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忍法 その24 予選バトルロワイヤル開始‼


 「しのぶにもあげる」


 りんは俺とたかむねにりんご飴を渡してきた。

 りんごを一個まんま蛇腹状に切ってあるティックトックなどで話題のお菓子だ。


 「これが噂のツイスターりんご飴というやつか。どれお味の方は…」


 ぱくり。


 甘い。

 砂糖の甘さとリンゴ独特の爽やかな甘さが交互にやって来る。

 さらに飴細工と果物の食感、りんごが些か食べにくいがそこは気合でフォローする。


 総評、りんご飴だったな。


 「よし、行くか」


 俺はりんと金糸雀姫を連れて参加受付会場に向った。

 たかむねは最寄りの駿河屋でメンタルを回復させてから合流すると言っていたっけ。


 いいな、俺も駿河屋行きたい。


 そういうわけで到着。

 木材を組んで作った簡易天幕が道の先に立っていた。

 後ろの会場と思われる大きな建物にはフソウ王家の紋章が描かれた垂れ幕が張ってある。

 そして三丁くらい前から筋骨隆々の男たちが会場周辺にたむろしていた。

 

 この時、俺は早くも嵐の如き闘争の瞬間を予見する。

 

 俺は天幕の入り口に入るなり大きな声で挨拶をしてやった。


 「俺の名はしのぶ。優勝してやりに来てやったぜ‼」


 バシン‼


 同時に勢い良く胸を叩く。

 誰も目を合わせようとしない。

 会場の中にした侍たちは早くも怖気づいていた。


 「はっ‼ここにいるのは木偶の坊ばかりか⁉しのぶ様がわざわざ来てやったんだ。茶の一つくらい用意しても…」


 ――と言いかけた瞬間、俺の目の奥に火花が飛び散る。


 バシンッ‼


 りんの拳骨が俺の脳を揺らした。

 コイツの秘術”銅遁の術”は対象を一時的に銅化させて特殊能力や術による防御力強化を貫通する厄介な力がある。

 おそらくは無意識のうちに使っているのだろうが、マジで痛いから止めて欲しいもんだ。


 「変に相手を威嚇しない‼全くアンタはいつまでもガキなんだから。そういう田舎者丸出しの行為は止めなさいって‼」


 ガン‼ガン‼ガン‼


 続いて頭蓋に三連打を見舞う。

 もう痛いどころではない。


 「わかったよ、うるせえな」


 俺はイキリ散らしを中断した。

 そして受付の下級武士に従ってiPadに氏名と住所と年齢を書き込む。


 むうう…上手く行かねえな…。

 やはり俺とタッチパネルの相性は最悪だった。


 「それでは一時間後に予選の乱戦が始まるのでお待ちください」


 下級武士のおっさんはiPadを受け取るとペコリと頭を下げて立ち去る。

 普及してな、iPad。

 俺たちは天幕から出て作戦を練る事にした。

 無論、大会開催者の罠を危惧しての対策だ。

 さっきから天幕を出入りしている連中は食い詰めたような農民、町民と見るからに犯罪者みたいな格好をした男たちばかりである。

 要するにこの手の大会に必ず出場しているはずの武士がいないのだ。


 「よお、兄ちゃん。威勢がいいな」


 しのぶが両腕を組んで壁にもたれかかっていると両腕に刺青の入った大男が声をかけてきた。

 右腕は鹿目まどか(※天使Ver)、左腕は暁美ほむら(※悪魔Ver)、かなり気合の入った武士もののふである事は間違いない。


 「クックック、驚いたかい?これは俺の嫁たちさ」


 「野郎。嫁が二人とは生意気な野郎だ。俺の名はしのぶ、村で一番のわんぱく小僧(18歳)さ」


 大男はしのぶの身体を上から下まで眺めた後に嫌味な笑い方をする。

 露骨に見下されているのだ。


 「俺のはイワキの国一番の猛者、つよしだ。人は俺をグラップリングモンスターと呼ぶ」


 つよし丸太のように太いは両腕に力を込める。

 腕の筋肉は膨張し、瞬く間に倍くらいはあろう太さと長さになった。


 正直、バランスが悪いと思う。


 「手前…何か帝国軍のゴリラ型ZOIDOみたいな体型になってんぞ‼」


 しのぶは男に人差し指を向ける。


 「クックック。これは生まれつきだよ、坊や。お前は両親から他人の身体的特徴を悪く言ってはいけないって習わなかったのかい?」


 男はさらに笑う。

 そして筋肉を収縮させて元の大きさに戻してしまった。


 案外、気にしているようである。


 「クソが。確かりんも前にそんな事を行っていたような気がするぜ。おい、つよし。お前の腕な、フランキーみたいでカッコイイぜ」


 「ありがとう。じゃ俺は指定席に行くから…」


 つよしは観客だった。


 言いようのないやるせなさがしのぶの胸を去来する。

 その後、二・三言葉を交わすとしのぶとつよしは握手をして別れた。

 どうやらしのぶはつよしにマナーの悪い観客だと思われていたらしい。


 「しのぶ選手。そろそろ試合が始まりますよー」


 しのぶは呼び出しに来た下級武士に呼ばれて例の会場に向かう。

 りんと金糸雀姫は会場内の屋台巡りをしており、「頑張れ」とか「怪我しないでね」とかおざなりな挨拶で済まされた。


 (あいつ等、絶対に当初の目的を忘れていやがるな…)


 しのぶは無責任な友人たちに怒りを覚えながら試合会場に向かった。

 そこには大勢の参加選手たちと、大きな棍棒を握り締めたサイクロプスがいた。

 身長は建物の高さと同じくらいの約20メートルくらいか。

 試合開始前から他の選手たちは怯えていた。


「ケッ、独活の大木じゃねえか。この大会の底が知れたな」


 しのぶは地面に手をつけてサイクロプスを仰ぎ見る。

 同時に殺気を帯びた巨大な単眼がしのぶを捉えた。


 「どっしゃああああッ‼」


 試合開始の号令がかかる前に巨大な怪物に向って体当たりをぶちかます。

 しのぶは知らない。この時から来賓席でしのぶを見つめる一対の瞳があった事を…。

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