90 『煉獄の剣』に絡まれて
一方、ギルド内では、ジルとエスティルが幾人かに声をかけている。
EもしくはDランクの冒険者を臨時に雇うためなのだが、一向に上手くいかない。
上手くいかないどころではない。
廻りの冒険者らに白い目で見られ始めている。
そんな折である。
「揃いも揃って、Fランクどもが居座りやがって、ウザイんだよ! 見れば魔力の無い剣士までいやがる。時代錯誤も甚だしい! 恥ずかしくないのか! いい加減に諦めて帰れや!」
声の主は、ジルらの目の前で仁王立ちしていた。
相当イライラしているのだろう。口もとが、ひくついている。
その男は大声で続けた。
「聞こえてないのか! 最弱ランクども。この天塔迷宮はな、将来有望なっ、やがては英雄、勇者となっていく、俺らのようなパーティーの主戦場なんだよ。わかったら! 邪魔だから、とっとと失せろ!」
派手な衣装と鎧に大剣を背負い、さながら勇者のような出で立ちに加え、彼の廻りには、四人もの女性冒険者が取り囲んでいる。仲間は全て、若くて可愛い女性。いわゆる、ハーレムパーティーというやつである。
四人はそれぞれ、格好だけをみると、魔剣士、魔術士が二人づついる。
彼女らも、先程から人を見下した視線をこちらに向けてきていた。
我慢も限界を超え、とうとう絡んできたのである。
ジルとエスティルの二人は、勧誘も空しく空振りに終わり、テーブルへと戻ってきたばかりで、精神的にも疲労しており、相手をする気にもなれなかった。
「お前ら! 帰るに際して、これだけは覚えて帰るがいい! 俺らのパーティー名は『煉獄の剣』そして俺は、将来、その名を大陸全土に轟かすことになる ノイアー・ベルカシーム だ!」
この金髪の男の話し、二人は聞いちゃいない。
勝手に、何でも轟かせてくれと言った感じである。
ノイアーが大きな声をだすため、廻りの冒険者たちが集まってきた。
実は、皆、『女神の祝福』のことが気になっていたのである。
主だったパーティーはというと、女性がリーダーで、男二人を従えた『描かれぬ風』、女性四人組の『氷の乙女』、若者から老年で男女混合の六人組『砂の陣』、そして、最近、エレンと顔を合わせる度に揉める『双竜』その他である。
エスティルは、面倒くさくてホントに勘弁してほしいと思っていた矢先、いきなり女性の高い声が響き渡った。
「お姉さまっ!!」
「ま、まさか! その声は」
そのまさかであった。人混みを搔き分けてその場に現れたのは、ソリアであった。
彼女は感極まって、その場で立ち尽くしている。
涙ぐんでいるのだ。
ソリアは、エンデルでのダンジョン討伐後、夫々のパーティーが引き上げていく中、エスティルらの姿が無いことに気付き、心配していたのである。
彼女ら『隻眼の狼』は、メンバー二人が重度の魔力欠乏症にかかっていたため、暫く、エンデルに滞在していた。その間、『女神の祝福』、『銀の翼』の消息が途切れ、どうしたものかと、一時は探したりもしていた。
その後のエスティルらの活躍は、王都の兵士達から聞いていた。
なんでも、後からやってきた別グループの冒険者達とともに、転移魔法陣で移動して、敵を追い詰め、ダンジョンを破壊して勝利に導いた第一の功労者なのだと。
ソリア自身は、終盤、魔人化しつつあったドースと対峙したこともあって、魔力もつき、精神的にも消耗してしまい、その後のことは覚えていないのだ。
彼女は、エスティルらが生きていることは、情報収集を続けていたので知ってはいた。
ソリアにとって、エスティルはメンバー二人の命を救ってくれた恩人であるため、一度、きちんと、お礼がいいたいと思い続けていたのである。
そんな思いが募っての対面である。
…ソリアは万感の思いで、今、言葉がでてこない。
「どうしたの? ソリア」
エスティル自身は、あっという間に必死で、やりのけたことだったので、自分のしたことについては、そんな大層なことだと思っていない。
単に、涙ぐむソリアを心配している。
そんな状況の中、グレインも現れた。
予期せぬ大物の登場に、ノイアーの勢いは削がれてしまった。
ノイアーは、この場で目立って、自分らの力を誇示しようと思っていたのだが、さすがにパーティーランクB+のリーダーまで現れると、何も言う事ができずに沈黙してしまった。
『煉獄の剣』のパーティーランクは、まだDランクなのである。
エスティルとしては、面倒ごとに巻き込まれかけていたので、助かったといえばその通りなのだが、ソリアの状態がおかしい。心配ではあるのだが、自身も精神的にもまいっていたので、分かりやすく、ぐったりしていた。
「元気がないな。女指揮官は。でも、まさか王都に来ているなんて…。俺らは今日着いたばかりなのに。早いな」
「ほんと! お姉さまは、さすがです」
ソリアは、なんとか声を振り絞った。
潤んでいた眼差しは、今は笑顔で輝いている。
