95 ウルテッドの正体
マーレは、お祈りをするかのように手を組み合わせ、カルの背中を見送っていた。
彼女自身、本当は一緒に行きたいと思っていた。
だが、彼女には相手を攻撃するような魔術もなければ、癒すような回復系の魔術も使うこともできない。幾つかの特殊な能力を持ち合わせてはいるが、ダンジョンでの活躍はそう期待できるものではないのである。
彼女の能力は素晴らしいものではあるのだが、『女神の祝福』にはジルがいる。
探索能力が完全に被る訳ではないのだが、実際問題、ジルはパーティーの役割として荷物運びも担っている。
マーレには、ジルのように大きな荷物を背負うなんてことは出来ない。
だから、ジルには自分の分まで頑張って欲しいと願うばかりである。
自分でも気が付かないうちに不安そうな表情をしていた。
彼女があまりにも、心配しているようなので、スコットは話かけた。
「マーレ殿。カルのことが心配でありますかな」
「はい。ご無事を祈ることしかできないのも、辛いです」
少し、幼さの残る顔に涙を浮かべられると、スコットも言葉に詰まった。
「こんなことをいうと、嫌われるかもですが、彼はカルではないのであります」
「……はい」
「マーレ殿がそんなに心配する理由が、わかりませんです」
スコットの眼差しは優しい。
今度は、マーレが言葉に詰まる。
カルの姿がダンジョンの中へと消えていく。
彼女は真っ直ぐに、後ろ姿を見ていた。
「マーレ殿。ジルフリード様の決断で、彼が戻ることになったとはいえ、彼に肩入れをするのはお止めになった方が良いであります。…亡くなった16人の者達の遺族らには手厚い援助がなされておりますが、それでも、一人生き残った彼への目は厳しいものです。彼は生きていたのに屋敷に戻ってこなかったのです」
スコットの話す内容は、公爵家に仕えるものの見えざる不満であった。
唯一生き残り、屋敷へと運ばれたドースは魔人に止めを刺したのはカルだと、公爵に告げてはいたものの、表向きはドースが殺したことになっている。
カルが止めを刺したことは、一部の人間にしか知らされていないのだ。
ドース自身は魔人の血が体内に混ざってしまい、運悪く肉体が病み、その後は行方知れずとなった。そして次に現れた時、彼は魔人化して敵方についていたのだ。勿論、このことについて、ダルク達は公爵以外には口にしていない。
スコットとマーレは、いずれ、フレデリカの従者として王家へと共に着いていく。
そんなこともあって、マーレを心配しての言葉であったが、口にしてから彼は後悔した。
カルが死んだと聞いて、彼女はさぞや悲しかっただろう。
だが、それが彼女を大きく成長させたのは間違いない。
その後に再会を果たし、ダンジョン内で一緒に生死を彷徨ったことで、新たに強い思いを寄せるようになったのだろう。
勿論、外見が同一というのも、要因の一つではあるだろうが。
マーレは向きを変えるとスコットの顔をみながら微笑んだ。
「スコット様。余計なことは言わないって、言ってくださいましたよね。それと、協力してくださるのですよね。スコットさま」
そう返されて、スコットは、いつぞやの遣り取りを思い出して微笑んだ。
「勿論であります」
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二層の階層主の部屋の扉がゆっくりと開いていく。
「あのな。命が一番大事だろ。命があれば、やり直せるから…なっ、なっ。」
ウルテッドは、困ったような顔つきで、言い聞かせるように話してくる。
「お前は、ホントにヘタレだな。二層で怯えているなんて、お前がEランクなら、俺様は直ぐにでも、Cランクになれるな」
ジルは勝ち誇った顔である。
「命の恩人だから、死んで欲しくないんだよ。だから、穏便にだな…」
「ウルテッド、何言っているんだか、さっぱりわからないわ。ガイドなんだから、きちんと説明しなさい」
ウルテッドのはっきりとしない物言いに、エスティルは苛ついている。
そうこうしている内に扉が開ききった。
中を覗いてみると、またもや腰を下ろして休んでいる冒険者がいる。
どうやら、先程と同じく、魔物の生成が追いつかなく、階層主が現れないようである。
俺達は若干拍子抜けしながら、休んでいる冒険者を横目に、階層主の部屋を通り抜けて三層への扉へと向かう。
「おい、待ちな!!」
腰を下ろしていた冒険者の一人が、俺達を呼び止めた。
