表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

06.会社

 ジョンとは血液を飲まれる以外の会話が無くなってから、一週間。遂に律の仕事が再開された。


 仮オフィスに朝6時に着くために朝4時に研究所を出る。以前のデータは殆ど消えており、また一から設定を始める。


「なぁ、相生。彼女でも出来た?」

隣のデスクの同僚が問いかける。律が首を傾げると、同僚は耳を指差す。

「ほら、左耳にピアス付けてる。前はそんなもん無かったよな?」

「ああ、これ…。いつ外せばいいかわからなくて。」

「いや、化膿してんだから、すぐ外せよ。」

「あー、でも…」

律が悩んでいると、同僚が顔を近づける。


「歳いくと傷の治りが遅く…って、お前首どうした?」

同僚が律の首筋にある吸血痕を見て、驚く。

「いや、俺の血しか吸えない吸血鬼がいて…」

「んな奴いないだろ!実在したとしてもそんなもん放っておけよ!」

「いや、なんか寂しそうだったから。」

同僚は信じられないといった顔をして、仕事に戻った。


時計が22時を指す頃、出勤初日ということもあり、全員が帰宅する。律も気が重くなりながら研究所に戻る。


「ただいま…。」

「おかえり人間。遅かったじゃない。どこ行ってたの?」

「仕事ですよ。」

ジョンはソファから、ふわりと降りると律を凝視した。


「それは、オレの空腹より大事?」

「お金とか…それに、俺が仕事しないと他の人が困りますし…」

燃える火のような目で律を覗き込む。


「ふうん。人間はオレよりも優先するものあるんだ…オレには人間しかいないのに?」

食料としての、とは分かっていても律を必要としてくれることに心擽られる。

「人間は黙ってオレに食べられてたらいいの!」

ジョンは律をベッドに組敷く。


「あの…これは…?」

「人間がオレを優先しないから、立場を分からせてやろうと思って。」

律の背筋が凍る。30歳になる今まで交際経験皆無であるが、今から何をされるのか、大体予想がつく。ジョンが律のシャツのボタンを開けていく。インナーを捲り、肌が露になった所でジョンが抱き付く。


「体は律なんだよなぁ…律の匂いがする。」

大して厚くもない胸板にジョンが顔を埋める。



 それからしばらく経ち、6月。早朝に仕事へ行き、深夜に研究所に戻り、その後にジョンに血液を飲まれ、犯される。会社とジョンの両方に生き血を啜られる、そんな生活に律の心身は限界を迎えていた。


「…ただいま戻りました。」

「おかえり、人間。今日はどうする?」

律は居住スペースのソファに座る前に蹲った。


「人間、どうしたの?」

「もう、止めてください…。俺を虐めて楽しいですか?」

「はて?私が人間を虐めていると?」

ジョンは人形のように、表情を崩すことなく首を傾げる。


「好きでも無いのに、毎晩抱いて…」

律が言い終わる前にジョンがテーブルを叩く。

「は?律の体なんだから、本来はオレを抱くはずなの。お前ができないから、オレが抱いてんの。」

ジョンは容赦なく律を掴み上げる。ベッドに投げ捨てると、馬乗りになって胸ぐらを掴む。


「ねぇ人間。オレはお前に存在意義を与えてやってんの。律になりきれないお前に価値を付けてるの。わかる?」

「そんな価値なら、要りませんよ。一瞬でも心が通じたと思った俺が惨めじゃないですか。」

律は左耳のピアスを外し、投げ捨てる。


「こっちはなぁ、30年も待った挙げ句、やっぱり戻りませんでしたー、なんだよ。こっちの方が虚しいわ。」

ジョンは律を殴ろうとして止めた。怯えきった茶の瞳が、胸を刺す。こんな顔の律を見たかった訳では無い。中身は違ったとしても、律の姿に慰められて過ごしたかっただけなのに。


「どこでミスったんだろうなぁ……」

ジョンは律の上から立ち退く。律はもう、どこにも居ない。帰っても来ない。その事実が突き付けられる。


「ねぇ、人間。明日の朝、いや昼に起こしてよ。」

沈んだ声でジョンは部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