13 ソンサ
「アクト!ちょっと待ったー!そういう話はお義父さんがいる時にするって約束だろ?」
大きなの声の主は兄。全然怖くないけど、腰に手を当てて、今怒っていますという感じを出している。…出しているという感じが漏れ出てしまっている。
「ソンサも起きたばかりなんだし、約束は守らないといけないだろ?特にお義父さんとのめちゃくちゃ大事な約束なんだから、破ったらすごーく怒られるとおもうぞ」
「はいはーい、そうですよねっと」
アクトは、本当に演技する気が無くなっているよう。私が初めに見ていたのは幻影だったのかと思うくらいの可愛げのなさだった。それが一周まわって可愛くなってて、私は好きだけど。
なんでろう。お兄ちゃん、結構怖かったと思うけどなぁ。こう、頑張って怖くしようとしていた気がしたんだけどなぁ。
ほらぁ、やっぱり!お兄ちゃん、アクトに全然効いてないの、ちょっと落ち込んじゃってるよぉ。かわいそうだよぉ?の視線をアクトにこっそり送ってたら、キュイってこっちむかれて睨まれた。視線に敏感だなぁ。
まぁ、そんなこんなでお兄ちゃんとアクトと色々ゆるーくお話ししつつ、食卓に戻った。食卓はリビング的な感じなのかもしれない。テレビは無いけど。
三人で椅子に腰かけて、話す。魔法とか食料についてお兄ちゃんが説明してくれて、それにしっかり大声をだしてしまい、アクトにちょっと嫌な顔をされた。
私はしっかりお兄ちゃんの名前を聞くタイミングを逃し続けつつ、お父さんが帰ってくるの待ってた。
もう、なんか信じられないんだけど、10分くらいで帰ってきた。
「「ただいま!!!!!」」
声が家中に響き渡ってるし、お母さんっぽい方の声もするし、なんかこちらに近づいてくるすごい足音が、
「「ソンサ!!!!」さん!!」
な、いていら、っしゃr
「!?」
抱きしめられた。お父さん(!)とお母さん(!)から。
「よかった、本当によかったぁ」
「………もう、会えないかと思いました」
抱きしめられて暖かくて。
「あ、えっと」
いやほんとうにごめんね温度差あって。なんか感じてたことではあったんだけど、今1番感じちゃって。
めちゃくちゃ愛されてないですか!?
『私』こと『ソンサ・セーブ』さん。
あれ、思っていたよりも今まで見てきた悪役の中でもかなり愛されている感じがして、安心と驚きが交互に来ている感じ。
親に愛されすぎて甘やかされて、わがままになり、悪役へとかよく見たけど。
こんな家族一同大好きです。大切です。みたいな、こんな素敵な幸せな家庭に生まれてしまってよかったのか…。
いや、もちろんまだ分からないけど。みんなみんな、会ったばっかりではあるし、何なら母と父とは話せてもいないし。
でもなんか、三年間寝ていて起きてそのことに家族全員泣いて喜んでくれるってのは、かなり幸せな気がして。
それが私じゃなくて『私』だったらどれだけよかったかとか。記憶喪失って今から言わなくちゃいけないのかとか。
そもそもかなり時間が経っているけど、私は『私』は元に戻れるのかとか。
なんか急に現実を少し見たというか、頭をどつかれたみたいな感覚がして、
なんか体が重くて。
キャパオーバー
体が前に倒れるのを感じる。少しの衝撃しか無かった。だってそこには父と母がいる。受け止めてくれたのだろう。
「 」
薄れゆく意識の中
一生懸命『私』の名前を呼ぶ4人の声が聞こえた。