信だと、色々な情報が見えてしまうものなのよ。…ほら、ここを見て」


彼女が指し示したのは、建物の壁に映る、街灯や、隣のビルの看板の光が作り出す、淡い影だった。


「この影が、ほとんど動いていないでしょう? これは、籠城している犯人や、もし人質がいるならその人たち、そして警察の交渉人との間で、何のやり取りも行われていない証拠よ。例えば、警官隊を後退させろ、とか、食べ物を要求して受け渡すとか、あるいは人質が解放されて歩いて出てくるとか…そういう動きがあれば、必ず、この影は揺らぐはずなの。それが、全くない」


佐藤は、その鋭い指摘に、思わず「あっ…!」と声を上げた。

言われてみれば、確かに影は微動だにしていない。


「それと、さっきリリアさんも言っていたけれど」


エミリアは続ける。


「裏社会が関わるような、こういう怪しげな建物はね、十中八九、警察のガサ入れ対策が施されているものよ。内部はわざと迷路みたいになっていたり、分厚い鉄の扉で区切られていたりね。そして、当然、警察に気づかれずに逃げるための『非常口』…隠し通路が、必ずどこかに用意されているわ」


リリアは、そのエミリアの説明に、優雅に紅茶(いつの間にか用意されていた)を飲みながら、肯定も否定もせず、ただ静かに微笑んでいる。


「だから、籠城した半グレたちは、きっと、店員を銃で脅して、こう聞いたはずよ。『おい、ガサ入れ用の抜け道はどこだ!』ってね」


エミリアは、まるで見てきたかのように断言した。


「…つまり」


佐藤は、エミリアの説明を整理し、結論を導き出した。


「籠城犯たちは、その『非常口』から、とっくの昔に脱出している…。もちろん、中にいたかもしれない違法風俗店の店員さんやお客さんも、全員…」

「そういうこと」


エミリアは、その通り、と頷いた。


「ライブ配信の情報と、私たちが持っている知識や常識だけで、これだけのことが分かるのよ。包囲している警察なら、尚更よ。きっと、スマートフォンやWi-Fiの電波状況、電気と水道のメーター、建物の外壁や排気口に設置した熱感知センサーの情報なんかを組み合わせれば、私たちよりもずっと正確に、『内部は無人である』と、とっくに判断しているはずだわ」

「な、なら、どうして警察は、突入しないの?」


佐藤には、それがどうしても疑問だった。


「ふふ、それはね、健ちゃん」


エミリアは、少しだけ皮肉な笑みを浮かべた。


「『万が一』っていう、魔法の言葉があるからよ。万が一、まだ中に誰か残っていて、万が一、突入して死なせでもしたら、誰が責任を取るの? 誰も取りたくないから、教科書通り、状況が完全にクリアになるまで、あるいは、世間の注目が薄れる時間まで、待つのよ」


彼女は、カップに残っていた紅茶を飲み干すと、続けた。


「まあ、おそらく、突入するなら、深夜か、あるいは明日の早朝じゃないかしら? マスコミも手薄になって、責任の所在が曖昧になりやすい時間を狙ってね。そして、『海外の類似ケースでは、慎重な判断が必要とされており…』なんて、もっともらしい言い訳を用意して、一件落着、ってところでしょう」


エミリアの、あまりにも冷静で、そして警察組織の体質を見透かしたような解説に、佐藤は、もはや感心を通り越して、少しだけ寒気を感じていた。

そして、テレビの画面に映し出される、真冬の寒風の中、ただひたすら、もぬけのであろうビルを取り囲み続ける警察官たちの姿に、深い、深い同情の念を抱かずにはいられなかった。


(…彼らも、分かっていても、動けないのか…。大変だな、警察官も…)


その隣で、エミリアは、どこか満足げに、次のデザート(小春さんが絶妙なタイミングで持ってきた、温かいアップルパイだった)に手を伸ばし、サスキアは新たな情報をタブレットで確認し、リリアは優雅な微笑みを浮かべたまま、静かに紅茶を飲んでいる。

オフィスの中と外で、全く異なる時間が、今日もまた、静かに、しかし確実に流れていた。


                    ***


西高東低の冬型気圧配置が続き、関東地方は乾燥した冬晴れの日々を送っていた。

しかし、その乾いた空気は、東京の片隅にある場末の歓楽街の一角では、異様な緊張感と、張り詰めた静寂を運んでいた。


深夜から未明にかけての時間。

かつては酔客の喧騒や、けばけばしい歓楽街の光で満ちていたはずの、違法風俗店が入る古びた雑居ビル周辺は、今、警察によって完全に封鎖され、物々しい雰囲気に包まれていた。

パトカーの赤色灯が無音で明滅し、バリケードが張られ、ヘルメットと防弾チョッキに身を固めた機動隊員たちが、凍えるような寒さの中、息を殺してビルを取り囲んでいる。


――籠城事件発生から、既に半日以上が経過していた。


内部からの応答は一切なく、人質の安否も不明。

状況は完全に膠着していた。

そして、夜明けが近づく頃、ついに捜査本部は強行突入を決断したのだ。


「…始まるな」


少し離れた場所に停められた覆面パトカーの中で、松田は、缶コーヒーを啜りながら、低く呟いた。

彼の目の下には、連日の捜査と張り込みによる深い隈が刻まれ、その表情は疲労困憊の色を隠せない

。隣の桜井も、同じように疲れ切った顔で、しかし緊張した面持ちで、固唾を飲んでビルの様子を見守っていた。

彼らは、第一発見者として、そして合同捜査本部の一員として、この結末を最後まで見届けるために、根性だけでこの場に残っていたのだ。


午前四時。

東の空が、わずかに白み始める、最も闇が深い時間帯。

現場指揮官の短い号令と共に、作戦は開始された。


バンッ! バンッ!


