忍法 その9 RE; あのおとなしいりんは何処へ行った?
「やあ、りん。今日も可愛いね」
しのぶはりんと目を合わせないようにしながら挨拶をする。
そしてこれ以上りんを刺激しないよう地皇の背中から降りた。
「白々しい。何が可愛いよ。今日は一緒に私の家の畑を手伝ってくれるって言ってたくせに。またモンスター退治をしていたの?」
「…リザードマンを野放しにしておくと貯水池に巣を作って、リザードマンシャーマンとかが異世界からヒドラを召喚するからね。大事になる前にやっつけてきたんだよ」
嘘は言っていない。
それを証拠にリザードマンは既にヒドラを一体だけ召喚していて、活動範囲を広めようとしていた。
「どうだか」
りんは怒ってそっぽを向いてしまう。
これまで適当な言いわけをしてしのぶはりんとの約束を何回も破っていた。
「どうすれば機嫌、直してくるんだよ?」
「今、町でよその国から行商人さんが来ていてね。それで綺麗な反物を仕入れてきたんですって」
りんは村の井戸端会議で仕入れた情報を早速お披露目する。
最初からしのぶと一緒に出掛けるのが目的だったのだ。
「いや俺は都の力比べ大会に…」
「アンタみたいな田舎の力自慢程度の人間が通用するわけないじゃない。”井の中の蛙”って言葉を知らないの?」
「ぬう…」
神に誓って断言するが井の中の蛙はヒドラを倒せない。以上。
「アンタはいつまでも夢みたいな事を言ってないで、少しは畑仕事を覚えなさいよ」
確かに俺は腕力が強すぎるので土を掘り起こすとか、切り株を引っこ抜くとか大雑把な作業以外は苦手だ。
全く痛いところを突いてきやがって。
出会った頃のおとなしいりんはどこに行ったのやら…。
「わかったよ。町までついて行けばいいんだろ?」
俺はりんの説教に嫌気がさしていたので期待に応えてやる事にする。
たまには”心細いから連れてけ”って素直に言ったらどうなんだ…。
「仕方ないわねー。しのぶがどうしてもって言うから連れて行ってあげるのよ?勘違いしないように」
りんは弾むような足取りで先に歩いて行ってしまった。
後ろ姿からしてかなりの上機嫌な様子だ。
「しのぶ、それではまたな」
「おう」
俺は地皇の頭をグシャグシャと撫でる。
裏山の入り口まで地皇の嫁さんと子供たちが迎えてに来ていた。
その光景はさながら怪獣第進撃だった。
ドドドドッ…。
超巨大なサーベルタイガーの家族が山奥に戻って行く。
(それにしてもあれから四年か…)
俺は地皇との出会いを思い出しながら物思いに耽る。
あの頃のアイツは…。
「それにしてもあのチビ助が大きくなったものねえ」
隣にいたりんもまた俺と同じ気持ちだったようだ。
「まあな。俺も出会った時は手猫だと思っていたよ」
あの山で拾った仔猫は今や軍隊が出動しなけれならないほどの巨体を誇る怪物になってしまった。
俺とりんの言う事を以外、絶対に聞く耳を持たない。
「ところでしのぶ、ゴブリン食べるの止めてくれたのよねね?」
地皇たちと別れ、村への帰り道でりんが俺にゴブリン食について尋ねてくる。
クソ、あたその話かよ。
ゴブリンは二直立足歩行だが人間じゃねえんだ。
食べたって問題はねえだろ。
俺が最近モンスターを食べられなくなったのは主にりんのせいだった。
おかげで急上昇していた魔力の貯蔵量が止まってしまった。
「ウチの食生活にまで干渉してくるなよ…あ痛ッ‼」
少し文句を言っただけでコレだ。
相手が男なら今の一撃でさっきのリザードマンみたいにベアハッグ(鯖折り)で半分にしてやったところだ。
せいぜい寛大な俺様に感謝しろよ、りん。
そして転生してフェミニストになった俺の寛大な心にも…
「あ痛ッッ‼‼」
俺の心を読んだのか、りんは二回目の拳骨を落としてきた。
「アンタがやってのは人間の肉を食べてるのと同じなの‼気持ち悪いとか神様に申し訳ないとかって考えないの?」
りんはさらに機嫌を悪くしていた。
「わかったよ。反省しますって。もうゴブリンは食べません」
「トロールとオーガ―もよ?人型は止めなさい、いいわね?」
「はい…」
これじゃあ八方塞がりだ。
転生先の世界で新忍法を開発しようと思っても出来ない。
実は前から穢土転生みたいな術が出来ないかと俺は考えていた。
実験材料はもちろんコイツな。
「何か失礼な事を考えていない?」
がんっ‼
お前は超能力者かよ⁉
俺は俯きながら村の入り口に到着する。
村の入り口では旅人と思われる一団と村の御意見番の老人たちが話をしていた。
最近は俺がモンスター狩りをしている為に有害なモンスターたちの被害件数は激減したが(※その代わりに絶滅危惧種は増えてしまった)それでもたまに行方不明者が出ている。
あの連中も野宿をした際に魔物にでも襲われたのか?
気がつくと村長が俺たちの方に手招きしていた。
「りん、ちょっと行って来る」
「私も行くわ」
俺とりんは悪い予感を覚えながらも村長たちのところに向った。




