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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
94/130

94 ホーンラビット再び

 前にいるパーティーは、当然、冒険者なのであろうが、何やら楽しそうである。

 ダブルデートでも、しているかのような会話が聞こえてくる。


 いきなり、女性の笑い声が途絶えた。

 今し方、戦闘に入ったらしい。

 詠唱らしき声が聞こえてきた。

 魔術を放ったのだろう。

 それらしい音が聞こえてくる。


 俺達は助けに行こうと、走り出そうとするが、ウルテッドに止められた。

 他の階層ならばともかく、ここは一層であるため、その必要はないのだという。

 ランクが低く、経験の少ない冒険者に、戦う機会を与えているだけなのだという。

 所謂、練習のようなものである。

 仲間が見守る中で、弱小魔物を狩るのである。

 浅い階層では、良くあることで、仲間の成長を見守ってのことらしい。

 なんとも、余裕のあることである。

 ゼリハネイトが聞いたら、怒り出すかもしれないと思いつつ、歩き続けると普通に、そのパーティーに追いついた。

 若い男女が、倒したスライムを囲んで見ている。

 俺らはその横を普通に通り過ぎていく。


 カル達を先頭としていた隊列フォーメーションは、いつの間にか崩れていた。

 カルとジルの二人は、ゲン爺の言葉を、訓示を確認しあっている。


 一方で、楽し気なダブルデートの姿を見ていたエスティルは、少し羨ましかったのだろう。

 小走りでカルの傍にやってくると、少し恥ずかしそうな表情で切り出した。

「カル! 遠慮すること、ないわよ。う、腕くらいなら組んであげるから!」

「……お前が組みたいだけだろが」

 冷ややかなジルの一言。


 コツンッ


「ウギッ!」

 ジルは脛を蹴られ、蹲ってしまった。

「ぐぐぐぐっ」


 気を取り直して、エスティルは腕を組もうとしたところ、丁度リグルスが偵察から戻って来た。

「カル様ッ」

「あっ、お帰り!」


「もうっ!!」

「な、何か……」

 女神エスティルの機嫌を害したことに気付くも、リグルスは状況を把握できていないために対応ができない。

「何でもないわ! 状況報告して!」

 エスティルは、何気にカルの腕だけは両手で取っていた。

 彼女の突慳貪な態度を気にしつつも、リグルスは話し出した。

 

 リグルスの報告では、どうも、入塔している冒険者が多すぎるらしく、魔物と戦っている者は皆無らしい。それを聞いて、俺達は表紙抜けしてしまった。

 メンバーが全員Fランクで、かつ、初めてのダンジョン挑戦ということもあり、バレッタが気をつかってくれて、魔物が少ない状況、いわゆる安全な状態で、入った方が良いということで、俺達は最後の入塔となっていた。

 そういう経緯もあり、この先、魔物が出てくる可能性は低いだろうと、全員一気に気が緩んでしまった。実際に魔物もでてこないのだ。


 結局、この後、一層では一匹の魔物もでてこなかった。

それだけではない。ダンジョンに魔物を生成できるほどの魔素が集まっていないのか、階層主の部屋にも魔物は見当たらず、扉が解放されていた。

「ちょっと~。ホントに歩いているだけじゃない。最後尾だから魔物なんて退治されて残っていないのよ」

 エスティルも、『エンデルの森』で経験した戦いのイメージを持っていたため、力が抜けたようである。


「あ、あの、5層まで魔物が一匹も出なかったとしても、金貨は貰えるんですよね」

 ウルテッドは不安になったのだろう、確認してきた。

「約束は約束よ。破る気はないわよ」

「よかった」

 エスティルは、ウルテッドの語り方に、やや、形式的な感じも受けたが、取りあえずは安心させようと返事をした。


 見渡すと、あろうことか、階層主の部屋であるにも拘わらず、腰を下ろして休んでいるパーティーもいる。

 顔をみると、五人揃って人相は悪く、冒険者というよりは傭兵にしか見えない。

 目つきが悪いのだ。

 彼らを後にして、俺達は二層への扉を開いた。

 

 驚いた。目の前には、草原が広がっているのである。

 理由は分からない。とにかく、広いのだ。

 一体、これはどうなっているのか、ここはどこなのか?