その声と同時に、ウルテッドは、逃げるように俺らから離れた。
「お前ら~、命が惜しかったら、有り金全部とその豪華な装備一式を置いて行け。あ、いや、女は残れ。へっ、へっ、へっ」
リーダー格の男は下卑た表情である。
「…最っ低ね。自分で言っていること、分かってるの!」
「分かっているって! 俺らは楽して金が入ってきて、いい思いが出来る。…最っ高なんだよ! ……ダンジョンの中ってのはな。何をやってもいいんだよ。死にたくなかったら言う通りにしろっ!」
「ダンジョンの中ね…。そうやって、人に見られないところでは悪いことをする」
そう言うと、エスティルは沈黙した。
「エスティル様、自分に御下知を…」
オルガの槍を持つ手に力がこもる。
「ウワッ、ハッ、ハッ、ハッ、こいつは面白れえっ、こいつ等やるつもりだぜ! 数も数えられないのか、お前ら! それとも何か、この人数相手に勝てるとも、思っているのか! ああ~~っ!!」
先程の草原地帯と比べると、石積の部屋の中は声がよく響く。
大声を出せば、相手を威圧できるのだ。
この男は、同じようなことを幾度となく、繰り返してきたのだろう。
慣れた感があった。
この下卑た男は、王都でエスティルらを見つけた時から、この機会を狙っていたのであった。Fランクで、ダンジョン経験なし。それでいて、高額な装備を身に着けている…。
絶好のカモである。
最後尾に入塔することを知ると、用意周到に計画を練り、二層で襲うと決めて、腕の立つ仲間を集めてきたのである。
「そこの槍を持ったやつ! お前がいくら、腕がたつといっても、そんな魔力量じゃ抵抗しても高が知れているぜ。まあ、お前は殺すけどな」
「そ、そんな! 人は殺さないって! あいつらは俺の恩人でもあるんだ」
ウルテッドは勇気を振り絞って、下卑た男に直談判したものの、すぐに廻りの男らにいいように殴られて床に蹲ってしまった。
「仲間に酷いことするのね」
「仲間だあ? このクソがか? 俺達に意見するなんて、未だ立場が分かってない馬鹿だ。今迄、意見なんざした奴らの末路は見て来ただろうに。ダンジョンでは何が起こるか分からないからな。こいつが、生きて帰らずとも、俺らにお咎めはなしだぁ。なあっ」
仲間らが高笑いしている。
これまで、ダンジョン内で冒険者を幾度となく、襲ってきたのだろう。
余裕さえ感じる
「……ダンジョンでは何が起きるか分からない。…本当ね。変態女の言う通りね。ウルテッドは殺させはしないわ。敵の実力も装備も分からないけど、全力で倒しなさい! 最悪、私が大きいの用意するから!!」
「承知」
オルガは短く答える。
カルは無言で腰の剣を抜いた。
敵の人数は15、6人程度、魔術がこなければ何とかなる数である。
後手に回る訳にはいかない、と思った矢先、敵は一斉に飛び掛かって来た。
カルは瞬時に目の前の敵の胴を斬り裂き、次々と敵の腕を斬り落としていく、背後をとれば心臓を刺す。
最小限の移動で、受ける相手の剣ごと斬り捨てていった。
反対方向では、火魔術が炸裂している。
といっても、エスティルの火の槍ではない。
オルガの魔槍術である。
オルガは外見はドワーフに見えなくはないが、ドワーフという訳ではない。
彼女の一族は、エルフとドワーフの混血の一族なのである。
この世界では、人族ではエルフが最高の種族とされている。
その理由として、寿命や魔力量だけではなく、高潔にして清廉潔白があげられる。
エルフの亜種が、人間や獣人、ドワーフ等となる。言ってみれば、エルフの劣化版である。ここに順位というものは存在しないのだが、取り分け混血種は迫害されるケースが多いのが現状である。
彼女の一族は、有名な混血種であり、エスティルとともにあることを望む一族であった。
オルガは一族の代表として仕えているのだ。
彼女は、先程から主に対しての度を超す無礼な発言を聞き、怒り心頭となっていた。
そのため、下知を賜ると直ぐに、彼女は下卑た男のその身に、槍を幾度も、幾度も突き入れ、炎に巻いてしまった。
廻りにいた部下たちも同様である。
突かれ、斬られ、炎が合わさり、大炎となっていた。
そんな時、後方の扉が開いた。
入って来たのは一階層にいた、人相の悪い五人組である。
どうやら、遅れてきた仲間のようである。
彼らの目の前には、火の槍が、即向けられていた。
さらに斜め左方には大きな炎が巻き起こっており、遅れてきた男達は、いきなりの恐怖で足が動かなくなってしまった。
