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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
87/130

87  白髭の老人

 カルは必死に走った。

 走り疲れて、足を止めた時、そこは、もう、どこだか分からなかった。

 専用の地図もない。

 専用というのは、貰った地図に自分なりに書き加えたものである。

 要は、字が読めないために、自分なりにペン入れをしたものである。

 行き交う人らに、公爵邸への道を聞くというわけにもいかない。

 公爵位は上位貴族なのである。


 冒険者風情が、屋敷の場所を聞き回るなどしたら、すぐに警護団やら騎士団に職質を受けることになるだろう。

 本当は、こういう時のために公爵家の紋章が刻まれた剣を持たされているのだろうが、普段からフェルビーに持ってもらっているので、今は手元にはない…。


 焦る一方で、教会から離れたこともあってか、痛みは引いていた。

「ルバート、この痛み、魔人の血が混ざったことが原因だと思うんだが、痛みを消す方法を知らないか?」

『ふむ。教会で浄化してもらうのが、確実であろう。命懸けとはなるが』

「命懸け?」

『うむ。事情を説明した後の行く末は、抹殺か実験モルモットであろう』

「ええ! そ、そうか。そう言えば、リエルにも討伐されかねないとか言われたことがあったっけ。これって、やはり、完治は無理なのか」

『そのようなことはない。主らが目的としている「全癒の翆石」であれば、浄化も可能であろう』

 カルはそれを聞いて、固まってしまった。

 喉から手が出る程に、欲しいと思ったのだ。

 しかし、『全癒の翆石』は、メリーザ様やリエルの治療のため、エンデルの森のために使うものである。とても、自分のために使わせてくれなんて、言う事は出来ない。

 だからと言って、右腕をこのままにしておくことも出来ない。


 ……そう言えば、リグルスは以前、俺の左腕に誓って、嘘はついていない等と言っていたが、今の俺の右腕を見たら、どう思うのだろう。

 やはり、ルバート同様に、右腕に『魔』を感じるのだろうか。

 その場合、どのような反応をするのだろう。


 聞いて見たい気もするが、少し怖い。

 今、彼はこの場にはいない。

 恐らくは、クミアとともに教会の中にいるのだろう。


 いや、待て。

 『聖』と『魔』の両方を兼ね備えているとなれば、ダンジョン攻略だって、容易なのではないか。

 もしかしたら、最深部さえも、到達できるのではないだろうか。

 『全癒の翆石』だって、極端な話し、一人で手に入れることも可能なのでは。

 そう、思い立つと、カルは満更でもないなと思い、自然と笑みさえも浮かべ、安堵の表情に変わっていた。


 それを見ていたルバートが警告した。

『主よ。決して勘違いをしてはならない。『魔』の力が使える訳ではない。例え、使えたとしても、両方の力を使えるというのは、半端なものであるのだ。然るべき本物の力を備えた敵と戦った場合は、必ず敗れる』


 そう言われて、妄想から我に返った。

「忠告、ありがとう。確かに、勘違いし始めていた。そもそも、魔力のない俺では『魔』の力なんて、使うことなんかできないよ」

 親切に教えてくれたので、ルバートにはそれらしく返答したが、そもそもが、天塔迷宮トゥルス・ダンジョンでの仕事をやり終えたら、もう、剣をもつ気なんて、さらさらない。

 エンデルの森で、みんなで、平和に、スローライフを送ることこそが、俺の夢なのだ。


 俺自体、あの獣目の老人に命を狙われてはいるものの、公爵家の領地の中で、騎士団に守られ、さらには、『エンデルの森』の中で、メリーザ様の傍にいれば、そうそう、手出しは出来ないだろう。

 その内に、あの老人も寿命が尽きて、一件落着というようなイメージで俺はいる。


 平和な暮らしが、幸せに繋がり、そこにある笑顔こそが、守るべきものであるのだ。

 俺は、その中で、笑顔でいたいのだ。


 転生して、異世界を救う等というのは、絶対的な神様にチート能力を授けてもらった者の使命であって、自分には全く無縁の話である。

 そのような者がこの世界に、今、いるのかは分からない。

 いるのであれば、是非とも、守るべきものを守ってもらいたい。


 魔力が、ほぼ、ほぼ無い、不自由な俺は、当然に守ってもらう側の人間な筈である。

 人は、出来ることを精一杯行って、役割をこなすことこそが重要であると思っている。



 考え事をする中、急に俺は呼び止められた。

 振り向くと、そこには白髭の老人が立っていた。

 老人といっても、背筋はのび、佩刀をしている。

 身なりは普通であるが、言葉を間違えようものなら、無礼千万と一喝され、斬られるのではないかという感じを受ける。


「もしもし。少しお尋ねするが、ミューラー公爵のお屋敷へはどうやって行けばよいですかの。歩いて行こうと、迎えの馬車を断ったがいいが、迷ってしまったわ。ほんにのう」

 

