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忍法 その6 陽遁”天照化身”の術!


 「しのぶ、恐いよ…」


 後ろにいるりんが俺の腹の肉を掴んできた。どうせ掴むならせめて腰巻にして欲しい。


 シャドウビーストに騎乗するヘルライダーは俺たちの姿を確認するとすぐに襲いかかってきた。


 「ハッ‼肉塊に変えてやるわい‼」


 俺は先手を取って体当たりをぶちかます。


 「ぎえっ‼」


 シャドウビーストに直撃するも例の回復能力で即復帰。ヘルライダーも手綱を上手く操ってこちらに向き直る。


 (なるほど。騎乗しているのではなく騎手と馬が位置的に重なっているだけか)


 俺は一度の攻防で敵の特性を把握していた。

 先刻の戦法から察すするにシャドウビーストに対しては物理攻撃が無効なのではなく、限界を超えたダメージを受けると姿を維持出来なくなるのだ。

 おそらくはヘルライダーも同様だろう。


 「おっしゃああっ‼」


 俺は敵に至近距離まで接近し、張り手を見舞った。


 「鉄砲祭でござーい‼」


 そして相手の攻撃に関係無く張り手をぶち込んで行く。

 槍の穂先が掠ろうと、獣に食いつかれようとお構いなし。


 「打って、打って、打ちまくる!それがしのぶ様の電車道じゃーい‼」


 程無くして俺の一方的な猛攻の果てにヘルライダーとシャドウビーストは爆散した。


 「ガハハハッ‼ワシこそが海内無双の益荒男じゃーい‼」


 かくして俺は勝ち名乗りを済ませ、見事にモンスターを撃破した。


 だんっ‼だんっ‼

 

 ついでに四股を踏んで覇気を払う。まさに無敵だった。


 「しのぶ、大丈夫?」

 

 戦いの後に近くの茂みに身を隠していたりんが現れる。


 「ええ。大丈夫ですよ、りん。それよりそちらの小猫ちゃんは?」


 りんの側には仔猫がお座りをしていた。

 りんは俺に指摘されてそちらの方を向く。


 「え?」


 「にゃー」


 仔猫は愛嬌たっぷりな声でりんにすり寄ってくる。

 りんは突然の出来事に驚きながらも仔猫の頭を撫でていた。


 「知らない猫ちゃんだよ?」


 りんはよく懐いている仔猫を抱き上げた。

 まるで母猫に甘えるようにおとなしくしている。

 戦いの修羅と為った俺も思わず頬が緩んでしまったくらいだ。


 「りん。この子をここに放置しておけば先ほどのモンスターの中Mの餌食になるかもしれない。しばらく預かっていてくれないか?」


 俺は軽く頭を下げて頼み込む。

 村まで連れて帰ってマイニャンコにする予定だった。


 「うん‼」


 りんは満面の笑みで答えてくれた。

 この娘はおそらく善人なのだろう。猫好きに悪人がいるはずがない。


 (※実際はそうでもない)


 俺は後ろのりんを気づかいながら曽祖父が教えてくれたマンモス草が生えている場所に向った。


 「ついたよ、りん。これがマンモス草さ」


 俺は崖の近くに生えているラフレシアみたいな花を指さす。匂いも…何というかラフレシアだった。


 「臭いね」


 「にゃあああ」


 りんと仔猫は嫌そうな声を上げる。

 実際に何度かここに来ている俺も耐えきれないような悪臭だった。


 「さて、と。これを少し切り取って持ち帰ればいいんだけど…」


 そう言って俺は森の奥を覗き込む。

 悪意ある何かが俺たちに近づきつつあった。


 さああ…。


 木々をかき分けて大地を揺るがし、天を衝くような巨体が現れる。

 裏山の主。キラーベアだった。

 いやさ、その慣れの果てと言うべきか。

 全身をヘルライダーとシャドウビースに傷つけられて一度は死に瀕し、傷口から入った魔界の瘴気のせいで不死属性の魔物と化していた。


 (不味いな。りんとニャンコタンを庇いながら戦えるような相手じゃない…)


 俺は二人(※しのぶ基準では猫と犬は匹ではなく、人と数える)を庇いながら魔物の前に立ちはだかる。


 「ワシを相手に生意気な奴じゃのう…。命はいらんのか?ボケがあああ‼」


 俺はキラーベアのどてっ腹目がけて突進する。


 なぜなら俺の相撲道に退却という文字はない。前進・制圧・滅殺あるのみだ。


 だんっ‼


 「ぶはあっ‼」


 キラーベアゾンビはわすかにグラついただけでビクともしない。

 

 クソ、俺が大人ボディならこんな奴には負けないのに。

 俺は子供の無力さを思い知らされる。


 「どすこい‼どすこい‼どすこい‼」


 俺は何度も体当たりをするが敵はヘドロ臭い体液をまき散らすだけで一向に怯む様子は無かった。


 「こんな時はどうすればいいんだ…‼」


 俺はキラーベアゾンビの顔を破壊しながら苦痛に呻く。

 もう臭くて臭くて何も考えたくはなかったのだ。


 (こんな時に前世の俺なら忍術で…)


 俺が歯噛みしながらキラーベアゾンビの右腕をもぎ取っていると着物から巻物が落ちてしまった。


 (そうだ。今の俺には秘伝書これがあったんだ)


  俺は後ろ蹴りでキラーベアゾンビの胸に風穴を開けると距離を取った。

 そして巻物を読み上げる。…。ミミズがのたうったような悪筆だった。

 だが前世とはいえ俺の書いた字だから容易に読む事が出来る。


 「何々…不死系の魔物には光属性の術が有効だと」


 俺は巻物を口に咥えて精神を集中する。

 巻物を噛むのは前世からやっていた俺が集中力を高める時のルーティンだった。

 そして頭の中ですぐに術を構築して、同時に掌印を結ぶ。


 死者よ、黄泉路へと還れ‼


 「陽遁ふがふふふふっ‼天照化身のふひょふふふほふふッ‼」


 陰陽から始まる九曜聖句の秘儀、陽遁。転生した俺の術は如何ほどの物か、その真価が問われる


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