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忍法 その7 新たなる野望


 「ぐぎゃああああああ‼」


 俺の太陽拳っぽい技によって陽光を浴びたキラーベアゾンビは一瞬で塵と化した。


 「邪悪、散滅すべし‼」


 俺は初代ジョジョっぽく決めて見せる。


 「しのぶ、今のは…?」


 キラーベアゾンビとの戦闘中に茂みに隠れていたりんが恐る恐る出てくる。

 胸には仔猫が抱っこされていた。


 「なーご」


 にゃんこも心配して俺に声をかける。

 安心しろ、俺の相撲は天下無敵。

 あの程度の獣ごときに遅れはとらぬ。


 「あれは…死んだ曽祖父ひいじいちゃんから習った悪霊退散のお呪いだよ」


 「本当…?」


 りんは意外にも食い下がってくる。

 しかし真実を話したところで村の小娘には到底理解出来まい。


 「ああ、本当さ」


 「ふうん…」

 

 りんは何か思う事があってか会話を打ち切ってしまった。


 気まずい。


 このふじわら巨根斎と言えども純真無垢な少女を騙すのは心苦しいものがある。


 「さ、村に帰ろう。マンモス草で薬を作ってあげるよ」


 「うん‼」


 りんは俺の提案に笑顔で答えてくれる。


 その後、俺とりんと仔猫は足早に下山した。実家に到着すると家の中には誰もいなかった。

 おそらく俺の両親はまだ畑仕事でもしているのだろう。

 俺はりんと仔猫を連れて納屋に向かうとマンモス草の花びらを毟った。

 肉厚な花弁は磨り潰し、残った部分を炒ってから乳鉢の中に入れて粉々に砕く。

 そして水と潰した花びらを入れて、さらに擂り粉木を使ってひとまとめにした。

 最後は団子状になったマンモス草を火で炙り、また潰して粉にする。

 攻撃力と生命力が一時的に上昇する秘薬マンモス・パウダーの出来上がりだ。


 匂いの方はどうかな?…臭ッッ‼‼

 

 一応は成功だな。

 俺は粉を油紙で包んでりんに渡した。


 「りんのお母さんにこれを飲ませてあげるといい。ちょっと苦いけれど、効き目は俺が保証するからさ」


 「うん、ありがとう…」


 りんは面食らいながらも薬を受け取ってくれた。

 空模様から察するに夕方も近いので俺は彼女を家まで送る事にした。

 例の仔猫は懐ですやすやと眠っている。

 人里の灯りがちらほらと見えてきたころ、不意にりんが俺に話しかけてきた。


 「あのね、しのぶ。私考えたんだけど、さっきのお呪い、あんまり使わない方が良いと思うな」


 ああ、俺の忍法の話か。

 所詮はガキの言う事だ。適当に流しておこう。


 「わかった。曽祖父ちゃんもあんまり人前で使うなって言ってたからな」


 俺はそのままりんを家まで送り届けた。

 

 後日、りんとその家族が一緒に俺の家に例を言いに来た。

 母親の病は根治したらしい。


 良かった、良かった。


 「村長、マンモス草を持ってきたぞ」


 やや話は前に戻るが俺はりんを助けた次の日に村長のところにマンモス草を持って行った。

 その時、村長は都から来たという商人(※前に鍋の具材になったのとは別の奴)と話をしている最中だった。


 「おお、しのぶ。よくぞ戻った」


 俺は村長にマンモス草を手渡した。


 「約束のマンモス草です。村長さん」


 「すまんのう。流石はしのぶじゃ」


 村長は鼻がひん曲がりそうな悪臭を放つマンモス草を受け取る。

 平皿の上に乗せていたが、もしかして食べるつもりなのか?

 食あたりを起こしても責任は取れんぞ?

 俺の心配をよそに村長は皿の上のマンモス草の匂いを嗅いでいた。

 常習性があるのかもしれない。


 「村長、こちらの若者は?」


 村長がマンモス草の芳香でトリップしていると商人が俺の事を聞いてきた。

 男は見るからに商人といった風情で、事細かく俺の事を観察している様子だった。

 まあ、この鋼鉄のボディと剛腕を見れば致し方ない事かもしれんが。


 「ああ、こいつはしのぶと言って村一番のわんぱく坊主じゃ」


 村長は俺の背中をバシバシと叩く。


 「腕白です」


 俺はサイドチェストのポーズを決めて商人にアピールした。

 

 見よ、この鋼のボディを‼

 お前が目にしているのは地上で最も新しい伝説だ‼


 俺はさらに背中を見せて両腕を上げ、これでもかというくらい背筋を膨張させた。

 まだ鍛錬が足りないので鬼の面は出せないが、後二年くらい経過すれが背中に鬼神が宿る事だろう。


 「何と素晴らしい‼彼なら毎年、都で開催される”力比べ大会”に出場すれば優勝できるのでは?」


 「ふむう…。確かにしのぶなら初出場で初優勝も可能だろうが…」


 村長は俺の顔を見る。


 (村長、そんな素晴らしい大会があるなら是非俺を出してくれ‼)


 俺は愛想笑いとばかりに背筋をピクピクと動かす。

 まだ俺は子供(13歳)なので両親と村の一番の有力者である村長の許可が必要なのだ。


 「しのぶ、お前の成長は実の孫の成長のようでワシも嬉しいのだがのう…」


 村長は気落ちした様子で深いため息をつく。

 俺と商人は村長の次の言葉を待った。


 「コイツはまだ十三歳だからのう…。残念ながら力比べ大会には出られんのじゃ」


 ‼


 その一言を聞いた瞬間、俺の脳天に稲妻が落ちた。


 そうだ。

 

 子供である事。


 それが今の俺のたった一つの弱点ウィークポイント…ッ‼


 俺は反射的に右に村長、左に商人を抱え込んだ。


 「ぐおおお…ッ‼しのぶよ、止めるのじゃッ‼」


 「そうですよ、しのぶ君。これは何というか、その…超痛いッ‼」


 気がつくと村長と商人の顔の色は紫色になっていた。

 だが一度、極まった関節技を解くという事は力士の俺にとっては敗北を認めるに等しい。


 「どうすればいい⁉村長、行商のおっちゃん‼オイラは殺戮武闘大会に出場したいッ‼」


 ぎりぎりぎりっ‼


 俺のヘッドロックは二人の脛骨を破壊へと導く死への前奏曲プレリュードと化していた。


 「ならば四年待て。四年経って十七歳になれば大会出場を認めてやろう‼」


 「しのぶ君。人間、時には我慢が必要ですよ?」


 ゴリゴリゴリイィィッッ‼‼


 村長と商人の首が歪な形に伸びて行く。


 「ありがとう!村長、行商のおっちゃん‼俺の活躍を天国から見守ってくれい‼」


 こうして俺は四年後の大会出場目指して修行の日々に明け暮れる事になった。


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