憧れを抱いた瞳で、見つめてくるのだ。
エスティルからしてみれば、現状とあの時とのギャップの大きさに落胆していたところである。
彼女の瞳をみていたら、確かに自分は『エンデルのダンジョン』では、それだけの活躍をしたように思えてくる。でも、ここは『エンデル』ではない。
あの煩い男の言う通り、誰も仲間に入りたいと思わない最弱ランクパーティーの一員なのだ。
今の今迄、勧誘しつづけて、話を聞く者もいない。断られつづけていたのである。
ジルも同様である。
「ありがとう。ソリア。いろいろあってね。急いできたのよ。って、女指揮官は止めてよ! グレイン! あんたあの場にいたでしょうが! 女神よ、女神。そう呼びなさい」
そう、言いながら、少し元気がでてきている。
エスティルは、喋ると元気が出るタイプなのだ。
「なんかなあ。直接命令を受けていた俺達からすると、女指揮官の方がしっくりくるんだよなあ。なあ。ソリア」
「駄目ですよ。キャプテン!」
「キャプテンは卒業したよ。勘弁してくれ」
グレインは、参ったという表情で頭を掻いている。
ソリアが、自然な笑顔をみせた。
『隻眼の狼』のメンバーは、あの一件で仲間を一人失っている。
悲しい気持ちは消えてはいないのだろうが、仲間の死を受け入れることは出来たのだろう。
二人の会話の中に笑顔が見える。
当時は、二人して鬼の形相で前へ、前へと進んでいた。
そんなに時間が経ったわけでもないのだが、懐かしくも感じる。
エスティルは、何か、思っていたよりも、普通に話が出来て嬉しく感じていた。
「それはそうと、ここにいるということは、お姉さまも入塔するのですよね?」
「そうよ。でもそれには条件があるのよ」
エスティルは、そう言いうと、ここまでの苦労話を搔い摘んで話した。
話を聞いて、二人も難題だなと考え込んでしまった。
ランク上位の二人には、単独でこの場に来るようなE・Dランクの知り合いなんていないのである。
エスティルは、到着したばかりの二人をここで留め置くのも、悪いと思い、早々に話を切り上げた。
二人も、すぐには、力になれそうにもないので、次はみんなで食事をする約束をして別れたのであった。
廻りに誰もいなくなると、また二人は脱力状態である。
あのウザイ男も、いつの間にかいなくなっている。
掲示版には、1~5階まで付き合うだけで、報酬額は金貨1枚という破格の内容としているのだが、全然反応がない。
「あのさ~、もう、ここにはE・Dランクの冒険者そのものがいないんじゃないのかぁ? 俺様はそう思う」
「そうだとしても、他にどこで探せばいいのよ!」
エスティルの言葉に、沈黙していたマーレが焦っている。
当初、令息ジルフリードは、推薦状等を使うことで、この問題はクリアできると考えていたため、E・Dランクの冒険者など準備はしていなかった。
彼が声を掛けていたのは、深層で対応できるような、ランクの高い冒険者だけである。
世の中、何が起こるか分からない。
こんなことならば、『エンデルの森』に入る時、自分も冒険者登録を正式にしておけば良かったと、マーレは後悔していた。
あの時ならば、冒険者が不足していたのだ。
ギルマスとの交渉次第では、Eランクにして貰えただろう。
けれども、あの時は、そこまでの必要性を感じなかったため、冒険者の仮資格をとっただけであったのだ。
みつかりそうにない。
…解決策が見いだせない。
他の冒険者から見ると、絶対に仲間になんか、なりたくないパーティーなのである。
全員が、溜め息まじりの中、落胆していると、一人の若い痩せた男が近づいて来た。
「あ、あの、本当に金貨を貰えるんですか?」
「「「 えっ 」」」
「差し上げます。勿論です。冒険者ランクは何ですか?」
マーレは、最後のチャンスだと思い、必死さ、が前面に出ている。
「えっ、そ、その、Eランクなんですが」
そう言って、その男は、掌から光のカードを作り出して見せた。
マーレは、カードを覗き込み、確認すると、どうも、大丈夫そうである。
ホッとしたマーレは、振り返り、笑顔で小さなガッツポーズをとってみせた。
みんな、笑顔が零れる。
特に、ジルは大喜びである。
「流石は、マーレちゃんだ」と燥いでいる。
因みに、マーレは、ジルだけには『ちゃん』を付けられても訂正はしない。
『マーレちゃん』、『ジルセンセ』と互いに呼び合っている仲なのである。
今も、互いに呼び合って、喜びを分かち合っている。
「後は、カルが試験をパスしてくるのを待つだけね」
「はい。そうですね。でも、カル様なら大丈夫です。それじゃあ、早速、メンバー登録に行って参ります」
マーレとジルは、二人でその若者を連れて、受付へと向かった。
今回は、エスティルが行かなくても大丈夫らしい。
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