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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
90/130

90 『煉獄の剣』に絡まれて

 一方、ギルド内では、ジルとエスティルが幾人かに声をかけている。

 EもしくはDランクの冒険者を臨時に雇うためなのだが、一向に上手くいかない。


 上手くいかないどころではない。

 廻りの冒険者らに白い目で見られ始めている。


 そんな折である。

「揃いも揃って、Fランクどもが居座りやがって、ウザイんだよ! 見れば魔力の無い剣士までいやがる。時代錯誤も甚だしい! 恥ずかしくないのか! いい加減に諦めて帰れや!」

 声の主は、ジルらの目の前で仁王立ちしていた。

 相当イライラしているのだろう。口もとが、ひくついている。

 その男は大声で続けた。

「聞こえてないのか! 最弱ランクども。この天塔迷宮トゥルス・ダンジョンはな、将来有望なっ、やがては英雄、勇者となっていく、俺らのようなパーティーの主戦場なんだよ。わかったら! 邪魔だから、とっとと失せろ!」


 派手な衣装と鎧に大剣を背負い、さながら勇者のような出で立ちに加え、彼の廻りには、四人もの女性冒険者が取り囲んでいる。仲間は全て、若くて可愛い女性。いわゆる、ハーレムパーティーというやつである。

 四人はそれぞれ、格好だけをみると、魔剣士、魔術士が二人づついる。

 彼女らも、先程から人を見下した視線をこちらに向けてきていた。

 我慢も限界を超え、とうとう絡んできたのである。


 ジルとエスティルの二人は、勧誘も空しく空振りに終わり、テーブルへと戻ってきたばかりで、精神的にも疲労しており、相手をする気にもなれなかった。


「お前ら! 帰るに際して、これだけは覚えて帰るがいい! 俺らのパーティー名は『煉獄の剣』そして俺は、将来、その名を大陸全土に轟かすことになる ノイアー・ベルカシーム だ!」


 この金髪の男の話し、二人は聞いちゃいない。

 勝手に、何でも轟かせてくれと言った感じである。

 ノイアーが大きな声をだすため、廻りの冒険者たちが集まってきた。

 実は、皆、『女神の祝福』のことが気になっていたのである。


 主だったパーティーはというと、女性がリーダーで、男二人を従えた『描かれぬ風』、女性四人組の『氷の乙女』、若者から老年で男女混合の六人組『砂の陣』、そして、最近、エレンと顔を合わせる度に揉める『双竜』その他である。

 

 エスティルは、面倒くさくてホントに勘弁してほしいと思っていた矢先、いきなり女性の高い声が響き渡った。

「お姉さまっ!!」

「ま、まさか! その声は」

 そのまさかであった。人混みを搔き分けてその場に現れたのは、ソリアであった。

 彼女は感極まって、その場で立ち尽くしている。

 涙ぐんでいるのだ。


 ソリアは、エンデルでのダンジョン討伐後、夫々のパーティーが引き上げていく中、エスティルらの姿が無いことに気付き、心配していたのである。

 彼女ら『隻眼の狼』は、メンバー二人が重度の魔力欠乏症にかかっていたため、暫く、エンデルに滞在していた。その間、『女神の祝福』、『銀の翼』の消息が途切れ、どうしたものかと、一時は探したりもしていた。


 その後のエスティルらの活躍は、王都の兵士達から聞いていた。

 なんでも、後からやってきた別グループの冒険者達とともに、転移魔法陣で移動して、敵を追い詰め、ダンジョンを破壊して勝利に導いた第一の功労者なのだと。

 ソリア自身は、終盤、魔人化しつつあったドースと対峙したこともあって、魔力もつき、精神的にも消耗してしまい、その後のことは覚えていないのだ。


 彼女は、エスティルらが生きていることは、情報収集を続けていたので知ってはいた。

 ソリアにとって、エスティルはメンバー二人の命を救ってくれた恩人であるため、一度、きちんと、お礼がいいたいと思い続けていたのである。

 そんな思いが募っての対面である。


 …ソリアは万感の思いで、今、言葉がでてこない。


「どうしたの? ソリア」

 エスティル自身は、あっという間に必死で、やりのけたことだったので、自分のしたことについては、そんな大層なことだと思っていない。

 単に、涙ぐむソリアを心配している。


 そんな状況の中、グレインも現れた。

 予期せぬ大物の登場に、ノイアーの勢いは削がれてしまった。

 ノイアーは、この場で目立って、自分らの力を誇示しようと思っていたのだが、さすがにパーティーランクB+のリーダーまで現れると、何も言う事ができずに沈黙してしまった。

 『煉獄の剣』のパーティーランクは、まだDランクなのである。


 エスティルとしては、面倒ごとに巻き込まれかけていたので、助かったといえばその通りなのだが、ソリアの状態がおかしい。心配ではあるのだが、自身も精神的にもまいっていたので、分かりやすく、ぐったりしていた。