エスティルは、丁度、火の槍が完成したので、扉方面へと放とうとしていた。
すると、五人組の一人が、すぐさま、剣を放り投げ、大声をだしてきた。
「ま、待った! 待った! 待った! 俺だーーー、ビグルだ、止めてくれ、マジ消炭みになるだろうが--------!!!」
「ビグル? あんた、あいつらの仲間だったの?」
「仲間じゃない! 本当だ! 俺がアンタらに喧嘩売るなんて、あり得ないだろうが!」
ビグルは生死がかかっているので、必死である。
顔をつたう汗は、炎の熱さのせいだけではない。
「顔だけみたら、どう見ても仲間でしょ!」
「何でだ-----------------------! 一緒に戦ったことがあるのに、何で、顔だけで判断するんだ----------! 理不尽だろうが---------!!!」
「あんたら、一層で休んでた五人組でしょ! 何で、あの時、挨拶しないのよ」
エスティルは機嫌が悪くなる。
「そもそも、前と服格好が違うじゃねえか! そんな三角帽子に外套で覆い、魔杖持ちだなんて、女指揮官と気付くわけがねえ!」
「……挨拶できない、言い訳がそれ? 謝ることも出来ないわけ?」
「い、いや、悪かった! しょ、正直言うと、こいつらの手前、若い女に頭下げるのが格好悪くて、出来なかっただけなんだ! 許してくれ! この通りだ! 次から必ず挨拶する、頼む!!」
気が付くと、ビグルは土下座している。
ビグルの仲間は、宙に浮かぶ、大きな火の槍を目の当たりにして、腰を抜かして動けなくなっていた。
「おい、ウルテッド、お前、アイツはお前の仲間じゃないのか!」
ジルセンセはウルテッドを捕まえて、ビグルの方を強引に見させている。
「あ、あの人はダンジョンでは、見たことない」
その一言で、ビグルは死なずに済んだのであった。
「全く、ビグル、あんたは、『こんにちわ』の一言も言えないわけ?」
エスティルは結構、礼儀には煩い。
「い、いや、軍団長に、ため口はさすがに…」
「だれが、軍団長よ。女神よ! め・が・み!! 」
ビグルはエスティルに改めて詫びをいれ、許されると、カクンと項垂れてしまった。
彼は生死の境を彷徨っていたのである。
全身の力が抜けてしまい、汗もビッショリである。
また、火の槍を至近距離で向けられていたため、ジリジリと皮膚が痛い。
今、階層主部屋の室内はエスティルの火の槍の影響もあって、壁、床、天井は高熱を帯びている。
一部の者を除いては、全身から汗が止まらず、革袋の水を飲みほしていた。
見かねたエスティルが、水魔術で打ち水をしていると、ビグルが寄って来て口を開いた。
とりあえずはこの階層主の部屋を出ようというのだ。
それは、熱さだけの問題ではなかった。
辺りを見廻すと、凄惨な光景である。
確かに人は魔石に変わるわけではないので、廻りを見ると気持ちの良いものではない。
殺意を向けてきた敵は、皆死体となっていたのである。
「進む前に、まずはこいつだな」
ジルはウルテッドを見返す。
「ご、ごめん。お、俺じゃ、どうしようもなくて、あんた達のことを殺すって聞いた時は…どうしていいか。ただ、ただ、俺は金貨が欲しかっただけで」
ウルテッドは号泣してしまった。
話を聞いて見ると、ウルテッドは村から出て、王都に着いたばかりの頃、あいつらから銅貨を借りる様になってしまい、グループから抜けられなくなってしまったのだという。
今回のようなケースで人が殺された時、逃げ出したこともあったが、結局連れ戻されてしまったのだという。振り返ると、王都にきて、いい思いをしたこともないらしい。
「何で、冒険者になんかなろうと思ったんだ?」
カルには自分の命を懸けてまで、ダンジョンでお金を稼ごうという発想はない。
村で仕事があるのなら、そこで幸せに生活するのが一番だと今でも思っている。
「お、俺には、たまたま、魔術の才能があって…。それが、農夫には不要な火魔術の才能だったんだ。だから、俺は農夫じゃなくて、冒険者になるべき男なんだって、そう思って王都に来たんだ。その後、あいつらに捕まって、村にも戻ることも出来なくなってしまって」
「「「「「 んんん!? 」」」」」
途中まで聞いて。
五人とも、どこかで聞いたような話だと。
…思った。
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