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忍法 その40 風雲急を告げる


 「優勝?まあ、俺が出るからには当然の結果だろうな」


 俺は得意気に答えて見せる。

 

 戦いで重要なのは努力の総量や才能の有無じゃねえ。

 終着点に対するイメージだ。ゆえに俺は常に最強の俺の存在を定義しつつ、修行を重ねてより現実に近い形でそれらを具現化させるよう努力している。


 ま、我武者羅な努力も嫌いじゃねえが。


 「しのぶ殿、貴方が強者の部類に入る事は、このイヌイ・たけおみも認めよう。だが世界は広い。今大会にはオオノキ・ろくろうた殿や”金剛武僧”ちけい殿が出場しているのだぞ」


 イヌイは真剣そのものといった表情で語る。


 ちけい、あの一回戦でやたらとフレンドリーに話しかけてきた破戒僧か。

 しかも金剛武僧とは御大層なあだ名を持ってるじゃねーか…。


 ちけいが只者ではない事は最初に会った時に分かっていた事だ。

 奴は呪詛返しを警戒して俺とやよい、とうたに真名を明かすような真似をしていたかだ。

 所謂、呪術のルールの一つで真名を知った者同士では一方的な呪殺は出来ない。

 ちなみに俺は基本この大会では肉弾戦メインで戦うつもりだから教えてやったがやよいの奴はちけいを警戒して現世の方の名前を教えてやっていた。

 つまり現時点ではちけいには転生者に対する一般的な知識があり、やよいは既に自分を縛る転生者に課せられた呪縛を解除しているという事だ。

 そして、これは俺の勘だがちけいは転生者ではない。

 おそらく誰かの差し金で転生者を探しているのだろう。

 

 全く、気忙しい事だ。


 「おい、イヌイさんよ。自分が負けると思っているようなヤツが優勝を狙えるような温い大会じゃねえだろ?」


 俺はイヌイを値踏みするような目で見てやった。

 なるべくイヌイの前では少し活きの良い若者を演じるのが妥当だろう。

 こちらを”世間知らずの若造”と侮らせておけば妙な勘繰りはしてこない。

 実はこういう飛天丸のような中途半端に勘が良い者のあつかいが一番厄介だったりするのだ。


 重用すれば小金井伝馬カナリアのように叛意を抱き、軽んじれば飛天丸のように躍起になってこちらの妨害に来る。

 来世まで付きまとって、俺に殺されない事をあいつらは感謝すべきだ。


 ちなみにこれは前世からの教訓な。


 「いや、その通り。己の強さを信じられぬ者に天下無双を名乗ることなど夢のまた夢だ。ふむ、しのぶ殿。私は貴方が気に入った。是非、折り入って話がるのだが…」


 そう言ってイヌイ・たけとみはりんと金糸雀姫の二人を見る。

 厄介払いをしろ、という話か。だがここでこの二人を外して話をしようものなら勝手に動いて俺の苦労がニ、三倍になるから却下だ。


 「悪いな。こいつらは村からついてきた俺のお目付け役なんだ。内緒話なんてしようものなら明日から首に輪をかけられちまう。話ならこいつらの前で頼むぜ」


 俺は片目を閉じながら苦笑する。


 りんと金糸雀姫は俺の対応に満足したようで、何も言ってはこなかった。


 「そういう話なら仕方あるまい。実はな、この大会には次期国王候補を選定する動きがあるのだ。無論、優勝者が国王候補になるわけではないぞ。優勝者のスポンサーが国王候補に挙がるという話だ」


 何か話が「拳奴セスタス」みたいになってきたな…。


 だがそうなると藩士の数向きが変わって来る。

 イヌイは自分の主がダイゴ将軍と言っていたのだ。

 つまり国内最大の軍閥の長であるダイゴ将軍が天下の趨勢をまとめようとしているのか?

 フソウ国が繁栄していた時ならまだしも、今の衰退の極みにあるフソウなんざゴミ糞だろ。


 「待て、イヌイとやら。それは妙な話だ。私は他国の人間ゆえ詳しい事情は知らぬが、アマヤス王は四十半ばと聞いてる。退位するには若すぎるような気がするのだが…」


 話の風向きが変わりかけたところで金糸雀姫が割って入って来た。

 金糸雀姫こいつは一応、赤龍国の姫君なので王族関連の情報に通じているという事か。

 後で少し聞いておこう。


 「左様、アマヤス様は隠居する若すぎる年齢だ。だが最近は王宮に引き籠って合議に参加する事も少ない。ゆえに確たる政敵の存在を認知していただいて政治に前向きになってもらおうというのが我が主の本音なのだ」


 イヌイは自信をもって断言する。

 無論イヌイ本人もそう思っているのだろうが、ダイゴ将軍という人物はそう思っているのかは怪しいところだ。


 「ゆえにしのぶ殿、是非とも貴公にはこの大会で優勝してもらいたいのだ。我らの側の参加者として」


 イヌイは真剣な眼差しを向ける。


 「待て、しのぶ。こいつらは宰相と将軍の諍いにお前を巻き込むつもりだぞ?」


 話を聞いていた金糸雀姫が怒りを露わにしている。

 俺自身、純粋な力試しの場として参加しているわけだから他者の私的な思惑が入って来ると不快に思うのも当然だ。


 だが…俺はあえてイヌイの誘いに乗る事にした。


 「いいぜ、イヌイさん。アンタの話を聞いてやろうじゃないか。謝礼は食い物でいいかな。何せ俺はトヨタマに来てから美味い物を食っていないからな」


 「しのぶ‼ちょっと安請け合いは止めなさいって‼」


 イヌイの提案を快諾する俺にりんが止めようとする。

 その手にはアメリカンドックっぽい食べ物が握られていた。


 馬鹿が、謝礼の下りはお前らへの嫌味だ。自分たちだけ美味い物を食いやがって…。


 「そうか、引き受けてくれるか。かたじけない」


 イヌイは俺の両手をがっしりと握ってから俺たちの前か消えた。

 奴の手の感触からしてかなりの剣の使い手である事がうかがえる。

 

 実は俺がくだらん誘いに耳を貸したもう一つの理由とは強者と戦う機会を得る為だ。


 「ご馳走を期待しているぜ」


 俺は姿を消したイヌイの方に向って手を振った。


 どげしっ‼


 突如として俺の裏脛に蹴りが入る。

 この小さな足は、金糸雀姫だな。


 「貴様は自分が何をしたのかわかっているのか?彼奴はお前を使ってオオノキ・ろくろうたや他の出場者たちを亡き者にするつもりだぞ⁉」


 金糸雀姫はかなり怒っている様子で俺にローキックを連打してきた。

 名前の通り、小鳥のような外見をしているので思ったほど痛くはないのだが中身は刃金の里の忍び頭を務めていた小金井伝馬なのでそれなりに痛い。


 「よっと」


 俺は背中と腰を持って金糸雀姫の身体を持ち上げる。


 「うわー!何をする!放せ、変態‼」


 金糸雀姫は手足をバタバタと振って暴れた。


 「あのな、金糸雀姫さんよ。連中が真っ白じゃないのは俺も承知してんだ」


 「何ッ⁉」


 「わかっていて協力するんだよ。もちろん連中の台本通りにうごくつもりはねえ」


 そう言って俺は丁寧に金糸雀姫を地面に下ろしてやった。


 「さて、二回戦はとうたか…」


 俺は背後からりんと金糸雀姫の罵声を浴びながら会場に向っ

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