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忍法 その12 輪廻転生、宿命の果てに…涙する。

 

 どーん!


 俺は目の前で通せんぼしている巨岩を張り手一発で破壊する。


 「ふう。自分のパワーが恐いぜえ…」


 俺は筋肉でパンパンに膨れ上がった右腕を見ながら満足そうに笑う。

 この分だともう忍術は要らないかもしれない。

 その気になれば張り手で海を割って突き進む事も不可能ではないだろう。


 …いや流石に無理があるか。


 ごん‼


 俺が自己陶酔していると頭蓋骨に拳骨が落ちる。


 「アンタ、成長する度にバカになってない?」


 「そうは言うけどよお…このマッスルを見ろよ‼」


 ムキムキムキィッ‼


 俺は軽く息を吸って胸筋と背筋を膨張させる。

 

 うむ、これは王者の筋肉だ。


 「バカやってないでリキさんを捜しに行きましょう。もうすぐ日没よ?」


 言われてみればそうだ。

 村を出る前は中天に太陽があったのだが、今は村を囲む向こうの山に近いところにある。

 二、三時間くらいで夕方になってしまうだろう。


 「りん、お前の言う通りだ。とりあえずハゲ山の中腹まで行こう。あそこは平らな場所が多いから飛竜の巣があるかもしれない」


 「わかったわ」


 りんの承諾を得て、俺たちはかつて採石場があったハゲ山の中腹に向った。


 数年前までハゲ山は希少な輝石を採掘する事が出来たので、採掘場になっていた。

 日にいくらか土を掘ると日当がもらえるので俺と親父と祖父も仕事に行ったもんだ。

 俺の実家は富農には違いないが、村の食料が足りなくなった時の為に余分に財を蓄えるようにしている。


 まあ俺の実家に限らず村の住人は自分の意志で村の為に蓄財していたわけだが…。


 「あんまり思い出したくないな…」


 かつての採石場の入り口にある立ち入り禁止の立札を見て俺は呟く。


 ハゲ山の少し前に土石流が発生して、ついでに落盤事故となり廃坑になってしまったのだ。

 特に思い入れがあるわけではないが、現在の人気のない有り様を見ているだけで俺は複雑な心境と為る。


 「ここに飛竜の巣があるのかしら?」


 りんは遠目からバリケードを取り付けられた炭鉱の出入り口を観察している。


 「それは無いな…。もしそうだとしたら入り口があんなにきれいな状態で残っているわけがない。別の場所だろう」


 俺は飛竜の足跡がないかと地面を見つめる。

 竜騎士と呼ばれる職種の人間が使う騎竜ならば、ある程度の知識があると考えられるが野生の飛竜はとにかく凶暴であつかいにくい。

 仮にリキが捕まっていたとしたらもう命はないはずだ。

 そしてリキは軍隊長を務めるほどの男だ。

 自分の身に何かが起こったならば必ず何らかのメッセージを用意する。


 俺は周囲に気を配りながら採石場周辺を捜索した。


 「む!」


 リキは入り口から少し離れた場所にある運搬トロッコ用の駅で倒れていた。

 俺はすぐに駆け寄り、上半身を起こしてやる。


 「リキさん。何て無茶を…」


 リキは真っ青な顔だったが俺とりんを見て少しだけ安心したようだ。


 「しのぶ君、りんちゃん。まさか君たちが助けに来てくれるとは面目ない…。だが私はここに捨て置いてすぐに逃げなさい。もうすぐヤツがここに戻ってくる」


 はあ、はあ、はあ…。


 リキは肩を大きく上下する。出血こそしていないが呼気からわずかに血の芳香かおりがする。

 飛竜の攻撃を受けて骨折しているのかもしれない。


 「コイツはやべえな。りん、周囲を警戒してくれ」


 「うん」


 りんは臨戦態勢に弓に矢をつがえて臨戦態勢に入る。


 ギリギリギリ…。


 りんは何かの気取った様子で矢を構えていた。


 その間、俺は陽から月へと掌印を結ぶ。

 生命力関連なら木遁の方が手っ取り早いがこの場所は木の気が弱いので術が思ったように作用しない可能性がある。

 故に使うのは”陰遁こいつ”だ。


 「陰遁、産土返しの術」


 「しのぶ君、君は道士なのか?」


 俺の陰から生まれた土人形の使い魔の腕がリキの身体に触れると、リキの表情が少しだけ穏やかなものに変わる。

 この術は生命力をそのものを助ける事によって痛みを和らげて、負傷した箇所を自然回復させる。


 「まあ詳しく話す事は出来ませんが、そんなところです」


 俺は逆に道士というものがこの世界に存在することに驚いていた

 。俺の元いた世界にも仙術を使う道士というものが存在し、俺の使う忍術も仙術を参考にしたものが多かったりする。


 「ありがとう。これなら歩けそうだよ」


 リキはどうにか立ち上がる。


 俺は彼を背負って詰所に向って移動する。

 とりあえず建物の中に身を隠して夜を待てば飛竜の脅威は去る。


 飛竜は夜目やめが全く効かない魔物だった。


 「しのぶ、今の…」


 気がつくとりんが俺の隣に来ていた。


 …彼女の前で忍術を使ったのは初めてではないはずだが、何でこんなに怖い顔をしているんだ?


 俺はとりあえず聞いてみる事にした。


 「何だよ」


 「今の…陽遁の術だよね。誰に習ったの?」


 「これ」


 俺は懐から「ふじわら巨根斎の楽々忍法秘伝書」を取り出す。

 中身はほぼ暗記しているが不測の事態に備えていつも…。


 さっ。


 りんは俺から秘伝書を取り上げる。

 そして有無を言わさず地面に叩きつけた。


 おいおい、それは俺の物だぞ?


 「りん、何をするんだ‼いくらお前でも…」


 「しのぶ。いい?よく聞いて…これは”ふじわら巨根斎”という悪人が書いた巻物なのよ‼」


 ッ⁉


 俺はりんのカミングアウトに絶句する。

 どうしてその名を知っているんだ⁉

 

 ていうか火鉢に突っ込んで勝手に焼くんじゃねええええええーーーッッ‼


 数秒後、俺の前世における百年の努力は塵と化した。



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