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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
95/130

95 ウルテッドの正体

 マーレは、お祈りをするかのように手を組み合わせ、カルの背中を見送っていた。

 彼女自身、本当は一緒に行きたいと思っていた。

 だが、彼女には相手を攻撃するような魔術もなければ、癒すような回復系の魔術も使うこともできない。幾つかの特殊な能力を持ち合わせてはいるが、ダンジョンでの活躍はそう期待できるものではないのである。

 彼女の能力は素晴らしいものではあるのだが、『女神の祝福』にはジルがいる。

 探索能力が完全に被る訳ではないのだが、実際問題、ジルはパーティーの役割として荷物運びも担っている。

 マーレには、ジルのように大きな荷物を背負うなんてことは出来ない。

 だから、ジルには自分の分まで頑張って欲しいと願うばかりである。

 自分でも気が付かないうちに不安そうな表情をしていた。


 彼女があまりにも、心配しているようなので、スコットは話かけた。

「マーレ殿。カルのことが心配でありますかな」

「はい。ご無事を祈ることしかできないのも、辛いです」

 少し、幼さの残る顔に涙を浮かべられると、スコットも言葉に詰まった。

「こんなことをいうと、嫌われるかもですが、彼はカルではないのであります」

「……はい」

「マーレ殿がそんなに心配する理由が、わかりませんです」

 スコットの眼差しは優しい。


 今度は、マーレが言葉に詰まる。

 カルの姿がダンジョンの中へと消えていく。

 彼女は真っ直ぐに、後ろ姿を見ていた。


「マーレ殿。ジルフリード様の決断で、彼が戻ることになったとはいえ、彼に肩入れをするのはお止めになった方が良いであります。…亡くなった16人の者達の遺族らには手厚い援助がなされておりますが、それでも、一人生き残った彼への目は厳しいものです。彼は生きていたのに屋敷に戻ってこなかったのです」


 スコットの話す内容は、公爵家に仕えるものの見えざる不満であった。

 唯一生き残り、屋敷へと運ばれたドースは魔人に止めを刺したのはカルだと、公爵に告げてはいたものの、表向きはドースが殺したことになっている。

 カルが止めを刺したことは、一部の人間にしか知らされていないのだ。


 ドース自身は魔人の血が体内に混ざってしまい、運悪く肉体が病み、その後は行方知れずとなった。そして次に現れた時、彼は魔人化して敵方についていたのだ。勿論、このことについて、ダルク達は公爵以外には口にしていない。


 スコットとマーレは、いずれ、フレデリカの従者として王家へと共に着いていく。

 そんなこともあって、マーレを心配しての言葉であったが、口にしてから彼は後悔した。

 

 カルが死んだと聞いて、彼女はさぞや悲しかっただろう。

 だが、それが彼女を大きく成長させたのは間違いない。

 その後に再会を果たし、ダンジョン内で一緒に生死を彷徨ったことで、新たに強い思いを寄せるようになったのだろう。

 勿論、外見が同一というのも、要因の一つではあるだろうが。


 マーレは向きを変えるとスコットの顔をみながら微笑んだ。

「スコット様。余計なことは言わないって、言ってくださいましたよね。それと、協力してくださるのですよね。スコットさま」


 そう返されて、スコットは、いつぞやの遣り取りを思い出して微笑んだ。

「勿論であります」



-----------------------------



 二層の階層主の部屋の扉がゆっくりと開いていく。


「あのな。命が一番大事だろ。命があれば、やり直せるから…なっ、なっ。」

 ウルテッドは、困ったような顔つきで、言い聞かせるように話してくる。


「お前は、ホントにヘタレだな。二層で怯えているなんて、お前がEランクなら、俺様は直ぐにでも、Cランクになれるな」

 ジルは勝ち誇った顔である。

「命の恩人だから、死んで欲しくないんだよ。だから、穏便にだな…」

「ウルテッド、何言っているんだか、さっぱりわからないわ。ガイドなんだから、きちんと説明しなさい」

 ウルテッドのはっきりとしない物言いに、エスティルは苛ついている。


 そうこうしている内に扉が開ききった。

 中を覗いてみると、またもや腰を下ろして休んでいる冒険者がいる。

 どうやら、先程と同じく、魔物の生成が追いつかなく、階層主が現れないようである。

 俺達は若干拍子抜けしながら、休んでいる冒険者を横目に、階層主の部屋を通り抜けて三層への扉へと向かう。


「おい、待ちな!!」

 腰を下ろしていた冒険者の一人が、俺達を呼び止めた。

 その声と同時に、ウルテッドは、逃げるように俺らから離れた。


「お前ら~、命が惜しかったら、有り金全部とその豪華な装備一式を置いて行け。あ、いや、女は残れ。へっ、へっ、へっ」

 リーダー格の男は下卑た表情である。


「…最っ低ね。自分で言っていること、分かってるの!」

「分かっているって! 俺らは楽して金が入ってきて、いい思いが出来る。…最っ高なんだよ! ……ダンジョンの中ってのはな。何をやってもいいんだよ。死にたくなかったら言う通りにしろっ!」


