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忍法 その32 しのぶ死す⁉迫りくる圧倒的危機‼


 国王直属の近衛兵の頭、ツヅキときおはしのぶとさとしの戦いを冷静に見守る。

 

 この力比べ大会という物は彼に言わせれば、主催者の為の出来レースに過ぎない。

 現にシード権を持つ本戦出場選手オオノキ・ろくろうた(※漢字表記だと大野木六郎太)には既に多額のかけ金が集まっていた。

 国政の懐事情を知る者なら周知の事実だが、オオノキ・ろくろうたが国内有数の実力者である事もまた事実。

 かく言うときおの力を以てしてもオオノキを実力で排除するのは難しいと自覚している。

 だが主催者側の悪しき目論見は破綻しつつある。


 (おそらくはあのさとしという男は親王派の誰かが送り込んできた戦士だろう。だがもう一人の青年、彼は違う…)


 ときおは固唾を飲んで戦いを見守る。


 しのぶとさとしの戦いは、さとしが奥の手を披露とした事で新たな局面を迎えつつあった。


 「好機チャンスだと?吠えるな、仔犬。俺は既に己の勝利を確信している」


 さとしは両腕を使って舞踊のように空を薙いでいた。

 彼の使う秘技”斬殺夜想曲リッパーズノクターン”は攻防一体の技で準備動作さえ攻撃であり、防御の構えでもあった。


 「クックック。この構えに入ったが最後、俺の攻撃は止まらん。諦めて死を選べ」


 さとしは両腕を十字の形に組んで不敵に笑った。


 「フン。こんなかすり傷でいい気になるんじゃねえぞ、ゴルアァッ‼」


 しのぶは助走をつけてから空中に飛び上がる。

 

 狙うはさとしの顔面。

 

 超重量の飛び足刀蹴りをお見舞いする。


 がんっ‼


 さとしは飛び蹴りを正面から受けて仰け反る。

 だが鋼に匹敵するさとしの肉体にダメージを与えるには至らない一撃にすぎなかった。


 「ぬうっ⁉」


 しのぶはさとしの首力の強さに驚嘆する。

 飛竜をも一撃で屠るしのぶの剛力をもってしてもさとしの首は健在だった。

 それどころか蹴りを顔面で受け止めながら余裕の笑みさえ浮かべている。


 「わかったか、坊や?これが”世界”だ」


 さとしはそう言うとしのぶの右足首を掴んだ。


 「こなクソォォッ‼」


 しのぶは残った左足で何度もさとしを蹴るが目立った効果は無い。

 やがてしのぶの抵抗が一瞬止まった時にさとしはしのぶの足首を掴んでいる右手に力を入れた。


 「さてと。ここからは我慢比べだ。せいぜい死なないでくれよ?」


 ぶぉん…。


 さとしはしのぶを金槌のように持ち上げ、地面に叩きつけた。


 ガシィッッ‼


 しのぶはロクな受け身も取れずに後頭部を叩きつけられる。

 たった一撃で常人ならば走馬灯を拝めるほどの威力だった。


 「全然効かないな…」


 しのぶは鼻血を流しながらさとしを睨みつける。

 

 意識は混濁し、視界不良。いつ気を失ってもおかしくはない状況でしのぶは虚勢を張った。


 「流石だ。じゃあ後これを十回ほど続けるが…問題は無いな?」


 しのぶはさとしの恫喝を鼻先で笑った。


 「クソ食らえだ」


 がんッ‼


 再びしのぶは持ち上げられ、地面に叩きつけられる。


 がんッ‼


 後頭部から夥しい血が流れ、地面を赤く染めた。


 がんッ‼


 しのぶの目から光が失われたが口元はまだ笑っている。

 さとしは残りの七回に渡る追撃を自動式の機械のように続けた。


 「…最後だ」


 がんッ‼


 事が終わった後、しのぶはボロキレのような姿になっていた。

 全身にこびりついた赤黒い模様が痛々しい。


 「しのぶッ‼」


 観客席からりんの悲痛な声が上がる。

 その手には売店でフライドポテトとチキンナゲットが握られていた。


 「大丈夫なのか、あの馬鹿は…」


 金糸雀姫はチョコクレープを食べながらが顔面蒼白と為る。

 もはや階下のしのぶに意識は無く、死体同然の姿となっていた。


 (まだバナナクリームの方を試していなかったというのに…)


 金糸雀姫はこの時、しのぶの心配よりも売店のスイーツを完全制覇していなかった事を悔やんでいた。

 土台、転生などという生命の尊厳を玩弄するような体験をしてしまった者は「一回死んでもどうせまた転生するんだろ?」程度にしか考えていなかったのだ。


 ざりっ。


 しのぶの頭部近くにさとしは歩みを進めた。この戦いに終止符を打つべく儀式を執り行う為である。


 「なかなか頑張ったな、坊や。武人としての最低限の礼儀だ。頭を潰してやろう…」


 さとしは足を振り上げてしのぶの額に狙いを定める。強者の戦いの決着とは互いの健闘をたたえ合う事ではない。

 

 確実な死を与える事こそが至上の礼儀だった。


 「死ね」


 さとしは無情のままに踵を振り落とす。

 

後は額が砕けて脳漿が飛び散るのみ。

勝利とは永遠の別離であり、栄光とはかけ離れた代物。


 さとしは生まれついての強者だった。


 ぐっ‼


 その時、しのぶの両手がさとしの右足を掴む。


 「⁉」


 さとしは信じられぬ物を目の当たりにして刮目する。


 「放せ‼往生際が悪いぞ、しのぶ‼」


 さとしは右足を振ってしのぶの拘束を逃れようとする。

 だが無意味かつ無駄の極致。

 鍛えに鍛えたしのぶの腕力は捕らえたものを決して解放する事は無い。

 先ほどのさとしに勝るとも劣らぬ力でさとしの足を握り続けた。


 次回、決着為るか⁉


飛び蹴りから自爆。ストンピング失敗から逆転。格闘マンガの王道ゆえ。

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