84 勢揃い 王都公爵邸
俺らは、入って来た面々を見て目を疑った。
確かに、多少は人助け等で、馬車の出立の時間に間に合わなかったこともあって、日程的にロスしたこともあった。だが、二の森を回り道せずにきたのだ。総合的に考えて、かなり、早く到着したと思う。
カルからすると、ジルフリード様に先を越されていようとは、思ってもみないことであった。
そもそも、ジルフリード様が王都に来るとは聞いていなかったし、来るのであれば、エスティルに手紙を渡す必要もないであろう。
来る予定がなかったのに、後から出立して先に到着しているのである。
不可解なことである。
俺らが沈黙する中、ランドルが紹介してくれと、言わんばかりに目配せをしてきたので、簡単に紹介をした。
挨拶を受けたジルフリードは、既に守衛から報告があったのだろう。
馬車について聞いてきた。
馬まで含めた完全防御の馬車である。
魔力を感じとることが出来るものであれば、誰だって気になるものである。
そこについては、口を合わせてオルガの手柄として伝えた。
これは、ダンジョンの同行メンバーにさせたいというエスティルの意向もあり、少しでも印象を良くしようというのもあったが、実際、オルガの一族であるアミュカル家のお陰であるので、強ち嘘でない。
もっとも、あの時、オルガ本人は、ほぼ寝ていたのだが。
説明としては、オルガがいたからこそ、馬車を完全防御の状態にしてもらい、ニノ森を抜けることが出来たという主旨とした。
ランドルは、自分と同世代の将来の公爵家当主となる人物に対して、挨拶が出来たことに感激していた。
もう少し、個人的にお話をしたいとも思ったのだが、これから、大事な話しがあることを察して、早々に退出していった。
護衛代の残金である金貨600枚については、冒険者ギルドで『女神の祝福』宛に、明日、お支払いをしますと、バスは小声で言い残して、続いて退出した。
フレデリカには、この話が聞こえていたらしい。
「明日は冒険者ギルドに申請に行って頂きますので、丁度良かったです」
フレデリカは笑顔である。
「あ、オルガとフェルビーのパーティー申請ですか」
ジルが気付いた。
この二人、そもそも冒険者登録をしているのかさえも疑わしいのだ。
「そうです。マーレとイシュルミットに案内をさせますので、少し、王都を見学してきてくださいね」
「そ、そんな、案内なんて、お忙しいでしょうに」
エスティルが恐縮している。
「案内人がいないと、迷子になったり、槍を投げたりと大変なことになりますでしょ」
フレデリカは、茶目っ気たっぷりの笑顔である。
それを聞いて、ジル以外は耳が痛い。
前科があるからだ。
カルは、どうしても気になっていたので、再度、さっきの件を聞こうとしたところ、ジルフリードに遮られた。
「なぜ、僕らが先に到着していたかは、悪いがこれ以上は聞かないでくれ。それよりも、お二人の容態が問題だ。メリーザ様は体調が一向に良くならない。リエルさんの方は、普通に話すことができるレベルには復調しているが、やはり完治には程遠く、『エンデルの森』を統べるには無理がある」
険しい顔である。
カルは、ジルフリードからバッサリと断られると、もう、聞けなくなってしまった。
聞かれたくないことは明確に断りながら、皆が気になっているだろう二人の容態の話しを同時にもってくるあたり、ジルフリードの方が一枚も二枚も上手であった。
その後も聞くタイミングはあったが、カルは、聞かない方がいいこともあると思い直し、もう聞くのは止めにした。
ジルフリードからは、明日から、パルーともダンジョンについての打ち合わせを始め、一週間後には出発をして欲しい等の話があった。
なかでも、一番の心配ごとは、天塔迷宮の知識と経験が、『女神の祝福』のメンバー全員に全く無いということである。
そのため、新メンバーは、その点を考慮した人物を一名、選ばなくてはならない。
オルガとフェルビーの二人も、ダンジョンに関しては、全くの素人だったのである。
今回、サポートメンバーとして、『銀の翼』も帯同する訳だが、初期の階層では必ず階層主の部屋と呼ばれる領域があり、そこには、ワンパーティーしか入ることが出来ない。つまり、『女神の祝福』のメンバーだけで、切り抜けなければならないのだ。そのため、パーティーメンバーには、魔物の知識等がある者が必要となってくるということである。
ジルは、色々と話しを聞いていて、本当に、こんな素人集団だけで行って、大丈夫なのかと不安で、暗い気持ちになりかけていた。
そこに、何に紐付いたのか、自分でもわからないが、ふと疑問が浮かんで来た。
ジルは以前、エスティルの冒険者カードを見たことがあった。
「Fランク」であったことを覚えている。
なぜ、彼奴はあんな凄い魔術が使えるのに、最低ランクなのかと。
エスティルは、記憶を喪失しているので、本人に聞いてもわからないと思い、オルガに聞いてみた。
すると、エスティル様は冒険者ではないのだと、オルガに叱責されてしまった。
要は、たまたま、何かの理由があって登録したに過ぎなかったのだ。
確かに、冒険者としての活動を行っていなければ、才能があってもランクが上がることはない。
オルガの一言に、ジルは自分の中の痞えがとれた。
あと、気になっているのはクミアである。
彼女をダンジョンに連れて行く訳にはいかない。かといって、彼女は王都に知り合いもいないのだ。皆で、薄々心配をしていたことである。だが、杞憂であった。
それとなく、マーレに相談したところ、当面は客人扱いで、公爵邸においてもらえることになりましたと、すぐに、承諾を取って来てくれた。
これで、リグルスも一安心である。
その日は、再び出会えたふわふわの布団にくるまれて、みんな、熟睡した。
勿論、初めて味わう美味しい食事と、豪華なお風呂を満喫した後にである。




