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忍法 その22 王都トヨタマ


 「行って来るぜ」


 俺はフソウ国の王都トヨタマに向った。

 地皇の背中に乗って豪快に旅をしたかったが村長と親父に止められて止む終えず人力タクシーを使う事になった。


 便利だぜ、人力タクシーはよ。


 ざっざっざっざ。


 人力タクシーとは江戸時代でいうところの飛脚が担いでいる籠みたいなものだ。

 こっちは人間じゃなくてケンタウロスだがな…。


 実に揺れる。はっきり言って気持ち悪い。


 「ううう…」


 「りん、大丈夫か?」


 俺は隣で青い顔をしているりんに向って言った。

 コイツも俺同様に農民暮らしなので籠はおろか牛車ぎっしゃに乗った事など無い。

 

 ゲロ吐くなよ。可愛い顔が台無しだぜ?


 「気持ち悪い。水を飲みたいんだけど」


 俺はりんの要望に応えて竹細工の水筒を渡した。


 「ありがとう」


 りんは水筒を受け取ると一気に飲み干した。


 俺は水筒に栓をして道具入れに放り込む。

 村長が村を出る前に葛籠を用意してくれたのだ。サンキュ、村長。


 「しかし、この程度の揺れで乗り物酔いとは情けないな。所詮は田舎娘。家に帰って畑でも耕していれば良かろうに」


 皮肉たっぷりに金糸雀姫が言う。


 金糸雀姫は貴人ゆえにこういった高級志向の乗り物には慣れているようだ。

 俺は素直に感心する。


 「うるさいわね…。どうせ私は卑しい生まれの農民よ」


 りんは膝を抱えてそっぽを向いてしまう。

 金糸雀姫とは口も利きたくないといった様子だ。

一方、金糸雀姫の方も決してりんの方を見ようとはせず、俺の背中にパンチの連打をしている。


 こいつ等めんどくせえ…。


 いっそここで二人とも捨てて行くという選択肢もあるが、故郷でりんの帰りを待つ現世でのりんの両親と俺を信じて金糸雀姫の事を任せたリキの顔がチラついてそういうわけにも行かない。


 ああ、絶倫四天王よ。

 お前らは本当に有能だったな…。


 しばらく俺たちは人力タクシーに揺られる。


 まあ、人生で何回ある経験ではないわけだし。今は楽しもう。


 「ところでしのぶ。アンタ、あれから巨根斎の忍法使ってないでしょうね?」


 それから小一時間後、健康状態を半分くらいまで回復させたりんが恐い顔で俺に尋ねてきた。


 クソ、さっさと忘れろよ。脳筋忍者のクセに。


 「ああ、使ってないぜ。昨日のファイアードレイクだって俺の頭突きでやっつけたんだ。お前にも見せてやりたかったな」


 俺は昨日の戦闘記録バトルレコードを思い出しながら得意気に笑う。

 敵に十全の実力を発揮させずに己のフィールドで戦わせる。

 終わってみれば実に爽快な勝ち方だった。


 「当たり前よ。あんな邪道忍法を使っていたら今に魔物になってしまうわ。力比べ大会でも絶対に使っちゃ駄目よ」


 りんは俺の鼻先に人差し指をつきつける。


 年上ぶりやがって、この女。


 現世では俺より二つ年上だが、前世では俺より二百八十歳くらい年下で、しかも俺の孫なんだ。

 いつか目に物を見せてやるからな…。


 がんっ‼


 りんは無言で俺を殴った。


 「年上に逆らわない」


 「はい…」


 こうして俺は都に到着するまでりんの機嫌取りをしなければまらなかった。


 「都が見えてきましたよー」


 それからさらに二時間くらい経過してフソウ王国の王都トヨタマに辿り着いたに到着。


 「ふあああああ…。しのぶ、ここはどこだ?」


 目をこすりながら昼寝をしていた金糸雀姫が起き上がる。

 大きな欠伸までして、一国の姫君とは思えぬほどのだらしなさが見られた。

 リキが今の金糸雀姫を見たら多分、自刃するな。


 「あら、おそようございます。どうせならずっと寝ていてはいかがですか、金糸雀姫様?」


 頬に涎の跡を作った金糸雀姫に向ってりんは嫌味を言った。

 寝癖がついてりんの髪が一本だけアホ毛みたいな立ち方をしている事には触れないでやろう…。

 どうせ教えてもぶん殴られるだけだ。


 「しのぶよ。あの婆が五月蠅い‼」


 「誰が婆だ‼」


 金糸雀姫の不用意な一言をきっかけに大喧嘩が始まった。


 俺は二人の喧嘩がやりすぎにならないよう注意深く見守らなければならなかった。

 途中、何度か検問で中停止しながら、俺たちは都の出入り口であるトヨタマ大正門に辿り着いた。

 

 ケンタウロスと門番の間で何かやり取りがあったようだが今度は勝手が違う。

 本来は都の中だったはずなのに、俺たちは正門前で下ろされてしまった。


 「おう。これは一体どういう事なんだ?確か都の中まで案内してくれるはずじゃなかったのか?」


 俺は都の大路をさっと見渡す。通りを行き交う人影はほとんどない。

 屋根や壁が剥がれたり、基礎の柱だけになっているみすぼらしい家屋だらけだった。


 暴君アマヤスの支配するトヨタマは噂以上に酷い場所になっていた。

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