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忍法 その45 そして三回戦へ…

 

 「さて、コイツの処遇だが…」


 二回戦終了後、俺は気絶したとうたを連れて無人の医務室にいた。

 今は会場の選手入れ替えを行っているので人気も少ない。


 「う、うう…」


 逡巡している間にとうたが目を覚ます。

 俺は面倒事を覚悟しながらもとうたの話を聞く事にした。


 最低でも俺の正体の公表と今後の試合妨害だけはしないように約束しておかないとな。


 「貴様は…巨根斎」


 とうたは忌々し気な目で俺を見ている。


 「はあ。またそれかよ。言っとくがなお前が何と言おうが俺にはさっぱりわかんねえ話なんだ。大概にしとけよ?」


 俺はさも五月蠅そうに耳穴をかく。


 仮に飛天丸りん主馬とうたが共謀して俺に襲いかかれば厄介な話になる。

 ここは一つ、徹底的に惚けて”私はふじわら巨根斎ではありません”という主張を貫くべきだろう。


 クックック、これが汚い大人のやり口というものだ。


 「信じるものか…。そうやって善良な風を装い、人々を騙すのがお前のやり口ではないか…」


 とうたは身を起こして俺に言い返してくるが体力不足の為に動きが鈍くなっている。

 このままコイツをぶっ殺して井戸に捨てておくという手段もあるが何か良い方法は無い物か…。


 「私を洗脳して自分の手先にしようとしても無駄だぞ。お前の呪術は私には通用せん」


 とうたは親の仇を見るような目で俺を睨む。


 いい加減、前世の出来事なのだから忘れて欲しいところだ。

 俺はとうたの前に腰を下ろす。

 そして目線を合わせた上で奴に言った。


 「わかった、わかった。それでいいよ。だが一つだけ約束してくれ。大会の途中は俺の邪魔をするな。今の俺は大会で優勝する事しか眼中に無いからな」


 「馬鹿な…。貴様如きがこの王にでもなるつもりか」


 ”フソウの王”か。


 考えた事もないような話だが、今は殊更に興味が無い。


 「”王”ね。今のところそういうのは興味が無いぜ」


 俺は右腕を折って盛り上がった筋肉を見せる。


 「この力だけでどこまでのし上がれるか、それだけが興味の対象だ。言っとくがこれ以上、邪魔をしたらその可愛い顔に傷を作る事になるからな」


 俺は言いたい事を言った後、すぐに立ち上がる。

 おそらく銅主馬とうたと俺はどう足掻いても相容れぬ存在なのだろう。

 まあ次に会う時は試合じゃねえから命の保障はしないが…。


 「待て‼」


 とうたは起き上がって掴みかかろうとする。

 だが肝心の体力の方は全く回復していない。

 立ってすぐにバランスを崩し、倒れ込みそうになっていた。


 「ぐうっ‼」


 俺はとうたの前に回り込み、彼女の身体を支える。


 「放…せ」


 とうたは息も絶え絶えながら必死に俺の手から逃れようとする。


 「死に急ぐのは構わないが、俺の見てないところでやってくれや。俺はこう見えて女には…」


 ごすっ‼


 と言いかけたところで俺は背後からダブルライダーキックを食らった。

 先ほどの戦いで体力が限界に近かった俺はその場で転倒。俺を蹴りやがった二人の女はとうたの周囲を取り囲んでいた。


 「いいコンビネーションじゃねえか。りん、金糸雀姫よ。お前らなら今すぐにでも女子プロレスで通用するよ…」


 俺は首の後ろをさすりながら立ち上がる。


 糞が…いつも二人だけでご当地グルメを楽しんでいるくせにこういう時だけは登場が早いってどういうつもりだ。


 「しのぶ…。アンタ、私というものがありながらこんな人気の無い場所に女の子を連れ込むなんてどういうつもり?」


 ギロリ。


 りんは鬼も殺せそうな目つきで俺を睨んでいた。

 隣でとうたの怪我の具合を見ている金糸雀姫の眼差しも心なしか昏い物があるような気がする。


 「違うって‼何考えてるか知らねえが俺はだな‼ぐおっ‼」


 ガンッ‼


 反論した直後に俺は顔面に鉄球をぶつけられた。りんの銅遁の術だ。


 「りん、銅遁で鋏を作れ。この発情期の獣を去勢する必要がある」


 金糸雀姫はマイナス100℃くらいの瞳で俺を見ていた。


 とうたの全身に負った擦り傷や服の汚れ具合からして良からぬ事を想像していたに違いあるまい。

 

