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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
96/129

96 杖で打つやら、手打ちやら

 カル達は互いに顔をみあわせた。

 …その話。

「ウルテッドさんって、何処の村の出身なんですか?」

 カルは丁寧に聞いて見た。


「お、俺は、ルーニー村の出身だ。村には、広大な小麦畑があって…風が吹くと小金色の地平線が揺れ動くんだ。…懐かしいよ」

 ウルテッドは、涙も乾かないままに故郷を思い出して話し始めた。


「お前、ウルテッドという名は本名か? 俺様に嘘をついたら命はないぞ!」

 何気にジルセンセは強気である。

「い、いえ。そ、その『ウル』は昔読んだ本の精霊の名前から付けました。本名はテッドといいます」


 それを聞いて、無言で動き出す女がひとり。

 半目である。

 背後から魔法の杖で、テッドの後頭部を小突く、小突く、小突く。


 ゴツン、ゴツン、ゴツン。

「あがががっ、痛ったーーーーー」

 テッドはたまらずに、頭を抱えてしゃがみこんだ。


「やばい、爆発する前に止めないと」

 カルの言葉を聞いてビグルは引きつる。

 彼女が杖を大きく振りかぶった時、カルが羽交い絞めにした。

「なにするの! カル」

「こっちのセリフだ! 何してるんだよ!」

「殴るに決まっているでしょうが!」


 テッドは、この中で一番怖い魔法使いを怒らせていることを知ると、目の前が真っ暗になってしまった。先程、火のファイアジャベリンを目の当たりにしたばかりである。もう、生きて帰れる保証はない。ここはダンジョンの中なのだ。

 なぜ、彼女の逆鱗に触れたのかは分からないが、間違いなく、もう、無事で帰ることはできないのだと悟った。

 一縷の望みがあるとすれば、止めてくれている人がいるということである。

 動くことも出来ない彼に対して、罵声が飛んできた。


「あんた!!! 弟の教育ぐらい、ちゃんとしときなさいよね!! あたしに向かって、『寂しい女だから婿になってやる!』 なんて、ガキのくせに舐めた口聞いて! しかも、大声で、言ったのよ!!!」

 エスティルは本気で怒っている。

 意外と、我を忘れるくらいに怒ると、魔術ではなく、手や足が出るものなのである。


「へっ? 弟…ニルス?」

「そうよ! そして、アンタが兄のテッド・ニアでしょ! そもそもが、アンタが村を出たりするから、あたしがあんな恥ずかしい目にあうのよ!!」


「『村を出たりするから』って…お前、そこは全然いいだろ」

 呆れ顔でジルセンセが呟くと、エスティルに聞こえていたらしく、つま先で脛を蹴られた。

「あたっ、痛っ---」


 テッドとすれば、自分は仕方ないとしても、弟にまで被害が及んで欲しくない。

「すみません。すみません。村を出てしまってすみません!」

 只管に謝る。

(だから、そこは謝らなくていいだろ)

 ジル。心の言葉。

 

 最後に一発、魔法杖でガツンとやって、やっと怒りが収まった…ようである。

 テッドは涙目で蹲っている。

 伏せながらも謝っている。

 良く殴られる男である。


「エスティル、これは魔法杖だろ! 打撃用の武器じゃないんだから、こんなことしちゃダメだろ」

「いざという時のために、打撃武器として使えるか、試しに使ってみただけよ!」

 カルの強い一言に、エスティルは視線を逸らして反論する。

 今は何を言っても、逆効果だと思い、カルもこれ以上は注意するのを止めた。

 なにせ、随分前のことであるのに、これだけ怒っているのだ。


「良かったんじゃないか。こいつの場合、素手で殴られるほうが効くからな」

「なんですってっ!」

「ひぃ、ひゃ、ひゃ」

 怒っている時に余計な一言を口走ったために、ジルは頬を捻られている。

 なぜ、黙っていられないのだろうと思いながら、カルは苦笑いである。


 テッドは土下座して、まだ謝っている。

 村にお礼参りでもされたら、大変だと思っているのだ。


 エスティル自身、あの村にはいい思い出がない。

 いい思いをしていたのは、主に男性陣だけなのである。

 それでいて、最後の最後、別れ際に子供にコケにされたので気分が悪いのである。


「もう、気が晴れたわ。ほら、早く案内してよ」

「は、はい」

 テッドは兵士のような、きびきびとした動きで立ち上がると、先頭に立った。

 

