リエルの優しさ
カルはベッドで横になっていた。
頭の中でというか、目の前で映像がフラッシュバックしてくる。
目の前で人が死んでいくといった重い出来事が多かったからだ。
だが、それはそれとして、自分のことを考え、これまでのことを一通り整理し出した。
まず、この体と一体化して間もなく、体に纏わりついていた黒炎がほぼ消えて動けるようになったこと。
次に迷うことなく、魔人に向かって行ったこと。そして一突きで殺せたこと。
………体が再生したことは良かった、助かった、それはいい。
分からないのは、本来、自分では即決できないことに対して、行動を起こしていたことだ。
本来の自分であれば、立ち向かっただろうか。
恐らくは、いや絶対に、自分の命を最優先に考えて逃げ出していただろう。
相手は人間ではないのだし、自分で動向できるものではないのだから。
でも、逃げ出すどころか、魔人に向かって行き、倒してしまった。
自分の力で倒したのか、この肉体の力で倒したのか、別の力で倒したのか。
別の力が最有力だ。だとすれば、あの声だ。
あの時、確かに聞こえた。『あいつは、任せろ』と。
あの声は何だったのだろう。
わからない。わかるはずもないし、別の声が聞こえてくるなんて君が悪いくらいだ。
……そもそもが、この剣と魔法の世界を、自分が受け入れていること事態が不思議と言えば、不思議だ。まるで、以前から知っていたかのように馴染んでいる。
疑問点が増えていくが、解決の糸口は全くない。
自分のみで解決できるわけもない。自身の記憶もろくにないのだから。
……白の光は、記憶が混ざるかもと言っていた。
今の俺自身は前世の記憶だと思うが、もしかしたら前前世の記憶なのかも知れない。
今の記憶が前世の記憶だと仮定して、これから前前世の記憶が出て来て、判別ができなくなっていくということなのだろうか。
それって、大きな問題なのだろうか?
結論も出せずにいたところに、物凄くいい臭いがしてきた。
グウ~っと腹が鳴る。
……物凄く、腹が減った。眩暈がしてくるほどである。そういえば、リエルが夕食の支度をしているんだったっけ。
俺は、もう、待ちきれなくなって、夕食のテーブルへと向かった。
「おお、やっと来たか、来たか、こっち来て、座れ、座れ」
ヨルブは上機嫌であった。
今晩は、カルの回復祝いを名目に村人から捧げられたブドウ酒が飲めるからである。
酒が飲めて満面笑顔の奴は碌な者じゃない。……のような気がする。
因みに、ヨルブはドワーフ(矮小族)という種族であり鍛冶師なんだそうだ。
席に越しかけると、向こうからメリーザが半目で、こっちを見ながら近づいてくる。
相手は魔女である。
怒っているようには、見えないが、やっぱり怖い。
自分の体の部位が、幾つか硬直しているのが分かる。
「やっぱり、ようわからんのう。魔法でステータスを見てもゴチャゴチャしていて見えんぞえ。故に属性もわからんしのう。公爵家に仕える者なのだから身分証明のカードがあるじゃろ、見せてみい」
メリーザが、さらに目を細めながら話かけてきた。
一応、探してはみるが、それらしいものは見つからない。
考えてみれば、肉体が再生した時、防具は身に着けていたが衣服は着ていなかった。
どうやら、衣服とともにカードも一緒に燃えてしまったらしい。
「見つからないのですが、カードがないと不味いのでしょうか?」
「別に再発行すればよいぞえ。死んだはずの者が歩き回ると問題じゃから、他の町で発行しないといけないがねえ。発行すれば魔法属性くらいは、わかるじゃろ」
「ま、魔法属性って! 僕も魔術を使えるのですか?」
「あ~そこからですか。はっきり言って、魔術はそんなに期待しないほうがいいと思います」
リエルが料理を両手で運びながら、割り込んできた。
スープ皿が幾つか宙に浮いている。
「あの時、白い光さんが仰ってましたよね。その素体は魔力量が少ないって、少ないと転生者の良さがでないから生きていくのは大変だ、みたいなことを」
なぜか、リエルは得意げにそして流暢に話す。
「………確かにそんなことを言っていた。この世界では、ギリギリ生きていける。ってそんなレベルなのか!」
愕然として、隣をみるとヨルブはグビグビと酒を飲んでいる。
もう、出来上がっているように見える。
俺も飲まないと、やってられない気持ちになってきた。
「そんな奴のために、魔道具があるのじゃ! そうじゃ、そうじゃ、ヒック。」
「ま、魔道具ってなんですか!」
「あ~、そこも~、…ですか」
リエルが話だした。
ちょっと、言い方に遠慮がなくなってきている…。
「魔道具は、カルには買えないと思います」
「か、買えないって、そんな高価なものなのか! 必要な物なんだろ! 魔力が無い人は、どうやって生活するんだ!」
「別に魔道具がなくても、魔石でも十分に普通の生活はできます。因みに魔石がなくたって生活はできますけれど」
「そ、そうなんだ」
(でも、それってこの世界で暮らしていく上で、大きなハンデなのではないのだろうか)
「火をおこしたり、水をだしたり、生活に必要なレベルであれば加工された魔石があれば十分ですよ。火や水の属性のある魔石に少量の魔力を注げば使えるんですから。便利な時代です。」
「そ、それは、どこでも購入できる物なんだ」
「街にでも行かないと売ってないかもしれません。でも必要な火や水は私が精霊魔術で出して差し上げます」
「あ、ありがと」
取り敢えず、お礼を言った。
「なあにを言っているか~、ヒック、魔道具の良さを教えてやるわ~」
ヨルブは既に4本目を開けようとしている。
「魔力量が少ないとのう。ふむ、お前さん、知り合いもいないのじゃから、ここを出ていったら、のたれ死に確定じゃろうのう」
「ああは、言いましたが私もそう思います」
「……僕もそう思います」
そう言いながら、ぎこちない左手でスープを口にした。
右腕は動かすと未だ痛みがはしるのである。
そんなこんなで、どうも、とりあえずは、『エンデルガーデン』においてもらえるようである。
言葉に棘を感じたが、リエルのお陰だと思う。
何かの形で、恩返しをしなければ。
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