86 痛み、再び
クミアの表情が明るい。
王都近郊の村に住んでいたクミアも、実は初めての王都だという。
ヌクリ村の人間でも、代表者が農作物を売りに行くか、役人に呼び出されでもしない限り、王都に来ることは無いと言う。そもそもが、簡単に出入り出来るものでもないらしい。
「ねえ、ねえ、カル。折角だから、王都に来た記念に何か、皆に買ってよ」
エスティルの言葉に、クミアは嬉しそうな顔を向ける。
タイミングを計ったかのように、目の前にはアクセサリー屋さんがあるのだ。
屋台のような店構えではない、立派なお店である。
先程、ギルドに行った際に、バスから支払いがされてあるのを確認した。
持っていた金貨400枚もギルドに預けてある。
つまりは、護衛で得た代金は全てギルドにあるのだ。
……何が言いたいかというと、この買物は、俺の自腹で出すことになるのである。
別に借金がある訳でもないので、OKなのであるが、このタイミング…。
みんなが選び出す中、マーレだけ一人離れて見ている。
目があうと、微妙な笑顔が返ってきた。
自分は部外者だからと、遠慮しているのだろう。
俺は、マーレに好きなものを選んでいいよと促した。
すると、彼女は、はにかみながら嬉しそうに選び出した。
当然、イシュルミットにも同様に促したが、今日はマーレに冷たくされたせいもあってか、機嫌が悪いらしく、断られてしまった。
最終的には、王都に来た記念ということもあって、皆で同じ物を購入したらしい。
またしても指輪である。
指輪といっても、小さな魔石のついた指輪である、属性はそれぞれ自分の属性の物としたらしい。
この指輪をモチベーションにして、夜のミーティングを頑張ろうという訳である。
マーレによると、ミーティングの講師は元冒険者で、既に引退されている方が担当してくださるのだという。
講義内容は、5層までの魔物の知識と戦い方である。
5階までの各階層主に限っては、他のパーティーの力を借りることは出来ない。
俺らだけで倒さないといけないのだ。
他にも大事な事があって、ギルド内で講習を受けて、欲しいのだという。
こちらの講習の中身はというと、薬草知識についてである。
薬草知識については、エンデルの森でジルセンセに教えて貰っていたので、俺とエスティルは、多少は自信がある。実際、採取だけでなく、精製までしていたのだ。
今、俺達にとっての一番の問題は、パーティーランクを上げていかなければならないということである。上げていかないと、自由に階層を移動できないというルールがあるからだ。
俺らは最低のFランクなのである。
一番縛りがキツイ。
俺らは、夜の講義の内容を、お昼を食べながら、マーレに教えてもらっていた。
この時間。
イシュルミットは退屈で仕方が無い…。
「そうだ。皆様方、せっかくの王都ですので、教会に見学へ参りましょう。僕も行ったことがありません。どうでしょうか」
イシュルミットが、目を輝かせながら話す。
「なんだ。そんなところ、俺様はもっと違うところがいい」
ジルの発言にマーレも同意している。
なぜなら、またイシュルミットが告白でもしてくるのではないかと、思ったからである。
「「 行きます!」」
「何だよ。お前ら、二人共そんなに熱心な教徒でもないだろう」
「行くったら行くの!」
エスティルは、徹底抗戦の構えをみせる。
クミアも乗り気である。
行きたくて仕方がないのである。
…ジルセンセは、ものの見事に直ぐに押し切られた。
「どちらの教会に行かれるのですか?」
「そりゃあ、僕らは公爵家の者だし、僕ら自身も『ラージアムズ』の教会の出身ですので…新興宗教の教会にはいきませんよ」
クミアはイシュルミットの言葉を聞いて、嬉しくなった。
実はクミアは知る限り、祖父母の代から『ラージアムズ教』なのである。
リグルスは、宙で涙ぐんでいる。
教会は平民地域に数カ所ある。
その中で一番大きな教会を、皆で訪ねた。
女性陣は、初めてみる王都の教会の建物をみて、ウットリとしている。
各人が、思い、思いの妄想にふけっているのだ。
皆で教会の中に入ろうと、階段を昇ったその時であった。
カルは右腕に違和感を覚えた。
少し気になる程度のものであったので、腕を見直したくらいで、その場では口に出すこともなかった。
ジルは、教会に連れられてきたことに不満が募っていて、カルの仕草を目にはしたのだが、特段、気にはならなかった。
彼は王都に住んでいたことがあったので、当然、教会にも来たことがある。
