79 ニノ森の地中の主
「カル、何かいい案ない? あの三角、凄く気味が悪いんだけど」
「うーん」
二人して背びれを見ていた。
ランドルも言葉がでない。
意味もなく、合わせた両手を両太腿の間に挟み込んで、やや背を丸くして固まっていた。
「お前、まさか。漏らしているんじゃ」
ジルが疑惑の目を向ける。
「こんなんで、漏らす訳ないだろ! 俺にとっては大したことじゃない! 恐くもない、馬鹿にするな!!」
ランドルは怒って、言い返した。
「じゃあ、何で、奥で縮こまっているんだよ」
「問題ない!」
そう言うと、ランドルは馬車後部へと移動して、ジルにどうだと言わんばかりに、馬車から少し顔をだした。
その時である。
口を大きく開き、鋸歯状の歯を剥き出した地中鮫が、地中から現れたのである。
ランドルを喰おうとしたのか、地中へ引きずり込もうとしたのかは、わからない。
土飛沫が舞う。
ランドルの頭は、間一髪、無事であった。
が、しかし、やってしまった。
ランドル。
…痛恨のお漏らしである。
ランドルは無事で良かったと思う反面、また、やってしまったことに、立ち直れず、床に蹲ってしまった。
ジルに言い返した時とは、打って変わり沈黙している。
股間から湯気が出て、落ち込むランドルを余所に…。
「あの、…ずっとくっついていますね」
クミアは苦笑いしている。
指摘されて、慌てて二人は離れた。
カルも、正直、妙に抱き心地が良かったので、エスティルを離さず、そのままでいたのである。
そんななので、二人してお漏らしにも気付いていない。
カルは、抱き合っていることに意識がいっていたために、「何かいい案ない?」と問われても、実際は「うーん」と、答えながらも何も考えていなかった。
今、離れてみて、考えて見ると、丁度、試したいことが浮かんできた。
「こ、これ、もしかして、効くんじゃないか」
カルはそう言うと、『攪乱獣魔の剣』を抜き放った。
黒い刀身から放たれる赤い放電は、以前よりも激しさを増している。
線香花火の最後のような勢いである。
カルは無言で、この剣を地面に突き立てた。
すると、地中から悲鳴に似た地鳴りがしてきた。
「うがわ! ががががーーー、抜いて、抜いてよーーー、今、直ぐに抜いてくれよう!!」
地中から聞こえてくる声をジルが聞き取った。
「やいっ、お前は何者だ! 俺様の前に姿を現せ!」
ジルは馬車の外に向かって叫んだ。
「おいらは、実体は無いんだよ! と、とにかく抜いてくれよう! おかしくなりそうだよーーーーっ」
「じゃあ、抜いて欲しいなら、まず、地中魚を全て遠ざけろ!」
ジルは強気である。
地中からの返答は無かったが、地中魚は廻りから消えたようなので、カルは一先ず、剣を引き抜いた。
暫く、何の返答もなかった。
「何か返事をしなさいよ!」
そう言うと、まだ若干赤いエスティルは、剣を地面に突き立てるような動きをする。
実際、エスティルの剣を地面に突き立てても、何の効果もないのだが、声の主には確認する余裕もなく、慌てふためいた。
「うわーーーーー、止めて、止めてよ! もう、何もしないから、とっと、森から出て行ってくれよーーー」
「あんたは、一体何者よ!」
「おいらは、精霊だよ。って、元だけど。今は、自分が何者なんだか、よく分からないんだ」
「なに、その答え。…カル、刺して」
エスティルは容赦ない。
「ま、待って、刺さないで」
そう言うと、地中の主は、いきなり、身の上話を始めた。
もとは、小さな、小さな精霊であり、エルフの国にいたのだが、どのエルフとも契約が出来なかったことから、国を出てしまい、彷徨った結果、この地へとたどり着いたのだという。
当時、この地の周辺には細い中木と、その中木を囲むように草が生えていた程度だったという。
その木の下で眠りにつき、本来であれば、そのまま消えていくはずであったところを、木とともに成長をしてしまい、気が付いた時には、そこには森が出来ていたという。
長い年月を経て、自分は実体を失ってしまい、巨大な魔力体になってしまった。
大きさで言えば、山脈くらいあるのだそうだ。
なので、地中鮫を含んだ全ての魔力そのものが、自分なのだという。
これまで、森の中で死んだ冒険者等の人族、動物、魔物の魔力を吸収して成長してきた。
今では大きくなり過ぎてしまい、体全部を制御できないのだそうだ。
「あんた、元は精霊のくせに、森の中に入った人達を襲って魔力を吸収してたんでしょ! 弁解の余地ないじゃないの。この剣を突き立てていくわ」
「ま、待って、そんな物を突き立てられたままだと、気が狂って、いずれは瓦解してしまうよ。許して下さい。何でもしますから」
「大体、あんた、良く分からないけど、魔力の集合体何でしょ! これ以上、魔力を吸収する必要があるの?」