 誤解も甚だしい、今の今まで殺し合いをしていたというのにそんな気になれるヤツがいるか‼

 90年代のエロゲーじゃねえんだぞ⁉


 ガスッ‼――、という俺の魂のツッコミはスルーされて足蹴される始末だった。


 「大丈夫、とうたさん。この獣にへな事はされなかった?」


 りんは負傷したとうたを気づかって怪我の具合を診ようとしていた。

 だが予想通りというか、とうたは手を払ってそれを拒む。

 一見、初々しい女子同士のやり取りにも見えるが実際は反抗期真っ盛りの三十半ばのおっさんと十代後半の出来息子の当て擦りにすぎない。


 所謂『お父さん、大丈夫?』と『うるさい。お前には関係ない‼』ってヤツだ。


 「心配は無用だ、娘御。これでも人より…クッ‼」


 とうたは腕を抑えて苦しみだした。

 腕を酷使する忍術を使ったのだから当然の報いである。

 何のリスクも無しに人体強化など行えるはずもない。

 忍術もあらゆる呪術同様に呪詛返しの危険性というものが存在するのだ。


 「ハッ‼ざまあ無えな‼」


 前かがみになって苦しむとうたに向って俺は文句を言ってやった。

 コイツは会場に紛れ込んできた観客がいるのをお構いなしに忍術を使うような”人でなし”だ。


 「ちょっと‼そういう言い方は無いでしょうが‼」


 ぶんっ‼


 即りんの拳骨が俺の頭に突き刺さる。

 とてつもなく痛い。


 言っておくが俺もとうたとの戦いで半死半生になってンだからな‼


 「心配は無用だ…」


 そう言ってとうたは気絶してしまった。


 「はあ…。これは術の使い過ぎだな。しばらくはまともに動けんぞ?」


 金糸雀姫はとうたの額に濡れた手ぬぐいを置く。

 今はりんと交代でとうたの様子を見ていた。


 「そんな野郎、助ける必要があるのかよ?」


 俺は自分の腕に包帯を巻いていた。

 試合になれば外すつもりだが、休憩時間くらいは巻いておいても問題はあるまい。


 「しのぶ。間近で接して思ったのだが、こいつは紛れもなく転生した人間だ。我々の現状を紐解くにも味方につけた方が良いとも思わないか?」


 「けどよお…」


 俺はわざと主馬とうたの正体を知らぬふりをする。

 どうやら小金井伝馬カナリアの魔眼は前世で面識の無い人物の真意を覗く能力を持っていないという事が判明した。

 さらに条件は限定されて会話できる距離にいないと魔眼の硬化は発動しない。


 ククク…小金井伝馬、敗れたり。思わぬ報酬だわい。


 ガスッ‼


 俺が含み笑いを漏らしているとりんがまた頭に拳骨を落としてきた。

 今ので頭の傷が開いたらどうする気だ⁉


 「そういう気持ち悪い笑い方をしない‼とにかくとうたさんの話を聞くっていうのは私も賛成よ。もう戦いは終わったんだし、アンタもそれでいいでしょ?」


 りんは土で汚れたとうたの身体を拭いている。

 前世の親の介護とは、孝行息子の鑑だな。


 「わかったよ。好きにしろってんだ。その代わり、意識が戻ったコイツがお前らに襲いかかって来た時には流石の俺でも容赦しないからな」


 俺は立ち上がり、出口に向かう。

 用を足すついでに外の空気を浴びたい気持ちになっていた。

 次の三回戦までにはまだ時間の余裕もある。


 「どこ行くのよ、しのぶ‼」


 「お花摘みだ。…痛ッ‼」


 「お馬鹿」


 ちょっとしたジョークのつもりだったがりんから思わぬ反撃を食らってしまった。

 畜生め、男が小便をする時は「筋トレ」とでも言えばいいのかよ…。


 俺は外に出ると適当な場所で小便をした。

 ここは俺の住んでいた田舎ではなく、大都会のトヨタマなので色々と後で文句を言われそうだが一応はルールに配慮したつもりだ。


 「さて、戻るか」


 「お待ちあれ、しのぶ殿」


 「?」


 俺が会場に戻ろうとするとイヌイ某という侍に呼び止められた。


 「アンタはイヌイさんだっけか。俺に何か用か?」


 「しのぶ殿、先ほどの戦いは見事で御座いました。このイヌイたけとみ、感服しました」


 イヌイは俺に会うなり大袈裟に頭を下げる。

 熱戦の興奮冷めやらぬといった様子だ。


 「まあ今回は苦戦しちまったがな。それより将軍様の側近が俺に何の用だい?」


 俺はまずイヌイの周囲に気を配った。

 イヌイは礼節に通じた好漢だがダイゴ将軍に仕える武士だ。

 上司の命令一つで俺の首を獲りに来るだろう。


 「次の相手はとうた殿と並び天下の強者と称されるちけい殿だが、勝機はあるのか?」

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