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忍法 その42  奥義対奥義。伏虎蛇神激VS陽炎朱雀、一の太刀

 背中が熱い。

 

 銅主馬の”銅遁の術”を直に受けたのだから、それも止む無しだ。


 「あ、ありがとうございます‼」


 俺の下で難を逃れた三人は俺に礼を言う。

 主馬とうたの術の威力は凄まじく、今俺が動けばこの親子は猛火に晒されることになるだろう。


 (悪逆非道を信条とする俺が人助け、か。これも因果応報ってやつだな)


 俺は自省しつつ主馬の胴遁の術が収まるのを待つ。

 この分だと背中に火傷の跡が残っちまうかもな、俺が術を受けてからから数分後、ようやく主馬の術が解除された。


 「さ、行きな。もう会場まで降りてくるなよ」


 俺の忠告を聞いた後、親子三人はすぐに観客席に戻る。


 煙の先には小太刀を持ったとうたの姿があった。


 「耐えたか…」


 とうたは小太刀を鞘から引き抜く。

 その表情には一点の曇りもない。


 「大層な名前のわりには効かなかったぜ?丁度、肩が凝って困っていたんだ。むしろ感謝してえくらいだ」


 俺は軽く腕を回して虚勢を張る。

 実際は激痛を伴う熱さで脳がどうにかしてしまいそうだったが、弱みを見せるような真似はしない。

 これはあくまで俺が望んで進んだ道だ。例え志半ばで死んだとしても悔いはない。


 「さあ、続けよう…ぬっ‼」


 俺が話に夢中になっている間にとうたは一気に距離を詰めてきた。

 通路で戦った時に使った神出鬼没の歩法、縮地だ。


 そして俺の下腹に深々と小太刀が刺さっていた。


 「ったぞ、巨根斎」


 とうたは殺意の籠った瞳で俺を見上げる。


 「小細工しかできねえのかよ、お前は…」


 俺は刺さった小太刀を放さぬように腹筋に力を入れる。

 幸か不幸か俺の太鼓腹の分厚さは半端ないので刃は内臓を避けていた。そしてとうたの肩と首を掴み、持ち上げてから一気に叩きつけた。


 どうっ‼


 地面に転がされたとうたは受け身を取る暇もなく気を失いかける。

 そこに俺は容赦なく右足を振り下ろした。

 この世で最も無慈悲なストンピング、四股踏みだ。


 ずんっ‼


 直接当たれば顔面粉砕、とうたのファンには悪いがこれが勝負の世界ってモンだ。


 決して俺が醜男でとうたを妬んでいるとかそういう話じゃねえよ。


 「ぬうっ‼」


 とうたは芋虫のように横転しながら俺の蹴りを回避する。

 だが完全に回避できたわけではなく、蹴りを一度受けてから移動したようだ。

 その証拠にヤツの腕には俺の足跡が出来ていた。


 …やるじゃねえか、とうた‼


 「銅遁…」


 「おっとそうは行かねえぜ‼」


 俺はとうたが印を結ぼうとした瞬間を狙ってサッカーボールキックをぶちかます。


 ゴキリ。


 とうたの腕は嫌な音を立て、精悍な顔には苦悶の表情が浮かんだ。


 「う、腕が…」


 狙いは最初からこれだ。如何にとうたが巧みな忍術使いであったとしても掌印を結ばずに忍術を使う事は出来ない。


 「お、おおお…。よくも私の腕を折ってくれたな」


 「あの術は厄介だからな。封じさせてもらった」


 とうたは幽鬼のような目で俺を睨んでいる。これで術は使えないし、短弓も使えない。

 さて痩せ我慢がいつまで続くか…。


 「舐めるな。刃金忍法、人傀儡ひとくぐつ


 とうたは片手で掌印を切ると折れてしまった方の腕が何事もなかったかのように動き出した。


 「ぬうっ‼」


 とうたは脂汗を流しながら距離を取る。


 (”人傀儡”、俺の知らない忍法か)


