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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
80/130

80 ランドルの洗濯

 まさかの、相乗りでの二度のお漏らし。

 ランドルにしてみれば、最悪の日である。


 いつもなら、文句の一つも言うエスティルだが、ランドルが酷く落ち込んでいるので、流石に黙っていた。


 普段、文句を言う人が、全く何も言わない。

 これはこれで、結構きつい。

 全員に気をつかわれているという、この空気が辛いのだ。

 ランドルは顔を上げられなかった。


 カル達を乗せた馬車は、既に『一の森』の中を進んでいた。

 因みに、この馬車は、『二の森の地中の主』の力により、物理攻撃と魔力攻撃を無効化できる優れものとなっていた。

 しかも、馬の脚にまでリングがプレゼントされている。

 なので、馬を狙われても大丈夫なのだ。


 アミュカル一族の威光か、それとも、主が自己のダイエット効果を狙ってのことなのか、大判振舞されて全員が驚いていた。

 

 スーッと、リグルスが馬車の中に壁抜けで入ってきた。

 彼は、馬車の中の臭いの元を何とかしようと提案をしてきた。

「この先に川がございます。そこで軽く洗濯をしていただくというのは、如何でしょうか」

 この提案について、カルが代弁して皆に伝えると、全会一致で川に向かうこととなった。

 みんな、この臭いを我慢していたのである。


 馬車が止まると、ランドルは一直線に川へと向かった。

 彼は、生まれてこの方、洗濯などしたことはない。

 けれども、恥ずかしさのあまり、一生懸命に下着やズボンを洗っていた。

 黙々と洗いながら、バスに話しかけた。

「あいつらには、頭が上がらないよ。なあ」

 ランドルは、悄然としていた。


「そ、そんなに、お漏らしくらいで、そこ迄、お気になさらなくても…」

「ちっがう! 漏らしたことで、じゃない。いや、それもあるか。……俺は命を狙われているんだ。それを気遣ってくれて、あんな、得体の知れない元精霊に命令して、超高濃度の魔力の指輪まで用意させてくれたんだ。それで、頭が上がらないと言ったんだ」

「そういうことでしたか。そうですね。…これは『大きな借り』としてお借りしておきましょう」

「そう。そうだ。それだ、借りだ! 借りておこう。必ず、彼奴らに返してやる! 引け目になんか感じるものか! 返せばいいんだ」

「はい、その意気でございます」

「確か、半年間だったよな。俺達が、物理攻撃、魔力攻撃を無効化できるのは。この間は、ペイジュスが襲ってきても、簡単に殺されることはない。…積極的に動いて、いろいろと探らなければ」

「わかっております。その間にヒムルカ殿を捕まえて事件を解明し、ついでにペイジュスとのルートも明らかにせねばなりません。もし、騎士団側に先に解明されて、繋がりがあると知れれば、ハークスレイ家は罪を免れません」

「その通りだ」


 今、ランドルにとって、一番信頼できるのはバスである。バスとの意思疎通は不可欠であり、早い段階で考えを聞いて置きたかったのだが、今迄、暴力を振るってきたせいもあり、ランドルは、中々、彼に切り出せなかったのである。

 今回の二人きりでの洗濯は、良いきっかけであった。

 ランドルは、改めて彼に握手をもとめ、バスもそれに応じたのだった。

 二人の握手は力強いものであった。


 因みに、ランドルの下半身は、スッポンポンである。

 

 エスティルの声が森の中に響き渡る。

「洗い終わったのーーーーー! さっさと戻って来なさーーーい! 置いて行くわよーー、ランドリー!」

「だ、誰がランドリーだ!」

 ランドルは怒り出した。地団駄を踏んでいる。


「なるほど! エンデルでの商売は洗濯屋にいたしますか。ランドル様」

「誰がするか! 俺は、物を売るのが好きなんだ! お前もいい加減にしろ!」


 川での洗濯が終わり、二人は皆のところへと戻ると、直に馬車は出発した。


 当然、衣服は乾いていない。

 そのため、ランドルはズボンと下着を着けておらず、膝元にタオル一枚を被せている状態で、荷馬車の中で座っていた。

 すると、見苦しい、気になる、気持ち悪い等と女性陣から口撃を受けたので、荷馬車から御者台へと移ることにした。

 今、手綱を持つバスの隣に、ランドルは座っている…。


「御者台で受ける風は、意外と気持ちがいいな」

「ええ、気分転換になります」

「御者台に乗る時は、…そ、その、パンツは必要だな。ハッ、ヒャッ、ヒャックション!」

 前面から吹いてくる風に対して、股間をカバーするように両腕で隠し、防風対策を試みていたものの、やはり、寒さは凌げなかったようだ。

 股間で受ける風は、気分転換にはならず、意外と冷えるのだ。


 馬車は、少しばかり悪路となっている道を進み続けている。

 さすがに、王都近郊の森ともなると、狂暴な魔物はいないようである。

 だが、全くいない訳でもなかった。


 現れた魔物は全て、オルガが片付けてくれる。

 全て一撃で倒すので、みんな退屈し始めていた。

 カルも、ウトウト仕掛けた時、目を疑った。

 途轍もなく、高い塔が見えたのである。

 天にも届くのではないかと思うほどである。


「そうか、カルは王都初めてだもんな。俺様は来たことはあるけれど。あの見える塔がダンジョンなんだよ」

「ええっ、ダンジョンって登っていくもんなんですか!」

 地中に潜るのも、あまり好ましいと思っていないが、登るのも嫌なものだ。

 ましてや、あの高さとなると、さすがに恐怖を感じる。


 大体、登り坂程度でも嫌がるエレンが、本当にあの塔を登っていたのだろうか?