 二層を後にして、少しばかり進むと、今度は打って変わって、周囲をみると洞窟となっていた。

「三層は洞窟だったか? 俺様の記憶だと通路だったはず」

「そうよ! 通路よ。でも、二層も通路だって聞いていたのに草原だったわ」

「ゲン爺の言っていることがまるで違うぞ」

 エスティルとジルの会話を余所に、カルは訓示を思い出す。

「ええっと、確かゲン爺がいうには、三層は上からの攻撃に備えよって言っていたよな…」

「だから、それ、もう、役に立たないわよ!!」


 エスティルの指摘を無視して、俺は習ったとおりに見上げると、天井には蝙蝠が沢山いた。

 蝙蝠となると、どうしても、カルはエレンやマーレと一緒に彷徨ったダンジョンのことを思いだす。

 あの時と比べれば、心強いメンバーに囲まれているし、地上に帰れる算段もある。

 全く状況が違う。

 けれども、上から攻撃されるのは面倒である。

 浅階層では魔力量が少ないと襲われる可能性が高い。なので、『女神の祝福』のメンバーはネックレスを外した。因みに、カルはこのネックレスを支給されていない。勿論、理由は、元々の魔力量が乏しいからである。


 そもそもが、このネックレスを外してさえいれば、五層まで襲われることはないのだ。今になって、俺達は気が付いた。


 実際、天井の蝙蝠たちは翼で体を覆ったまま、隠れているようで声もださない。

 怯えているようにさえ見えてきた。


 俺達不自由なく、三層、四層を通り抜けていく。

 ここ迄、一度も階層主とは戦っていない。

 ダンジョン側が戦闘を拒否しているようにさえ、感じる。

 魔物の生成が追いつかないのだろうか。


 俺達は四層の階層主部屋に到達し、ここで休憩をとることにした。

 ビグル達も腰を下ろした。


 思えば、ビグルと顔を合わせたのは『エンデルの森』での一戦以来である。

 あの後、ビグルら傭兵は現地で報酬を受けとり、ついこの間、王都でも表彰を受けたという。さすがに叙爵はなかったものの、十分満足のいくものであったらしい。


 冒険者にいたっては、王都での表彰はまだらしい。

 表彰といっても、別に王族が同席して、直接言葉を掛けて貰えると言ったものではない。

 庶民が活躍したからといって、いきなり王族に会えるわけがないのだ。

 実際は騎士団によって、表彰されるのだという。

 

 全て初耳である。

 この討伐に参加するきっかけは、もともと、『エンデルガーデン』の中に入れなくなってしまい、リエルに何かあったんじゃないかと思って、偶発的に討伐に参加することになったのである。他の冒険者達のように、正義感に駆られたり、名を売りたいだとか、報酬が欲しかったとかではなく、要は自分達のためであったのだ。

 そんなこともあり、報酬という発想が俺達には無かった。

 考えてみれば、報酬がでてもおかしくはない。

 それだけの活躍を俺達はしているように思う。


 ビグルらは現地で報酬を受けたと言った。

 現地となると、ギルドでもらったのだろうか。


 エスティルが気になり、ビグルに問いただした。

「何それ? 初耳よ。それって、ギルドに行かないと貰えないわけ?」

「い、いや。『銀の翼』や一部のパーティーは公爵家から直接貰えたような話を聞いたぜ。本当かどうかは知らんが」

 それを聞いて、エスティルは気色ばむ。


 それなら、公爵家にいた俺達は、『女神の祝福』としての報酬は誰かが貰っていておかしくはない。いや、貰っていないとおかしい。

 俺は貰っていないので、ジルセンセかエスティルのどちらかが貰っているのではないか。

 ビグルがいうには、もし、個人で評価されているのなら、エスティルならば白金貨が貰えるんじゃないかという。その言葉を受けて、エスティルは目を丸くしている。

 個人の評価というならば、俺とジルセンセでは高額な報酬は期待できないであろう。

 でも、パーティー登録をしているのだ。傭兵と違い、個人での報酬は変である。


 エスティルは貰っていないのか…。

 

