忍法 その1 魔人の最後 後編
「上手く欺いたつもりだったが、流石は飛天丸。見事よ」
伝馬は腰まで伸びた後ろ髪を風になびかせる。
その美声は三木眞一郎氏によく似ていた。
「だって若君はいつも裸だから…」
飛天丸は声優鳥海浩輔氏のような声で呟く。
そう刃金忍軍最強の男は常に全裸だった。
さっきから見事なイチモツがぶらぶらと揺れているのだ。
ちづる姫はスマホで激写していた。
「飛天丸よ。お前は養父殿や前頭領とは違う、見どころのある男だ。国を見限って俺に仕えろ」
伝馬はマッパのままで大刀の切っ先を飛天丸に向ける。
その眼差しは熱く、冷たく…いやソーセージが気になって逆に集中出来なくなっていた。
「これも勃ててみようか?」
伝馬は下半身をチラ見した後、ニヤリと笑う。
いくら美形でもかなりアウトな発言である事は言うまでも無い。
「いえ結構です。若君、なぜかような暴挙を働くのですか⁉貴方の実力、人望は皆が認めているというのに」
「知れた事だ、飛天丸。今の戦乱の世を終わらせて新しき世を迎える為だ。その為には邪神チンチンカユイカユイの力が必要なのだ」
邪神チンチンカユイカユイ。
かつて神代に神々の股間に痒い思いをさせて神界を破滅にまで追い込んだ恐るべき神である。
なお基本的に股間を綺麗にしておけば害は無い。
「貴方という人は…」
飛天丸は色々な意味で歯噛みする。
小金井伝馬は名前こそ御庭番衆の小金井姓を名乗っているが、ちづる姫の異母兄である。
彼は混乱に乗じて祖父である黒鋼弾正と育ての親である小金井伊佐治を殺害したのだ。
そのままどこかの国に落ち延びてくれえrば飛天丸とて諦める事が出来た。
しかし出会ってしまった以上は刃を交えなければならないのが忍の世界の掟というもの。
「若君。素直に投降してください。私は貴男と戦いたくはない…」
飛天丸は背中に差した愛刀の鞘を掴む。
既に互いの間合いの中にあった。
「飛天丸、俺に勝てるつもりか?衣服などで己の姿を隠さなければ生きてはいけない惰弱なお前が…」
伝馬も大刀を抜いた。
「飛天丸‼伝馬殿‼」
二人の戦いを止めんとするちづる姫声が皮肉にも合図となってしまった。
両雄、迷いなく地面を蹴る。
あまりの速さに誰も目で追う事など出来はしない。
「忍法、金色霞‼」
伝馬は片手で「土遁」の印を結び、続いて「月」と「水」の掌印に変化させる。
通常の気門遁甲の術に金遁という属性は存在しない。
故にこのの術を得意とする刃金の里の忍者たちは、金の成り立ちから属性を形成し、術に変えるのだ。
伝馬はそのうちでも強力な「月光流転の秘儀」を用いる。
「くっ‼先手を打たれたか‼」
飛天丸は刃を倒して目の前に展開される金色の霞を防ごうとした。
「相変わらず遅いな、飛天丸‼ここは戦場ぞ‼」
視界を覆う金の霞をものともせずに小金井伝馬は狂武者のように大刀を振るう。
この金霞を浴びればは視界不良になるだけではなく、刃を溶かしてしまうのだ。
だが己の金遁の術によって守られた伝馬の刃は金霞に侵食される事は無い。
伝馬の必勝の線形でもあった。
「銅遁、溶岩大砲の術」
大して飛天丸は、「土」、「木」、「火」の掌印を結んで「銅遁」を形成する。
飛天丸のあつかう「溶鋼錬成の秘儀」は術の発動にかかる時間が長くなってしまうリスクはあるが相手の瞳術のような幻術に妨害されにくいという利点があった。
「はっ‼」
飛天丸の重ねられた両手から溶岩が発射される。
その直前まで伝馬は解呪しようと金遁の瞳術を使っていたが、機を見計らって後方に飛んで逃げた。
「楽しいな、飛天丸。お前との忍法合戦は心が躍るぞ‼」
伝馬は新たなに金遁の術を使って溶岩を鎮火する。
焼け爛れたふじわら巨根斎の神殿は、二人の忍者のたった一度の攻防で破壊寸前となっていた。
「若君。どうして全裸にこだわる‼なぜ邪神などの力が必要だ‼それだけをお答えくだされ‼」
「今の世は腐っている。このまま大名どもが戦を続ければ日乃本がいくら豊穣の地であろうとも人々は息絶えてしまうだろうよ。その為の邪神の力だ‼」
飛天丸が主に聞きたかったのは主に全裸の理由だったが、伝馬は後者の問いにしか答えてくれなかった。
「分かっているのか、小金井伝馬‼かの邪神は願いと引き換えに民草の股間をカユイカユイ状態にしてしまうのだぞ⁉」
そういう伝承が残っている。
だが小金井伝馬は飛天丸の願いを笑殺した。
「くどい。その時は日の本の民全員が俺のように全裸になればいい。全裸になれば戦をする者もいなくなる」
「そんな事あってたまるかあああああッ‼」
変態と一般人の魂の咆哮が激突する。
この戦いをちづる姫はコミケで発表する為にスマホで撮影していた。
恐るべし、忍の戦い。恐るべし、腐女子魂‼
だが戦いは長くは続かなかった。
「すいませーん!邪神イーツでーす‼」
突如として出現した巨大な邪神チンチンカユイカユイ。
彼は夏休みガールフレンドと遊ぶためにアルバイト(邪神向け)をしていたのだ。
「ぐああああああっ‼」
「ごおおおおっ‼」
「ぎええええええっ‼」
邪神の身体は常に二億度の炎によって包まれていたので三人どころか日の本の国まで一瞬で蒸発してしまった。
恐るべし邪神、恐るべし邪神イーツ‼
「ああ、こういうのが一番困るんだよなー」
邪神は邪神向けビッグマックを頬張りながら腹いせに世界を滅ぼした…。