忍法 その11 爆誕 神聖宝桂教団ドスケベ五人衆‼
結局、裏山には誰もいなかった。
当然といえば当然の話なのだが、りんは先ほどから不機嫌なままである。
「なあ、りん。要人さんてのはどこに行っちまったんだろうな?」
ぷいっ。
りんは俺と視線を合わせようとしない。
焼もちかよ、ガキじゃあるまいし…。
「…私が知るわけないでしょ?」
「まあ、そうなんだけどな。俺だって本音を言えば外国人なんかにこの辺りをウロウロされたくないんだぜ?」
「どうだか」
りんはマンモス草の生えている場所に向って早歩きをする。
地皇たちには滅多な事では人前に姿を出すなと言っているが、例の御大尽がおとなしい人間だという確証はない。
りんもその辺は気になっているのだろう。
「地皇、いる?」
りんは地皇が度々、休憩所として使っている大樹に向って声をかける。
ぐろろ…。
程無くして歓喜に喉を鳴らしながら地皇が降りてきた。
「うふふっ。地皇は可愛いわねえ。どっかの薄情者と違って」
最後の言葉にはやたらとトゲトゲとした物を感じた。
親父が普段、おとなしくしている女ほど何かと音に持つ気性だと言っていたような気がするが本当の事だったらしい。
「そら。ナデナデだ」
俺は頭を下げながらやってくる地皇の頭を撫でてやる。
地皇は嫁さんや子供たちがいないので俺に頬をすりつけたり、顔を舐めたりした。
正直、サイズが規格外なのでとても痛いがそこは愛情でフォローだ。
「あの時の仔猫がこんなに大きなるなんて」
りんは地皇の背中と尻尾を撫でていた。
地皇は心地良さのあまりへそ天で寝転がる。
ぐうろろろろ…。
これも家族には見せられない姿だな。
「何だよ、地皇たんはいつだって俺に刃仔猫のまんまだよ。多少デカくなったってなあ?」
俺は地皇の剥き出しになった腹を撫でる。
地皇はさらに地面の上で転がった。
「地皇、気をつけなさいよ。しのぶは相手がお姫様だったら真っ先にそっちの方に行っちゃうから」
りんはジト目で俺を睨んでいた。
この女、めんどくせえ…。
俺たちはそのまま地皇を連れて山の中を歩いたが目的の少女を見つける事は出来なかった。
よくよく考えてみるとお姫様が余程の事情が無い限りはこんな山の中に入るわけがないし、見当はずれな人捜しをしていたのかもしれない。
「とりあえず一回、村に帰るか…。情報が少なすぎるぜ」「そうね」
俺たちは地皇と一緒に山道の出口に向かって歩いて行った。
「しのぶ君‼」
山の出口ではリキの部下たちと村長が待っていた。
「地皇、家に帰っていろ」
「がう…」
俺は村長たちの様子から不測の事態を察して地皇を山に戻した。
地皇は少しだけ寂しそうな顔をすると茂みの奥に姿を消した。
「どうした、村長。リキさんの姿が見えないが…」
俺は村長たちに再会して真っ先にリキの不在について尋ねた。
見るからに真面目そうなリキが非戦闘員である村長と部下たちを放ってどこかに行くなど考え難い。
「それが…さっきリキさんたちがハゲ山に捜索に行った時に飛竜に攫われたって」
最悪の事態だった。
繁殖期を向えた飛竜は獰猛な性格になり、人を襲うようになる。
攫われたリキが無事である可能性は低い。
「‼」
りんは驚きの余り言葉を失っている。
「いちろう殿、我々はどうすれば…」
村長(※いちろう = 村長の名)は恐絶望的な表情になっていた。
そしえワラにもすがる思いで俺を見た。
ふん、俺の剛腕の出番か。
俺は何も出来ぬ腰抜けどもの前に出た。
「村長、俺に任せとけ。一丁、飛竜を懲らしめてやる。アンタらは村でおとなしくしていてくれ」
俺は手をひらひらさせながら連中に背中を向ける。
お世辞にも残り時間は多いとは言えない。
仮にリキが死ねば、小国のフソウと大国の炎龍の中が険悪になる。
どんな無理難題を押しつけられるかわかたtものではない。
ガラではないが人助けだ。
「しのぶ、私も行くわ」
「駄目だ。お前は家に帰っていろ…ぐえっ⁉」
がんっ‼
言い終わった後に俺は股間を蹴り上げられた。
言葉に出来ない痛みで俺はしばらく声を発する事さえ出来なかった。
「全く、何この場所はでも一人でやろうとして…アンタは昔から無茶しすぎなのよ。足手まといの私がいれば無茶は出来ないでしょ?ついて行ってあげるわ」
「ぬう…」
すごい威力の蹴りだった。
タイトルが魔人変生から異世界性転換になるところだった。
「しのぶ殿、大丈夫ですか‼」
「お気を確かに…ッ‼」
俺の身を案じたリキの部下たちから声がかかる。そうだよな。
男ならタマキンを打った痛みはシェア出来るよな…。
「しゃーねーな。今回だけだぞ?」
俺は体勢を立て直すとハゲ山に向って歩き出す。
それにしてもマジで痛い。
りんは猟師である父親と一緒に狩りをしてに山に出る事もあるので並の女よりも力強い。
出会って間もない頃はよく一緒に山に入って遊んだものだ。
最近はすっかりつき合いがわるくなってしまったが…。
りんは勢い良く頷くとハゲ山に向って駆け出す。
それから間もなくして俺たちは緑に乏しい岩に覆われた山、通称ハゲ山に到着した。
「リキさーん、いるかー?」
俺は山頂に向かってリキの名前を読んでみた。
案の定、返事はない。
「仕方ない。上の方に行ってみるか…」
「そうね」
りんは山刀の準備をする。
接近戦は大小の山刀を二刀流で振るい、遠距離戦は短弓で相手を射る。
俺の親父も弓や大鉈を使うが、彼女のほどの巧みな使い手は知らない。
近い将来俺が「NEO神聖宝桂教」を立ち上げた時には「絶倫四天王」に変わる「ドスケベ五人衆」の筆頭にしてやろう。
前回は四人だから飛天丸に負けたのだ。
今度は五人だ。はっはっは‼
「何言ってんのよ…」
りんは仄暗い視線を俺に向ける。どうやら口に出していたようだ。