 あれっ、ジルセンセの耳がふにゃっている。

 こうなると、何か疾しいことがあるにように見えてくる…。


 突き詰める前に、ジルセンセから謝ってきた。

「黙っていてゴメン!!」

「貰っていたんですか!」

 カルは驚いたが、不思議と怒りの感情は沸いてこない。

 むしろ、彼の表情を見て苦しんでいたのかと、同情さえしてしまう。


「ジルフリード様から直接、『女神の祝福』としての報酬はもらっているんだ。そ、その金額をカルとエスティルに話したら、ダンジョンには行きたくないって、言われるかと思って隠してたんだ。ほら、ダンジョンの中は怖いだろ! カルは戦うのは嫌だって普段から言っていたし、カルが行かないとなったら、エスティルも行かないかも知れない。そう思ったら……」


「馬鹿ね! そりゃあ、お金だけで考えたら、沢山貰えたらダンジョンに入る必要もないだろうけど。それとは別でしょ! リエルやメリーザ様は苦しんでいるのよ! 見捨てる訳ないでしょう」

 エスティルの言葉を聞いて、ジルセンセは既に涙ぐんでいる。


 ジルは、この件をずっと一人で抱え込んでいた。

 エンデルの公爵邸で、初めて、ジルフリード様から『全癒の翆石』の話を聞いた時、必ず持ち帰ってきますと即答していた。だが、自分一人で王都へ行ったところで何も出来やしない。そんなことは百も承知である。


 公爵家としては、『エンデルの森』に関わることであるので、全面協力をすると言われた。けれども、用意された知らない人達と一緒に行くのは嫌だ。絶対に、カルとエスティルの二人と一緒に行きたい。

ダンジョンで自分が死ぬ可能性だってある。

もし、そうなった時は二人に居て欲しい。


 不安の中、自分が行くと決意したことを聞いて、二人は一緒に行くと言ってくれた。

 嬉しかった。心の底から嬉しかった。

 でも、なぜだか、報酬について話す気になれなかった。

 自分の中で、報酬のことを話したりしたら、やっぱり止めると言われたりしないかという不安を払拭しきれなかったからだ。

 

 旅が進むにつれて、カルが公爵家から給料を貰えるということで、何かと自腹を切って払ってくれているのを見て、申し訳ないという思いが募って、ランドルからはお金をむしり取るような交渉を続けてしまった。


「ううっ、俺様は、理想ばかり高くて…人を信じることが出来ない…。駄目な奴なんだよ」


 エスティルは腕を組んで、半目の仁王立ちで聞いていた。

 この場は、ビグル達をも巻き込んで、沈痛な雰囲気となっている。

 そんな空気を切り裂くように一声が放たれた。

「呆れた。ジルが駄目なのも、理想が高いのも知っているわよ。仲間だもの。今後は仲間を信じ、正直に生きることをこの場で誓いなさい。……別に怒ってもいないし」


「そ、そうですよ。ジルセンセ! 別にネコババした訳でもないですし。言いそびれていただけなんだから、悪いことした訳じゃないんですから、そんな泣かないでください」


「いや、人は夫々だ。金を貰う前に死んじまったらどうするんだ。借りた金が払えなくて殺されることだってある。金をさっさと出さねえなんて。…普通なら独り占めにするとしか考えられねえ。ジルのしたことは俺達傭兵の世界じゃ、殺されても仕方がないレベルだぜ」

 ビグルは一連の話を聞いて呆れている。

「………」

「まあ、女指揮官ボスがOKなら、これでこの話は手打ちだろうけどな」

「じゃあ、OKよ。手打ちよ。皆分かった?」

「御意」

「んぐっ」

 もとから、オルガとフェルビーは討伐参加していないので、関係の無いことであるが、二人の返事は、この場で反対の意義を唱えた者には制裁を下しますという意味で返事をしている。


「さあ、五層への扉を開けましょ」

 ジルは泣き崩れた。

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今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい」等と少しでも感じていただけましたら、

ブックマークと★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

更新する原動力が本当にわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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