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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
97/130

97 うねり

 五層の扉を開けると、そこはまた洞窟となっていた。

 不気味な雰囲気が漂う。

 何かが、息を殺して潜んでいるのを感じるのだ。


 五層にはゴブリンが生息している。

 と言っても、カル達は『エンデルの森』で、瘴気で狂暴化したゴブリンと散々戦ってきたのだ。それも、結構な数とである。

 今更、普通のゴブリンが出て来たところで、相手になるはずもない。


 今は魔物の相手をするのが面倒なので、全員ネックレスを外している。

 つまりは、魔力ゼロの状態ではなく、開放した状態となっている。

 そのため、五層では襲われる可能性はまずない。けれども、襲われるのは面倒なので、隊列フォーメーションは一番魔力量の多いエスティルを先頭にして進んでいる。

 これで、前方にいるゴブリンは逃げ出していくだろうという寸法である。

 そんなことで、俺は前衛であるにも関わらず、成り行きとはいえ最後尾となっていた。


 それにしても、ゴブリンが逃げ去っていくのが良くわかる。

 なぜ、分かるかというと、ゴブリンの魔力には悪意があるからだ。


 今迄、一番前にいた人間が最後尾にされると、チョット気持ちも萎えてくる。

 振り向いてみても、後ろには誰もいない。

 後ろに誰もいないとなると、結構不安なものである。


 どうしても、先程から後ろが気になって仕方がない。

 再度、振り向くと、気のせいだろうか、岩の位置等が変わっているように見える。

 暗さもあって、正確には覚えていないものの、さっきと違うように思える。


 カルは、かすかに眩暈のようなものを感じていた。


 その内に広い場所へとでた。

 右も左も、岩が多くて、岩に囲まれている感じを受ける。

 狩場かと思える場所だ。ゴブリンが襲撃してくるのではないか!と頭を過りもしたが、魔力を感じないし、そもそもが相手は逃げ回っているのだ。今回は考え過ぎである。


 分かれ道が無いと言う話なので安心して後からついていっているものの、岩が連なっているせいもあり、ゆるやかな曲道となっているの良く分かる。


 それにしても、後ろが静かである。

 何の音も聞こえてこない……と思っていたら、かすかに声が漏れ聞こえてきた。

 カルは一人、立ち止まって耳をすましてみる。

 間違いない。確かに聞こえてくる。

 急ぎ、声が漏れてくる方へと向かった。

 この岩か。場所は直ぐに分かった。


 岩と岩の間を覗いてみると、女の冒険者の姿が見えた。

 彼女は半裸の状態で、両手、両足を縛られている。そして、口もとに布か何かを噛まされているために声が出せないでいるのだ。


 …彼女の姿に目を奪われてしまっていた。

 そして、彼女と目があった。

 彼女は目を見開いて、泣き叫びながら首を振っている。

 だが噛まされているために、声にならない。


 ハッとした。

 自分がしていることにだ。

 これでは、ただの覗きである。やっていいことと、悪いことがある。

 若干の興奮もあったが、寒気がした。

 しかも、彼女は首を振って、明らかに嫌がっているように見える。

 俺は直ぐに助け出そうとしたが、同時にあることが脳裏を過った。


 なんだ。この覗き部屋みたいなシチュエーションは、岩と岩に囲まれているのに中に灯りがある。まるで、ここで見ろと、…立っていろと言わんばかりである…。

「罠?」

 そう呟いた時、頭上に悪意のある魔力を感じた。

 光る刃が、カルの延髄辺りを目掛けて、落下してきたのである。

「ギギッ!」

 ゴブリンの声である。

 手にしていたのは槍である。

 ゴブリンが槍を持って、垂直落下してきた。

 カルは避けたつもりであったが、右鎖骨辺りを少し斬られていた。

 多少血を流したものの、回避したと同時に外から薙いで、着地直後のゴブリンの胴体を槍の柄

ごと真っ二つに斬った。


「グギギッ」

 ゴブリンは断末魔の声をあげると、瞬時に魔石へと変化して地面に落ちた。

 廻りに現れていたゴブリンらはそれを見て、驚いて逃げていってしまった。

 

