忍法 その15 VS 天空の覇者 ~前哨戦~
「かかってこんかい‼」
飛竜の最上位種、ファイアードレイクを前にして俺は昂る。
コイツを倒せば、りん(飛天丸)も俺を認めて天下一相撲大会(力比べ大会)出場を認めてくれるかもしれない。
己の半生をかけて書いた秘伝書は丸焦げになった。
もう俺には相撲しかない。
今度は相撲でテッペン取ってやる‼
俺はファイアードレイク目がけて突進する‼
「がぎゃあッ‼」
俺の渾身の頭突きは火竜の顔面を容易く砕いた。
これが相撲、これが真剣勝負。
機先を制した俺はファイアードレイクの腕に飛びついて被膜の翼を捻じり上げる。
天空の王者も必死に抵抗するが地上に下ろされては俺が有利だ。
腹に足をかけて、そのまま羽を引き千切ろうとするが…。
がすっ‼
ファイアードレイクの蹴りが俺の胴体にぶっ放される。
次いでもう足の鉤爪と牙によるコンビネーション攻撃。俺は鼻血を流しながらこれらを前捌きで返した。
「がははははッ‼明日から俺のふんどし担ぎにでもなるかあ⁉」
俺は腹に受けた特大の蹴りによる痛みを我慢しながら笑った。
アバラ骨が折れているかもな…。
だが笑ってそれをやり過ごす。
痛みを乗り越えた先にしか真の力はあり得ねえ。
「俺を倒したければ、今の三倍は蹴って見せろやあああ!」
背を向けて逃げようとするファイアードレイクに向って鉄砲の連打。
俺を相手に背を向けるという事は即ち、己の命を諦めたも同然と知れ。
”敵前逃亡は士道不覚悟。即ち悪即斬”と「るろうに険心」で新選組の元・三番隊隊長が言っていたような気がする。
俺は空に逃がすまいと張り手を打ち続けた。
飛竜は俺の追撃から逃れようと地面を蹴ろうとするが、体勢を整えようとする度に張り手の衝撃で軸をズラされる為にそれが出来ない。
「おい、飛天丸。アイツ、生身で竜に戦いを挑むとは。さては頭のおかしい奴だな」
後ろから金糸雀姫(小金井伝馬)が呟く。
相変わらず誰彼構わずに見下しやがって‼
テメエは”ピー――‼”(※個人への中傷を含める発言の為、削除されました)か‼
俺は内なる伝馬への突っ込みの怒涛を抑えながら張り手に没頭した。
ここで逃がせば飛竜たちは必ず村で暴れるだろう。
別に誰が死んでも構わないが俺の秘密要塞が完成するまでは寝床は確保しないとな‼
「しのぶ、冷静になって‼」
りんが俺の身の危険を案じて一旦退くように言う。
確かに飛竜の体躯は桁外れだ。
俺個人の力では倒しきれない可能性がある…。
「こっちにはリキさんもいるのよ⁉」
りんの悲痛な叫びで俺もようやく目が覚める。
リキは任務の為に強がっているが大層な怪我を負っている。
もしも彼が死ねば炎龍国が攻めてきて”世界最大相撲トーナメント”が中止の憂き目になるやもしれぬ。
「チッ‼」
俺は相撲の為に飛竜の追撃を諦めた。まずは露出狂ロり王女とリキの安全を確保だ。
「ぎげええええええッ‼」
再戦の誓いとも受け取れる吠え声を残して飛竜たちは消えた。
「しのぶ…」
「ま、今回だけはお前のお手柄だ。いくら姫様が助かってもリキが死んじまっては本末転倒ってモンだ」
俺は手で埃を払いながら背中に金糸雀姫を、前にはリキを持って歩き出す。
いつの間にか風は止み、夜空には眩いばかりの星が出ていた。
「お姫様、眠っちゃったね」
村に帰る途中、りんは俺の背中に括りつけられている金糸雀姫の様子を見ていた。
りんの安堵した横顔はどこか母親を思い出させる。
(コイツも大人になっているんだな…)
俺は成長した幼なじみ兼天敵を見ながら感慨深い心地に浸っていた、
だが取り逃がした飛竜は明日にでも村にやって来るだろう。
頼みの綱の忍法は封印、さてどうしたものか…。
「しのぶ、ちょっといい?」
俺が飛竜対策を考えているとりんが話しかけてきた。
何か思いつめたような顔をしている。
俺は背中ですやすやと眠る金糸雀姫の事を考えた。
まあ、十中八九は小金井伝馬の事だろうな。
「さっきの話か?転生がどうとか…」
俺はりんの心の内を察して優しく聞いてやった。
前世の話になるが飛天丸は人の話を聞かないで真っ先に斬りかかってくる危険人物だ。
現世でも対応を誤れば、即敵とみなされて俺を殺しに来るだろう。
たまには頭を使え、低能。
がんっ‼
りんは表情一つ変えずに俺の脳天を殴った。
「何すんだよ…」
「何か馬鹿にされたような気がしたから?」
訂正だ。
コイツは何も変わっちゃいねえ‼飛天丸だ‼
俺は追撃を回避する為に歩幅を広くした。
りんがその後を無言でついて来る。
クソたれが‼
忘れてた、コイツは忍者だった‼
俺の受難は続く…。