そのため、教会には、何の感動もないのだが、女性陣は別である。
階段を昇るにしても、時間がかかる。
彼女らは妄想に耽って、ウットリとしているのである。
仕方が無いのかも知れない。
何と言っても、王都の教会である。
平民地域にあるとはいえ、立派な建物なのだ。
扉を開けて、入るとさらに感動が増す。
天井は高く、床も広がりを魅せる。
壁や柱にある格調高雅な彫刻は、厳かな感を醸し出している。
高窓からステンドグラス越しに差し込んでくる光は、教会の中を柔らかに彩っていた。
首を少し傾けつつ、微笑んで歩いてくる女性が見える。
格好からして、この教会の修道女であろう。
彼女らは、いきなり扉を開けて入って来て、キョロ、キョロ、ウットリ、している変な集団である。
挨拶もできなければ、不審者集団確定である。
エスティルは、焦って、挨拶をした。
「こ、こんにちわ。私達、エンデルから旅をしてきて、王都を歩いていたら、立派な教会があったので、つい中に入ってしまって…」
「かまいません。今日、あなた方と会えたことは、神の思し召し。嬉しく思っております」
シスターは微笑む。
彼女の名前は、ミリスという。
澄んだ心に、包み込むようなやさしい声、彼女の内側から発してくる癒しのオーラに、女性陣だけでなく、興味のなかったジルまでもがウットリとしていた。
マーレとイシュルミットの二人は、互いに自分の幼き頃を思い出していた。
孤児院育ちの彼女らにとって、シスターは身近な存在であったのである。
勿論、彼女らが育ったのは、こんな立派な教会ではなかったが、それでも当時はシスターに憧れ、なれるものなら、自分もなりたいと、思っていた時期があった。
教会に行きたいと言った時は、愛を誓いあう場を見たかっただけであったが、今は、ミリスに魅了されていた。
けれども、オルガとフェルビーは別であった。
二人は魅了されることもなく、廻りを見渡していた。
常に、初めての場所は警戒するのである。
オルガは、この場に、カルがいないことに気付いてはいたが、特に触れようとはしなかった。
―― 教会の外 ――
カルは、気が付くと一人取り残されていた。
皆、扉を開けると、順々に中へと入って行ってしまったのである。
カルも後に続き、扉の取手に手をかけた時であった。
「うぐうっ!」
右腕に強烈な痛みが走った。
間髪いれずに、第二波が襲ってくる。
「ぐ、がはっ!」
カルは思わず、吐き出すような声を出した。
みんなに、その声は届かない。
カルは左手で右腕を力の限りに掴んだ。
右腕全体に激痛が走っているのである。
こ、この痛み……。
カルは、恐る、恐る、自分の右腕を見てみるも、特段、異常は見られなかった。
この痛みには覚えがある。
そう、黒炎で火傷をした際に、魔人の血が入り混じり、ダークグリーンに腕が変色していく時の痛みだ。
カルは、完治した訳では無かったのだと知ると、失望感に苛まれた。
今のままでは、教会には入ることなんて出来ない。
誰かが戻って来て一緒に入ろうと言われても、無理なので、取りあえずはここから離れることにした。
咄嗟に周囲を見廻したが、誰かに見られては、いないようである。
小走りで、適当な路地裏に入り、自分の腕を、再び見直してみる。
やはり、外見に変化はない。痛みだけである。
『主よ。その腕では教会に入ることはできぬ』
「ルバート、何ぜだか、わかるのか?」
『……実に面白い。左腕には我がおり、右腕に魔が混じっておるとは』
その言葉を聞いて、やはり、魔人の血絡みなのかと、カルは改めて愕然とする。
カルは、魔人の血が混ざっている事は、皆には知られたくない。
その一心から、逃げるように、やみくもに走り、その場から立ち去ってしまった。
教会前で、いきなり腕を抑えながら苦しみ、もがく男の姿。
カルの姿は、灰色のローブを頭から纏った男達に見られていた……。
「イギィッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ、見たかよーーー、あの男。間違いないよなぁ。アイツ、間違いないよなぁ。イギィッ、ヒッ」
「主よ、如何いたしますか」
「どぉするかなぁあ、アイツをよぉーーー、やっぱり、串刺し、しかないよなぁっっ!!」
とても、正気とは思えない物言いをするこの男は、特段、カルの後を追おうともせず、後ろ姿を横目で追うだけであった。
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