「ダンジョンの中ね…。そうやって、人に見られないところでは悪いことをする」

 そう言うと、エスティルは沈黙した。


「エスティル様、自分に御下知を…」

 オルガの槍を持つ手に力がこもる。


「ウワッ、ハッ、ハッ、ハッ、こいつは面白れえっ、こいつ等やるつもりだぜ! 数も数えられないのか、お前ら! それとも何か、この人数相手に勝てるとも、思っているのか! ああ~~っ!!」

 先程の草原地帯と比べると、石積の部屋の中は声がよく響く。

 大声を出せば、相手を威圧できるのだ。

 この男は、同じようなことを幾度となく、繰り返してきたのだろう。

 慣れた感があった。


 この下卑た男は、王都でエスティルらを見つけた時から、この機会を狙っていたのであった。Fランクで、ダンジョン経験なし。それでいて、高額な装備を身に着けている…。

 絶好のカモである。

 最後尾に入塔することを知ると、用意周到に計画を練り、二層で襲うと決めて、腕の立つ仲間を集めてきたのである。


「そこの槍を持ったやつ! お前がいくら、腕がたつといっても、そんな魔力量じゃ抵抗しても高が知れているぜ。まあ、お前は殺すけどな」


「そ、そんな! 人は殺さないって! あいつらは俺の恩人でもあるんだ」

 ウルテッドは勇気を振り絞って、下卑た男に直談判したものの、すぐに廻りの男らにいいように殴られて床に蹲ってしまった。


「仲間に酷いことするのね」

「仲間だあ? このクソがか? 俺達に意見するなんて、未だ立場が分かってない馬鹿だ。今迄、意見なんざした奴らの末路は見て来ただろうに。ダンジョンでは何が起こるか分からないからな。こいつが、生きて帰らずとも、俺らにお咎めはなしだぁ。なあっ」

 仲間らが高笑いしている。

 これまで、ダンジョン内で冒険者を幾度となく、襲ってきたのだろう。

 余裕さえ感じる


「……ダンジョンでは何が起きるか分からない。…本当ね。変態女の言う通りね。ウルテッドは殺させはしないわ。敵の実力も装備も分からないけど、全力で倒しなさい! 最悪、私が大きいの用意するから!!」


「承知」

 オルガは短く答える。


 カルは無言で腰の剣を抜いた。

 敵の人数は15、6人程度、魔術がこなければ何とかなる数である。

 後手に回る訳にはいかない、と思った矢先、敵は一斉に飛び掛かって来た。

 カルは瞬時に目の前の敵の胴を斬り裂き、次々と敵の腕を斬り落としていく、背後をとれば心臓を刺す。

 最小限の移動で、受ける相手の剣ごと斬り捨てていった。


 反対方向では、火魔術が炸裂している。

 といっても、エスティルの火のファイアジャベリンではない。

 オルガの魔槍術である。

 オルガは外見はドワーフに見えなくはないが、ドワーフという訳ではない。

 彼女の一族は、エルフとドワーフの混血の一族なのである。


 この世界では、人族ではエルフが最高の種族とされている。

 その理由として、寿命や魔力量だけではなく、高潔にして清廉潔白があげられる。

 エルフの亜種が、人間や獣人、ドワーフ等となる。言ってみれば、エルフの劣化版である。ここに順位というものは存在しないのだが、取り分け混血種は迫害されるケースが多いのが現状である。

 彼女の一族は、有名な混血種であり、エスティルとともにあることを望む一族であった。

 

 オルガは一族の代表として仕えているのだ。

 彼女は、先程から主に対しての度を超す無礼な発言を聞き、怒り心頭となっていた。

 そのため、下知を賜ると直ぐに、彼女は下卑た男のその身に、槍を幾度も、幾度も突き入れ、炎に巻いてしまった。

 廻りにいた部下たちも同様である。

 突かれ、斬られ、炎が合わさり、大炎となっていた。

 

