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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
93/130

93 迷宮へ

 ダンジョン入塔の日が訪れた。

 今日、5層まで制覇してその足で戻って来て、初めて、俺達『女神の祝福』はEランクとなれるのだ。

 念のため、リュックには五日分の食糧を詰め込んである。

 十分過ぎる量である。

 パンパンとなったリュックは、いつものようにジルセンセが背負ってくれている。

 兎人族の足腰は強いのだ。


 募集した臨時メンバーである痩身の男だが、自分のことは、ウルテッドと呼んでくれという。

 本名かどうかは分わからないが、この際、もうどうでもいい。

 居てくれるだけでいいのだから。


 それと、この場にはスコットと名乗る騎士が、公爵家からやってきている。

 俺達にとっては馴染みのある人でもない。

 なので、特に俺達の出立の見送りのために来たという訳でもないのだろう。

 むしろ、マーレとイシュルミットの後見役といったところだろうか。


 そして…なぜだか、この場にはゼリハネイトも来ているのだ。

「い~い。ダンジョンは命を懸ける場よぉ。例え、弱い魔物と出くわしても~、全力かつ確実に仕留めなきゃだめなんだからね。全員の命の遣り取りの場だから~。くれぐれもね。確実によ。ダンジョンでは何が起きるか分からないんだからね~」


 全員に緊張が走る。

 存外に、まともな事を言う。

 変態露出狂女も、このことを伝えたかったのだろうか、今日の服装に露出はない。

 ……若干、物足りなさを感じる気もする。

 露出がないと、結構、近寄りがたいほどの美貌に気付く。


 俺は、昨日から気になって仕方がないことがあったので、彼女の傍まで行き、耳元で話した。

「き、昨日言っていた、その…短命って…寿命は、あと5年、10年位しか、残ってないってことなのか?」

「馬鹿か。小動物じゃあるまいし、お前と変わらない位あるわ」

「エルフにしては、ってことか」

「そうだよ」

 ゼリハネイトは俺と小声で話す時は、乱暴な言葉に戻る。

 因みに、彼女は俺には『ゼリハネイト』と名乗っているくせに、ギルド関係者にはモンティと呼ばれており、何やら訳ありのようである。そんなことを思いながら返事した。

「意味深に言うから……。お陰で、昨日は寝れてないよ」

 カルの一言を聞いて、ゼリハネイトは、また厭らしく、口角が上がりだした。

 それを見たカルは、親指と中指で彼女の頬を抑えた。

「ふぉごごっ」

 美形だろうと関係ない。どうせ、碌なことを言わないのだから。

 それを見ていた、マーレが冷やかである。

「なんか、仲良くなっていないですか?」

「仲なんか、良くなる分けがないひゃふぉ!」

 エスティルに右頬を引っ張られた…。

 怒っているのだろう…。


「は、はは。それじゃあ、行ってくるね。マーレちゃん」

「あ、はい。行ってらっしゃい。ジルセンセ。皆様のご武運をお祈りいたしております」


 モンティことゼリハネイトを突き放し、俺らも続く。

 こうして、『女神の祝福』は、天塔迷宮トゥリス・ダンジョンへの第一歩を記すのであった。


 ゼリハネイトがいる間、オルガとフェルビーは無言であった。

 けれども、ダンジョンに足を踏み入れた途端に口を開けた。


「あの女の話は、最もなことです。警戒しながら進みましょう」

 オルガはそう言うと、短槍を持ちながら、エスティルの前に立った。

 どうも、口ぶりからして、ゼリハネイトを毛嫌いしているようである。

 態度からして、フェルビーも同様な思いを持っているように見える。


 フェルビーは、今回は釘鈀という熊の手のような武具を持参している。

 これは、攻撃が当らないフェルビーの悩みを聞いて、少しでもあたるようにと、クミアが選んだもので、先端が横広で九つの突起がついた武具である。

 そして、背にはカルとエスティルの予備の剣を担いでいた。

 その他にも、彼は、目元が大きくあいている兜に、首、左の胸当てと、急所を守る防具を幾つも身に着けている。

 これは、フェルビーは体格は立派だが、戦闘センスが全くないため、いざ、戦闘となった時、一撃で殺されることのないように徹底しているのである。

 