 ダンジョンの魔物は、致命傷を与えると魔石へと変化する。

 魔力量が多ければ多い程に魔石が大きくなるという。色は魔物によって違うらしい。


 危なかった。魔力をすぐに察知出来たが、得物が槍であったがために、尖塔が長い分、傷を負わされたのだ。剣であれば回避できただろう。

 そう思いながら、自分の傷口に手をあて、血を救っていた。

「あれっ。傷を負っている? なんでだ?」

 確認すると、『魔力攻撃無効、物理攻撃無効』のリングが外されている。

「……ルバート! 何で勝手に外すんだよ」

 カルは語調強く、聞いた。

『………主よ。この程度の攻撃で傷を負うようでは…』

 二度も勝手に外されたので、文句の一つや二つを言おうと思ったのだが、その一言を聞いて、俺は言葉に詰まった。

 なぜなら、ルバートにその内愛想を尽かされるのではと思ったからだ。

 珍しく、ルバートが続けて話す。

『主は敵の感知は速くなっているが、徐々に剣速の反応が遅くなってきている。我と戦った時が一番速かったように思う』

 そんなことは無いはずである。レストランでペイジュスの刺客二人と戦った時、『内なる声』が聞こえての戦闘だった。声が聞こえたのだ、速かったはず。…いや、でも、一人では勝てなかった。事実、ルバートに助けられている。相手が強かったのかも知れないが、はっきり、指摘されると弱くなっている気もする。

 一番そばで見ているルバートに言われると反論が出来なかった。


 物音に気付いて、エスティルらが戻ってきてくれた。

 フェルビーが表面の岩を拳で破壊して、奥で縛られていた女性を救い出した。

 女性は助かったと実感したのか、縄を解いてあげると脱力して立つことも出来ない。

 エスティルが介抱してあげている中、ビグルは落ちている魔石を見て驚いていた。

「五層のゴブリンにしては大きいな。こいつら、この罠で冒険者を狩っていやがったんだ。この大きさの魔石だ。……結構な人数をヤッタに違いない」

 その言葉を聞いて、ジルも言葉がでない。


「……男の本能を見事なほどに衝いた罠だ」

 沈黙していたカルが言葉を発した。


 そこへ、一通り解放を終えたエスティルが岩の中から出て来た。

 一応、縛られていた女性冒険者には治癒魔術をかけたものの、精神的な疲労もあって、すぐに回復とはいかないといった様子で、今、フェルビーが岩の中に残っている。

「何が本能を衝いた罠よ。黙って寄り道した挙句、覗き見なんかして、なんですぐに、仲間に知らせなかったのよ!」

 ふと口にした言葉が、エスティルには聞かれていた。


「た、確かにそうだ。ごめん」

「もう。あの変態露出狂女と歩いて来た時のショックに比べたら……何だか、免疫が出来たみたい…。怒る気力が、なんか、今、ない」

 俺はエスティルの一言を聞いて、先程と同様、そのうち、彼女にも愛想を尽かされるのではないかと思い、少し落ち込んだ。

「別に変な目的で、覗こうと思った訳じゃなくて」

「分かってる、分かってるわよ。でも嫌なものは、嫌なのよ!」

 エスティルが、珍しく滅入っている感じである。

 

「ご、ごめんなさいかもです。よ、余計なものを見せてしまったかもです」

 岩の奥から、女性冒険者が、よろめきながら声を掛けて来た。

 剣で自身を支えるも、よろめき方が女性らしさを際立たせていた。

 

 女性冒険者が言うには、やはり、俺達の見立て通り、ゴブリンらは、あの罠で冒険者等を幾度となく、殺していたらしい。

 考えてみると、良くできた罠である。

 獲物が男なら、覗き穴を増やせば、増やした分だけ引っ掛かる。

 意識が女性にいく上に、視界を狭めさせているため、ゴブリンからしたら仕留めやすいことだろう。

 

 冒険者になると言って、王都を目指し、こんな罠で命を落としたら、悔やんでも悔やみきれない。ましてや、仲間が自分のこんな最後を親族に話すのかと思うと…死んでも死にきれない思いであろう…でも、伝え方次第かもしれない。

 捕らわれている女性を助けようとして、命を落としたと伝えられるか、覗いている内に殺されたと伝えられるか。



 ………仲間とは仲良くしておかないといけない。



 男性達は死んでしまった後のことも考えると、この罠の真の恐ろしさに恐怖したのであった。


「あなたは凄い方です。上からの攻撃を躱した方は一人もいませんでした。皆、致命傷を負った後、ゴブリンに滅多刺しにされてしまいました。その数20人以上…だったかもです」

 女冒険者の話を聞いて、カルはゾッとした。

 そんな死に方をした者が、そんなにいたのかと。


 彼女は立っているのも、きついのだろう。再び、よろめくとカルの胸の中におさまった。

「お、お願いがあります。私はある高貴な方を護衛している者です。ど、どうか暫くの間だけでも、一緒に探して欲しいかもです」

「乗った!! 金になるんだろうな!」

 ビグルの仲間の一人が『高貴な方』という言葉に反応した。

 この男、名をエンセンといい、人の命よりも金貨の方が大事だと考えている。


 また、もう一人の男、フィリップは彼女のあられもない姿を目にして、別の意味で反応している。

 彼女に下卑た視線を送っているのだ。


 一方で、ビグルは女性冒険者に対して、冷ややかだ。

「お前、大銀貨くらいは持っているんだろうな。ただじゃやらねえぞ。俺達は傭兵であって、冒険者は所詮、真似事だ。金次第だ。大体、もう、そいつらは殺されている可能性が高いだろが」