 俺は用心しながらとうたから距離を取った。

 今のとうたは手負いの獣。安易に手を出せば殺されるのは俺の方だ。


 「しのぶ、人傀儡の術は糸で無理矢理、自分の身体を動かす術よ‼」


 天幕の方からりんの声が聞こえる。


 なるほど、操り人形よろしく自分の身体に糸をくっつけて動かす術か。

 流石は元・鋼の里の忍者。

 今、初めてりんに出会った事を感謝したぜ。


 「なぜ我が秘術の仕組みを知っている…‼」


 りんが前世のお前の息子だからだ。


 とうたは苦しみながらも両手で掌印を結んだ。


 「銅遁…赤熱剛腕の術」


 術を発動させた直後、とうたの折れた方の腕が真っ赤になった。

 銅遁を体内に流し込んで肉体を強化させやがったか。


 「雑魚は小細工が好きみたいだな、とうた。男なら体一つでぶち当たって来いや‼」


 俺はとうたに向って突っ込む。銅遁を纏ったからにはとうたの戦闘力は格段に上がったはずだが欠点も無くはない。

 その最たるものが…。


 「おらあッ‼」


 俺はとうたの帯を掴む。腕力だけで強引にヤツの身体を持ち上げてから地面に叩きつけた。


 「ぐおっ‼」


 とうたは背中から打ちつけられてうめき声を上げる。

 銅遁のような身体能力を底上げする術の副作用だ。

 肉体の硬化は自重の暴力的な増加と運動能力の低下を招く。

 今の奴は金属製のどん亀ってわけだ。


 「銅遁、赤漣裂波しゃくれんれっぱ‼」


 とうたはどうにか身体を起こすと片手で”火”と”水”と”風”の手印を切る。


 「斬り裂け‼」


 ぶわっ‼


 とうたがそう命じるとヤツの足元から生まれた赤い波が物凄い速さで俺に向って来た。


 ごんっ‼


 俺は地面を殴りつけて気合を入れ直す。


 「こんな小技が何だってんだ‼」


 俺は体勢を低くして構え、狙いをとうたに定めた。

 その先にはとうたの作り出した赤い波があり今にも俺の五体を切り裂こうとしている。


 「伏虎…」


 俺は全身の力を前方向に集中する。

 奥義「屠龍剣」が天を舞う竜を倒す技ならば、この技は大地を揺るがす大蛇を倒す技だ。


 その名も――。


 「蛇神激…」


 俺は中腰になって左右の腕を大きく広げる。


 伏虎蛇神激とは鶴翼の如く大きく広げた腕で敵を掴み、地面に転がす力任せの技だが通常のすくい投げと違うのは伏虎の構えを経由するという点だ。

 要するに力の”溜め”が必要なのだ。

 普通の状態ならばとうたレベルの相手には技の性質を見切られて使う事さえ出来ないだろう。

 だが、今のとうたは術の連続使用でかなり疲弊している。


 「目暗ましの小技とは言ってくれるな。ならば望み通り、秘奥義という物を見せてやろう」


 ぐっ‼


 胴遁の術で強引に修復した腕で印を結ぶ。


 あべこべに曲がった指、内部から赤く焼け爛れた肌。


 術者であるとうたの負担も相当な物だろう。


 「銅遁、灼熱の太刀」


 ずっ‼


 印を結んだ直後、とうたの足元から赤い剣の柄が生えてきた。


 「あれは…銅一族の宝剣”陽炎朱雀”…ッ‼」


 観客席からりんの驚愕の声が聞こえる。

 それもそのはず前世では銅主馬の死と共に消え失せた伝国の宝剣なのだ。

 おそらくは主馬は死ぬ寸前に他者の悪用を恐れて宝剣を自分の魂の中にでも封じていたのだろう。


 畜生、俺が力士じゃなくて剣士ならガラハドのアイスソードの如く殺してでも奪ってやったのに…ッ‼


 「私には現世において死んでもやり遂げなければならん事があるのだ。その為に貴様には死んでもらうぞ、ふじわら巨根斎‼」


 じゅっ…。


 握った途端にとうたの手が焼ける。振るう者は己が身をも滅ぼす魔剣か。


 「お前面白えよ…。俺とお前の必殺技、どちらが強いか勝負だッ‼」


 俺は両腕を左右に広げると一気にとうたに向って突き進んだ。

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