 カルの装備はというと普段どおりである。

 背に『攪乱獣魔』、腰には鉄の剣を装備している。

 油断するなという、ゼリハネイトの言葉を聞いて、ジルセンセから貰った仮面も既に被っている。

 この仮面、貰う時は表面が濃紺色なのだが、外した時、色が変化していることがある。

 理由については、一度教えて貰ったのかもしれないが、全く覚えていない。


 前回とは違い、エスティルの格好が一遍している。

 衣装は公爵家から支給されたものであって、地味にはなったものの、彼女の希望を取り入れ、いわゆる魔女風となっている。三角帽子に外套を身に着け、長尺の杖を持つ。それでいて、両腰には中剣を携えているのだ。


 先程、ゼリハネイトからの忠告があったにも拘わらず、エスティルは少し浮かれていた。

 この新しい衣装に加え、令嬢・フレデリカの計らいもあって、ブローチなどのアクセサリーも見に付けていたからだ。

 

 たかだか、5層まで行って、戻ってくるだけなのだが、装備そのものは、その先を見据えて揃えたものであるため、深層の魔物に対応できるほどの高額装備となっていた。


 一方で、ウルテッドは普段通りの格好である。

 5層であれば、彼にとっては日帰り登山のイメージなのだろうか。

 火の杖と水の杖を、複数本用意している程度である。


 ウルテッドとの契約は、5層まで一緒に行くだけで、彼はダンジョン内では何もしなくても良い事となっている。要は、彼は魔物と戦うことはないのである。


 そういうことなので、隊列フォーメーションは以下のように決まっている。


 前衛:カル、中衛:オルガ、後衛:エスティル、フェルビス、ジル、そしてウルテッドの順である。

 

 実は斥候もいたりする。

 当然、リグルスが担当する。

 カルは、出発時に、リグルスにはクミアの傍に居て構わないと言ったのだが、孫娘が上流貴族の屋敷で面倒を見て貰っているのに、何もしない訳にはいきません、連れて行って下さいと言うので、リグルスはついてくることとなった。

 一応、クミアが寂しがらないようにと、ポルンは置いてきている。

 これはエスティルの提案である。

 まあ。ポルンはずっと寝ているだけなので、話し相手にもならず、つまらないかも知れないが、癒し効果はあるかと思う。



 カルは周囲を見渡しながら、ゆっくりと歩を進めていた。

 慎重にということもあるが、実は内心驚いていた。

 ダンジョン内が洞窟ではなく、聞いていた通り通路となっていたからである。

 岩を積んで組み上げたのか、床と壁、天井が平坦に構成されており、足場がいい。

 しかも、内部は、真っ暗という訳ではないのだ。

 淡い光が幾つもあり、視界は確保できている。


 一方で、前方からは、何やら緊張感のない会話が聞こえてきた。

 先に入ったパーティーが幾つもいるのだろう。

 笑い声さえ、聞こえてくるのだ。


 騎士団の討伐が完了した直後ということもあって、今はランクの低いパーティーも多く入ってきていると聞く。

 全く、ランクの低いパーティーはどうしようもないなと思ったものの、考えて見れば、自分らもそうで、上位パーティーから見れば、自分らも何かしら足りない部分があるのだろうと思い直した。