「…ないんですけど。人族が通ると吸収したくなってしまって」
「…何か、エスティルとクミアが、甘いもの見ると、我慢できずに食べてしまうのに似てるな」
カルは、ポロッと口からでた自分の言葉にハッとした。
余計なことを言ったと、後悔の念に苛まれた。
エスティルは、持っている剣で、「刺されたいの?」といった視線を俺に向けてくる。
クミアは、恥ずかしいのか、下を向いていた。
「コホン。あんたは太っていることを自覚しなさい! 自分の体も制御できない、食欲も制御できない。太っていると自覚しているのに、何にも始めていないって、どういうことよ! まずは、少しづつ、続けられるダイエットを始めなさい」
エスティルの言葉に、クミアは、自分が言われているような気持ちでいた。
村にいたころは、自身でも気をつけていたものの、なかなか、思うように出来なかったことなのである。
実際は、今のクミアには、ダイエットは必要は全くない。
長く、監禁されていたのだ。
むしろ、太らなければならないのである。
「ダイエット?」
「そうよ。…過ぎたことは仕方がないわ。これからは、ここを通る人に、少しずつ魔力を分け与えてあげなさい。そうすれば、いずれは、自分の体が制御できるくらいの量になっていくでしょ。それと、今後は人族を襲わないこと、いいわね。次に来た時に、約束を破った噂を聞いたら、10本の剣を刺すからね」
「えーーーっ、10本も刺されたら、絶対、狂い死に、いや即死するよ」
「だから、守ればいいのよ! それと、まあ、ダイエットを兼ねて、私達全員に、何か、あなたが出来る魔力のプレゼントを頂戴。そうね、どんな攻撃に対しても、完全防御できるようなものがいいわ」
「は、はい…」
話しが、ほぼ、ほぼ、強引に着いた状態で、オルガとフェルビーが起きてきた。
二人の寝入りよう、……揃いも揃って、本当に護衛なのだろかと思ってしまう。
「エスティル様、如何なされました? ふぁ」
オルガは、寝足りないといった感じである。
「ああ!! その赤茶の髪。もしかして、あなたは、アミュカルの一族の方では?」
「如何にも、自分は、アミュカル一族・総主の二女にして、最強の称号を得た・オルガである。そして、こちらは、自分がお使えをしているエスティル様である」
「ああああ、恐れ多い。おいらは、その昔のまたその昔に、アミュカル家にお世話になっておりました。……今、あなた様のご主君様により、ダイエットの手解きをして頂いたところです。今から皆さまに超高密度魔力体であるリングを、プレゼント致します。使い方は、イメージすればどうとでもなります。魔力が消失したら、また来ていただければお作りいたします」
地中の主が言い終えると、全員の指に白い指輪が嵌められていた。
それとは別にエスティルとオルガには別のプレゼントが送られていた。
オルガは、話しが見えていない。
取りあえず、自分の一族に対して、恩義のある者がここにいるという。
地中の主はが言うには、詳細は後で魔力体の手紙で、ご説明をしますとのことだ。
良く分からないながらも、オルガは、エスティルから自分もダイエットの手解きをされたいと思っていた。
フェルビーは、ダイエットには興味はない。
そんなことよりも、直に馬がいないことに気が付いた。
だが、彼は慌てることもなく、指笛を三度ほど鳴らした。
すると、馬が二頭とも、駆けてきたのである。
彼は馬好きで、二頭の馬とも仲良くなっていたのである。
因みにだが、前の馬車を引いていた馬とも仲が良かった。
冒険者用語を織り交ぜで言ってみれば、彼は「馬と馬が合う」のである。
「いい! 何でもかんでも欲しがらない! 必要なら、仲良くなってお願いしなさい! 魔力はもう十分でしょ。それと、ダイエットは我慢、耐える、根性その後に結果がついて来るものよ。わかったわね」
「分かったよ。約束する。誓うよ」
二の森の地中の主は、魔力の質から、彼女が『ローディアルワーズ』の血統であることを知り、誓いの言葉を付け加えた。
エスティルは、訓示のようなもので、締めくくるつもりであったのだが、自己のダイエット論と混ざってしまって、喋っていて恥ずかしくなった。
けれども、何か伝わったようなので満足していた。
戻って来た馬の準備も整い、馬車は動き出す。
バスは、脱力していた。
そして、思った。
オルガとフェルビーの二人を、朝一番に起こしていれば、もしかしたら、自分が怒られることも無かったのではないか、そして、ランドル様はお漏らしをしないで、済んだのではないのかと…。
「何か、また臭うわよ!」
「……す、すみません。……」
エスティルの言葉に、落ち込むランドル。
馬車は『二の森』を後にした。
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