「元気がないな。女指揮官ボスは。でも、まさか王都に来ているなんて…。俺らは今日着いたばかりなのに。早いな」

「ほんと! お姉さまは、さすがです」

 ソリアは、なんとか声を振り絞った。

 潤んでいた眼差しは、今は笑顔で輝いている。

 憧れを抱いた瞳で、見つめてくるのだ。


 エスティルからしてみれば、現状とあの時とのギャップの大きさに落胆していたところである。

 彼女の瞳をみていたら、確かに自分は『エンデルのダンジョン』では、それだけの活躍をしたように思えてくる。でも、ここは『エンデル』ではない。

 あの煩い男の言う通り、誰も仲間に入りたいと思わない最弱ランクパーティーの一員なのだ。

 今の今迄、勧誘しつづけて、話を聞く者もいない。断られつづけていたのである。

 ジルも同様である。


「ありがとう。ソリア。いろいろあってね。急いできたのよ。って、女指揮官ボスは止めてよ! グレイン! あんたあの場にいたでしょうが! 女神よ、女神。そう呼びなさい」

 そう、言いながら、少し元気がでてきている。

 エスティルは、喋ると元気が出るタイプなのだ。


「なんかなあ。直接命令を受けていた俺達からすると、女指揮官ボスの方がしっくりくるんだよなあ。なあ。ソリア」

「駄目ですよ。キャプテン!」

「キャプテンは卒業したよ。勘弁してくれ」

 グレインは、参ったという表情で頭を掻いている。

 ソリアが、自然な笑顔をみせた。


 『隻眼の狼』のメンバーは、あの一件で仲間を一人失っている。

 悲しい気持ちは消えてはいないのだろうが、仲間の死を受け入れることは出来たのだろう。

 二人の会話の中に笑顔が見える。

 当時は、二人して鬼の形相で前へ、前へと進んでいた。

 そんなに時間が経ったわけでもないのだが、懐かしくも感じる。


 エスティルは、何か、思っていたよりも、普通に話が出来て嬉しく感じていた。


「それはそうと、ここにいるということは、お姉さまも入塔するのですよね?」

「そうよ。でもそれには条件があるのよ」

 エスティルは、そう言いうと、ここまでの苦労話を搔い摘んで話した。

 話を聞いて、二人も難題だなと考え込んでしまった。

 ランク上位の二人には、単独でこの場に来るようなE・Dランクの知り合いなんていないのである。

 エスティルは、到着したばかりの二人をここで留め置くのも、悪いと思い、早々に話を切り上げた。

 二人も、すぐには、力になれそうにもないので、次はみんなで食事をする約束をして別れたのであった。


 廻りに誰もいなくなると、また二人は脱力状態である。

 あのウザイ男も、いつの間にかいなくなっている。


 掲示版には、1~5階まで付き合うだけで、報酬額は金貨1枚という破格の内容としているのだが、全然反応がない。


「あのさ~、もう、ここにはE・Dランクの冒険者そのものがいないんじゃないのかぁ? 俺様はそう思う」


「そうだとしても、他にどこで探せばいいのよ!」

 エスティルの言葉に、沈黙していたマーレが焦っている。

 当初、令息ジルフリードは、推薦状等を使うことで、この問題はクリアできると考えていたため、E・Dランクの冒険者など準備はしていなかった。

 彼が声を掛けていたのは、深層で対応できるような、ランクの高い冒険者だけである。


 世の中、何が起こるか分からない。

 こんなことならば、『エンデルの森』に入る時、自分も冒険者登録を正式にしておけば良かったと、マーレは後悔していた。

 あの時ならば、冒険者が不足していたのだ。

 ギルマスとの交渉次第では、Eランクにして貰えただろう。

 けれども、あの時は、そこまでの必要性を感じなかったため、冒険者の仮資格をとっただけであったのだ。


 みつかりそうにない。

 …解決策が見いだせない。

 他の冒険者から見ると、絶対に仲間になんか、なりたくないパーティーなのである。


 全員が、溜め息まじりの中、落胆していると、一人の若い痩せた男が近づいて来た。

「あ、あの、本当に金貨を貰えるんですか?」


「「「 えっ 」」」


「差し上げます。勿論です。冒険者ランクは何ですか?」

 マーレは、最後のチャンスだと思い、必死さ、が前面に出ている。


「えっ、そ、その、Eランクなんですが」

 そう言って、その男は、掌から光のカードを作り出して見せた。

 マーレは、カードを覗き込み、確認すると、どうも、大丈夫そうである。

 ホッとしたマーレは、振り返り、笑顔で小さなガッツポーズをとってみせた。

 みんな、笑顔が零れる。

 特に、ジルは大喜びである。

 「流石は、マーレちゃんだ」と燥いでいる。

 因みに、マーレは、ジルだけには『ちゃん』を付けられても訂正はしない。

 『マーレちゃん』、『ジルセンセ』と互いに呼び合っている仲なのである。

 今も、互いに呼び合って、喜びを分かち合っている。


「後は、カルが試験をパスしてくるのを待つだけね」

「はい。そうですね。でも、カル様なら大丈夫です。それじゃあ、早速、メンバー登録に行って参ります」

 マーレとジルは、二人でその若者を連れて、受付へと向かった。

 今回は、エスティルが行かなくても大丈夫らしい。

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今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい!!」等と少しでも感じていただけましたら、

ブックマークと★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

本当に更新する原動力がわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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