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忍法 19 夜襲


 「しのぶ」


 村長の家の灯りが見えてきたところで、俺はりんに呼び止められる。

 整った顔立ちから普段の快活さは失われ、どこか思いつめた様子になっていた。


 (まさか先ほどの会話を聞かれてしまったのか?)


 迂闊だった。

 りんが金糸雀姫同様に飛天丸としての記憶を取り戻している事は既出の事実であり、その結果として俺の正体に気づいている可能性も十分にあったはずだ。


 (已むを得まい。殺すか…)


 俺は心の奥底で殺気に仄暗い火を灯す。

 忍の世界は常に捨人必定なのだ。


 「どうした、りん。家に帰ったんじゃないのか?」


 俺は努めて冷静に会話を紡ぐ。


 「むう」


 りんは何か言いにくそうな顔をしている。

 竹を割ったようなといえば聞こえが良いが、絶対に何も考えずに話をしているこの娘にしてはいつもと様子が違う。

 ここは一つ、真意を引き出す足す為にブラフをかましてみるのもいいかもしれない。


 「さっき前世がどうとか言っていたな。その話か?」


 俺はあくまで生まれ変わりという言葉を半信半疑でしか信じていない人間を装う、――普通だろう。

 仮に二人のいい歳をした人間同士が前世あるあるの前提で話をしていたら…普通にキショい。


 「そうじゃなくて…。しのぶは、そのお姫様が好きなの?」


 りんは頬を紅潮させている。


 なるほど。俺が金糸雀姫を慕っているのではないかと思って嫉妬しているのか。


 刃金の里の飛天丸、敗れたり。


 俺のフラグはこの程度では立たないのだ。


 「何の話だ」


 俺は突き放すように言う。


 「だから相手は一刻のお姫様なのよ?アンタじゃ釣り合わないって言ってんのよ‼」


 …前世の話はどうした。


 「勘違いするな、りん。俺は行きがかり上、お姫様につき合っているだけだ。恋愛感情とかそういうのではない」


 ない。


 思い込みの激しい露出狂など論外だ。


 このふじわら巨根斎とて挿入する穴は選ぶ権利があるというもの。

 りん、お前も論外な。


 「家まで送ろう」


 そう言って俺はりんの手を引く。

 その時、りんは俺の目をじっと見つめていた。

 りんの雲一つない青空を思わせる黒い大きな瞳に一瞬だけ心を奪われる。


 「しのぶ、私ね…」


 りんは俺の手に両手を添える。

 心臓の鼓動が伝わってきそうなほどに温かい手だった。


 「たあっ‼」


 何者かが突然、俺たちを引き離す。

 誰あろうか、言わずと知れた金糸雀姫の仕業だった。


 「飛天丸、そこまでだ。しのぶは我が半身も同然の男。妙なちょっかいをかけるつもりならタダではおかぬぞ?」


 金糸雀姫は腰に左手当て、右手の人差し指をりんに突きつけた。

 ポーズは決まっているのだが低身長の為に余計お子様っぽく見えてしまう。


 「ちょっと金糸雀姫様、邪魔しないでくれますか?これは私としのぶの大事な話なんですから」


 りんは金糸雀姫に対して正面から立ち塞がる。

 顔は…かなり怒っていた。


 「大事な話だと?これからどこかの小屋に連れ込んで馬乗りするつもりだろうが」


 小金糸雀姫…自分の役割を忘れるなよ?


 「貴女には関係のない話です。それに今の私は銅飛天丸ではなくりんですから。主従とか関係無いんで容赦なく、ぶん殴りますからね」


 睨み合う、二人。

 ここでケンカさせても明日から始まるであろう飛竜退治には何ら良い影響は与えないので、俺は仲裁に入る。


 「待て待て、二人とも。ケンカはそこまでだ。りん、用事があるなら飛竜退治の後にしてくれ。買い物でも何でもつき合うからよ。んで、姫さん。りんはこう見えて腕っぷしが強いんだ。ケンカになったら怪我させられちまうぞ?」


 俺は言葉巧みに二人の間に入って距離を置かせた。

 二人とも鼻息がここまで届きそうなほどの怒り様だが、何とか抑えてくれた。


 「それでこんな夜更けにお姫様とどこに行くつもりだったのよ?」


 三人で歩いていると突然。りんが聞いてきた。


 「ああ。お姫様が村の中を歩いている時に畑に落っこちてよ。んで泥だらけになっちまったんだ」


 俺は金糸雀姫を指さす。

 沢庵漬けの独特の嫌な臭いがした。


 「ああ、それで。ふーん」


 りんはとりあえず納得してくれたようだ。

 その間、俺は金糸雀姫からローキックをくらい続けていたが我慢した。


 それからしばらくして俺たちは村長宅に無事到着。

 俺が村長に事情を話すと村長は風呂を貸してくれると言ってくれた。


 「よし、しのぶ。お前にこの美ボディを洗う事を許そう‼」


 などと金糸雀姫が血迷った発言をしたが、直後りんに持ち上げられてそのまま風呂に直行する羽目になった。

 俺は村長の家の囲炉裏に当たりながら二人を待つことにする。


 「しのぶ君も大変だね」


 村長は囲炉裏で温めた鍋からお湯を汲んで、それを負わんに素子でから俺に渡した。


 「…まあな。これなら相撲の稽古の方がいくらかマシだ」


 俺は軽く頭を下げた後、白湯を啜る。

 

 不味い。

 

 この辺は鉱山が近いので水も不味かった。温泉とかはありそうなんだけどな。


 「実は私も昔はね…」


 村長は油商人として都で働いていあt頃の話をする。


 ざっざっざっ‼


 数名の村人たちが血相を変えて村長の家にやってきた。

 俺は思わず身構える。


 「村長、しのぶ、大変だ‼巨大な飛竜が‼」


 村人の報告が終わる前に俺は家を飛び出す。


 (クソッ‼裏をかかれた‼まさか夜中のうちに襲撃するとは‼)


 いつしか俺は心は言いようのない不安に彩られていた。

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