忍法 その33 決着 絶奥義 伏虎屠龍剣
こっちが正当続編、
「待ってたぜええ。この瞬間をよ。お前みたいな用心深い奴は止めを刺しきったと確信した時にしか隙を見せねえ…」
しのぶはさとしの足首を両手で捻じる。
だがカブトムシのっさとしの足は頑丈なうえに甲殻で覆われている。
如何に怪力無双を誇るしのぶといえども、金剛不壊のさとしを破壊するのは難しい。
「甘いな、小僧。俺の五体はそれぞれが要塞。弱卒の貴様ではどうする事も…」
ごりっ‼
その時、さとしの足と足首から異様な音がした。
さとしは自身の肉体の変化に愕然とする。
足と足首の骨が一体化して思うように動かないのだ。
「これは…ッ‼やってくれたな、しのぶ‼」
げしっ‼
さとしはしのぶの利き腕に蹴りを入れて関節技から脱出する。
さとしの骨はどこも折れてはいない。
しかし払拭しがたい違和感がさとしの追撃を認めなかった。
「骨を折ったりよ、筋を切ったりするだけが関節技じゃねえんだ。骨を接ぐのも立派な関節技だぜ」
しのぶは口内から血の塊を吐き捨てる。
当初の作戦は功を奏した。
さとしの油断を誘い、関節を固定する事で二の手を封じる。
生きた難攻不落の要塞であるさとしを倒す為には、まず彼を動かす必要があったのだ。
「読まれていたか。俺の全ての技が足運びから派生している事実に…」
「らしくねえ失敗だったな、さとし。お前の師匠はキリギリスさんなんだろ?じゃあ足からも出しているわけだ、その音をよ」
しのぶはさとしの足を守る脚甲を指さす。
先ほどの骨接ぎで隙間を失った甲殻はさとしの発する音の弾丸で見事に砕けていた。
さとしは自爆したのである。
「よく考えてみればよ、お前みたいな鉄の塊がどうやって助走も無しに動いていたかって話になるんだよ。規定上に空を飛べば反則負けだしな。まさか音の加速装置とはな…」
さとしは超重量の自身の装甲を音を使って動かしていた。
それは実際には小指程度の力かもしれないが怪力無双のさとしともなれば比類なき戦力となり得る。
「フッ。正確には”音”ではない。微細な震動だ。これで俺の手の内は全て明かしたぞ」
さとしは丹田に力を込めて溜め込んだ気を解き放つ。
銀色の甲殻は燃えような朱紅に変わり、その姿は「リーンの翼」のアッカナナジンのように…ってわかる人いる⁉…。なっていた‼
(許せ、師よ。俺はここで奥義を使う。秋の昆虫コンサートに出場するのは無理かもしれん…)
さとしの戦う理由、それは森の昆虫たちの為にコンサート会場を作ってやる為だった。
「ここから先は地獄への片道切符だ。わかっているな?」
さとしは頭部の角に意識を集中する。
甲殻が膨張し、幾重もの筋が入る。
「ぬうっ‼」
角の内側から刃が飛び出した。
体液が零れ出汁、さとしの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
これは禁じ手だった。
「この技を見て生き残った者はいない。スズメバチのシューマッハとて命を落とした。果たしてこの技を食らってお前は生きていられるのか、しのぶ‼」
絶技”神々(ゴッズ)の鎮魂歌”。
さとしの隠し武器である牙角を解放し、全出力を持って敵を一刀両断するさとしの最終奥義である。
ただの突進技ではあるがさとしは蜂並みの動体視力を持っている為(※さとしの顔は人間だが、眼球は複眼)、会費は非常に困難を究る。
「これでは流石のしのぶ殿でも生きてはおられぬまいて…」
ちけいはしのぶの生存を神に祈る。
彼のよう比類なき強者にとっては自分を脅かす強者の存在は得難い物だった。
「あの小僧もここまでか」
ちけいの近くで観戦していた小太刀の使い手、とうたも目を伏せる。
「ハッ。妾のしのぶを侮るでないわ。あの程度で死ぬような男ではない」
前世からしのぶをよく知るやよいは余裕を含んだ笑みを見せる。
しのぶ、即ち前世においてふじわら義人と呼ばれた男は超常の力を得んが為にあらゆる苦行に耐えた。
生まれついて超常の力を有する自在の肉親たちでさえ死ぬような苦行を生き抜いたのだ。
その男がこの程度の試練で倒れるわけがない。
其は願望に非ず、――確信だった。
しのぶは全身の力を額の一点に集中した。
岩壁を相手に何Dも打ちつけることによって鍛えられたしのぶの額は何よりも硬い。
妄信にも似た思いを胸に身体を定位置に構える。
その姿は土下座に似ているが本質はまるで違う。
”虎”だ。
天の王者を地に落とさんとする地上の獣の構え、いまのしのぶがまさにそれだった。
「極奥義…伏虎」
ずん!
しのぶが地面を鉄槌の形で軽く叩くと地面が揺れた。
拳の威力ではない。
大地と一体化することにより、その力を己の物としたのだ。
「死ねい‼」
先に仕掛けたのはさとしだった。
その翼で空を蹂躙する。旋風を纏いて、大気を切り裂いてしのぶを両断せんと襲いかかる。
最強の矛と矛がぶつかった。
ガギンッ‼
「ぬぐっ‼」
砕け散るさとしの角。
だがしのぶとて無傷ではない。
額が斬り裂かれ、大出血していた。
「さとしよ、これで終わりではないだろう?」
しのぶは嗤う。
額から滴り落ちる血を舌で掬い、己の血の高ぶりを実感する。
「俺はさとし‼昆虫王者さとしだあああああッ‼」
折れた角でさとしは空中から突進した。
しのぶは笑う。
別離の笑顔だった。
「屠龍剣」
しのぶは”伏虎”の構えから直上に頭突きを放つ。
どうっ‼
今度は会場全体が揺れた。
しのぶのいた場所は大きく窪み、しのぶの脚力の凄まじさを物語る。
そして両雄激突。
ぐしゃあああああッ‼
さとしは頭蓋を砕かれ、堕天する。
「この、俺が…」
さとしは額から地面に叩きつけられ、気を失う。
そのすぐ後、しのぶが着地した。
「どうやら石頭比べじゃ、俺の方が一枚上手だったようだな」
しのぶ、会心の勝利。
かくして大会は主催者の思わぬ方向に転がる事が確定した。
フソウの国に嵐が来る‼




