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忍法 その8 最強力士 VS リザードマン


 村長は健康上の都合で辞退する事になった。

 代わりに都で油商人を営んでいた村長の息子が故郷に戻って来て村長に就任する。

 都は最近、世間を騒がせている飛竜が出没する為、思ったように商売が出来なくなってしまったのである。

 新村長は苦笑しながら、村の寄り合いで村人にその事を説明していた。


 「飛竜か。くだらんな」


 どすっ‼


 一人の男が立ち上がる。


 がすっ‼


 男の背丈が高かった為に天井に頭をぶつけてしまった。

 この時、天井にヒビが入ってしまった事には誰も突っ込まなかった。


 「ごめんよ。私の話は面白くなかったかい?」


 新しい村長は俺に向って朗らかに尋ねる。

 

 「飛竜がどうしたというのだ。たかが爬虫類の親戚ぞ。俺の張り手でペシャンコにしてくれるわ」


 男は成長したしのぶだった。


 今や身長は百八十一センチ、体重は百キロになっている。

 重厚な筋肉に包まれた身体は魔物との戦いによっていくつもの傷が刻み込まれていた。


 「何なら俺が今から飛竜の巣に攻め込んで絶滅させてやろうか?」


 しのぶは獣臭漂う不気味な笑みを浮かべる。

 最近は前世のふじわら巨根斎とは別の意味で危険人物になっていた。


 「いや、そこまではしなくてもいいよ…。ところで今年で君は十七歳になるわけだけど、まだ力比べ大会に出る意思はあるのかい?」


 「当然だ。漢の本懐とはまだ見ぬ強敵と死合う事よ。くっくっく」


 しのぶは未知の敵との激闘を想像しながら、肩を震わせて笑う。

 その姿を見た他の村人たちは部屋の隅の方に移動していた。


 「人間で君に勝てるヤツなんているのかなあ?」


 「村長、世界は広い。おれのような 駆け出しの小僧には想像もつかぬ強者がゴロゴロいるはずだ」


 「そうかなあ…」


 村長はしのぶに大会出場の許可を与えると、村の月間行事などを報告して寄合を終わらせた。

 しのぶはちょっとした昼食会に誘われたが固辞して、魔物の巣に向かう。

 そして裏山の入り口に到着すると森に向って大声を上げた。


 「地皇じおうよ‼」


 ドドドドドドッ‼


 山の頂上から雪崩のような音共に一匹の大きな虎が現れた。

 その後ろには森の木々よりも背の高い虎たちが着いて来ている。

 いずれもしのぶの召集に答えた獣たちだった。


 「地皇たん、元気でちたか?お兄ちゃんでちゅよー」


 しのぶは先頭の虎の頭に抱きついて頬をスリスリする。

 大虎は何とも言えないような夢見心地といった表情でしのぶの寵愛を受けていた。

 地皇についてきた彼の子供たちも羨ましそうな様子で一人と一匹の姿を見守っていた。


 「しのぶ、子供たちの前だ。私の立場を考えてくれ…」(※虎語)


 それから小一時間ほど経過すると地皇の方から申し出が出た。

 地皇にだけは超甘いしのぶはすぐに解放する。


 「地皇よ、狩りに出かけるぞ」


 地皇は頭を垂れて己の背に乗れとしのぶに伝える。


 「お兄ちゃん、地皇たんを抱っこしたいなー」


 「駄目だ」


 「チッ」


 しのぶは地皇の背中に腰を下ろすと最寄りの魔物の巣に向った。

 地皇の子供たちは嫁さん達と一緒に裏山でお留守番である。

 裏山は地皇とその家族が暮らすようになってから獅子ヶ岳という魔境として呼ばれるようになっていた。


 ※ちなみに地皇の家族を狙うとしのぶに殺される。


 しばらくしてしのぶは魔物の姿が確認された場所に到着する。

 山間の素は貯水池だった場所にそいつらはいた。


 トカゲの頭に鋼の刃も通さぬ鱗に覆われた肌。手には刃こぼれした剣と盾、身体には古めかしい変わ鎧を身に着けている。

 しのぶの姿を見つけると細く長い舌を出し入れしていた。

 

 人類と敵対する亜人種、リザードマンだった。


 「地皇、そこにいろ。俺の獲物だ」


 「わかった」


 「狩りの時間じゃあああああああああ‼」


 しのぶは地皇の背中から飛び降りるとリザードマンの群れに向って襲いかかる。

 もはやどちらが魔物かすらわからない。

 しのぶは最初に身体の一番大きなリザードマンを見つけると丸太のように太い腕で抱きつく。


 「ぬんっ‼」


 そのまま得意の鯖折りで圧殺した。

 胴体を二つ折りにされたリザードマンの死体を地面に投げ捨てる。


 「さて、これから一分だけ時間をやる。その間に俺にダメージを与えられたら俺はお前らの配下になってやろう。だが、それが叶わぬ時は全員殺す」


 しのぶは見事なまでのスクナムーブをかます。


 リザードマンたちは互いの顔を見合わせると水源に向って逃げ出した。

 それはある意味、正しい選択だったと言える。しのぶが最強最悪の怪力モンスターだったとしても水辺ならリザードマンたちも逃げおおせる可能性があった。

 

 生存の為の闘争は恥ではない。


 「俺に背を向けるという事は…自分の命を諦めるという意味だああああッ‼」


 しのぶは腰を落として一瞬だけ”溜め”を作ると逃げ惑うリザードマンの群れに向って突進する。

 人間魚雷と化したしのぶはリザードマンの肉体を粉々に吹き飛ばした。


 「テメエが親玉かあああッ‼覚悟は出来とるんやろうなああああ‼」


 「きしゃああ‼」


 そして貯水池の水源に潜むヒドラを得意の張り手でミンチにして魔物たちを全滅させた。

 

 しのぶは魔物を全滅させた後、地皇の背中に乗って村に帰る。

 今回の討伐は誰かに依頼されたわけではないが、貯水池近くの川では村人が往来するので自分から出向いたというわけだった。


 「しのぶ、もう魔物は食べなくてもいいのか?」


 貯水池に続く一本道から街道に達したあたりで地皇がしのぶに尋ねる。

 一年前のしのぶならモンスターを倒した後には菅らず肉を食べていた。

 そのおこぼれを預かっていた地皇としては気になっていた事でもある。


 「俺もヒドラの肉とか食いたいんだけどなあ…」


 しのぶは「はあ」とため息をつく。


 「コラ、しのぶ。またチビ(※地皇の事)を連れてどこへ行っていたの⁉」


 しのぶの目の前に現れれた美しい女性。


「りん…」


 数年前に知り合った少女りんがしのぶを心配して迎えに来てくれたのだ。


 彼女はしのぶがモンスター食を止めた原因である。



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