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忍法 その2 飛天丸じゃなくてお前が転生するんかい‼


 人の子よ、目を覚ましなさい…。


 何処かから声が聞こえる。

 それは会った事も無い母親なのか彼に知る由も無かった。


 「俺は…死んだのか?」


 男は肉体とあたりを見回して己の周囲の状況を確認する。

 身体に傷はない。敵の気配もない。

 まるで雲霞の中にいるようだが、記憶を辿る限りでは心当たりのない場所だった。


 「ここはあの世というやつか?」


 「そうだ。ここは外法の世界、天国とは違うぞ?」


 「俺に何用だ?」


 男はi印を切って武器を召喚する。時空間に干渉する忍術もまた彼の得意とする分野だった。

 次の瞬間、男の手には小刀が握られいた。

 破邪の力を持った霊刀”鬼人力きじんりき”、この男がもっとも頼るとする武器である。


 「おお、恐ろしい。その髪をも殺す武器を引っ込めてくれないか?お主にとっては悪い話ではないぞ」


 目覚めた男の前に突如として巨人が現れる。

 背丈は十メートルくらいはあろうか。いずれにせよ常識の範疇では考えられない存在だった。


 「ならばさっさと俺を元の場所に返せ。俺にはやたねばならない事がある」


 男は奥歯を強く噛み締める。


 屈辱だった。


 若き日より待ち望んだ千載一遇の機会を、あのような小僧に邪魔されたのだ。

 許されても良い所業ではない。


 「だがな、人の子よ。お前の住む世界は我々の同族によって滅ぼされてしまったのだ。邪神チンチンカユイカユイの力でな」


 「何だとっ‼」


 男は想定外の事態に驚きを隠せない。

 万が一の為に多々な策を講じて万全の備えで決戦に応じたのだ。


 否、邪神という規格外の存在を意のままに操ろうと考えていた事に慢心があったのかと肝を冷やす。

 いずれにせよ、これで男がこの世に存在する意味が一つ、減ってしまった事に違いない。


 「チンチンカユイカユイは神の仕事をしながら邪神イーツの副業までやっていたからな…。アレはブラックバイトだと私が散々忠告してやったというのに、全く」


 「バイトテロで世界が滅んだというのか⁉」


 「如何にも」


 神っぽい存在は両腕を組みながら頷く。

 この瞬間、男は神に対して激しい憎悪を抱いていた。


 「それで私に何をしろというのだ?私、このふじわら巨根斎は御伽噺の主役のような真似はせんぞ?」


 ふじわら巨根斎は怒り心頭を発し、断固として承諾せぬという様子を隠さない。

 悪には悪の矜持があるのだ。



 ――というか転生したのお前だったんかい‼


 「今回は神界こちら側の不手際で世界が滅亡することになったからな優秀スキル付きで転生させてやろう。さあ、選べ」


 「…ッッ‼」


 まさかの「小説家になろう」展開にふじわら巨根斎は愕然とする。


 「ほざけ。そのような申し出はこのふじわら巨根斎にとっては侮辱以外の何物でもないわ‼さっさとどこぞ地獄に連れて行け!」


 「そんな事を言うなよ。ハーレム展開もおまけするからさ」


 「ぬがあああっ‼何がハーレム展開だ‼そんなもんはいらん‼」


 「お前にだって制に未練くらいはあるのだろう?」


 そう言われてふじわら巨根斎は一瞬だけ考える。


 生への執着心、確かにある。

 世界に存在する全ての忍術を極めて、唯一無二の神となる。

 そういった野望を持っていた。


 「わかった。私とて人の子、若造に邪魔されて消えてしまっては死んでも死に切れぬというもの。その話に協力してやろうか」


 「オッケー!んじゃ、この書類にサインお願いねー」


 神はiPadっぽい機械をふじわら巨根斎に渡した。


 ふじわら巨根斎は構文をしっかりと呼んでから最後にサインを書いた。

 途中、上手く行かずに時間を費やしてしまう。


 タッチパネルとはやはり相性が悪い。


 「アレ?スキルいらないの?勇者とかあるよ」


 「これでも悪の軍団を率いる首領だ。腐っても善人の真似事など出来るか」


 「へえ。じゃあ【快便】のスキル入れとくね。便秘が悩みなんでしょ?」


 …。


 なぜそんな事を知っている、という言葉が出かかったが我慢した。


 相手は神、人界のルールは適用されまい。


 「うむ。それは何というか、任せた」「それじゃあ、そろそろ転生の時間に入るから。目を瞑ってね」


 「…」


 あまりのノリの軽さにふじわら巨根斎は一抹の不安を覚える。

 この調子ならば手違いでガガンボに転生させられてもおかしくはないという状況だった。


 (流石に風圧で身体が四散する昆虫はなあ…)


 とふじわら巨根斎が考えている間に転生の術は始まっていた。

 足元に見た事の無い曼荼羅絵図が広がり、ふじわら巨根斎の魂は取り込まれる。

 そこで意識が消え去る前に一つの疑問を口にした。


 「ところで私を倒した若造はどうなった?」


 「ああ、銅飛天丸君?彼は…あれれ?同じ世界に転生するみたいだね」


 …不安が的中してしまった。

 このままでは前世と同じ展開になる確率がかなり高い。

 ふじわら巨根斎はダイソーでスティックのりを買ってしまった時と同じような焦燥感にかられながら天性の術を中断するように言う。


 「待て‼チェンジだ‼アイツと同じ世界は止めてくれ、頼む‼」


 曼荼羅方陣を取り囲む光の壁を必死に叩く。

 だが聞こえていないのか、それとも聞こえていないふりをしているのか定かならぬが神はニッコリ笑って手を振っていた。


 「頑張ってねー」


 「うおおおおおっ‼やり直しを要求するううううッ‼」


 かくしてふじわら巨根斎は異世界に転生する事になった。どうなることやら…。

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