 青空が広がり、暖かかな陽射しまでもが差している。

 ここが、ダンジョンの中だとは、到底信じられない。

 一体、どういう造りとなっているのか。

 そもそもが、ゲン爺の話と違うのだ。

 確か、二層も通路だったはず。


 目の前の風景を目にして、心地のよさに思わず仮面を外すと、微風が顔に優しく触れてきた。

 …癒される。


 だが、魔物が襲ってくるのは確かなようで、前方では戦闘が行われているのが見える。

 ここの階層の主な敵は、ホーンラビットのようである。


 カルは、懐かしいという思いと共に、あの時の緊張感が蘇ってきた。

 だが、恐怖はそれほどでもない。

 だからと言って、油断できる相手ではなかった。

 あの跳ねる速度と角は脅威である。

 個体ごとに速度も違うのだ。

 ラビットといいながらも、牙や爪があり、集団で狩りをする肉食獣のような魔物である。


 いきなり、最後尾にいたウルテッドが、駆けだした。

 それを見て、オルガは眉を顰める。

 そもそも、オルガはウルテッドを仲間としては見ていない。

 何かあれば、突き殺す気でもいるのだ。


 暫くして、ウルテッドが後ろを向いて大声を出した。

「お前ら! 前の奴らが襲われている内に走り抜けるぞ!! ぐずぐずしていると、ホーンラビットに囲まれるぞ!!」


 カルは、その言葉を聞いて、ゲン爺の言葉を思い出した。

「ホーンラビットは、弱そうな、魔力量の少ないパーティーを集団で襲うのじゃ」

 

 彼は、このホーンラビットの習性を知っていたのだ。

 だから、全速力で駆け出したのだ。

 

 彼からすれば、『女神の祝福』はFランクの素人パーティーであり、当然、他のパーティーよりも魔力量が少ない。つまりは、ここでは魔物の格好のターゲットとなるために、他のパーティーが襲われている今この隙に、逃げきろうと判断したのだ。

 

 エスティルは、理由が分かると少し可笑しく思えた。

 彼女には、魔力量を推し量るスキルがある。なので、当然、自分の魔力量が多いことも知っている。自分の魔力量を考えたら、まず、ここでは襲われることはないのである。

 つまり、魔力量だけで言えば、エスティルの傍にいれば襲われる可能性が低いということになる。

 そうなると、一人で駆けているウルテッドが、一番危ない。

 彼は魔力量が少ないからだ。


 因みに、『エンデルの森』にいた頃のエスティルは、石化の副作用もあって、魔力量が不安定で上下していたことから、ホーンラビットに襲われたのである。

 生まれながらに魔力量が多かった彼女にとって、ホーンラビットに囲まれたのは、初めての経験であった。そういうこともあって、当時は動転していたのである。


 ウルテッドは、結構、先にいるのかと思ったら、体力がそんなに続かなかったらしい。

 息するのがやっとといった感じで、少し先で屈んでいるのが見える。


「ま、まずい!」

 俺は咄嗟に声が出た。

 確か、ゲン爺によると、足が止まった時に角で攻撃してくるって、話だったはず。


 的中した。


 俺達が追おうとしたところ、いきなり、ウルテッドが悲鳴をあげ、転倒したのである。

 ウルテッドのもとへと向かう途中、前方で火の手が上がった。

 彼なりに戦っているようである。

 到着すると、ウルテッドは敵だと思ったのだろう。

 恐怖に歪んだ顔で、杖を向けてきた。

 体中がワナワナと震えている。

 見ると、角で刺されたのだろう。太腿が血に染まっている。

 俺達が到着したことで、さらに怖がっている。

「お前らまで来たら、ホーンラビットが集まってくるだろが!」

 ウルテッドは半狂乱である。

「馬鹿ね。あんたを救えるから来たのよ」

 エスティルが、そういうも、実際ホーンラビットが集まりだしていた。

「あ、あれ?」

 エスティルはなぜ? と思ったが、自分自身を確認してみると、自分の魔力が打ち消されていることに気が付いた。

「あ、このネックレスのせいだ…」

 

