忍法 その38 転生者たち
「ああ、その話ね。実は私、生まれれる前の記憶があって…」
「そういえば”ひてんまる”がどうとかって言っていたな…」
俺はりんに対して何も知らないような素振りを見せる。
実際は俺の前世の記憶は物心がついた時から戻っていて、りんの前世が何者であるかを知る以前から飛天丸と小金井伝馬との因縁はしっかりと覚えていた。
ついでに隙を見て殺そうとも思っている。
りんの事は憎からず思っているが、やはり前世で野望達成直前で台無しにされた恨みは忘れようにも忘れられない。
例の錫杖(※第一話参照)とてそもそも肉体と霊魂を分離させて不死身化するという超高等忍術を駆使した末なのだ。
…いや反省しよう。舞い上がってガンガン叩きつけたのはどう考えても俺のせいだ。
「うん。私は刃金の里で生まれた銅飛天丸っていう男の子だったんだけど、ある日私の国の御殿様の先生が…」
話を要約すると、刃金の里の領主の顧問を務める坊主が娘の自分の病の治療をする為に俺(※ふじわら巨根斎)を頼ったというのが俺と飛天丸の因縁の始まりだ。
当時の俺は国内の主要五、六か国を攻略して念願の秘宝がある刃金の里への進行の計画を準備をしていた。
そんな時に刃金の里の坊主が娘の病で悩んでいるという話を俺は部下から聞かされた。
俺はすぐに刃金の里にスパイを送って坊主の娘が患った病が流行するという悪評を流し、坊主が俺を頼らざるを得ない状況を作ったわけだ。
後は符水(※水薬みたいな物)と妙薬と偽って娘を洗脳し、女を通じて坊主を洗脳したわけだが…裏で暗躍する俺の存在に気がついたクソがいたわけだ。それが…。
「私の(前世の)お父さん、銅主馬は清田和尚の変容は薬師だという事を見破り、単身で薬師の本拠地に乗り込んだわ…」
そこでりんの表情に影が差す。
そう銅主馬は俺が呪殺したのだ。
無論、後悔はしていない。
こちらは手勢五十人を殺されたわけだからな。
主馬のガキが、逃走の余地を与えてやったというのにムキになってかかってきやがって。
俺の中で当時の記憶がリフレインして怒りが沸々と湧き上がってくる。
「しのぶ、アンタの事だから私の為に怒ってくれているんだろうけど、私は大丈夫だから気にしないで」
テメエのそういうところが嫌いだ‼飛天丸うううううッッ‼‼(※リディ・マーセリスがバナージに切れた時っぽく)
俺は鋼の意思で怒りを堪えた。
「ぷっ、wwwwwww…ッ‼」
りんの隣では全ての事情を知っている金糸雀姫が袖で口を隠して笑いを堪えている。
いずれテメエも殺す‼小金井伝馬ああああああッ‼
はあはあ…俺の葛藤など露知らず、りんは自分の前世にまつわる話を続けていた。
「その薬師ってのが、前に話したふじわら巨根斎ってヤツなのよ。アンタが使っていた陰遁っていう危険な術を使う超悪いヤツ。で、話は戻るけど、私のお父さんはふじわら巨根斎に戦いを挑んだんだけど負けちゃったんだ。お父さんのお葬式の後、お母さんがふじわら巨根斎に戦いを挑んだんだけど返り討ちに会って…」
林はりんは寂しそうな顔をしながら両親の死について語った。
前にも言ったが飛天丸の母は俺の娘だ。
戦う前に懐柔しようと話し合いの場を設けたが、いきなり俺に斬りかかってきたので返り討ちにしてやった。
悪い事をしたとは思わない。
子供とは親の手元を離れた時から他人以下の存在となる。
肉親を大切に思うなら伊鶴(※飛天丸の母親の名前)は刃を収めるべきだったし、おれと叩けばどうなるかくらいはアイツ自身がよく知っていたはずだ。
まあ、墓くらいは作ってやったが。
「その事がきっかけで私はお父さんの師匠に弟子入りして忍者になったのよ…」
「お前も苦労してんだな」
俺はいつもの風を装って話を聞いていた。
一時期は飛天丸を引き取って別の親類のところで暮らしてもらおうかと当時は考えたが、飛天丸は自力で戦う事を選んだ。
まあ、この辺は俺の血筋のせいなんだろう。
りんは俺を倒した後、ちづる姫と共にアジトを脱出する際に小金井伝馬と遭遇するところまで話すと黙り込んでしまった。
まあ、邪神が降臨とか突拍子も無い話が続くわけだから仕方ないだろう。
「つまらんぞ、りん。そんな話は私も知っている。お前の言いたい事とは何だ?」
欠伸をしながら聞き役に徹していた金糸雀姫が不機嫌そうに話の骨子について尋ねた。
「うん。実はこの大会の出場者に、私と金糸雀姫以外の生まれ変わりの人がいるって気がついたのよ」
…多分、俺の事じゃないだろう。
そうであって欲しいところだ。
「私とお前以外にだと?」
金糸雀姫が驚いたような様子で尋ねる。
普通に考えれば転生など滅多にお目にかかれる出来事ではない。
むしろ俺とりんと金糸雀姫がこうして巡り合った事に作為的な物を感じる。
そしてあの自在が絡んでいるのだから偶然にしては出来過ぎているという感覚はある。
「うん。はっきりととは言えないけど複数人はいるって感じになるのかな…」
ふむ。
そのうち二人は自在と俺だな。
自己申告か、金糸雀姫のように魔眼でも持っていなければ見破る事は出来ないだろう。
ちなみに俺も魔眼持ちだったのだが、飛天丸の母親である”伊鶴”が命と引き換えに潰した。
恨み?…あるに決まっているだろう。
「だからしのぶにも気を付けて欲しいの。私の前世で知っている人なら大丈夫だろうだけど、ふじわら巨根斎みたいな大悪人だったら危険だから」
りんは心苦しそうに呟く。善良なりんの事だから、自分の運命に他者を巻き込んでしまった事に対して罪悪感を覚えているのだろうが…その張本人が俺だ。
「わかった、わかった。俺は前世なんか信じていないけど(※嘘)その何Tか斎とかいうのに会ったら頭突きをぶちかましてやるよ。俺の身内には手を出させねえってな‼」
俺はいつものように快活な返事をした。毎日、
頭突きのトレーニングは欠かさないので嘘は言ってない。
「しのぶ…」
りんは俺の側まで来て、両手を握る。
そして俺の顔をじっと見つめながら言った。
「アンタはいつも後先の事なんか考えないから心配なのよ。年下なんだから遠慮なく私を頼ってね」
そう言って俺に抱きついてくる。
俺は苦笑しながらりんの頭を撫でてやった。
「しのぶー‼探したぞー‼」
その時、会場の方から大きな杖を持った際どい巫女装束を着た女がやって来た。
袖なしの白い着物、やたらと丈の短い緋袴。
もうコスプレ風俗の匂いしか感じられない衣装だった。
「…誰?」×2。
りんと金糸雀姫は声おW揃えて俺の方にジト目を向ける。
声の主は自在、今はやよいと名乗っている少女だった。