 見ただけで、逃げ出すと思うのだが。


「違うよ。言い方が悪かった。ダンジョンは地中だよ。塔の真下にあるんだ。あの塔自体は、主に王国の瘴気を吸収するものだと言われている」

「瘴気を吸収して、どうするんですか? あんな危険なもの」

「エンデルの森の時のように、ダンジョン内で、強い魔物を創り出しているんだろ」

「そ、そんな。大陸の瘴気を吸収して魔物を創っているんじゃ、エンデルの比ではないですよ、あの塔には手に負えないレベルの魔物がたくさんいるってことですよね。これじゃあ、『全癒の翆石』だって手に入れられるか分からないですよ」


 カルは、ジルセンセの話を聞いていて、『エンデルの森』で集まった全部隊を投じても、『全癒の翠石』を手に入れるのは、無理に思えていた。


 だが、そもそもの前提が異なっていた。

 瘴気を吸収しているダンジョンは一つではなかったのである。


 まず、天塔迷宮トゥルス・ダンジョンは、大陸全土に八つ存在するという。

 この八つの塔は、神話の時代に魔族と長きに渡る戦いの末に、人族側が大勝利を収めた際、十聖と呼ばれた聖者の内、八人の聖天騎士が造ったと伝えられている。


 大陸に存在する、この八つの天塔迷宮トゥルス・ダンジョン天塔トゥルスの先頭部分や外壁で、それぞれの周辺の瘴気を吸収すると考えられている。

 一方で、吸収した瘴気を使って、天塔迷宮トゥルス・ダンジョン迷宮ダンジョン部分で魔物を生成する。

 因みに、魔物の生成に必要な魔力はダンジョン内部で落命した者や、外部の自然物から吸収しているとみられている。

 

 ダンジョンが瘴気を吸収することで、強い魔物の大半は迷宮内に生まれてくることになる。

 これにより、王国内では強い魔物の出現率が低くなるという訳である。

 瘴気や魔物のバランスは、こうしてとられているという。


 そのため、ダンジョン内では魔物討伐が必要となってくるのだ。

 この討伐については、冒険者だけが行っている訳ではない。

 王都騎士団及び兵団は、定期的に、必ず討伐を行わなければならないのだ。

 これは、国家の決まり事となっている。


 ジルの説明は、ランドルやバスからしてみれば、常識的な話しである。

 しかし、カルとエスティルは、初めて聞く話しで、真剣な顔で聞いていた。


「ねえ。ジル。ダンジョン内の魔物を討伐しなかったら、どうなるの?」

「そんなことになれば、魔物が塔から溢れてくる。王国ではないけれど、過去に一度、他国であったって聞くぞ」

「最悪じゃないですか」

「最悪なんて、もんじゃない! 溢れてくるってことは、瘴気の強い魔物ばかりなんだから狂暴な奴ばっかりだ! そんなのが人を喰おうと出てくるんだからな。周辺都市は地獄と化するよ」

「「「………」」」

 それを聞いて、皆が衝撃を受けていた。


 一人を除いては。



 ……クミアは、上の空であった。


 『一の森』も、もうすぐ、抜ける。

 森を抜けると、少しいったところに『ヌクリ村』という大きな村がある。

 王都に近く、豊かな村である。

 この村は、農業が盛んなために自給自足が可能で、収穫できた大量の農作物は王都へ売りに行くほどである。

 

 ヌクリ村が近づいてきたことで、クミアは憂鬱になっていたのである。

 馬車の中では、いつも、ランドルとバスが座っている席に、今、リグルスが腰かけている。

 リグルスは、複雑な表情のまま、何も話そうとはしない。

 話したとしても聞ける人は、カルとエスティルだけではあるのだが。


 リグルスは、悲し気にクミアを見つめていた。


 二人の様子を見ていたエスティルは、さっきの話の中で、『地獄と化』するという言葉が、この二人を傷つけたのではないかと気にしていた。

 クミアは、ムリアズ男爵領内にあった祖父母の家で、両親と祖父母を殺された経緯があるからだ。


「クミア」

 エスティルが優しく呼びかけるも、返事はなかった。


 クミアは自分が話掛けられたことさえも、気が付かない。

 彼女の様子が変なのには、別に理由があった。


 ヌクリ村。

 ここは、クミアが生まれ育った村なのである。

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今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「続きを読みたい!!」等と少しでも感じていただけましたら、★★★★★を押して応援してください。

本当に、更新する原動力がわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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