閃光手榴弾スタングレネードが、ビルの窓(おそらくは事前に破壊されていた)から投げ込まれ、夜の静寂を切り裂く閃光と轟音が炸裂する! 間髪入れず、重装備のSIT(特殊捜査班)と思われる隊員たちが、特殊な破城槌や道具を使い、一階の頑丈そうな入り口ドアを、轟音と共に破壊!


「突入!! クリア! クリア!」

「ゴー! ゴー! ゴー!」


怒号が飛び交い、黒い戦闘服に身を包んだ隊員たちが、シールドを構え、サブマシンガンやショットガンを慎重に構えながら、次々とビルの中へなだれ込んでいく! その動きは、訓練され尽くした、精密機械のような連携を見せていた。


しかし――。


「…応答なし! クリア!」

「二階、確保! 人影なし!」

「三階も同様! もぬけの殻だ!」


無線から飛び込んでくる報告は、松田たちの予想を裏切るものだった。

あれだけの騒ぎを起こしながら、内部からの抵抗は一切ない。

それどころか、人の気配すら全く感じられないというのだ。


隊員たちは、暗視ゴーグルとウェポンライトの光を頼りに、迷路のように入り組んだビル内部を、慎重かつ迅速に制圧していく。

受付、怪しげな装飾の待合室、狭く薄暗い廊下、そして、番号が振られただけの無機質な個室が、何部屋も、何部屋も…。

どの部屋も、鍵が壊されていたり、内部が荒らされていたりと、争った痕跡は生々しく残っている。

しかし、そこには、犯人グループの姿も、人質(と思われていた従業員や客)の姿も、どこにもなかった。

まるで、最初から誰もいなかったかのように、不気味なほど静まり返っている。


松田は、苦々しい思いで唇を噛んだ。

捜査本部で囁かれた『無人』の可能性。

その時は半信半疑だったが、現実がそれを証明しつつあった。


捜索は、地下へと及んだ。

物置として使われていたらしい、カビ臭く、埃っぽい地下室。

その一角で、捜索にあたっていた隊員の一人が、壁の一部が不自然に崩れているのを発見した。


「隊長! こちらに隠し通路らしきものを発見!」


懐中電灯で照らすと、そこには、隣のビル(おそらくは地下駐車場)へと続く、人がやっと通れるくらいの、粗雑に掘られた穴が、暗い口を開けていた。


「…やはり、逃走経路があったか…!」


さらに、別の場所…おそらくは、店の最も奥まった、従業員用の裏口に近いエリアだろうか。

そこでは、床板の一部が巧妙に外れるようになっており、その下には、地下の排水路へと繋がる、暗く、汚れた梯子が隠されていたのだ!


「こちらにも脱出経路を確認! 排水路へ繋がっています!」


二つの、全く異なる性質を持つ、しかし巧妙に隠された脱出経路。

これを使えば、警察の厳重な包囲網が完成する前に、内部の人間が完全に姿を消すことは、十分に可能だっただろう。


「……状況終了」


無線から、現場指揮官の、疲労と、隠しきれない徒労感の滲んだ声が聞こえてきた。


「人質、犯人ともに発見できず。建物内、完全にもぬけの殻。二箇所の脱出経路を確認。繰り返す、現場はもぬけの殻だ…」


その報告は、夜通し続いた緊迫した包囲と、満を持して行われた強行突入が、全くの空振りに終わったことを告げていた。

隣のビルの所有者は、案の定、「勝手に壁に穴を開けられた! 損害賠償だ!」と激怒するばかりで、捜査への協力は一切拒否。

排水路への追跡も、広大で複雑な地下網を考えると、絶望的だった。


松田と桜井は、顔を見合わせた。

その表情には、疲労困憊の色と共に、深い、深い虚脱感が浮かんでいた。

あれだけの騒ぎを起こし、警察組織を挙げて対応したにも関わらず、犯人グループはまんまと逃げおおせ、被害者(?)すら見つからない。

そして、野に放たれた『凶器』の行方は、依然として分からないまま…。


(…これが、現実か…)


松田は、白み始めた東の空を見上げた。

美しいはずの夜明けの光が、今はただ、自分たちの無力さと、裏社会の闇の深さを、皮肉なまでに照らし出しているように感じられた。

ローラー作戦も、聞き込みも、そしてこの突入作戦も、全ては無駄だったのかもしれない。


桜井もまた、固く唇を結び、険しい表情で、もぬけの殻となった雑居ビルを見つめていた。

彼女の瞳には、悔しさと、そして、この理不尽な現実に対する、静かな怒りの炎が燃えているようだった。


捜査は、またしても振り出しに戻った。

いや、むしろ、事態はさらに悪化したのかもしれない。

銃を手にした、凶暴で、そして狡猾な(あるいは、ただ運が良いだけの?)半グレ集団は、今、完全に警察の追跡を逃れ、東京のどこかで、次なる『悪意』を、虎視眈々と研ぎ澄ませているのだから…。

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