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02.美少年吸血鬼

 研究所へ案内される。健康診断の時に行った病院より山の方にあった。研究所というよりは小さな洋館で、かなりの年季が入っていた。


「ちょっと古いけど、どうぞ。」

見た目に反し研究所の中は、よくある古い個人医院みたいであった。全く人の気配がないが、廃墟ではなさそうだ。


「さっそくですが、いただきます。」

美少年に立ったまま抱き締められたかと思うと、首筋に鋭い痛みが走る。

「いたっ!」

律は美少年を振り払おうと身を捩るが、ピクリとも動かない。


「約30年ぶりの生血液…たまらん。」

律から離れたと思うと、美少年は口許に血液を付けたまま恍惚の表情を見せる。律は突然の痛みに混乱しながらも、その表情に目を奪われる。

「冷凍とは比べ物にならない。これだよこの感じ!」

美少年は舌なめずりをしながら、見た目通りの少年のはしゃいでいた。


「あの…」

「あ、失礼いたしました。居住スペースから案内しますね。」

律は疑問と痛み飲み込んで、その美少年に着いていく。白衣が風になびく姿はまるでドラマのワンシーンのようだった。


 「ここね。ここで相生さんには生活してもらいます。」

部屋の一室にはアパートに置いてあった物の全てが配置されていた。

「これ俺の部屋にあった…」

「不便が無いようにアパートから引き上げておきました。ご面倒が無いように、アパートの手続きも済ませておきました。」

何の悪びれも無く、美少年は答える。


「もしかして、俺の会社を爆破したのって…」

「あー、それ、私ですね。君が治験を断るから、原因を潰しておこうと思って。」

律は美少年から距離を取った。治験をさせるという目的に対して、取った手段が大げさすぎる。


「え?何かダメだった?」

「いや、ダメでしょ!」

美少年は首を傾げる。仕方なくとはいえ、この倫理観の人とやっていける自信が無い。生き血を啜るのが、会社からこの吸血鬼に変わっただけだと思ってやっていくしかない。

「そういえば、お名前って何ですか?」

「ん?オレ…あ、私の?えっと…何だっけ?」

美少年はその辺に落ちてた病院のパンフレットを読む。

「えっと、今は藤原静香ですね。」

「今は?」

「私、吸血鬼なんで、理事長が変わらないと怪しまれるじゃないですか?だから、理事長になる人に書類上で成り代わってるって訳。なかなか賢いでしょう?」

美少年吸血鬼はどや顔で律を見る。律は文字通り頭を抱えた。


「なんて呼べば良いですか?」

「うーん、いつもジョン・ドゥって呼ばれてたから…」

「ジョンさんで、いいですか?」

「どうぞ。」

「ところで、何の研究をされてるんですか?」

「ん、見ます?」

ジョンが廊下をてくてくと歩いて行く。律もその後を着いていく。なにか、幼少時代から忘れていた何かを思い出せそうな気がする。赤いカーペットになびく白衣。黒い髪から生える白い首。


 「ここ。」

ジョンが扉を開くと、正に研究室があった。奥にはハリウッド顔負けの培養液で満たされた人の大きさのガラス円柱があった。

「ほら、入って。ここで人間の復活の研究をしてます。不死と長寿は痛い目をみたから、復活再生に切り替えて…」

「俺、ここで産まれたんだった。」

思い出した。律が里親に引き取られる直前、この部屋を見たことがある。この匂い、この音、このガラス円柱、忘れていた記憶が蘇る。


「律…思い出した?どこまで思い出した?」

ジョンが目を輝かせて、律にしがみつく。

「俺はここで産まれた…けど、なんで?」

律がポロっとこぼした言葉で、ジョンの目の輝きが消える。律の服から手を放し、白衣のポケットに手を入れる。


「ま、最初はそんなもんか。そこまで思い出せれば上等か。」

「治験って、俺が産まれたときから…?」

「どっちかって言うと、実験。律のクローンに律の記憶がどこまで移植できるかって。」

ジョンは寂しそうに笑う。律は背筋に嫌な汗をかいた。

「まあまあ、律…いや、相生さん。30年のブランクが有るんだから、ゆっくり思い出せば良いですよ。」

いつの間にか背後に立っていたジョンが、律の背中を軽く叩く。


「クローンって…俺が?」

「記憶を埋め込んだクローン。思い出してくれれば、あの時の律ともう一度逢えるんだから。そしたら、人間の復活って言って良いと思うの。」

無邪気に笑うジョンをよそに、律は現実を受け入れられず、落ち込んでいた。

「皆、みんな、いなくなって、私を一人にして。唯一残ってくれたのが律だけだったし。」

ジョンは律の事などお構い無しに、業務用冷蔵庫を撫でる。


「それで、残った人のクローンを?」

律は信じられないといった表情でジョンを眺める。

「だって、寂しいんだもん。ずっと一人でさ。誰も私と一緒にいてくれない。」

「別の人に継がせればよかったのでは?」

「やだ。おんなじ人がいい。」

人間とはかけ離れた深紅の瞳は別のどこかを見つめていた。

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