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忍法 その13 友達以上恋人未満。


 ここは採石場が機能していた時に、役人が使っていた簡易の休憩所だった。


 冬は雪害の関係上、閉鎖していたがここいらは飽きも寒いので火鉢が置いてある。

 俺も寒い時はお役人さんと一緒にここで手を温めたもんだ…。


 パチパチパチパチ…


 今燃えているのは俺の秘伝書だが。


 

 「これをどこで手に入れたの?」


 りんは俺の両腕を掴んで恐い顔をする。

 猫のような大きな瞳で俺を睨んでいる。


 マズイ。


 これはガチでお籠手散る時の顔だ。


 「せ、先代の村長さんにもらったんだよ…」


 「先代の村長さんが?」


 「何でも家に伝わる宝らしいぜ?だからこれは村長さんの形見ってわけだ。なあ、もういいだろ。返してくれよ」


 俺はりんの手を振り解き、秘伝書を返すように頼む。

 だがりんは返してくれなかった…。


 「駄目よ。これは悪人が書いた悪い巻物なの。どんな仕掛けがあるかわかったものじゃないわ」


 りんはそう言うと巻物を破いてから詰所に置いてある火鉢の中に突っ込んだ。

 

 そして容赦なく燃やしてしまう。


 「ぎゃああああああ‼」


 燃える。


 俺が前世の半生を賭けて書き残した忍法帖が‼俺は全焼させまいと火鉢に手を伸ばしたが、りんのボディーブローを食らって原崩れになる。


 「ご、ふう…」


 俺は何とか前に進もうとするが今度は尻に蹴りを食らって倒れてしまった。


 バチバチバチ。


 秘伝書が、俺の人生の軌跡が燃えている。


 「駄目なものは駄目。いい加減に諦めなさい。全く…」


 こうして俺はまた野望から一歩遠ざかる。

 俺は失意の中で項垂れ、火鉢の温もりに心を癒されていた。


 リキはそんな俺を気づかって携帯食を渡してくれる。


 「よく事情はわからないが、これを食べて元気を出してくれ」


 「…ありがとうございます」


 見た目、月餅。味も月餅という感じの焼き菓子だった。

 りんもちゃっかりもらって食べている。


 「リキさんもさっきの傷はちゃんとしたお医者さんに観てもらった方がいいわ。ふじわら巨根斎の医療忍術なんてロクなもんじゃないから」


 りんはあくまでふじわら巨根斎おれの忍法を認めようとしない。

 まあ前世ではさんざん呪殺とかやらかしたからな。

 でも治癒の呪いとかの効用は普通のはずだ。

 大体何でコイツは”ふじわら巨根斎おれ”を目の敵にしているんだ?


 「なあ、りん。さっきからお前は”ふじわら巨根斎”とかいう奴を悪く言ってるが、そいつとはどんな関係なんだよ」


 「…」


 りんは一瞬、考え込む。そして俺の方をじっと見た。

 さっきは怒っていたが今回は悩んでいるのだと思う。


 仕方ない、助け舟でも出してやるか。


 「おれとお前の仲だ。何があっても見捨てるような真似はしないよ」


 「うん…。じゃあ言うけど、私前世は刃金はがねの里の忍者でさ。名前は飛天丸っていう男の子だったんだ」



 …。



 俺は驚愕の余り言葉を失った。


 飛天丸、りんがあの憎たらしいクソガキ…ッ‼


 全身の血が沸騰して今にも飛びかかりそうになるが俺はそれを理性でカバーする。


 「驚いたな。りんさんも転生者だったのか…」


 詰所の奥の畳部屋で横になっていたリキが起き上がる。

 まだ半身を起こす程度にしか体力が回復していない様子だった。


 いや待てよ、コイツ今「「りんさん”も”って言わなかったか?


 すると俺(ふじわら巨根斎)とりん(飛天丸)の他にまだ転生者ってのがいるのか…?


 「リキさんのお知り合いにも生まれ変わる前の記憶を持っている人がいるんですか?」


 俺の代わりにりんが質問する。

 俺は無関係を装いながら二人の会話に耳を傾けた。


 「ああ、実は私たちが探している我が国の姫君、金糸雀カナリア姫がそうなんだ」


 姫君。転生者。


 

 さらに不味いな。


 ここだけの話になるが例の姫君、黒鋼ちづるは魔眼の持ち主で対象の真名を言い当てる権能を持っている。

 ここで俺と鉢合わせになれば飛天丸りんに俺の正体がバレて…最悪やられてしまう可能性がある。


 飛天丸クソガキの銅遁の術など恐くはないが、魂の契約によって繋がっていいるであろう雷光十文字は厄介だ。

 あの宝刀には俺の陽遁と陰遁の術式を解除する力がある。

 そして俺の隠し武器”鬼人力”と同等の力を持っているので下手を打てば魂魄ごと殺されてしまう。

 そうなれば転生もへっやくれもない、全てが水の泡だ。


 …今ここで飛天丸りんってしまうか。


 「まさか、ちづる様が…」


 りんはかなり動揺しているようだ。


 ククク…。


 女の身体ではちづる姫とはSEXはできまい。

 レズプレイになってしまうからなあ‼


 俺は心の中で高笑いをする。

 俺の邪魔をした罰だ。現世は貝合わせでも何でもやってろってんだ、馬鹿が‼


 えげしっ‼


 りんはゲス笑いをする俺の股間を蹴り上げた。


 …よくも武士の魂を…ッ‼


 「お前、いKるあ何でも酷過ぎるぞ…」


 「ごめん。何かムカついたから…」


 このクソ女が…。

 俺が世界を支配した暁には、貴様なんぞ真っ先に名前を忘れてやるからな‼


 俺は股間をオナニー以外の意味で摩っていた。


 「もう‼男でしょ⁉大袈裟ね、少しは我慢できないの⁉」


 男だから我慢出来ねえんでよ‼


 だが追撃でキンタマを失いたくはなかったので俺は柔軟な対応をする。


 「俺の不細工顔の話はいいとしてだな。前世?ってヤツの記憶があるってのは本当なのか?」


 「うん」


 りんは思いつめたような表情で答えた。


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