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77 『ぼくは』


「ぼくはねえさんに救われたんだ。でも、それでねえさんのことを好きになったわけじゃない。その前から、多分好きだった」

 僕は、真っ直ぐに母さんの目を見る。

 目を、見て、感じて欲しかった。

「ねえさんは、三年も寝てたけど、起きてすぐ、僕の仮面に気づいてくれて、仮面をつけなくていいって言ってくれた」

 それがすごく嬉しくて、本当に人生て一番嬉しくて。でも、それだけじゃない

 ねえさんの顔を見たくなって、隣を見る。真剣な顔で聞いてくれているのが嬉しくて、でもやっぱり恥ずかしくなる。

 ……ねえさんを見て自分が心から感じたことを、母さんの、目を見て、伝える。

「ねえさんは、いつも僕のことを気遣ってくれて、優しくしてくれて、僕の話を聞いてくれる。一緒に居ると自然と笑顔になれてて、横にいると楽しくて嬉しくていてもたってもいられなくなるくらいで」

 小説で読んだ時は分からなかった感情だった。

 どんな感じなんだろうって。想像していたよりもずっと。幸せな、感情。

「すごく、好きなんだ。ソンサ・セーブさんが。母さんが色々心配してくれてるのも分かるよ。でも、この人じゃないと嫌なんだ。この人の横じゃないと、僕……」

 


 

「僕は、心から笑うことができないと思う。だから………」


 この先の言葉を口に出していいのか迷う。

 一瞬だけだった。どうしても自分の母に、理解して欲しかった。

 この人はとても素晴らしい人だから。

 僕は、この人ではなければいけなくて、この人と一緒なら、幸せになれるのだと。


 ひゅっと吸った息の音と吸いすぎて少し吐き出した息の音が、情けなくて笑えた。目をそらさないで、言葉を前に、前に出す




「だからお願い母さん。僕たちのこと、信じてくれないかな」

 なんと言えば分からなかった。けれど。

 信じて、欲しかった。


 ……認めて、欲しいんだ。


 母さんは驚いていた。こんなに顔に表情がのる人だったのだと、僕も、驚いていた。

 不安。だった。チラリとねえさんの方を見た。

 不安を、感じなかった。信じて、見守ってくれていた。僕と、僕の母さんを。

 嬉しかった。

 母さんの方に視線を戻した。

 目が合ったと思うと、一呼吸吸って、すぐに話し出した。

「うん。わかった。アクトにとってソンサさんがすごく大切なこと。そっかぁ」

 分かってくれた。それだけでも嬉しかった。けれど、そっかぁの後になんて言葉が続くのか、分からなくて怖くて。

 少し呼吸が難しかった。

「アクトにとって、ソンサさんはすごく大事な人。わかった。うん。アクト」

「うん」

「おめでとう」

「…!ありがとう」

 母さんは、確かに笑っていた。それはそれは穏やかな顔で、笑ってくれていた。


 ぼくは、大丈夫だったんだと理解して、身体中の力が抜けそうなのを、必死に耐えていた。

 幸せで顔がにやけないように、必死に耐えていた。

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