10 んん?
「ねぇ、話したくなかったらいいんだけどさ」
「なに?ねえさん」
アクトはすっかり落ち着いて、さっきまでと比べると低くなった声とトーンで、太々しく、それでもしっかりこちらを見て、こちらに答えてくれる。
そこまで露骨にツンっとされると遠慮なく聞けるなぁ。
「なんで、仮面かぶってるの?」
思いっきり顔を顰められた。
「話したくない」
「そっか、じゃあ話したくなったら教えてね」
「…わかった、そんな日がくるかは、分からないけど」
思いっきり、ツンツン返された。可愛いのの、見る影もない。というか、こういう時って勝手に教えてくれるものだと思ってた。
ま、でもあの顔の顰め方からして話したいけど話せないではなくて、本当に話すのが嫌だって感じだったから。
無理に聞き出すようなことでもないしなぁ。
あじゃあ、
「他にも知ってる人はいる?」
「いない」
「そっか〜、そうだよねぇ。…えぇ、まじ!?」
「本当だよっ、ねえさんっ」
「演技、うまいんだねぇ」
家族にも仮面つけ続けるってどんな心境なのか…。わかってあげることは完璧にはできないかもしれないけど、少しでもアクトの負担を減らせたらいいなと心から思った。その時だった。
「ただいまっ!!!」
少ししたら帰ってくるとのことだったのでそういえば、待ってはいたのだけど、本当に帰ってくるとなると緊張するな。というか声大きいな!
「迎えいこ」
「え、あ、うん」
ちょっと待って心の準備がまだできてないとは言えなかった。ずんずん先に進んでいく、アクトを追いかけてそのまま二人で玄関へ向かう。というか私は場所分からないからついて行くしかなかった。アクトが向かったのは、私の部屋の方向、そのまま部屋を通り過ぎて、食卓とは反対側にどんどん進んでいく。
そうしてあっという間に着いてしまった。
すごい勢いで、荷物を下ろして土を払っている後ろ姿が目に入る。
アクトから声かけなよみたいな目で見られた。
ああジェスチャーもついた。
うう、わかった。わかったよぉ。
「あの…お兄ちゃん?」
読んでから気づいた。しまった。記憶喪失前はなんて読んでいたのか聞くべきだった。
「え?」
すごい勢いで振り向いたその目は驚きに満ち溢れていて、いやちょっと待ってめちゃくちゃイケメン。
アクトをそのまま大きくして愛嬌プラス500してツンをマイナス500した感じ。つまりは青い髪に水色の目、目元はアクトと少し違って垂れてる感じで、それがまた愛嬌を感じれる要素なのかもとか謎の考察が捗っていた。
次の瞬間、
「ソンサぁぁぁぁぁぁぁぁ!会いたかったぞおおおおおおおおおおおおおお」
すごくデジャブを感じた。
アクトの時と違うのは、私より目の前のお兄ちゃんの方が背が高くて、私が顔を埋めていること。
あぁ、でも抱きしめられると、なんか急に安心して、目元が熱く…。
「兄さん、記憶喪失だってよ?ねえさん」
ん?
アクト!こ、声のトーン低くない!?
ドライジャン全然ドライじゃん!!知らないんじゃなかったっけ!?
「そうなのか!?!?あぁ、本当だ涙目だごめんな、知らないやつから抱きしめられたらそれは嫌だし怖いよな。って、んん?」