 ふとみると、俺以外…オルガとフェルビーも、同様のものを首にしている。

 実は、『女神の祝福』は魔力ゼロのパーティーとなっていた。


「い、いやだーーー、魔物に喰われるなんて!」

 ウルテッドが叫び出し、片足を引きずりながら逃げ出した。

 だが、既に十匹程のホーンラビットに囲まれていた。

 例によって、涎を垂らしているのもいる。


「いいっ、体慣らしよ。ジルとフェルビー以外は応戦! 魔術の使用はなし! 始めなさい!!!」

「畏まりました」

「わ、わかった!」


 すぐに、飛んでくる明確な指示…。

 これが、『女神』ではなく、『女指揮官ボス』と一部の者に呼ばれている所以なのだろう。

 俺はそう思いながら、剣を振るった。

 恐怖に支配されることもなく、体が動く。

 夫々、あいての跳ねる高さが違っても、難なく捌けた。


 オルガはというと、ゆっくりと移動しながら、間合いに入ったホーンラビットを次々に手持ちの槍を使って、一撃で仕留めていく。

 目を疑ったのは、エスティルの剣技である。

 ジルセンセから聞いてはいたが、実際に見て驚いた。


 俺の中では、風魔術『ウインドエッジ』を放つ魔術士のイメージであったが、剣技がこれほどのものであったとは。

 次々に、宙を跳ねるホーンラビットの白い体が、鮮血に染まりながら落下していく。


 俺達は、後から追いついて来たホーンラビットも含めて、全て始末してしまった。

 ダンジョンの魔物は、致命傷を与えると魔石へと変化するので、余計に気を遣うこともない。なんていうか、お洒落な感じにさえ思えてくる。

 気を遣うというのは、戦闘中や戦闘後でのことである。

 森での戦闘であれば、死骸はそのまま放置され、血溜まりができるといった感じで、戦闘中の足場に影響してくる。また戦い終わった後も凄惨な光景と血の臭いが漂うのだ。

 ダンジョン内では、それがないのである。


 三人で戦ったこともあり、あっという間に全滅させてしまった。

 周囲に死骸はなく、綺麗なものである。

 代わりに小さな魔石が落ちている。

 それを、大きな体のフェルビーが拾い集めている。

 ジルに手当をされているウルテッドは、目を見開いたまま固まっていた。


「さあ、立って」

 カルは手を差し出し、彼を立たせた。

「助かったよ。魔術なしで、あんなに倒してしまうなんて、お前らって、一体…」

 ウルテッドは既に自分で治療を済ましていた。

 正気を取り戻したようである。表情も和らいでいた。


「…どうでも、いいけど。アンタはお礼の一つも言えない訳?」

「あっ! …ありがとう。あんたらは命の恩人だよ! ありがとう」

「まったく。お礼の言葉は、言われる前にいいなさい。子供じゃあるまいし」

「す、すみません。感謝しています」

 エスティルは、若干呆れ気味である。

 それを察したのであろう。ウルテッドは続けた。

「お、俺は、この中じゃ、戦力とはいえないだろうから、せめて道案内だけはさせてくれ、いや、させてください」


「ふうん。そうね。良いアイディアだわ。それなら、さっさと先頭に立ちなさ~い」

「わ、わかりました」

 

 ジルとカルは、一連の流れを見ていて、同じことを思っていた。

 ランドルの時と同じだ。いつの間にか、自分の傘下にいれてしまう。

 エスティルには、そういう才がある。


 先程、戦闘をしていたパーティーも何とか、ホーンラビットを退けたらしい。

 気が付くと、真後ろについていた。

 多分、俺達の後にいれば、先に襲われることはないという判断なのだと思う。

 だが、俺達はこの後、二層で襲われることはなく、真後ろにいるパーティーらが幾度と襲われていた。

 これは、さっきの戦闘で30匹以上を斬ったのが影響しているのだと思う。


「ここが、階層主の部屋の扉…です」

 ウルテッドは、最短ルートで案内してくれた。

 彼は少し震えていた。

「何だ! お前は二層で怖いのか、俺様だって怖くはないんだぞ!」

 ジルセンセは、腕を組みながら、余裕の表情である。

「あんたの余裕は、ニノ森のリングがあるからでしょ」

 エスティルは呆れている。

 ジルセンセの耳がふにゃる。

 図星だったので言い返せず、少し、落ち込んだのだ。


「べ、別に二層が怖い訳では…」

 ウルテッドは短く返答するも、様子がこれまでとは違う。

 先程、人相の悪い冒険者を追い抜いた時もこんな感じだった。


 …何か、気になる。

 そもそも、五層まで付き合うのが契約である。

 実際は、入塔さえ出来れば要はないのだが、契約は契約である。

 それが、二層の階層主の前で怖がっているとは。

 先程、太腿を貫かれたのがショックで、ホーンラビットのボスと戦うのが怖くなったのだろうか。いや、それにしても、震えているのは変である。


 そう考えている間に、二層の階層主の部屋の扉が開いた。

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今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい」等と少しでも感じていただけましたら、

ブックマークと★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

更新する原動力が本当にわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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