 けれど、実際、楽しそうなお喋りを聞かされていると、身構えている自分達が、馬鹿みたいに思えてもくる。

「確か、ゲン爺からもらった1層の訓示は…」

 カルはメモを取り出そうとしていると。


「『視線を下げよ』でしょ! もう! 1層を覚えてないってどういうことよ!」

「カルッ、お前、油断し過ぎだ! 後衛の俺様だって覚えているぞ」

「覚えるのに、前衛も後衛もないです」

「んぐ」

 一言の失言で、全員から罵声が飛んできた。

 カルは頭を掻きながら謝っている。


 そんな、遣り取りを、ウルテッドは冷ややかに見ていた。

 このパーティーは、初めてのダンジョンにも拘わらず、緊張感が無さすぎる。

 絶対に足元をすくわれるだろう。

 仲間の一人が死んで、やっとダンジョンの恐ろしさを痛感するといったパターンだ。



 ウルテッドはEランク冒険者である。

 はっきり言って、大したことはない。

 FからEランクには、大概上がれるものなのである。

 一方で、EからDランクとなると、話は別である。

 Dランクで、初めて一人前と呼ばれる。

 Dランクとは、どんなダンジョンでも、ある程度の結果を見極める実力があることが要求されるもので、魔物が現れた時の判断力や対処できる実力が必要とされる。


 ランクそのものは、あくまで判断基準であって、実際のところ、ギルド職員が一緒に入塔する訳では無いのだから、パーティーの真の実力とは別ともいえる。

 けれども、一緒に入塔することが出来ないのだから、ダンジョン制覇の結果と能力値でランク付けするしかないのだ。

 結局のところ、階層制覇の証拠となる魔石をもって帰ることが、ランクアップの早道となる。



 カルは訓示のとおり視線を落とした。

 すると、すぐに平べったいスライムを発見した。このスライム、小さくて害もなそうである。前の冒険者らも、気付かずに普通に歩いていったし、殺す必要性も見当たらない。

 なぜなら、このスライムという魔物。

 全体が透けていて、核の場所が丸見えである。

 見た感じ、脳も体の組織さえもない。

 脳がないのだから進化も期待できないし、体の組織もないから養分を吸収することも碌にできないはず、放っておけば死滅するのではなかろうか。


 振り返り、オルガを見ると力強く頷いてきた。

 まものは倒せということなのだろう。

 さっき、非難されたばかりなので、致し方なしとスライムの核を突いた。

 当然の如く、スライムは息絶える。

 その時、なぜか、右肩に少し痛みを感じた。

 違和感が若干残っているので、少し腕を回す素振りをしていたところ、オルガが、いち早くポーションを出してきた。

 こんな、痛みともとれない、違和感程度でポーションは使いたくないので、問題ないと伝えたところ、オルガは真剣な目をして見つめてきた。

「全員の命がかかっているのです」

 短い一言だが、響いた。

 命という言葉は重い。

 俺は無言で右肩を差しだし、ポーションを少し垂らしてもらった。

 このポーションは飲んでも、患部に垂らしても効果があるらしい。


 二人の遣り取りを見ていたウルテッドは、オルガだけはプロなのだと考えを改めたのだった。


 ゲン爺はミーティングで、少しでもダンジョン内の魔物は減らさなければならないと言っていた。今殺したスライムは魔石も残らないほどの小物ではあるが、見つけたら殺すということを徹底しなければならないという。

 ダンジョンは天塔部分から外部の魔素を集めて魔物を生成している。

 集まった魔素が多ければ多い程に魔物は強くなり、また魔物の量も多くなっていく。

 なので、深層を目指すのであれば、少しでも多くの魔物を殺して、ダンジョンそのものを弱体化させていかなければならない。


 一方で、深層を目指していないパーティーにとっては、小さな魔物を殺すわけがない。

 魔石にならないのなら、当然である。

 冒険者は魔石を貨幣と交換することによって、生活しているのだ。

 スライムでも、魔石に変化できるほど成長しないと殺すことなんてしない。

 そのため、前方にいる多くの冒険者達は放置しているのだろう。


 歩き続けること10分。

 前方が、何やら騒がしくなった。

 戦闘が始まったようである。

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今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい」等と少しでも感じていただけましたら、

ブックマークと★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

更新する原動力が本当にわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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