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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
89/130

89 身の程を知りなさい

 揺れる馬車の中。

「………」

「あ、あの、何で二人が馬車に乗ったままなの?」

 エスティルが遠慮がちに尋ねる。

「え、だって、ラッツウルブズで迷子になったら、大変です。私、案内役ですので」

「僕は護衛役ですので」

 マーレとイシュルミットは、当然の如く返答する。

「そ、それもそうね・・・」


 ラッツウルブズとは、天塔迷宮トゥルス・ダンジョンがある都市の名称である。

 因みに、王都とラッツウルブズとの途中にある兵団の砦をラッツ砦という。


 マーレが準備した馬車そのものは、普通のものであったが、馬は軍馬を用意させていた。

軍馬とは、その名のとおり、戦時に使用される馬のことであり、普通の馬よりも、大きく、丈夫であるため、速く、力強く、長い距離を走ることができる馬のことである。

 普通、軍馬に馬車を引かせることはない。

 馬車を引かせるのに適していないからだ。

 少しでも、時間を無駄にしたくないと思い、マーレが特別に用意させたのであった。


 最初のうちは、普通の馬車の揺れであった。

 少しずつ、速くなる。

 揺れも、気になってくる。


 …今では、俺達の馬車は結構なスピードで、ラッツウルブズへと走っていた。


 グワラッ、グワラッ、ガガガーーーーーー


「ちょ、ちょっと、凄くない! この揺れっ!!」

「な、なんか、こ、怖いです!!」

 エスティルとマーレの会話が物語っていた。

 さらに、徐々に加速していくのである。

「そうお? 僕は結構楽しいよ。マーレ」

 二人とは裏腹にイシュルミットは嬉々としている。

「ちょっと、車、壊れるんじゃないの!!」

 エスティルの両隣に座る二人の従者も、揺れには驚きはしたが、それ以上に、今、敵襲があったらと、厳しい表情である。


 一方で、なぜか、ジルセンセは無言である。

 他の人には見えていないが俺の腕の裾を握りしめている。

 やはり、怖いのだろう。

 チラッと見ると、目を瞑っていた。

 声が出ないほどに怖いのだ。


 俺はというと、それ程でもなかった。

 一つ間違えると、馬車が跳ね上がるような速度ではあるものの、移動用に平坦に舗装された専用馬車道を走っているのだ。

 それほどの問題はないと勝手に思っていた。


 それよりも、何よりも、ぐんぐんと迫ってくる天塔迷宮トゥルス・ダンジョンが気になって仕方がない。

 予想はしていたものの、物凄く大きい。そして高い。

 天塔トゥルスと名付けられているだけあって、天まで届いているのではないかと思う程である。

 実際、今、空に広がっている歪な雲雲を突き抜いている。


 古代遺跡と称えられているこの塔は、到底、人の手で建造されたとは思えない。

 凄まじいまでの威圧感を感じさせる。

 こんな建造物が他にもあるとは、とても信じられない。


 だが、やっぱり、この馬車の揺れ方も酷くて、信じられない。

 乗り心地は最悪である…。


 ……やはり、軍馬は馬車を引くのに適していない。

 そんなことで、ラッツウルブズに到着した時には、流石に全員が馬車酔いをしていた。

 全員、体調悪く、話すのも億劫な状態である。


 神経を使って、手綱を握っていたのだろう。

 御者も体調が悪いらしい。疲労を隠せないようだ。


「皆さん。申し訳ありません…以後気を付けます」

 マーレは屈みながら、謝罪をするものの、誰も聞いてはいない。

 それどころではないのだ。

 全員、ヘロヘロになりながらも、冒険者ギルドに辿り着くと、そのまま、マーレは受付窓口に行き、募集依頼の手続きをしはじめた。

 カル達は、当初、直接、片っ端から冒険者に声を掛けていこうと思っていたのだが、そんな余裕もなく、全員、テーブルで臥せってしまっていた。


 そんな中、ギルド受付のチーフの女性が、勢いよく立ち上がった。

 彼女は名をバレッタといい、チーフに昇格して間もない。

 そんな彼女ですらも、カル達の態度を目にして、軽く溜め息をついてしまった。

 だが、すぐに溜め息をついたことに後悔した。

 チーフに昇進したばかりの彼女は、こんなことで溜め息を付いてはいけないと、思い直したのだ。ギルド職員の鏡である。


 バレッタは、左手の中指と薬指で、昇進の記念に購入した自慢の高級メガネの位置を軽く直すと、意中の人を目視で確認しだした。


 確認を終えた彼女は、真っ直ぐに早歩きをし出す。

 どうやら、カルに用があるらしい。

 カルの目の前に立つと、少しキツイ、口調で話し出した。

「私はバレッタといいます。あなた方のパーティーのギルド担当者の上席の者です」

「え、ああ」

 突然、ノックもせずに家の中へと踏み込まれた感もあって、カルは言葉が出なかった。

「ああ、じゃないわよ、あなた! 魔力も碌にないのに、天塔迷宮トゥルス・ダンジョンに入塔しようとするなんて正気の沙汰じゃないわ。どうしても、お仲間と入塔したいのなら、あなただけは、試験が必要です。明日、またこの場所に来てくださいね。落ちたら、入塔はさせません。いいですね」