 彼女の話しだと、既に20人が殺されたという。それだけ、捕らえられてから時間が経っているのだ。連れが生きている可能性は低い。となると、実質、遺品探しという仕事になる。

 物探しの場合は、高貴の者であればあるほど、報酬は高くなるものである。

 ビグルは仲間が考えている金額を、この女が支払えるとは思えないために、念をおしているのだ。

 勿論、普段ならこんな警告じみたことはしない。

 エスティルが見ていることもあって、面倒ごとにさせたくないのだ。


「あ、あの、探すとこなんか、ほとんどないですよ。ここは五層なんだから。階層主の部屋まで一本道です」

 テッドはあわてて、反射的に返した。

「ご、五層なんですかっ!!」

 女性冒険者が振り向いた。

「じゃあ、進めばいいだけじゃないの! ほら、テッド行くわよ」

 エスティルは、女がカルから離れないので苛つきはじめていた。

 そもそもが、抱き着いた途端にお願いごとをしたのだ。

 この『あざとさ』を目の当たりにして、彼女には悪い印象しかない。


「私達が戦っていたのは、24層です。これって…」

 女性冒険者は言葉につまった。


「おいおい、冗談もいい加減にしろ」

「本当かもです。嘘はいいません!………あ、『かも』というのは口癖なので、気にしないでください」

「わかりづらいなぁ」

 ジルは眉を顰める。


「もし、それが本当なら最悪だぜ。俺が、昨日偶然聞いた話からすると、これは……もしかしたらだが、100年に一度あるかないかの『うねり』ってやつかも知れないぜ…。女指揮官ボス!」

 ビグルの額から冷汗が垂れてきた。

 彼の仲間らは言葉を失った。


「何よ、その『うねり』って!」

「理由は定かではじゃねえが、天塔迷宮トゥルス・ダンジョンは、迷宮内を再構築することがあるって話だ。その変化の期間を『うねり』と呼び、静かに変化していくという。規則性はない。階層の魔物や、地形が全部、一部と入れ変わっていたりするって話だ。ということで嬢ちゃん。さっきの話は取りやめだ。悪いな」

「………」

「ビグル、どうすればいい!」

 珍しく、カルの目が恐い。

 十中八九、その『うねり』が起きたと踏んだからである。

 先程の眩暈も、そのせいだと今では思っている。


「どうするも、何も、ここを突破し、階層主の部屋を突破して、回避ルートで戻るだけだ」

「わ、わかった」

 カルはおもむろに剣を抜いた。

 囲まれていることに気が付いたからである。


 実は、ジルは少し前に不穏な動きがあることに気付いていた。

 考え事をしていた分、伝えられなかったのだ。

 

 今の話を聞いて繋がった。

 二階層にいたホーンラビットも、違う階層のホーンラビットだったんだ。

 だから、テッドが深手を負わされた。

 そして、ここにいるゴブリンも、24層の魔物なんだ。

 そもそも、ゴブリンは臆病で知能が低い。

 それが、女性冒険者を殺さずに罠の仕掛けとして使っていた。しかも、仕留める際には長い得物を使い、体重を掛けて仕留めにきた。

 これだけで、明らかに浅階層の魔物ではない。知恵があるのだ。


 まだある。

 ビグルが、死んだゴブリンの魔石の大きさに驚いていた。


 なぜ、すぐに気付かなかったのか!

 ジルの耳にモンティの言葉が繰り返される。


『ダンジョンでは、何が起きるか分からないんだからね~』

 

 浅層階の魔物であれば、魔力量の多い冒険者には寄ってこない。

 自らが弱いため、本能的に殺されてしまうことが分かっているからだ。

 だが、魔力量が多い魔物は違う。

 多くの魔力を喰いたいために、魔力量の多い者を狙う。

 ここのゴブリンらの狙いはエスティルだったのだ。

 恐らくは、廻りにいる男どもはあの罠で一人でも多く、仕留めるつもりだったのだろう。


 今頃になって、気付いたことに、ジルは悔しくて、悔しくて、仕方がなかった。

 さっき、気持ちよく、手打ちにしてくれたエスティルに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「く、くそっ!! 俺様は馬鹿だ! 馬鹿だ! 馬鹿だ!!」


「……もう。馬鹿は分かっているけど、その前の下品な言葉は止めなさい」

「だってなあ!」

「カルに任せておけば、問題ないわよ。カル! 全部、お願い!」

 その一言を聞いたビグルらは、今度は何が出てくるのか、そっちの方が、恐ろしくなり腰が引けていた。

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今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい」等と少しでも感じていただけましたら、

ブックマークと★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

更新する原動力が本当にわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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