5 夢じゃないみたい
机を挟んで向かい合って座る。
食べ物は冷蔵庫から頂いてきた。初めてみる食べ物だった。おそらく果物。たぶん。
高いところにあって、アクトが僕がとるからっ!と言いながらぴょんぴょんしているところを、横からそっととってあげたら、照れ笑いされたことなど、
来る途中にも可愛いポイントはなんか色々あった気がしたけど、とても可愛くて記憶が飛んだ。
ここへくるまでの感じから、やっぱりここは大きな屋敷で間違いなく大きな貴族の家ではあると予想はできた。
だがやはり、使用人などの姿はなく、私の部屋?からここまでとはいえ私たち二人以外の姿は、どこにもなかった。
そう。母とか父も見当たらなかった。
(これは異常だよなぁ)
まぁ、それもおそらく今から説明してもらえると信じつつ。
とにかく今は、お腹も空いたし、二人で一生懸命用意したご飯に集中することにした。
「「いただきます」っ」
口に入れた瞬間とろけた。じんわり果実が広がる。
「おいしいね。これ」
「本当っ?よかったぁ、これはねっ、僕が取ってきたんだぁ」
「すごいねぇ」
可愛いねぇとか思いながら、アクトのことをニコニコと見ていたら、
「僕に話せることを話すね」
急に真剣な顔になった。
普通に、びっくりとギャップでころっと好きになりそうだった。
…だとか。
ふざけて現実逃避している時間はそろそろ終わりみたいだなぁ。
真剣に聞こう。気を引き締めなおす。勝手に背筋も伸びた。
「まず、僕らのことから。家族構成は母さん。父さん。兄さん。ねえさん。僕。5人家族だよ」
この歳の子家族構成って言葉使えるの……!?
「母さんと父さんは今、 ねえさんを起こすための薬を探しながら、仕事をしていて、僕はねえさんとお留守番。僕とねえさんより年上の兄さんは」
言葉が止まった………?一度目線が私の目から外れて、戻ってきたと思うと同時にまた話し出した。
「……兄さんは習い事をしまくっていて近くの習い事専用場所の寮にいる」
なんだろう…よく分からない!?
「それで……ねえさんが寝ていた理由だけど……。ねえさんは…赤目の呪いを恐れたやつから魔法をかけられたんだ。えっと、その。それが強い魔法で。なんとか弱体化することには成功したんだけど、眠りについてしまって」
せきめ?赤面じゃないよね。せきめってなんだろう?
「赤目の呪いっていうのはね……。赤色の目を持つものが生きていると、この世界に不幸が巻き起こるっていう、ただの…くだらない言い伝えさ」
赤い目と書いて赤目かぁ。ふぅん。この世界に不幸かぁ…。重いなぁ……。
「『私』以外にも赤い目の人はいるの?」
「今のところはいない…みたいだよ」
なるほど。1人で背負ってるんだ。…世界の不幸……。
たぶん。
今私の魂が体に入っているこの子は、私が読んできた物語の登場人物ではない。
赤い目が迫害されている…みたいな作品はいくつか読んだことはある。
けれど、この家族構成、この見た目、この内容の、この名前の。
ソンサ・セーブというキャラクターは、
私が読んだ作品に出てきたことは間違いなく、ない。
そしておそらく。
おそらくこの子は、ソンサは、純粋な主人公ではない。
赤い目を持っているだけで世界に不幸にすると思われて。
赤い目を持っているというだけで人々から恐れられる存在。三年間も眠らされるような魔法をかけられるほど。つまりは、
そこに存在するだけで人々を笑顔にする純粋な主人公ではなく、
そこに存在するだけで人々の顔を曇らせる悪役側。
…『私』は、私の知らない悪役の令嬢さんなのかもしれない。分からないけど。