 ダンジョン内で発生した事故等については自己責任とはいうものの、自分の昇進直後に死人がでるのは、誰もが嫌なものである。ただでさえ、責任感、正義感が強い彼女にとっては許せないレベルの出来事であった。


「し、試験! そんなのあるなんて、聞いてない! 突然、一方的じゃないですか!」

「何言っているんですか! そもそもが、その程度の魔力で、このラッツウルブスに来ることがありえないことなんです。前代未聞です」


 他のメンバーは、皆、体調悪くて、カルを庇うような余裕はない。

 

 マーレが戻って来た。

 ヨタヨタしている。

 試験の事を彼女に話すも、彼女も馬車酔いをしており、再びカウンターへと戻って抗議する気力は残っていない。

 逆に納得してしまっている。

というか、カルが入塔しないのならば、屋敷に一緒にいられて嬉しいくらいに思っているのである。

 頭が廻っていないのである。

 

 俺はバレッタに言われて、碌に言い返すこともできなかった…。

 事実上、試験を受けることを認めたことになる。

 それも、仕方がなかった。

 相手の主張も一理あるからだ。


 気力も限界に達していたマーレだが、再び、カウンターに向かい、皆のために受付嬢に相談し、宿を決めてきてくれていた。

 一行はそのまま、ヨレヨレの足取りで、宿へと向かった。


「やっぱし、マーレちゃんがいてくれて、本当によかった」

 ジルセンセは、心から感謝しているのであるが、疲れもあって相手に伝わらない喋りである。


 カルは宿の部屋に入ると、そのまま、ベッドに直行して寝転がった。

 一人部屋である。

 そして、また思いにふける。


 …あの、チーフ格の女性…バレッタの言う通りだ。

 そもそもが、魔力の無い俺は、冒険者なんてやるものじゃない。

 俺は、守られるべき立場にある人間なんだ。


 けれども、試験に落ちる訳にはいかない。

 わざわざ、『エンデルの森』からここまで、やってきたんだ。

 ここで、俺が欠けるなんてことは、絶対にやってはいけないことだ。

 

 だが、試験といっても何をするんだ。

 魔力が無いことは、把握されているのだから、それを補うだけの力を示さないと合格しないってことなんだろうな。そうなると、当然実技だ。


 そんなことを考えながら、まだ、陽が高いにもかかわらず、俺は寝入ってしまった。


 翌朝。

 俺達は軍馬に揺られていたせいもあって、あちこち体が痛い。

 けれども、そんなことも言ってはいられない。

 ここで、E・Dランクの冒険者を探さないと、始まらないのだ。

 朝から、すぐに全員でギルドへと赴いた。


 ギルドの建物内に入ると、俺だけ試験があるので、別行動である。

 エスティルらは、明るく手を振っている。

 何にも心配してはいないようだ。

 俺はノヴァが使えないのだ。

 少しは心配して欲しい…。

 まあ、心配はされなかったけれども、マーレからは、頑張って来てくださいの一言があったから前向きにはなれた。


 俺は受付を済ませると、別室に通されて一人呼び出しを待っていた。

 憂鬱な時間である。

 それはそうである。

 これから、一人で魔物と戦わなければならないのだ。


 バレッタがやって来た。

 一応、扉があるとノックはしてくれるようだ。


 いきなり、呆れたというような冷たい視線を向けてくる。

 自分の実力もわからずに、夢ばかりを追い続ける馬鹿者とでも思われているのだろう。

 試験を受けて、身の程を知ったら、今直に田舎へと帰りなさい、と言わんばかりである。


 だが、バレッタからは特に言葉はなかった。

 付いてきなさいの一言のみで、また別室へと案内される。

 そして、室内で指示された場所へと移動した。

 バレッタは何故か、少し微笑んだ。


 この台座らしきものは…。

 もしかして。

「身の程を知りなさい」

 一言だけ言い放つ。

 

 ……やっぱり、そう思っていたのか。

 

 足元が光り出す。

「これって、やっぱりそうか!」

 瞬間、俺の肉体はその場から消滅した。

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【御礼】

今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい!!」等と少しでも感じていただけましたら、

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本当に更新する原動力がわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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