 話し掛けられて、最初に受けた印象とは全く違っていたことに驚いた。

 案外、俺には見る目がない・・・。

 それにしても、何という幸運であろう。

 行先が同じなのである。

 つまりは、この老人について行けば、帰れるのである。

 カルは、自分も、エンデルから出て来たばかりで、迷子になっていることを話した。

 老人は大笑いしながら、それではご一緒に向かいましょうと、終始笑顔である…が、いきなり、ジッとカルを見つめ始めた。

「お主……おもしろいのう。そもそも、なんで、魔力量がそれしかないのじゃ。王都では、いろいろと、不便であろう」


 白髭の老人が、なぜに、不便であろうと、言ってきたかというと。

 天塔迷宮トゥルス・ダンジョンが近郊にある王都においては、魔石文化が発達しているためである。どういうことかと言うと、例えば、火が必要な場合、実際に道具を使って火を起こす者などは王都にはいないのだ。大概の者は魔石に魔力を注ぐことで、火を起こす。

 王都の民にとっては、それが常識であり、それに伴った生活用の道具もたくさんある。それ故に不便でないかと心配をされたのである。


「あ、はは。不便だとは思います。実際、魔石を手にとったこともないのですが…」

「おお、この儂としたことが、公爵家の関係者の方に何と失礼なことを…申し訳ありませぬ。今の失言については、ご容赦くだされ。そうじゃった! まだ名乗ってもおりませんでしたの。重ね重ね申し訳ない。儂の名はゲンドリックという。皆は儂のことをゲン爺と呼ぶから、其方も、ゲン爺と呼んでくだされ」


「あ、いえ、初対面で、目上の方にそのような呼び方は…」

「気にせんでよいよ」


 実は、このゲン爺こそが、今日のミーティングの講師なのであった。

 

 ゲン爺が、たまたま通りがかった騎士団員に声をかけると、みるみる内に団員が集まってきた。

 結局、俺はゲン爺のおまけのような形で、大勢に護衛してもらいながら、公爵邸に辿り着くことができた。


「すみません。馬車にまで乗せて頂いて」

「構わんよ。儂の馬車でもないしのう。それに目的地が一緒なのじゃ、当然じゃ。それよりも、歩くとやはり良いことが起こるものよのぉ」

「あ、何か良いことがあったのですね。それは良かったです」

「むう。そなたと出会えたことじゃよ」

「え、僕とですか?」

「ふむ。おもしろいのう」


『……』


 馬車が公爵邸の前に到着するやいなや、みんなから非難の嵐である。

 黙って消えたのだ。怒られるのは、仕方がないのだが、どこへ行っていたのかと必要以上に聞かれる。マーレも、他に案内したいところがあったらしい。

 

 魔人の血を浴びた右腕が痛みだしたとも、言いたくはないので、ひたすらに誤った。

 言い訳せずに、誤り倒した。


 そんな中、扉が勢いよく開いた。

 現れたのは、エレンである。

 マーレを一瞥した後、エスティルで目が留まった。

 俺は、珍しくエレンが凄い形相をして、やってきたので驚きつつも、マーレを呼ぶ時は、「ちゃん」付けはするなよと思いながら見ていた。


 俺の予想を裏切り、エレンは大声を出し、エスティルに詰め寄った。

「なんで、いつ迄たっても、シャルティエットは来ないのよぉ!!」

 突然のことに、エスティルは言葉に詰まる。

「あんたが、何か意地悪でもしたんでしょ!」

「い、意地悪なんてしてないわよ! 馬鹿なの? あんた!」

 エスティルも言い返す。

「じゃあ、なんでよ! 説明しなさいよぉ!」

「シャルティエットは、いきなり、自分の役目を果たすといって、去っていったのよ」

「絶対っ、あんたが原因なのよ! 何かいって、やってよぉ! マーレ! カルちゃん!!」

 

 何で、俺を「ちゃん」付け?

 どんな、間違いだよ。


「安心されよ。あのような者、見つけたら我々が、即ひっ捕らえて、首を刎ねておく」

 …アミュカルの戦士が、場を掻き乱す…。


「な、なに! この物騒な女は! あんたが、こんなの雇うから、こんなことになったんじゃないの!」

 エレンの怒りは止まりそうにない。


「じゃあ、教えてあげるわよ! 半年後に、彼はリエルに会いにくるわ。彼もカルも、あの獣目の老人に命を狙われているんだからね! 『エンデルの森』に来ることは絶対に他言無用よ。絶対に秘密よ」

 エスティルは、いともあっさりと、大事なことを伝えた。


「…な、なんで、リエルさんに会いにくるのよ」

 エレンは、自分のところに来てくれないことを知ると、今度は泣きそうである。


「もう、直接、聞きなさいよ!」

 エスティルは、突然、罵声を浴びせられていたこともあり、不機嫌なのだ。

 ソッポを向いている。


「揃いも揃って、大声を出し過ぎなのにゃ。ここは公爵邸なのにゃ」

 ジュノーが、煩すぎると思ったのだろう、注意しようとやってきたのである。

「あっ、ジュノーじゃない! あんたまで、何でいるのよ!」

「にゃ、にゃ、にゅんで! エスティルが原因だったのにゃ」

「失礼ね。エレンがつっかかってきたのよ! どうせ、この後、泣くんだからエレンを連れてって!」

「そのつもりなのにゃーー」

 エレンは、ジュノーに連れられて、泣く泣く出て行った。


 帰りがけに、ジュノーの足が止まった。

「ふにゅ。カルの魔力量が微妙に上がっているにゃ」

「えっ! ホントか! その話、少し聞かせてくれ!」

「話しも何もないのにゃ。そのままなのにゃ」


 夜のミーティングは、食後からである。

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今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい!!」等と少しでも感じていただけましたら、

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本当に、更新する原動力がわいてきます。

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