 そんな時、後方の扉が開いた。

 入って来たのは一階層にいた、人相の悪い五人組である。

 どうやら、遅れてきた仲間のようである。

 彼らの目の前には、火のファイアジャベリンが、即向けられていた。

さらに斜め左方には大きな炎が巻き起こっており、遅れてきた男達は、いきなりの恐怖で足が動かなくなってしまった。


 エスティルは、丁度、火のファイアジャベリンが完成したので、扉方面へと放とうとしていた。

すると、五人組の一人が、すぐさま、剣を放り投げ、大声をだしてきた。

「ま、待った! 待った! 待った! 俺だーーー、ビグルだ、止めてくれ、マジ消炭みになるだろうが--------!!!」


「ビグル? あんた、あいつらの仲間だったの?」

「仲間じゃない! 本当だ! 俺がアンタらに喧嘩売るなんて、あり得ないだろうが!」

 ビグルは生死がかかっているので、必死である。

 顔をつたう汗は、炎の熱さのせいだけではない。


「顔だけみたら、どう見ても仲間でしょ!」

「何でだ-----------------------! 一緒に戦ったことがあるのに、何で、顔だけで判断するんだ----------! 理不尽だろうが---------!!!」

「あんたら、一層で休んでた五人組でしょ! 何で、あの時、挨拶しないのよ」

 エスティルは機嫌が悪くなる。

「そもそも、前と服格好が違うじゃねえか! そんな三角帽子に外套で覆い、魔杖持ちだなんて、女指揮官ボスと気付くわけがねえ!」

「……挨拶できない、言い訳がそれ? 謝ることも出来ないわけ?」

「い、いや、悪かった! しょ、正直言うと、こいつらの手前、若い女に頭下げるのが格好悪くて、出来なかっただけなんだ! 許してくれ! この通りだ! 次から必ず挨拶する、頼む!!」

 気が付くと、ビグルは土下座している。

 ビグルの仲間は、宙に浮かぶ、大きな火のファイアジャベリンを目の当たりにして、腰を抜かして動けなくなっていた。

「おい、ウルテッド、お前、アイツはお前の仲間じゃないのか!」

 ジルセンセはウルテッドを捕まえて、ビグルの方を強引に見させている。

「あ、あの人はダンジョンでは、見たことない」

 その一言で、ビグルは死なずに済んだのであった。


「全く、ビグル、あんたは、『こんにちわ』の一言も言えないわけ?」

 エスティルは結構、礼儀には煩い。

「い、いや、軍団長レギトに、ため口はさすがに…」

「だれが、軍団長レギトよ。女神よ! め・が・み!! 」

 

 ビグルはエスティルに改めて詫びをいれ、許されると、カクンと項垂れてしまった。

 彼は生死の境を彷徨っていたのである。

 全身の力が抜けてしまい、汗もビッショリである。

 また、火のファイアジャベリンを至近距離で向けられていたため、ジリジリと皮膚が痛い。


 今、階層主部屋の室内はエスティルの火のファイアジャベリンの影響もあって、壁、床、天井は高熱を帯びている。

 一部の者を除いては、全身から汗が止まらず、革袋の水を飲みほしていた。

 見かねたエスティルが、水魔術で打ち水をしていると、ビグルが寄って来て口を開いた。

 とりあえずはこの階層主の部屋を出ようというのだ。

 それは、熱さだけの問題ではなかった。


 辺りを見廻すと、凄惨な光景である。

 確かに人は魔石に変わるわけではないので、廻りを見ると気持ちの良いものではない。

 殺意を向けてきた敵は、皆死体となっていたのである。


「進む前に、まずはこいつだな」

 ジルはウルテッドを見返す。


「ご、ごめん。お、俺じゃ、どうしようもなくて、あんた達のことを殺すって聞いた時は…どうしていいか。ただ、ただ、俺は金貨が欲しかっただけで」

 ウルテッドは号泣してしまった。

 話を聞いて見ると、ウルテッドは村から出て、王都に着いたばかりの頃、あいつらから銅貨を借りる様になってしまい、グループから抜けられなくなってしまったのだという。

 今回のようなケースで人が殺された時、逃げ出したこともあったが、結局連れ戻されてしまったのだという。振り返ると、王都にきて、いい思いをしたこともないらしい。


「何で、冒険者になんかなろうと思ったんだ?」

 カルには自分の命を懸けてまで、ダンジョンでお金を稼ごうという発想はない。

 村で仕事があるのなら、そこで幸せに生活するのが一番だと今でも思っている。


「お、俺には、たまたま、魔術の才能があって…。それが、農夫には不要な火魔術の才能だったんだ。だから、俺は農夫じゃなくて、冒険者になるべき男なんだって、そう思って王都に来たんだ。その後、あいつらに捕まって、村にも戻ることも出来なくなってしまって」


「「「「「 んんん!? 」」」」」

 途中まで聞いて。

 五人とも、どこかで聞いたような話だと。

 …思った。

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今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい」等と少しでも感じていただけましたら、

ブックマークと★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

更新する原動力が本当にわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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